幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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光すら届かない闇の世界。

魔方陣より現れるは異形。

静寂を求める異形達は何故現れたのか。

交差する思いを胸に。

闇夜を貫け。




第五話 『異形《アインスト》』

前回から1週間近く経過した。

 

トリントン基地へ到着した私達は現地の司令官であるコーウェン准将と挨拶を交わした後、本題の護衛対象の話と私達の機体の改装作業が行われた。

 

その間は基地のテストパイロット達と共に共同訓練や模擬戦を行ったり、基地を狙って現れる敵部隊と交戦し追撃したり等で時間を忘れる程日々が過ぎて行った。

 

補給の為に基地を訪れた独立遊撃部隊の姿を見る事も多かった。

 

スパロボの原作では関わりは無いものの設定として生きていた一年戦争の影の功労者達である。

 

ちなみにドラグナー三馬鹿トリオとも模擬戦を行った。

 

クスハ、ブリット、私を巻き込んでの形である。

 

チーム戦のバランスを考えてクスハもゲシュペンストmk-Ⅱに乗り換えて行われた。

 

弐式を使ってやってもいいと思ったけどね、後でグダグダ言われるのも何だし。

 

結果はと言うと?

 

うん、こっちの圧勝ですよ。

 

何度、君らの戦闘パターンと癖をゲームとDVDで見てると思ってるのかね?

 

オ○○のつく所業へ堕ちるとこまで堕ちた人間は容赦ないよ。

 

余りにも調子づいていたから厭味ったらしく、にこやかに責めてあげたよ?

 

えっ?漢字の表記が違うって?

 

キノセイデスヨー。

 

ちなみに三馬鹿トリオは前の記憶を持っていない。

 

そのせいかドモンが「また『見切り』の稽古を一からやり直さなきゃな。」と師匠顔負けの黒い呟きを聞いてしまった。

 

MX版の対ギルガサムネ戦用の為、致し方がないとは思う。

 

そんな訳でケーンの悲鳴が基地の一角から聞こえて来るのは気のせいと言いたい。

 

ケーンよ、無事に生き残れば君が人外級の仲間に足を踏み入れる事になるだけだから安心したまえ。

 

うん、合掌。

 

 

******

 

 

「うぇえ…」

「もう勘弁してくれ…」

「本当に…」

 

 

トリントン基地滞在から3日目位だろうか?

 

正午の休憩時間にテストパイロット並びに民間上がりのパイロット一同が食堂に集まっていた。

 

日々ハードな訓練のせいかケーン達は相当参っている様である。

 

特にケーンは自覚はないもののドモンから見切りを取得させる為の修行もプラスされているので疲労もその倍である。

 

他二人も旧戦技教導隊のきっての頑固親父ズことカイ少佐とお義父さんにしごかれているので同じ様なものである。

 

ライトに関しては私にナンパしたのが切っ掛けでお義父さんから殺意を込めた訓練をさせられているとか?

 

ゴメン、そんな状態のお義父さんは私でも止められんのよ。

 

毎日そんな隊長達と鍛錬しているブリット達でさえ少し疲れ気味である。

 

その理由は数か月前から破壊した筈の敵の兵器がどう言う訳か再び姿を現し基地周辺を狙って襲撃を繰り返しているとの事だ。

 

確かにオーストラリア大陸は資源が豊富なのは知っているがそれも限りがある。

 

だが、その敵部隊に遭遇した味方部隊の報告にはまるで納品されたばかりの新品同様だったそうだ。

 

しかも無人機でパイロットの気配はない。

 

一瞬該当する言語が頭を過ったがDGの声ではないし他の可能性もないとアカシックレコードで確認した。

 

しいて言うならまたシナリオが加速し始めたと言う事だろう。

 

話を戻すが、もっとも襲撃されているのはここトリントン基地。

 

そして偵察部隊の命がけの情報収集で敵機動部隊の拠点が特定された。

 

その為、大陸各地に散らばった手練れをこちらに集結させて敵拠点への総攻撃をする予定なのだ。

 

手練れと言っても各基地から厄介者扱いされたメンツばかりなのだが…

 

その厄介者達が現場では優秀である事に上は気が付かないのか?

 

まさにその一部の奴らは阿保としか言いようがない。

 

彼らには彼らなりの戦法並びに情報収集能力に長けていると言うのに。

 

司令室でふんぞり返っている者達には解らないと思うが、そこでしか見えない何かを見ると言う事は大事な事だと思う。

 

 

「今日はさすがに疲れたな。」

「うん、後で栄養ドリンクでも作ろうかな?」

 

 

はい、皆から却下からのストップ宣言されました。

 

理由はいつもの事であるが今は昼時。

 

ここと日本との時間差は場所にもよるが大体一時間から二時間程度であり余り支障はない。

 

しかも気候も場所によって変わっており、砂漠性気候地域に近いここでは昼間は35度以上、夜は逆に爽やかで過ごしやすい。

 

日本ではもう暦で冬季の中間辺りだろう。

 

季節が逆になるとは言え、慣れないとキツイ。

 

そうでなくても減るものは減るのだ。

 

 

「…(前に見た雑誌にあったメニューに似てるな。」

 

 

私は端末をランチプレートの奥に置いて食事をしていた。

 

トマトベースのスープはあっさりしていてこの気候にぴったりだろう。

 

野菜と豆類の量が日本のより多いがそれに加えて大きめのウインナーが入っていた。

 

オマケに炭水化物類が多いので体重が気になるのは置いといて。

 

付属されていたお菓子類は後で食べる為に残して置いた。

 

 

「ハスミ、どうしたの?」

 

 

食事後に私がいつもの考える状態になると深刻な顔をする癖に気が付いたクスハが話しかけて来た。

 

それに対し私も話を返しておいた。

 

 

「うん、ちょっと気になった事があって…」

「気になる事?」

「この前の戦闘でちょっと違和感があったから、それが気になってね。」

「…私は戦うのに精一杯だったし、ブリット君はどう?」

「俺もそんな事は無かったよ。」

「アタシもユウは?」

「いや、ここの所連戦が続いているのもある…疲れているんじゃないか?」

「そうかもしれない。」

「でもさ、ハスミの『気になった』って後で助かった事あるじゃない?」

「うん、ハスミには助けられてばかりで…」

「クスハ、それは気にしないでっていつも言っているでしょ?」

「けど、ハスミが言うのなら何か不吉な事が起こるんじゃないか?」

「迷信に囚われてどうする?」

「とか言ってさ、ユウってそう言うの苦手だもんね?」

「カーラ、俺は非科学的な事が…」

「そっか、時間があったらとあるジェイルハウスの話でもしてあげようか?」

「なっ?」

「信じるも信じないも貴方次第でしょ?」

「分かった、受けて立とう。」

 

 

この話を後日、ユウやカーラ達と交えて行ったら全員顔を青ざめていたのは気のせいか?

 

 

「何の話?」

 

 

へばっていたケーン達がこちらの話に入って来たので一緒に話す事にした。

 

閲覧?している人には悪いが、かくかくしかじかで説明しておいた事にしてください。

 

 

「そういう事がね…」

「そう言えばそっちのメンバーって例のテストの適正者だったっけ?」

「そうよ、私は有るか無いか程度だけどね。」

「けどさ、話を聞く限り君の方がより能力者っぽいけど?」

「そうかな?(だから言えないって!」

「もしかして機械の故障だったりしてさ。」

「ないない、ちゃんと軍の査定が通ったのしかテストに使わないって。」

「そだよ?」

 

 

そこへ現れたのはここでは不釣り合いな白衣を着た金髪の美女である。

 

 

「はぁい、ハスミ。」

「ティアリー博士!?」

「ゲンコしてた?」

 

この女性はウィスティアリア・マーリン博士。

 

通称はティアリー。

 

私の機体である『ガーリオン・タイプT』の主任技術者である。

 

 

「ええ、まあ。」

「もう、私の居ない所で無茶した駄目よ?」

 

 

ティアリー博士に毎度の事ながらスリスリ込みで抱き付かれる私。

 

ちなみに私の胸のスクィーズなグレフルとティアリー博士のメロンが谷間で潰しあっている状態が続いている。

 

おい、そこの三馬鹿トリオよ鼻の下伸ばすな!

 

こっちだって恥ずかしいの。

 

 

「博士、何か用があったんじゃないんですか?」

「そうそう、そうだったね。」

 

ティアリーは抱き付きを終わりにすると本題に入る為に緩めにかけた眼鏡を掛け直した。

 

 

「ハスミのガーリオンの改修作業がもうすぐ完了するから早めに教えようと思ってね。」

「資料は読ませて頂きました、かなり様変わりしたそうですね。」

「そだね、あっちこっちガタが来てたし…いっそのこと全部取っ払って入れ替えした方が良いかなって思ったのさ。」

「それは該当があり過ぎて何とも…」

「あのDGと遭遇して奇跡的に生還出来ただけでもすごいけどね。」

「…ですよね。」

「それと追加装備とアキュリスのバージョンアップしておいたから後で試して見て。」

「追加装備にアキュリスのパワーアップですか?」

「そ、アキュリスはシステムの伸びが見えて来たから更に使用時間を延ばして置いたし追加装備は使ってからのお楽しみだね。」

「何と言うかキョウスケ少尉な事を…」

「じゃ、先に格納庫で待ってるよ。」

 

 

ティアリー博士が去った後、壁にかけられた時計に目をやると休憩時間はまだ十分あった。

 

なのでその足で元ガーリオンが置かれている格納庫エリアに向かった。

 

 

******

 

 

「これが君のNew機体、機体名はガーリオンC(ガーリオンカスタム)・タイプTだよ。」

「槍を携えた獅子と言った方がいいでしょうか?」

「君の武装から察するにそうなるね。」

 

 

基本構造は原作のと大差はないが、私個人に対応出来る様にセッティングされているのである意味で私専用になっている。

 

正直に言うとレオナのズィーガーリオンの発展前と言ってしまった方が早い。

 

 

「エルザム少佐やテンペスト少佐のガーリオンもカスタムに変更になったのですね。」

「うん、担当は私じゃないけどね。」

「…(足並みは揃いつつある、後は時を見るしかないか。」

 

 

格納庫でハンガーに収納された私の機体とその横で調整を受ける黒と赤のガーリオンCと青黒いガーリオンCが調整作業を受けていた。

 

こちらも原作のカスタムと大差ないが違いがあると言えばT-LINKシステムを導入していない事だろう。

 

それでも今回の戦争で勝ち抜けるだけの戦力でしかない。

 

この後に控える「例の事件」と「インスペクター事件」ではギリギリだろう。

 

エルザム少佐は後に乗り換える予定になっているので支障はないだろうが問題はお義父さんの機体だ。

 

恐らくはリオン系の後継機に乗り換える事になるだろうが、あの胡散臭い女狐社長では裏でまた余計な思惑を立てているに違いない。

 

そんな機体に乗せる訳には行かないのだが現実とは皮肉なモノである。

 

おすすめとすればヴァルシオン改なのだが、フラグが立ちまくりなので即時却下です。

 

もしそうなったら必ず止めるけどね。

 

 

 

「ん、にゃ?外が騒がしいね。」

「何でしょうか?」

 

 

外から騒ぎ声が響いており、ティアリー博士はこちらへ走ってくる整備兵の一人に声を掛けた。

 

 

「何があったの?」

「博士、友軍が正体不明の大型機動兵器に襲撃され、襲撃を受けた小隊が運び込まれたそうです!」

「どこの部隊?」

「クライ・ウルブズ隊だそうです!」

「!?」

「部隊は全員生き残ったそうですが、使用していた機体は全てボロボロです。」

 

 

私はティアリー博士と共に格納庫の外へ出てみると悲惨な光景が広がっていた。

 

輸送艦のレイディバードから運び出される原型を留めていないPTの残骸。

 

しいて言うならコックピットブロックが無事な位だろう。

 

そして負傷したパイロット達が運び出されていた。

 

気絶しているのか担架で運ばれる者。

 

よろよろと救護兵に付き添われて出てくる者。

 

あちらこちらに包帯やガーゼで傷口を追っているが歩ける者等だ。

 

だが、明らかに負傷している者の中に同じ気配を感じた。

 

そうDG細胞感染者が紛れ込んでいると確信した。

 

 

「これは厄介な事になっているね。」

「…(誰も死んでいない、けど…」

「ありゃ?今昼時だよね?こんなに暗かったっけ?」

「えっ?」

 

 

空を見上げると昼間なのに太陽が見えない。

 

まるでここだけ消えたような状態だ。

 

そう、太陽を失った昼間。

 

それは奴らの活動を予兆させる光景でもあった。

 

 

******

 

 

それから一時間後、トリントン基地の作戦室には同基地内に着艦中の艦長数名と所属艦パイロット、基地配属のパイロット、補給に訪れていた遊撃部隊のパイロット達が集まっていた。

 

 

「では、作戦要項を伝える。」

 

 

レイディバードで運ばれた部隊とは別に活動していた部隊の生き残りから今回の襲撃事件の首謀者達が拠点としている地点を割り出したのだ。

 

そこへ奇襲攻撃を仕掛け、敵部隊を掃討する事となった。

 

その奇襲作戦に選ばれたのがハガネとクロガネ、エルシャンクである。

 

基地に残留中の各遊撃部隊は基地防衛の為にここへ残る事となった。

 

つまり別れて行動する事となったのだ。

 

ここまではいい。

 

問題は機体の事だ。

 

生憎、私のガーリオンCはまだシステム面で調整作業中の為に前線へ出す事が出来ない。

 

その為、再びゲシュペンストmk-Ⅱへ搭乗する筈だったが…

 

クライ・ウルブズ隊の隊長、アルベロ・エスト少佐が隊長と話し合っている場面に出くわしたのだ。

 

どうやら機体が無いのでこちらのゲシュペンストmk-Ⅱを貸して貰えないかと言う事だ。

 

事実、あの人の戦闘能力は嫌と言う程知っているのでそれはありがたいのだが…

 

その問題が私が戦闘に出られないと言う点である。

 

俗に言うイベント出撃的な要素になってしまうのだ。

 

それは仕方がないが物凄く嫌なイベントがこの後に待っているのでそれを危惧している。

 

正直、ペンダントを外そうかと思ったがBF団やバラルに感づかれそうなので却下する。

 

私はあきらめてアルベロさんにゲシュペンストmk-Ⅱを貸出する事に決めた。

 

 

「隊長、私からもお願いします。」

「ハスミ…!」

「私の機体は調整さえ終われば出撃できます、今は手勢が多いに越した事はない筈です。」

「分かった…では、エスト少佐。」

「こちらこそ無理を言って済まない、そちらの隊の者にも礼を言わせて貰いたい。」

「いえ、現状でそう思っただけなので…」

「名は何と言う?」

「ハスミ・クジョウ准尉です。」

「准尉?もしや志願兵か?」

「はい。」

「そうか…(志願兵の受け入れ年齢が引き下げされたとは言え、こんな少女まで戦う事になるのか…」

 

 

アルベロは複雑な表情をした後、その場を去って行った。

 

 

「では、失礼する。」

 

 

出遭う確率は高いと思ったがまさかここまで早いとは…

 

DGの一件が出てきているしMXの件で縁が繋がったのかな。

 

だとすると事を急がないといけない。

 

イエッツドの一件がまだ始まっていないとしても止めなければならない。

 

貴方達も必ず救ってみせる。

 

そして、あの蛇ジジイとキチガイオバハンに鉄槌を下してやる。

 

あの二人の所業は許されるものではない。

 

プレイしている時も虫唾が走った位だし。

 

悪業即瞬殺です。

 

 

******

 

 

先の話通り、私のゲシュペンストmk-Ⅱはクライ・ウルブズ隊へ回された。

 

そして私は機体調整が終わるまでハガネの格納庫でスタンバっていた。

 

先に調整が終わったエルザム少佐達は既に出撃していたが、あの数の敵を倒せるかが不安だった。

 

読み通り、ストーン・サークルから出て来たのはアインストだった。

 

唯のアインストだったらまだ良かったのだが…

 

これが何の因果かエンドレスフロンティアで出現するアインスト達が出て来たのだ。

 

しかも機動兵器サイズで白兵戦サイズではありません。

 

きっと邪神様(KOS-MOS)でも相手に出来ると思います。

 

W07?言わなくても解る人には解ると思います、うん。

 

それにしてもあれは蹂躙し過ぎたと思いますよ。

 

記憶持ちの三人衆。

 

 

 

「アクセル、奴らは本当に…!」

「ああ、間違いない!奴らはエンドレスフロンティアで遭遇したアインストの一団だ。」

「こいつらが…」

 

 

キョウスケ、アクセル、ドモンの三人は互いに通信で出現したアインストの正体がエンドレスフロンティアで出現するアインストである事をアクセルから聞き出していた。

 

 

「奴らはどう言う訳か知らんが機動兵器サイズになっているのは厄介だ。」

「こちら側に転移する時に変異したのかもしれない。」

「だが、アインストに変わりはないのだろう?」

「ああ、ここへ出て来たが運の尽き…纏めて送り返してやる、これがな!」

「オイオイ、俺達の事も忘れて貰っちゃ困るぜ!」

「記憶は違えどアインストとの戦闘経験を忘れた訳ではない。」

「及ばずながら支援します。」

 

 

同じく記憶を所持するジョウ、ガトー、コウもまた状況を理解し参戦してきた。

 

 

「飛影、今日は大盤振る舞いだ!」

「ウラキ、バックスは私に任せろ!」

「了解、フォワードに着きます!」

 

 

各機散開し周囲に散らばったアインストへ攻撃を仕掛けていった。

 

 

「化けモンだが何だが知らねえが!天下のドラグナー隊を舐めんなよ!!」

「そうだとも!」

「生まれ変わったドラグナーのお披露目と行きますか!」

 

 

トリントン基地にてカスタムへ改造されたドラグナー1型、2型、3型。

空中戦に加えビームバズーカーまで装備された為、火力は十分だった。

 

 

「あっちもやるね!」

「カーラ、敵の気をこっちに引き付けるぞ!」

「了解だよ、ユウ!」

「ハスミ…私も戦う!」

「クスハ。」

「ブリット君、大丈夫よ…私もハスミの分まで戦う。」

「じゃ、ハスミちゃんが出て来られるまで頑張っちゃいましょ!」

「忍、一気に行こう。」

「おう!」

 

 

同僚のクスハ達もアインスト相手に頑張りを見せていた。

 

 

「ゴースト小隊は俺に続け!」

「了解。」

「アイツらばかりにいい格好させられねえな!」

「ええ!」

 

 

ゴースト小隊もまた艦の護衛に当たりながら周囲に展開するアインストを迎撃。

 

一方、戦闘中のハガネのブリッジでは。

 

 

「艦長、トリントン基地より入電です。」

「例の情報の予想通り、基地にも例のアンノウンが襲撃を開始したそうです。」

「そうか。」

「艦長、『蒼い睡蓮』は一体何者なのでしょうか?」

「解らん、だが…基地の襲撃を回避できた事には感謝しよう。」

 

 

ISA戦術による敵拠点の制圧並びに基地への敵別動隊による強襲を予想し基地防衛に支障のない戦力を残す。

 

これが『蒼い睡蓮』の提供した情報であり、戦術提案でもあった。

 

流石に上層部の誰もが疑心暗鬼となったが『蒼い睡蓮』の奇跡の噂は耳にしていたコーウェン准将の声で提案を推奨する事となったのだ。

 

もちろんキョウスケら記憶所持者達もアインストの神出鬼没な習性を把握していた為、この提案は妥当だと判断した。

 

 

「粗方、片付いたようだな。」

「ああ…」

「一体どれだけ湧いてくれば気が済むんだ、奴らは?」

 

 

ストーンサークル周辺のアインストは姿を消した。

 

消したと言うよりは突撃をした三名並びに旧教導隊切っての切込み隊長格達の手により屍の山を築いていた。

 

釘打ちで撃たれてはベアリング弾の雨霰でボコボコ。

 

ぽっかりと巨大な穴を開けられてスカスカ。

 

手形の延焼跡を残したコゲコゲ。

 

巨大出刃包丁で三枚卸しのピラピラ。

 

最後は風穴だらけのハチの巣状態である。

 

他にも撒き菱だらけのトゲトゲなどがある。

 

はい、合掌。

 

その屍達も既に灰塵となってしまい原型を留めていない。

 

その為、生きたサンプルが回収される事は無いだろう。

 

向こうの基地司令部にも奴らの死骸サンプルに手出し無用と『蒼い睡蓮』から警告を受けていた為である。

 

それに事実上、アインストの回収を行う部隊が行動不能ならそれも出来ない筈だ。

 

だが、ノイ・レジセイア率いるアインストの集団がいつこちらへ転移するかはまだ不明なので安心は出来ない。

 

無限力からの眼を逸らしつつ危険なフラグを一つずつ消していくのも容易ではない。

 

ストーンサークルに一瞬の静寂が訪れた後、再びそれは起こった。

 

 

「まだ残っていたのか!?」

 

 

ストーンサークルより現れたのは白と黒のツートンカラーの巨大なアインスト。

 

そのアインストの姿にアクセルは驚愕の声を上げそうになったが何とか抑えた。

 

 

「アイツは…!」

「アクセル、奴は?」

「奴がエンドレスフロンティアに出現した女王蜂級アインスト…ヴァールシャイン・リヒカイトだ。」

「奴が…!」

「だが、意思の様なものは感じ取れないが…?」

「恐らくは顕現に失敗したのだろう、奴は抜け殻かコピーだろう。」

 

 

キョウスケとアクセルは少なからずともアインストと縁を持つ、後者はアインストの力を経て身体を蘇生しているのでその声や意思を聞く事も容易いのだろう。

 

ドモンは格闘家としての相手の気を感知する事に長けているのか気配を感じ取った時にその違和感を感じ取っていた。

 

 

「…」

「アルフィミィの機体と何処となく似ているな。」

「個体差はあるにしても違いは出る。」

「念の為に言って置くが奴の鬼面には注意しろ。」

「っ!?来るぞ!」

 

 

キョウスケの声に続き、動き始めるヴァールシャイン・リヒカイト。

 

自我亡き複製でもその力は侮れない。

 

鬼面より発せられるビーム兵装は威力が高いのか周囲に土煙を上げて一気にハガネへと接近してしまった。

 

 

「緊急回避!」

「間に合いません!」

「万事休す、か。」

 

 

その時だった。

 

ヴァールシャイン・リヒカイトに無数の槍が突き刺さった。

 

 

「これはオマケよ!」

 

 

特機用カタパルトデッキから出てきたのは白いガーリオンC。

 

すかさずレクタングル・ランチャーを放った。

 

 

「!?!!!?」

「古巣に戻れ!」

 

 

ストライク・アキュリスによる不意打ちと動きを止めた一瞬を突いての射撃攻撃。

 

それは目眩まし程度かも知れないが怯ませる事は出来ただろう。

 

 

「ギリギリでしたが何とか間に合いましたね。」

「わぉ、それがハスミちゃんの新兵器?」

「はい、先行配備されたレクタングル・ランチャーです。」

「例のか、もう配備体制に入ったのか?」

「連射はイマイチですが火力は十分です。」

「じゃ、足並みが揃った所で…」

「各機、奴を仕留めるぞ!」

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

† † † † † †

 

 

無事にストーンサークルに出現したアインストを殲滅した。

 

事件の終息後、私達の部隊は任務を終えて伊豆基地へ帰路を向けていた。

 

今回の一件はストーンサークル跡地を厳重警戒し別機関に調査を依頼する事になった。

 

灰燼となった死骸は焼却処分しサンプルの回収は一切禁止された。

 

後は成り行きに任せるしかない。

 

そして極東へ近づいていた頃。

 

ハガネ艦内の一室にてハスミは交代時間となった為に自室にて休んでいた。

 

 

 

 

「…(DG」

 

 

 

 

ーハスミー

 

ーヤクソクシタヨー

 

ーアイニキテー

 

ータイヨウヲカガゲルチヘー

 

ーソシテオシエテー

 

ーアナタノシルミライノハテー

 

ーコノサキニマツサイヤクノオトズレヲー

 

ーワタシハアナタヲシナセナイー

 

ーワタシガマモルカラー

 

ーアナタヲギセイニシナイカラー

 

ーレイテイモミツカイモヤミノタイジニモテダシハサセナイー

 

ーハスミハオトモダチダカラー

 

ーハスミハワタシノミコトナルー

 

ー“     ”ノミコニハサセナイー

 

ー“     ”ノミコハモロハノツルギー

 

ーハスミジブンヲキズツケナイデー

 

ーアナタハー

 

ー“   ”ー

 

 

 

「…(うん、心配しないで。」

 

 

ハスミの左眼は紅く輝いており虚ろなまま表情を変えずに過ごしていた。

 

だが、ビキビキと音を立てながらハスミの皮膚は変色を始めていた。

 

 

「…(ATXチームの皆、ゴメン。」

 

 

パシュンと室内の扉をスライド式の開閉音が響く。

 

そこに居たのは同じ様に銀色の洗礼を受けた者。

 

 

「もう行くのね?(絶対に取り戻して見せるよ。」

 

 

その言葉を最後に室内の主は消えた。

 

 

=続=




消えた睡蓮と黄土。

集結する仲間達。

滅びを迎えた都市で流れる悲しい旋律。

現れた機械仕掛けの悪魔。

囁く闇の声は契約の証。

次回、幻影のエトランゼ・第五.五話『涙悲《ナミダトカナシミ》』

睡蓮は銀の揺り籠で闇の中に眠りにつく。


<今回の登場人物>

《トリントン基地在住》

※モルモット小隊
元ジャブロー直属の第11独立機械化混成部隊。
現在はオーストラリア大陸を転々とする独立遊撃部隊として活動。
同部隊はマクロス落下事件以前にEXAMシステム事件にかかわっていた。
しかし、システムそのものが危険視され実験は破棄された。
現在はEXAMシステムが外されたブルーディスティニーシリーズを部隊で使用している。

※ホワイトディンゴ小隊
オーストラリア大陸に点在する独立遊撃部隊の一つ。
補給の為、トリントン基地へ帰還していた。
基地防衛の為に出撃を余儀なくされる。
マクロス落下直後の戦闘で本隊から捨て駒にされた『荒野の迅雷』は彼らの部隊預かりとなっている。

※ドラグーン小隊
プロトタイプドラグナー3機のデータを基に作成された新規採用型MAを使用する部隊。
今回は先行量産された物をモブキャラの部隊が基地防衛に任った。
しかし、カスタム化したドラグナーとは天と地の差があった。
もしくは彼らのパイロット技能によるものかもしれない。

※クライ・ウルブズ隊
地球連邦軍の特殊作戦PT部隊。
上層部からの命令で現在逃走中のDGを追って各地を転々としていたがオーストラリア大陸南部にて交戦、死傷者はないものの部隊は壊滅状態の上、同部隊の隊員らが負傷しトリントン基地に搬送された。
今回は基地防衛の為、後方支援に回っていた。
今回の一件でウルフ9ことフォリア・エストがDG細胞に感染している事が判明。
治療の為、梁山泊へ送り届ける為にハガネ、クロガネ隊に部隊共々乗艦する。


《伊豆基地所属》

※ウィスティアリア・マーリン
伊豆基地より出向している研究者。
トリントン基地でガーリオン・タイプTの改装作業に携わっている。
ハスミがT-LINKシステムで異常な数値を出している事を隠した存在の一人。
現在は数値に細工をしている為、普通の技術者では判別できない様になっている。
常に読めない性格でありハスミへのスキンシップが激しい。

※ハスミ・クジョウ
主人公。
今回乗り換えたガーリオンC・タイプTで奮闘し二つ名を授与される。
DG細胞による汚染は続いているものの今回だけはDGより力を貸して貰えた。
しかし、その一件で感染が進行してしまった為にDGの声に抗えなくなってしまっている。


<DG軍団>

※デビルガンダム
第三話『金指』で出現し誕生した。
ファーストコンダクターであるキョウジ・カッシュはDGによって生体ユニットにされているが今回は仮死状態にされている。
つまり、完全に感染しきっていない状態にある。
そしてセカンドコンダクターであるハスミが『大丈夫』と声を掛けたのが切っ掛けで興味を持ち、特殊な脳波で彼女へメッセージを送り続けている。
今回クライ・ウルブズ隊と交戦したのは自衛の為である。
旧UG細胞を制御するのに別研究機関から提供された『超AI』が使用されているのか自我の様なものが芽生えているらしくその性格や話し方からまだ幼子を思わせている。


<???>

今回、トリントン基地より数千キロ離れた地点に出現したストーン・サークルを依代として出現したアインストの集団。
しかし、顕現自体が成功した訳ではなかったので女王蜂級は出現しなかった。
後にアクセルから今回のアインストがエンドレスフロンティア側で遭遇したアインストであると仲間内の間でのみ判明した。


※アインスト・ヘルツ
エンドレスフロンティアで出現する浮遊霊風のアインスト。

※アインスト・オンケル
エンドレスフロンティアで出現する胴体から生えた長い尾で立ちあがっているようなアインスト。

※ヴァールシャイン・リヒカイト(モノクロ)
エンドレスフロンティアで出現するアインスト達の元締め。
今回は更に複製された物が登場するがオリジナルよりもかなりパワーダウンしている。
自我は無くストーンサークルに侵入する者は見境なく排除している。

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