幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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不浄により天を覆い隠す。

草木も生えぬ不毛の大地。

それらは仕組まれた罠。

だが、待っている。

芽吹きの時を…


第百十六話 『光樹《ホーリーウッド》』

引き続き、アル・ワースにて。

 

アンジュの帰還から数週間が経過した。

 

エクスクロスはイグジスタンスの助力を得ようと聖インサラウム王国へ来国したが…

 

国王であるユーサーの不在と魔従教団の対応で手一杯であると説明を受けた。

 

更にイグジスタンスは別勢力への対応で不在の上に連絡不能である事が判明した。

 

エクスクロスは助力の件を伝えて他の勢力の影響を受けている地域の開放へと向かった。

 

結果、ドアクダー軍団の第三界層ボスから第四界層ボスに直属のザン兄弟を倒す事に成功。

 

その流れからエクスクロスは第五界層ボスであるアック・スモッグルの潜むホーリーウッドへと移動していた。

 

 

******

 

 

~ホーリーウッド・ヘドロ御殿~

 

 

アック・スモッグルの指示で稼働する工業地帯。

 

空気は汚れ、水源はヘドロ、大地は草木も生えない不毛の大地と化していた。

 

そのアックが居を構えるヘドロ御殿の社長室で本人が通信を行っていた。

 

 

「…ワタル達が、此方に?」

 

 

アック・スモッグルと話をしているの上司に当たるドアクダー四天王のドン・ゴロー。

 

 

「そうだ。エクスクロスはホーリーウッドを目指している。」

「まあ、当然でしょうな。」

 

 

アック・スモッグルの言葉通り。

 

ドアクダー軍団が進行中の大気汚染作戦。

 

その中枢たるヘドロ御殿がここに存在する。

 

 

「ドン・ゴロー様、ご安心を…このアック・スモッグル、奴らを返り討ちにしてやります。」

 

 

アック・スモッグルの発言に油断の気配を感じたドン・ゴローは口を酸っぱくして答える。

 

 

「エクスクロスを侮るなよ、第一から第四の界層のボス達からザン兄弟まで奴らにやられたのだ。」

「それにつきましては、ワシの方で用意した切り札もございますので。」

 

 

対抗策の切り札もあると答えるアック・スモッグル。

 

だが、彼は別の勢力に対して危険視の声を上げた。

 

 

「気掛かりなのは魔従教団と神聖ミスルギ皇国の動きです。」

 

 

前者は大地を汚した件、後者は新たな戦力による侵攻。

 

智の神エンデの守護する大地を汚した事で魔従教団も動きを見せるだろう。

 

後者は以前現れたイグジスタンスに該当する戦力を中心に活動している。

 

どちらにせよ、二つの勢力を敵に回す事。

 

これもドアクダーの狙いなのはアック・スモッグルも理解していた。

 

続けてドン・ゴローはアック・スモッグルの疑問に返答した。

 

 

「魔従教団に関してはドアクダー様の狙いなのだろう。」

「では…!」

「ドアクダー様はこの作戦を足掛かりに本気で教団と事を構えるおつもりと見ている。」

「おお…!ついに目障りな教団を叩き潰す日がやって来るのですな?」

「だが、大地を汚染する事はそこに住む者達を事を考慮し余り望ましいと言えない。」

 

 

いくら作戦が成功しても汚染による不毛の大地を会得しても意味はない。

 

ドン・ゴローは作戦終了後、アック・スモッグルに例の品で…と告げる。

 

 

「判っております…ワシの管理しております秘宝『ヨカッタネ』の力で速やかに大地を元通りにしましょう。」

「うむ。では、頼むぞ…アック・スモッグル。」

 

 

アック・スモッグルは告げる事を終えたドン・ゴローとの通信を切った。

 

だが、ドン・ゴローの意思とは裏腹にアック・スモッグルは不貞腐れた表情で呟いた。

 

 

「ふう…ドン・ゴロー様と喋ると肩が凝る。」

 

 

ドン・ゴローの頭の固さに悩まされるとアック・スモッグルは愚痴る。

 

 

「ま、ワシの工場がある限り…大地を元通りにするのは不可能だがな。」

 

 

太巻き位の葉巻を吹かして真っ黒い副流煙を周囲に撒き散らしていた。

 

恐らく、周囲に人が居れば真っ先に逃げただろう。

 

アック・スモッグル。

 

この界層を支配してから洗浄と名の付く行為を一切していない。

 

お気づきの通り…体臭から服の臭いが余りにも不潔なのである。

 

最早、ゴム手袋をしても触れたくないレベルの不潔だろう。

 

どこぞの加齢臭+足が臭いレッテルを貼られた戦闘狂と良いレベルだ。

 

 

「切り札を使い…エクスクロスごと救世主ワタルを始末してくれるわ!」

 

 

アック・スモッグルはその不潔に相まって汚らしい笑い声と表情でゲラゲラと笑っていた。

 

 

>>>>>>

 

 

一方その頃…

 

 

「じゃあ、ハマーンも攫われたって事か?」

「その通りだ、面目ない…」

「いや、そんな相手じゃマシュマーさんでも無理があるって。」

「…」

 

 

ホーリーウッドの街へ偵察しに来たエクスクロス。

 

ワタル一行、アマリ、イオリ、マサキ、シャングリラ組と言う形である。

 

街で聞き込みをする中でネオ・ジオンのマシュマーと遭遇。

 

新西暦の世界でエンブリヲらに襲撃を受けて、ハマーンを攫われたと話す。

 

 

「一刻も早くハマーン様を救い出さねばならない。」

「現時点でネオ・ジオンの手綱を握れる人物がいないのでしょ?」

「!?」

 

 

マシュマーの言葉に対して答える様に現れた存在。

 

声の主に気づいたマサキは名を答える。

 

 

「ハスミ!?」

「待って、その場から動かないで。」

「っ!」

「ゴメン、奴に監視されているの…そのまま聞いて頂戴。」

 

 

物陰からハスミは彼らを静止させた後に新西暦の世界で起こっている出来事を説明した。

 

シャア大佐やハマーンが不在な事で沈黙していたネオ・ジオン。

 

不在を期にフル・フロンタル率いる袖付きによって反乱が起こってしまっている件。

 

再び、連合とネオ・ジオンの戦争が起こされようとしていた。

 

フル・フロンタルは並行世界で生まれたシャア大佐のクローンでアクシズを地球へ落とす計画を立てている。

 

並びにNT教団の暗躍が開始。

 

ニュータイプや強化人間の拉致監禁からの精神操作で世論を混乱させようとしている。

 

連合のキルケー部隊が対応しているが、内部の裏切り者によって遅々として進んでいない。

 

裏切り者の名はクワック・サルヴァーと言う連合の士官で戦乱を引き起こす為にマッチポンプを企てている。

 

現在はゲリラ組織・マフティーがミスリルと合同でNT教団や奴の動向を追っているが状況次第で泥沼化するだろう。

 

多くの暗躍の陰で動いているのはバアルによって暴走したクロノ…いずれ仕留めなければならない組織。

 

 

「ホーリーウッドの状況を元通りにするヨカッタネはこの界層のボス、アック・スモッグルが持っているわ。」

「だったら…」

「今は忍び込まない方が良い、奴の切り札がヘドロ御殿に網を張っているの。」

「切り札?」

「その切り札はこっちで対処するわ……貴方達は何とかしてアック・スモッグルを倒してヨカッタネを取り戻して。」

 

 

ハスミはヘドロ御殿を破壊すると汚染物質が拡散してしまうのでヨカッタネを奪取してから破壊する様に付け加えた。

 

 

「ハスミ・クジョウ、ハマーン様は何処に?」

「エンブリヲの本拠地…既にDG細胞を感染させられ厳重に保管されているわ。」

「ハマーン様…」

「気を付けて、エンブリヲもヨカッタネを狙っている。」

 

 

マシュマーにハマーンの居場所とエンブリヲの狙いを伝えると去って行った。

 

 

「ハスミの奴、無茶しやがって。」

「マサキさん、あの人。」

「ハスミは突き放しているようで実際は仲間想いだ……ああやって助言もくれるしな。」

「…」

 

 

マサキから聞かされたハスミの助言。

 

ワタルは以前出会った時に告げられた言葉が脳裏に深く残っていた。

 

偶像にさせられるのではなく本当の救世主と言う意味をよく考えなさいと… 

 

 

「…(ハスミさんの言う通り、戦えない人達は他力本願な所があった。」

 

 

ワタルはエクスクロスと出会い彼らの助言から考える事で自分が成りたい救世主の姿を形作っていた。

 

 

「ワタル、平気か?」

「うん、ちょっと考え事……でも、あの人に言う答えは出来てるから。」

「なら、大丈夫か…」

 

 

吹っ切れた表情のワタルを見てマサキも大丈夫だろうと判断した。

 

 

******

 

 

その後、エクスクロスは援軍であるマシュマーを加えてヘドロ御殿へ侵攻。

 

シャングリラ組から少年少女達を筆頭に『工場経営者なら賃金未払いすんなよ!』、『成金親父』、『下品親父』、『俗物成金親父』、『汚物親父』、『頭から足先までくっさいオッサン』、『くさや臭…いやシュールストレミング臭ジジイ』、『風呂ぐらい入れよオッサン』、『歯磨きしないと虫歯になるよ?』、『借金親父』、『違法経営者』、『廃棄処分法違反者』等々の煽り言葉を連発。

 

これに怒ったアック・スモッグルを上手く誘き出して戦いを続行。

 

その中でアック・スモッグルが隠していた切り札が既に倒されていた。

 

 

「そんな…ワシの切り札がぁ。」

 

 

慌てるアック・スモッグルに止めを刺すワタル。

 

 

「これで終わりだ!!」

 

 

龍神丸の強化版…龍王丸の必殺技である必殺登龍剣でアック・スモッグルの搭乗機体コンボスを切断。

 

ワタルの単純な煽りやアマリの色仕掛け?戦法が功を奏した。

 

これによりアック・スモッグルを倒したエクスクロスだったが…

 

更なるゲストの出現でそれは阻まれた。

 

 

「ハァイ~エクスクロスの皆さん?」

「アンタは…!」

 

 

正体を知るサリアにアンジュは声を掛けた。

 

 

「サリア、知っているの?」

「ええ、私達の後釜…新しくダイヤモンドローズ騎士団の団長を務めている女よ…!」

 

 

脱走時、アンジュの説得でエンブリヲの元を去ったサリア、エルシャ、クリス。

 

だが、ターニャとイルマはエンブリヲの元に残ったとサリアが告げている。

 

その為、二人のラグナメイルがマリリンと同行していた。

 

 

「そんな燃え尽きそうな名前は止めてくれない?」

「え?」

「私達はダイヤモンドローズ騎士団改めてヘルガーデン騎士団…覚えてくれなくてもいいわよ?どうせ殺しちゃうから。」

 

 

自己紹介を続けるゴスロリ風の衣装を纏った女性。

 

騎士団の名前通り発言も残虐らしい。

 

 

「でもって、私の名前はマリリン・キャット…よろしくね。」

 

 

通信で見る限り、引き連れた団員達よりも年齢が低く見えている。

 

だが、彼女の放つ気配がそうではないと本能が語っていた。

 

 

「顔見せはこれ位にして…このヨカッタネだったかしら?預かって行くわね。」

「あっ!」

 

 

通信でヨカッタネを見せるマリリン。

 

それに対してワタルは叫んだ。

 

 

「それがないとこの街が!」

「そっちが欲しいものをこっちも必要なのよ…じゃあね、ボウヤ♪」

 

 

マリリンは部隊を引き連れ撤退して行った。

 

置き土産と言わんばかりにヘドロ御殿を破壊して…

 

 

「そんな…」

「ヨカッタネが奪われるなんて。」

「…この街はもう。」

 

 

ワタルとアマリは落胆した声を上げる。

 

アック・スモッグルを倒したエクスクロス。

 

だが、エンブリヲの指揮下にあるヘルガーデン騎士団によってヨカッタネは奪取された。

 

ヘドロ御殿は破壊された事で破損部分から漏れ出た汚染物質が流出され続けていた。

 

流出が止まらなければ街は重度の汚染区域となり、いずれ人も住めなくなるだろう。

 

 

「…どうすれば。」

「諦めるな!」

「えっ?」

 

 

汚染が進むホーリーウッドの街に現れたイグジスタンスの部隊。

 

旗艦であるプレイアデス・タウラが不在の為、主要機体だけでの出撃らしい。

 

 

「イグジスタンス!?」

「何故、彼らが…?」

「判らん…」

 

 

シグナス・艦長の倉持とメガファウナ・艦長のドニエルも彼らの出現に驚きの声を上げた。

 

その中でN-ノーチラス号・船長ネモだけはイグジスタンス出方に静観していた。

 

 

「救援が遅れて済まない。」

「君達の話は臣下より受け取った。」

 

 

ヒビキとユーサーの声掛けから始まり。

 

応対する艦長達。

 

「では…」

「イグジスタンスは君達と期間限定の同盟を結びたい。」

「期間限定?」

 

 

ユーサーは代表から預かった言葉をエクスクロスへ告げた。

 

同時に期間限定の意味をバルビエルと尸空が答える。

 

 

「…エンブリヲを倒すまでって事さ。」

「俺達の目的はそれだけだ。」

 

 

エンブリヲの一件で後手に回っていたイグジスタンス。

 

奴に対して報復の準備が整ったらしい。

 

 

「今は街が…」

「安心しな、それなら助っ人を呼んでいる。」

「助っ人?」

 

 

援軍が加わる事に異議はなかったが…

 

目処前の光景にワタルは落ち込んだままだった。

 

だが、クロウは助っ人を呼んだと話す。

 

 

「UG、周囲の汚染物質を分解し浄化を急ぐぞ!」

「…」

 

 

クロウの話した助っ人によってヘドロ御殿は突如変異し汚染物質を回収し始めた。

 

 

「アレは!?」

「DG!?」

「ちょちょっと大丈夫なの!?」

 

 

シャングリラ組のジュドー達の言葉も最もだが…

 

 

「安心しろ、今のUGに敵意はない。」

「兄さん、浄化の方は?」

「UGが施設を改造して分解処理をしている…もう汚染物質の流出はないよ。」

 

 

UGを引き連れた助っ人三名。

 

順にシュバルツ、ドモン、キョウジの三人である。

 

 

「ドモンさん!」

「助っ人が強力すぎるだろ!」

「全然いいって!マジで!」

「逆に草一本も残らなそう…」

 

 

これに勝つると判断し喚起するシャングリラ組並びに彼らを知る少年達。

 

ここで疑問が残る。

 

彼らはどうやってアル・ワースへ訪れたのか?

 

 

「間に合って良かったね?」

 

 

上空より姿を現した応龍皇。

 

余りの巨大さに声も出ないエクスクロスの初対面の面々。

 

察して彼の事を知っているメンバーは静観していた。

 

 

「ホルトゥスの孫光龍!?」

「どうも、久しぶりだね?」

 

 

マサキの発言で自己紹介は省かれた。

 

相変わらずヘラヘラな態度で話す光龍。

 

 

「助っ人の転移は僕らの手助けだよ……ちょっとばかり奴への仕返しを兼ねて呼び込んだのさ。」

 

 

奴と言うのは恐らくエンブリヲの事だ。

 

アンジュがハスミから渡された情報では新西暦の世界の地球にもエンブリヲの手を伸びていた。

 

多くの逆鱗に触れたエンブリヲへの報復は凄まじいものになるだろう。

 

 

「他は周囲に点在しているドアクダー軍団だったかな?そいつらの妨害に出ているよ。」

「孫光龍、其方もイグジスタンスと同盟を?」

「一応ね、娘の事もあるし……戦力は多いに越した事はないよ。」

「…」

「ま、そっちにもシンカの力に目覚めたのが何人か居るらしいし…頃合いって事だよ。」

 

 

アルビオン・艦長のシナプスの対応で反感を買わない様に話を進めた。

 

光龍の言葉通り以下の条件をエクスクロスは満たした。

 

イグジスタンスが同盟を結ぶ条件で必要なシンカの力。

 

それに目覚めさせる事で彼らと肩を並べる戦力へと切り替わる。

 

期間限定なのは全員が目覚めを迎えていない為だ。

 

 

「積もる話は皆で集まってしちゃった方がいいかもね。」

 

 

光龍の進言もあり、エクスクロスとイグジスタンスは合流。

 

汚染が除去された一角で顔合わせと自己紹介を済ませた。

 

そしてイグジスタンス代表の決定を告げた。

 

イグジスタンスは多元地球に防衛可能な戦力を残した状態で…

 

アル・ワースの戦線を担っている戦力の一角。

 

エンブリヲ率いる神聖ミスルギ皇国軍への侵攻を決定したと…

 

同時に期間限定と言う形でエクスクロスと共闘し神聖ミスルギ皇国に繋がるエンブリヲの本拠地へと向かう。

 

他の助っ人達も合流し反撃の手順を告げられたエクスクロスだった。

 

 

=続=

 





反逆の時は来た。

お前の命運もここまで。

死へ直結する闘いを…


次回、幻影のエトランゼ・第百十七話『死闘《シトウ》』


さあ、始めようか?

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