幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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それは言わなければならない言葉。

許しは得られなくても。

これは私の意思だから…


第百十一話 『謝罪《シャザイ》』

 

仲間の死を受けて複雑に混乱が生じるZEXIS。

 

彼らの戦いは彼らが進まなければならない。

 

私ことハスミはアル・ワース側の世界にセフィーロ王国が転移した事を知り…

 

ユーサー皇子らの一時帰還を兼ねて同行する事にした。

 

ガイオウ達に関する経過報告も兼ねている。

 

彼らの一件で混乱が生じる事も踏まえて尸空さんに同行して貰った。

 

穏便に済めばいいがそうもいかないだろう。

 

聖インサラウム皇国はガイオウらによって一度戦火に見舞われているのだから…

 

 

******

 

 

ユーサー皇子はアル・ワースに転移した国に帰還後、重鎮達を集めて緊急会議を執り行った。

 

ガイオウの一件、彼らを先導した存在、真の敵の正体、スフィアの宿命の為にイグジスタンスと共に聖戦へ参戦する旨を語った。

 

一部の発言に関して数名の重鎮達は口々に反論する。

 

 

「ですが、殿下…」

「あの者らが国を襲ったのは紛れもなく余の持つスフィアが事の発端。」

 

 

理由を知らずとも国へ戦火を招いたのは紛れもなく王族の末裔たる自分自身も関わっている。

 

罪を償うのなら国を守り切れなかった自分も含まれていると…

 

 

「余もまた民達の為に贖罪をせねばならん…それにはあの者達の力が必要だ。」

「…殿下。」

「どうか判って欲しい。それが初代から先代の意思を継いだ余の覚悟だ。」

 

 

愛情を持って敵対した他者を許す御心。

 

闘う事に臆病な昔の皇子は存在しない。

 

臣下に対し自らの宿命に立ち向かう意思を示した。

 

 

「殿下、我々も殿下の意思に従いましょう。」

「ジェラウド…」

「イグジスタンスには我々も恩義があります。」

「…すまぬ。」

「王の御意思がお決まりなら我らも忠義を尽くしましょう。」

 

 

ジェラウドの言葉も最もだと同意し他の臣下達も同意した。

 

会談は荒れる事無く幕を閉じた。

 

後日、改めて国は民達に今後の意思を告げた。

 

一部からは反乱もあったが、皇子の人徳でそれは収まりつつあった。

 

皇子単独で反乱を止める意志を見せたのも理由の一つだろう。

 

 

~数日後~

 

 

聖インサラウム皇国・王宮の一室にて。

 

執務席にユーサー皇子、ゲスト席に私と尸空さんが通された。

 

 

「国の件は収まったが、ハスミ…君は調査に向かうのか?」

「はい、こちら側の世界にセフィーロ王国が転移した以上は放って置く訳にはいかないので。」

「君はその国では騎士だったのか?」

「正確には魔法騎士と呼ばれていました。」

「魔法騎士?」

「異世界より召喚される存在……それには裏がありました。」

 

 

何処にでもあるおとぎ話の様な設定。

 

蓋を開ければ、それは残酷な末路。

 

魔法騎士は柱の使命を全う出来なくなった存在を消す為の存在。

 

だが、その命運を変えた。

 

ハスミはそれらの出来事をスフィアを通して説明した。

 

 

「先の通り、柱の意思を変質させ悲劇は回避されました。」

「君もまたその国にとって英雄なのだね…」

「ですが、私はその国に牙を向けました。」

 

 

イグジスタンスがサイデリアルから名を変える前に起こした出来事。

 

クロノの暗躍があった為にサイデリアルが表向き国を侵略した。

 

巡り巡ってその国には療養中のフューリーの人々も避難している。

 

彼らの恨みも受け止めなければならない。

 

 

「守る為に侵略した…か。」

「その通りです。」

 

 

尸空さんの言う通り、理由を知らない者には一方的な侵略にしか見えない。

 

だからこそ私は謝罪しなければならない。

 

 

「偽る必要が無い以上は真実を明かすつもりです。」

「そうか…」

「ユーサー皇子は国の事もありますでしょうし私が単独で赴きます。」

「一人でいいのか?」

「はい、尸空さんもゲート防衛の為に残って頂けますか?」

「…理由は?」

「多元地球で行われた先の国連議会でエンブリヲが現れたからです。」

「君の話していた危険人物の一人だね?」

「…」

「はい、奴の狙いは優秀な女性…狙いを一点に絞らせる。」

「成程、セフィーロ王国を守護するエメロード姫の事を考えれば…狙われる危険性があると?」

「その通りです。」

 

 

あの拙僧無しの事だ。

 

恐らく光達もセフィーロへ転移していれば確実に狙われる。

 

奴は自分以外の男を認めず、女と言う女を集める変態野郎。

 

事と次第に寄ってはボコボコにしてモノホンの鰤大根にしちゃる。

 

うん、鰤大根に罪はないけど…お酒のお供で合うし。

 

 

「…猶更、お前だけを行かせられん。」

「尸空さん?」

「彼の言う通りだ。」

「ユーサー皇子…」

 

 

二人は私の単独行動に関して否定の意を告げた。

 

 

「敵の狙いに君も含まれている以上は単独行動は避けた方が良い。」

「ですが…」

「…アウストラリスからお前の事を任されている。」

「えっ?」

「無茶をするなら引きずってでも連れ戻せと…」

「あの人らしいですね。」

 

 

ユーサー皇子の言葉も最もだし…

 

尸空さん、何だか今回口数多くないですか?

 

アウストラリスもなんやかんやで心配性なのは仕方ない事ですけど…

 

 

「判りました。改めて殿下と尸空さんにご同行願えますか?」

 

 

私は改めて二人の協力を得てセフィーロ王国へと向かった。

 

場所はインサラウム聖王国の位置する南西エリア。

 

そこへセフィーロ王国は転移した様だ。

 

 

>>>>>>

 

 

空間転移でセフィーロ王国を目視出来る位置まで転移した。

 

出撃したのは私を含めてユーサー皇子、尸空さんの三人。

 

聖インサラウム皇国の守りを手薄に出来ない為に最小限に留めた。

 

 

「城が…!」

「…既に手が回っていたか。」

「恐らくは…」

「あれはルーンゴーレム、それに…」

「ディーンベル、魔従教団の使用するオート・ウォーロックです。」

「魔従教団。君から素性は聞いていたが…これでは!?」

「セフィーロは生きる意志と正しき想いが強い…エンデも危険と判断したのでしょう。」

 

 

魔従教団によって城は襲撃されてしまっている。

 

国の守りがFTOと魔術師頼みとなると限界があった。

 

どうやら国の監視を行っていた旧サイデリアル兵や療養中のフューリー達も協力している様だが、限度がある。

 

 

「…」

 

 

王国を防衛する戦線が崩壊する直前。

 

三人は国を守護する様に転移で出現した。

 

王冠を携えた白い機体。

 

死骸で構成された冥府の使い。

 

セフィーロを守護する魔神の一体。

 

 

「お初御目に掛かる、魔従教団。」

「お前達は…」

「我々はイグジスタンス。」

「イグジスタンス?」

「貴様達に語る事はただ一つ…」

「?」

 

 

教団へシンプルな質問をハスミは投げた。

 

 

「何故、この国を襲った?」

 

 

帰ってきた返答は狂信者らしい言葉だ。

 

 

「法と秩序を守るのが我ら教団の教義……我らの神の御意思によってあの邪教たる国を滅ぼす。」

「…バアルを崇拝する輩の戯言だな?」

「貴様…!」

「我らの神を愚弄する気か!?」

「黙れ。」

 

 

静かな怒りを秘めた低い声が戦場に響いた。

 

 

「自分達の教えに従わない連中は狂信者?ふざけるな……!」

 

 

一方的な教えは時には悪意になってしまう。

 

それを理解しているからこその発言。

 

怒りの矛先は余計な口を開いた教団の者達へと向けられた。

 

 

「ひっ!?」

 

 

ハスミは召喚した刀を握り直すと臨戦態勢へと移った。

 

 

「この国を襲った狂信者共が…覚悟は出来ているだろうな?」

 

 

エクリプスを通して告げたハスミの言葉は本気だった。

 

友人となった姫や年下の少女達と出会った国を汚した者達を許す事はない。

 

 

「五体満足で帰れる事が如何に奇跡で幸福なのを知るといい。」

 

 

正直に言えば、ハスミの言動は騎士道から外れている。

 

寧ろ、893的な脅しの発言だろう。

 

 

「尸空殿、彼女を止めるのは?」

「無理だ…あの怒りは止めるべきではない。」

 

 

ハスミの逆鱗に触れた魔従教団。

 

その怒りは凄まじいが止めるべきではないと尸空はユーサーに告げた。

 

それは慕ってくれた者達への恩義と無抵抗な国を蹂躙しようとした者達への報復。

 

奴らは断罪すべきであると理解した故の発言だ。

 

 

「ハスミ、国の守りはこちらに任せてくれ。」

「…闘いは任せた。」

「お二人共、感謝します。」

 

 

ハスミは二人に礼を告げると近場のディーンベルへと斬りかかった。

 

それは息を吐く様に洗練された太刀筋。

 

異形を断つ鋼の呼吸はここでも効力を発揮した。

 

ハスミは切断したディーンベルの一体の頸を持ち上げて答えた。

 

 

「さあ、喧嘩を売った相手がどの様な存在であるか……知って貰おうか?」

 

 

圧倒的に蹂躙しほぼ壊滅状態に追い込んだ戦闘後…

 

ハスミらは城内へ案内された。

 

そこで導師クレフらから現状を聞く事となる。

 

 

「導師クレフ並びにこの場の方々に改めて謝罪をしたい。」

 

 

ハスミは今までの無礼な経緯を説明し謝罪した。

 

それを踏まえてクレフ達は致し方ない事だったと初めて理解した。

 

ハスミの行為は謝罪程度では済まされない。

 

だが、国を守る為にはこうするしかなかった。

 

それはクレフ達も理解した上で謝罪を拒否した。

 

寧ろ感謝の言葉をハスミらへ送った。

 

クレフは改めて先の戦いが始まる直前に起こった出来事を語った。

 

 

「姫と光達が連れ去られた!?」

「この国へ赴いていたファーレンの皇女アスカとチゼータのタトラ、タータ姫達もだ。」

「導師…全員を連れ去ったのはエンブリヲと言う男でしたか?」

「何故、その名を?」

「それを説明するにはこちら側の事情を説明する必要があります。」

 

 

長いのでかくかくしかじか的な勢いで説明。

 

 

「成程、では多元地球と呼ばれる世界にもエンブリヲが…」

「はい。」

「奴の居所を掴む事は出来ないのか?」

「…今は様子見をするしかありません。」

「どういう事だ?」

「恐らく奴はこれからも女性達を攫う可能性があります。」

「犠牲者が今後も増えると?」

「はい、奴が油断しきった頃を見計らって救助に赴きます。」

 

 

今の状態で光達を救助しても奴が次の犠牲者に手を出す事は判っている。

 

後のエクスクロスのメンバーが奴と戦える力を持つまでは手出しは出来ない。

 

 

「旧サイデリアル…イグジスタンス兵達はこの国の防衛力として引き続き滞在際させます。」

「協力が必要であれば、余の国と連携を取って欲しい。」

「ハスミ、彼は?」

 

 

クレフからユーサー皇子の事を尋ねられたのでハスミは答えた。

 

 

「この方はここから北東に位置する聖インサラウム皇国の君主…ユーサー・インサラウム殿下です。」

「君主自ら…」

「王国を取り纏める姫君の不在にご心中を察する。」

「ご配慮感謝する、ユーサー殿下。」

 

 

自己紹介を兼ねた軽い挨拶の後に今後の事を相談した。

 

 

「導師、これからの事ですが…」

 

 

その後、セフィーロ王国は聖インサラウム皇国と臨時同盟を結んだ。

 

前回の戦乱に関して光龍お父さんの通達もあってか滞在中のフューリー達からの恨みを買う事はなかった。

 

内乱でクーデターが引き起こされた事や刻者の社が限界を迎えていた事への処置に対する恩義だろう。

 

旧サイデリアル兵達は尸空さんの説得もありセフィーロ王国の防衛を継続。

 

問題は姫と光達を救う為にザガートとランティスの二人が国を離れてしまった事である。

 

全く似た者双子め…こういう所に関しては似ていると言うか何と言うか。

 

流れでは、いずれエクスクロスと行動を共にするだろうし。

 

事情を知る勇者特急隊も居るので悪い様にはならないと思う。

 

私達は向こう側でまた大きな事が動き始めた様子なので一旦多元地球へ帰還する事にした。

 

 

=続=





暴走は止まらず。

ただあるのは見えない暗躍。


次回、幻影のエトランゼ・第百十二話『悪流《アクリュウ』


悪意の流れは止まらず広がる。

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