幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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突然の出来事。

消える睡蓮と黄土。

刻まれた銀色の烙印は抗いを許さず。

悪魔の手繰り糸は踊り。

銀色の駒は足並みを見せる。

これもまた物語の一つであるのなら越えなければならない試練なのか?


第五.五話 『涙悲《ナミダトカナシミ》』

伊豆基地へ進路を取り、後数時間で到着する頃。

 

ハガネの格納庫で爆発が起こり、二機の機体が飛び出した。

 

飛び出した機体はガーリオンC・タイプTと黒のゲシュペンストmk-Ⅱだった。

 

ブリッジではエイタとアズキが通信を何度か試みてコックピットの映像を映し出すがアズキは余りの光景に悲鳴を上げていた。

 

それもその筈、二機のコックピット内部は異常な光景だったからだ。

 

側面のディスプレイを埋め尽くす生きたコードとパイロットの皮膚を侵食する銀色の烙印。

 

そしてパイロット達の虚ろな紅い眼だ。

 

二機はそのままその場を離れてロストしてしまった。

 

急ぎ,その足取りを掴もうとするが何者かの意思が絡んでいるのか反応は消えてしまった。

 

今回の一件で同じ様に極東エリア周辺で任務中だった部隊やパイロット達が失踪すると言う事件が起こっていた。

 

全員の共通点はDGに直接接触した事があるパイロットや部隊である。

 

DG細胞による汚染と洗脳によりこの様な行動を行ったと言う事は事前に開発者であるライゾウ博士の研究レポートで把握されていた。

 

そして治療法が今一歩の所で確立出来ていない為、発見されても彼らは倒すしかないと上層部内で判断されつつあった。

 

しかし、この失踪事件が発覚した三日後にようやくDG細胞の治療法が発見された。

 

だが、それは100%の感染者には使用出来ずあくまで感染がまだ進み切っていない者に対する治療法だった。

 

それは完全に感染してしまったパイロットの命は保証できないと言う事だった。

 

急ぎ、彼らを捜索する為にハガネ一行は伊豆基地へ帰路を進めた。

 

伊豆基地に到着した一行は極東エリアの警戒を行いつつ同エリア内でロストした失踪者達の捜索に当たっていた。

 

だが、一向に情報は入らず八方塞がりの状況が続いた。

 

 

******

 

 

「ハスミ…」

 

 

伊豆基地の一室にて。

 

テンペストは一人、収集された情報を閲覧していた。

 

PCのディスプレイの文字の羅列を気にせず、ただひたすら一句一句余さず確認を行っていた。

 

 

「テンペスト少佐。」

「ギリアム…」

 

 

そこへギリアムがコーヒーを入れたカップを携えて室内に入って来たのだ。

 

 

「少し休まれませんか?」

「すまない。」

 

 

コーヒーカップを渡されたテンペストは礼を伝えた後、目元を抑えていた。

 

自分でさえ、どの位の時間を情報整理に当てていたのか判らなくなる位に気を張り詰めていたのだ。

 

以前の自分であれば、ギリアムの持ってきたコーヒーカップを払いのけていただろう。

 

それも無くなったのは義娘(ハスミ)の御蔭なのかもしれない。

 

ただ一つの意識だけに縛れると周りが見えなくなりいずれ人生の迷子になってしまう。

 

義娘が私に対し良く話していた事だ。

 

 

「気持ちは解りますが、貴方が倒れてしまっては元も子もない。」

「解っている、だが…どうしても何かしていないと落ち着かんのだ。」

「少佐…」

 

 

テンペストはコーヒーを一口啜り、自身の不安を吐露した。

 

 

「先日、アルベロ少佐と話をしたそうですね。」

「…」

 

 

ハガネ一行が伊豆基地へ着艦した直後の事である。

 

情報もなくただ闇雲に捜索へ向かおうとした部下達を抑えていたが、その中にも不安を隠せぬ存在が居た。

 

失踪者の一人であるフォリア・エスト准尉の父親であるアルベロ・エスト少佐である。

 

彼は暴走する部下達から離れた場所でその様子を見ていたが自身もまた部隊の部下であり実の息子である准尉を捜索しに行きたいと思っていたのだ。

 

その表情を察したのかテンペスト少佐は彼に話を持ち掛けた。

 

義娘が世話になったと話を皮切りにして。

 

アルベロはトリントン基地でのアンノウン迎撃作戦の際にゲシュペンストmk-Ⅱを譲り渡してくれた少女の父親が彼であると知った。

 

そして彼女もまたフォリア准尉と姿を消したAMのパイロットであると知ったのだ。

 

互いに身内をDGによって攫われた。

 

現状ではどうする事も出来ず、ただ時間だけが過ぎる事に苛立ちもあった。

 

テンペストはいずれ来る打開策の時まで待つしかないとアルベロに語った。

 

義娘の感染期間が最も長く完全に感染するまで時間が残り少ない事を知っていてもだ。

 

せめて悔いのない行動をと語った後、その場を去って行った。

 

 

「いずれ暴走する事は目に見えていた、出る杭は打って置くべきと思っただけだ。」

「ハスミの影響ですか?」

「かもしれんな。」

「必ず彼女や他の人々を助け出しましょう。」

「ああ。」

 

 

ハスミ、お前は『必ず戻る』と言ってくれたな?

 

私は出来る限り、お前の事を待とう。

 

だが、どうしようもない時はお前を救いに行こう。

 

嘗てお前が私を救ってくれた様に私もお前を助けに行こう。

 

それまで無事で居てくれ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

集結する筈だった部隊、だがそれは仲間の失踪を迎えたままそれは果たされた。

 

幼馴染が失踪し悲観する者。

 

友として仲睦まじい間柄だった者。

 

信頼する部下を失った者。

 

そして義娘と共に日々を暮らし、共に歩んだ者はもっとも悲観しつつも部下への示しの為にその姿を見せずにいた。

 

各部隊は捜索と襲撃を続ける敵部隊の迎撃を繰り返しながら不安な日々を送っていた。

 

そんな部下達の心情を察し、全員とは言えないが頭を冷やせと言う意味合いで待機命令と半休が出された。

 

その中でドモンはある場所を訪れていた。

 

いずれ七つの心と共に現れる星の海と七つ星の名を持つ少年達が集う場所。

 

 

「ドモンさ~ん!!」

「来たか…」

 

 

星見町を見渡せる公園の展望スペースでドモンに向かって走ってくる少年が居た。

 

 

「久しぶりだな、銀河。」

「お久しぶりです、ドモンさん!」

 

 

このイガグリ頭の少年こと出雲銀河と言い、かつて前の世界でドモン達と共に戦った戦友でもあった。

 

 

「最初電話を貰った時、ビックリしましたよ。」

「済まなかったな、道場を訪ねようとしたが目立ちそうだったんで止めて置いて正解だった。」

「むしろ俺の母ちゃんが卒倒するか手合わせとか言ってきそうな気もする。」

「そうだったな。」

「ドモンさんにも記憶があって良かった、俺…前の記憶が戻った時どうしようって思ってずっと悩んでいたんです。」

「最初は戸惑うだろうな、個人差はあれど俺はこの世界で生誕と同時に記憶が戻った位だからな。」

「それ、どこの無双ですか?」

 

 

ドモンのトンでも発言に唖然とする銀河を他所にドモンは彼らと共に戦った電子の聖獣達に声を掛けた。

 

 

「お前達も元気そうだな。」

 

 

「「「…(コクコク」」」

 

 

「所で記憶が戻っているのはお前やデータウェポン達だけなのか?」

「俺の他にも北斗にも記憶が戻っているんですけど…といってもまだ電童には乗れてないんですけどね。」

「そうか…」

 

 

銀河の話では当人の記憶が戻ったのは小学3年生位からで、親の眼を盗んではレオサークル達を探していたそうだ。

 

しかし無駄骨であり、彼らもまた使えるべき主の記憶を持っていたのですぐさまそこへ訪れていたそうだ。

 

現在はギアコマンダーが無い為、銀河の持つ携帯端末に身を隠している状況である。

 

またレオ達を使ってまだこの町に越して来ていない北斗と連絡を取り合っていたそうだ。

 

 

「それとドモンさん、俺達…もしかしたらドモンさん達と一緒に戦えないかもしれない。」

「どういう事だ?」

「実は…」

 

 

銀河は北斗からある情報を得ていた。

 

北斗の話によると彼の母親である織絵のPCの端末からユニコーン達を使って情報を集めており、GEARが国連事務総長の指揮下にある地球防衛軍所属になっている事である。

 

地球連邦軍とは別の扱いになっており、いずれ電童で戦う事があっても一緒になる可能性が低いと話に出たのだ。

 

現時点で地球連邦軍内で腐敗の膿出しを行っているとは言え、いつ一部の強硬派が暴挙に出るか分からない。

 

可能性とすれば彼らの家族を人質に取って、自分達の手駒にすると言う暴挙もあり得るのだ。

 

そう言った可能性があるのなら彼らの所属は地球防衛軍の方が良いのかもしれない。

 

 

「成程な、だが…何処かでまた共に戦える事があるかもしれない。」

「…」

「道は違えといずれその道は繋がる事もある…」

「それって…」

「以前、出会った仲間がよく言っていた言葉だ。」

「意味は解りました。」

「なら、電童に乗るその時まで己の技と心に磨きを掛けろ。」

「はい。」

 

 

ドモンは気晴らしに銀河と手合わせとした後、ロムやヒューゴ達と再会した事を話した。

 

そしてDGがこの日本に潜伏している可能性がある事も話した。

 

銀河もDGと聞き、かなりヤバそうな顔をしていたがすぐに落ち着いた。

 

 

「ええっDG!?」

「ああ、現時点で行方は不明のままだ。」

「うわ…」

 

 

銀河もかつて『時と不完全が争った世界』と『調律されたものの霊帝と呼ばれる存在によって滅んだ世界』で戦った事はあったが、それもまた脅威である事は骨身にしみていた。

 

 

「そう言えば変な噂を聞いた事があります。」

「変な噂?」

 

 

銀河の話ではこの日本にDr.ヘルや恐竜帝国などの地下勢力などの侵攻によって復興作業が滞っている旧東京エリアがある事を話した。

 

そこに近づいた人が行方不明になると言う失踪事件が起こっていたのだ。

 

幽霊の仕業か?と興味本位で肝試しに行く学生や一部の記者や娯楽番組の撮影団がその噂を真実を突き止める為に侵入し行方が分からなくなったそうだ。

 

それが増え始めたのが約二週間前。

 

丁度、アイドネウス島からUGがDGとなり姿を消した期間と重なるのだ。

 

その話を聞き、ドモンはある推測をした。

 

DGは自己増殖で己の分体を増やし、本体はそこへ逃げていたのではないか?

 

それならばオーストラリア大陸や他のエリアで目撃されたDGが分体であると想像がつく。

 

そしてそれらが一斉にその廃墟へ集合していると言うのならと。

 

DGの三大理論を利用すればそれも容易いだろうと判断した。

 

 

「ドモンさん?」

「銀河、すまないが俺は基地に戻る。」

「また会えますか?」

「いつかは分からないがまた会いに来る。」

「その時は北斗と一緒にいいですか?」

「ああ、楽しみにしておく。」

「はい、ドモンさん…気を付けてください。」

「ありがとう、銀河。」

 

 

ドモンは銀河との再会を約束しその場を後にした。

 

いずれ彼が出会うだろう仲間と共に再会するのはまた戦場であると言うのは神のみぞ知ると言った方がいいのだろうか。

 

縁は繋がったのだ。

 

それもまた必然と言うのならこの縁は無駄ではない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

「気付かれたみたいね。」

 

 

ーソウー

 

 

「兄弟で戦うのは嫌?」

 

 

ーイヤダー

 

 

「だったらどうしたい?」

 

 

ーテニイレル、ズットイッショニイルー

 

 

「そう(DG、分かり合えなければすれ違うままなのよ?」

 

 

ーハスミ、ハスミハキエナイヨネ?ー

 

 

「出来る限りは一緒に居てあげる。」

 

 

ーウン、イッショイッショー

 

 

「…(抑え込めるのもここまでか。」

 

 

ーハスミ、マタコモリウタヲウタッテー

 

 

「眠るの?」

 

 

ーウン、ダカラキキタイノー

 

 

「解ったわ。(舞台は整った、後は貴方次第です…ドモン・カッシュ。」

 

 

ハスミは暗い空間で口ずさむ。

 

いつか人が歌で手を取り合おうとした世界で歌を胸に戦う少女達が歌う子守歌を歌った。

 

世界が繋がった誰もが知る子守歌を静かに歌った。

 

 

=続=




悪魔を滅ぼす為に集結する力。

全ては愛すべき者を救う為に。

機械仕掛けの悪魔の子の嘆き。

傀儡となった睡蓮は妖艶なる人形。

次回、幻影のエトランゼ・第六話『闇歌《ヤミノウタ》』


「義娘を返して貰おうか?」(スナイパーライフルを構える音)
「テンペスト少佐、抑えて抑えて!!」
「止めるなダテ少尉!もしや少尉…私の義娘に近づくつもりか!!」
「ないです、ないですから!!?」
「信用できん!」
「クスハっ!少佐に栄養ドリンク一杯っ!!」
「はーい。」
「何をする!やめっガボッ!?」


ードサッー



ーポクポクー



ーチーンー


<今回の登場人物>


※出雲銀河
GEAR戦士電童のパイロット。
現在は小学4年生、パイロットではなくただの民間人である。
約一年ほど前に嘗ての記憶が戻った為、単独で相棒であるレオ達を捜索していた。
しかし、彼らも記憶が戻っていたので後に合流し共に行動している。
ドモンの連絡で再会し今回の失踪事件に関わるヒントを伝える。
ちなみにレオ達三匹は銀河の持つ携帯端末に身を隠している。


※草薙北斗
GEAR戦士電童のパイロット。
銀河と同じく記憶が戻っており、ユニコーン達と再会している。
現在は銀河と連絡を取り合いつつ自分達の所属すべき場所を調べている。


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