幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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廃墟に残された地下鉄跡地。

入り組んだ先にあるのはかつての電波塔。

そこに待ち受けるのは鍵盤楽器が奏でる戦操の音。

過去の再来は再び起こるのか?

庭師達は害虫を刈り取る為に動き出す。

全ては悪しき眼より語られる。


第七話 『呪眼《ジュガン》』

極東エリア内におけるDG細胞感染者達の失踪事件の三日目。

 

旧東京エリアの地下鉄迷路内部にて。

 

 

******

 

 

「奴に気付かれない内に早くその人を!」

 

 

少女は覆面を被った男性にそう叫んだ。

 

トリコロールの覆面を被った男性は気を失った男性を担いで外へと向かっていた。

 

覆面の男性は歩みを進める中でこう思った。

 

自分は無力だ。

 

彼女の様に誰かを救う余裕がない事に。

 

弟と近い年齢の彼女は自分の身の安全よりも私達の安全を優先したのだ。

 

彼女もまた悪魔の洗礼に身を蝕まれていると言うのに。

 

何故、こうも他人の為に動ける?

 

彼女は『私は末端ですが…一軍人として民間人を守る義務があります!』と答えた。

 

そして…

 

 

「私は大丈夫ですから。」

 

 

私は彼女の重みのある言葉を受け取り、キョウジを連れてその場を去った。

 

彼女の最後の言葉を後に背を向けた。

 

たった一人で廃墟の奥底に彼女を置いてきたのだ。

 

DG細胞の支配がある以上、これ以上の侵入は出来なかった。

 

私は無力だ。

 

余りにも無力過ぎた。

 

過去の記憶を辿り、私のオリジナルであるキョウジを救出したのはいい。

 

だが、別の犠牲者を出してしまったのだ。

 

キョウジの感染を除去する為の猶予がない事が私を焦らせた。

 

それが冷静になり切れなかった私の責任だ。

 

そして正気を保った彼女の最後の姿だった。

 

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

 

時は戻り、ドモンが地下鉄の駅に到着した頃。

 

 

「あの人達、勝手に動くのは良いけど…もう少し節度を持って行動してほしかったな。」

 

 

かつて電波塔と呼ばれた場所にある一室にて。

 

ハスミはノートPCを広げて地下迷宮の様子を伺っていた。

 

その眼は虚ろではなく鮮明な真紅の眼だった。

 

 

「ま、今の状況の彼らじゃ…ドモンさんに勝てないけどね。」

 

 

ハスミは普段しっかりと着用している軍服を着崩す様に着用していた。

 

そしてDG細胞に侵された部分を露出させる様に見せており。

 

ネクタイを外して首元の鎖骨を露出し胸の谷間が見えそうで見えないと言う如何にも狙った着こなし方をしていたのだ。

 

 

「力に溺れるのはいいけど…DGの命令に背くならお仕置きが必要だね。」

 

 

ハスミは真紅の瞳を一度閉じると再び開きその眼を猫の様に視線を変えた。

 

クスリと笑みを浮かべるその表情もかつてのハスミとはかけ離れており、むしろ冷酷な一面を見せていた。

 

 

「まあ、成り行きに任せようか?」

 

 

ハスミはデスクに置かれたPCを閉じるとその部屋を後にした。

 

 

******

 

 

現在ドモンは廃墟となった旧東京エリアにて、前と同じく地下鉄跡を利用し目的地である電波塔へと向かっていた。

 

そして記憶にある通り、通った事のある道を進んでいた。

 

 

「この音は?」

 

 

既に破棄された地下鉄の駅に到着するとこちらへ向かって停車しようと地下鉄の車両が入って来たのである。

 

 

「…(罠である事は知っているがここは。」

 

 

ドモンはそのまま停車した車両に乗り込み、乗り込みが確認されると発射音と共に車両は発車した。

 

車両内へ入ったドモンは運転席がある車両へと歩みを進めた。

 

 

「…(紋章が騒めている。」

 

 

ドモンは再び紋章の浮かび上がる右手の甲に手を添えた。

 

 

「解っている、お前も悲しいのだろう。」

 

 

再び起こった災厄。

 

その一つに遭遇している。

 

紋章が繰り返される悲劇への嘆きをその痛みとして訴えた。

 

 

「キング・オブ・ハート…嘆くのは後だ、まずはあの四人を取り戻す…!」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃。

 

地上では旧東京エリア一帯に展開していたデスアーミーの大群が二機の機動兵器と戦闘を開始しており、約数十体が両断された姿で放置されていた。

 

 

「やれやれ、『蒼い睡蓮』も随分と厄介な依頼を持ち込んでくれたね。」

「将軍、怖気づいてしまったかい?」

「いや、逆だよ…大統領。」

「ほう?」

 

 

普段の礼儀の良い言葉遣いもその本性を晒したのか荒々しいものへと変化していた。

 

 

「俺も少しばかり腕が鈍ってしまったのでね、慣らし相手には丁度いいと思っただけさ。」

「では、期待させて貰おう…織花、準備はいいかな?」

「いつでもどうぞ、大統領。」

「了解した…!」

 

 

コックピットにて後方のサブシートから指示を受ける織花と呼ばれたストレートヘアーの女性は大統領の合図と共に次の行動へ移った。

 

 

「いくら『悪魔』の能力で再生、増殖した所で所詮は劣化コピーに過ぎないんだ。」

 

 

ディアーズショットによる牽制の後、ビームハルベルトによる突撃攻撃で空中に展開するデスバーディの一体を破壊する。

 

 

「威力は抑え気味だが、君達を始末するには丁度いいよ。」

 

 

一旦距離を取った後、デスバーディを全機狙える位置に機体を移動させインペリアルランチャーを発射した。

 

一機目の僚機撃墜で混乱した隙を突いた結果だった。

 

そして地上でもその様子は伝わっており、デスビースト達にも混乱を呼び込んでいた。

 

 

「おっと、お前達の相手は俺だよ。」

 

 

地上で動きが鈍ったデスビーストをジュダの七支刀が断ち切る。

 

 

「おやおや、逃げるにはまだ早いよ?」

 

 

切り飛ばされた残骸が周囲に展開していたデスビーストに接触し更なる獲物へと変貌する。

 

 

「残念だが、俺はお前達を全員逃がすつもりはない。」

 

 

ジュダに搭乗する『将軍』の恐るべき気迫はデスビーストだけではなく空中に展開するデスバーディにもそれは悪い意味で伝わった。

 

 

「その名も石神祭り(しゃくじんまつり)だ!」

 

 

七支刀による剣撃乱舞はデスビーストだけではなく周囲の廃墟ビルをも巻き込み灰塵となす。

 

もしも月夜をバックにすれば絵となるが今は曇天の空でそれは望めない。

 

 

「いやいや、俺も大人気なくはしゃぎすぎたかな?」

 

 

七支刀を重々しく肩に担ぎ上げると『将軍』はコックピットで肩をすくめた。

 

周囲に展開していたデスビースト、デスバーディの混合部隊を一掃した後、『大統領』は『将軍』に通信を送った。

 

 

「そう言えば、先行して地下へ潜った『新郎』はどうしているかな?」

「さて、彼が極度のマイペースである事は君も知っているだろう?」

「そうだったね。」

 

 

二人の通信に割り込む存在が居た。

 

 

『それどころじゃないでしょ!!』

「おっと、『軍曹』…君も居たのかい?」

『何ぃ~呑気に会話しているのでありますか!?』

「そう言うつもりでは無かったのだがね。」

『ちょっと、ちょっと、今回の相手は気が抜けない相手だと…吾輩、何度も説明したでありますよね!?』

「揺さ振りをかけたが大将首が出てこないしどうしようもないだろう?」

『そう言う油断する様な事を言うから銃弾で脳天撃たれるのでありますよ!』

「いや~あの時の私もやり過ぎちゃったよね。」

「君、よく無事だったね……ああ君もファクターだった事をすっかり忘れていたよ。」

『全く、通信役の吾輩の身に…モグモグ、なって欲しいであります…モグモグ。』

「『軍曹』、通信しながらいきなり団子を齧るのもどうかと思うよ?」

『だって!だって!二、三日前からずっとここで吾輩一人で寂しく待機だったんだもん!』

「それでいきなり団子をお供に通信ですか?」

『そうであります、これブルーロータス殿から選別に貰ったであります♪』

「そう言えば君の姪っ子君はどうしたんだい?」

『モア殿なら雷王星に派遣されたであります。』

「雷王星?たしか例の宇宙怪獣の巣だったね?」

『吾輩にすればあれは台所から湧き出る巨大なゴキブリの様なものであります。』

「ああ、言えるね…それは。」

『それに何かあったらモア殿が居ますし何とかなるっしょって事で吾輩も許可したであります。』

 

 

「「「…」」」

 

 

『ちょ、ちょっと何で皆して無言になるんでありますか!?』

「いや~あれはね。」

「どう反応していいか…」

「『大統領』、その場合は常識の域を超えた存在と言う回答が宜しいかと?」

「そうだね。」

 

 

その後、雷王星が何かの影響により全壊したと言う報告が地球圏に点在する各勢力が知る事となる。

 

 

******

 

 

そして地下では。

 

ドモンは地下鉄車内でチボデーに遭遇し一戦交えた後。

 

地下鉄を収容するホームへと移動した。

 

だが、待ち受けていたのは拳を交えた仲間であった。

 

 

 

「お前達のファイターとしての魂はそんなものなのか!!」

 

 

拳と拳が衝突する。

 

救いたいと思う意思と捻じ曲げられた意思の衝突。

 

 

「如何にDG細胞で強化されようがキング・オブ・ハートに同じ技は二度と通用しない!」

「へっ、相変わらずスカしてやがるぜ!」

「本当にアニキは楽しませてくれるよね!」

「貴方にどう言われようともここを通す訳には行きません。」

「…」

 

 

ドモンに対峙するのはDG細胞によって操られた者達。

 

ドモンと共に拳を交えた者達の姿は戦いに狂う狂戦士そのものだった。

 

 

「チボデー、サイ・サイシー、ジョルジュ、アルゴ、お前達は…!」

 

 

前回とは違う空気を漂わせている事を感じ取ったドモン。

 

何かがおかしい。

 

それだけは感じ取れた。

 

 

「やはり脳筋は脳筋でしたか…」

 

 

カツカツとヒールの音を立てながらこちらへ通じる広間に出て来る者の姿があった。

 

 

「お前は…ハスミ・クジョウ!」

「お久しぶりです、ドモンさん。」

 

 

同ホーム内の上の階層から一礼をするハスミ。

 

だが、その姿はDG細胞に感染したと言う証で染まっていた。

 

 

「DGからのご命令です、貴方達は地上に現れた敵を排除せよとの事です。」

「えーせっかくいい所なのに?」

「たった一人に苦戦していた者がどの口で言いますか?」

「へっ、言ってくれるぜ。」

「二言はありません、直ちに地上へ赴いてください。」

「命令とあらば致し方ありませんね。」

 

 

チボデー達はその場を離れて地上へと向かった。

 

 

「さて、人払いは済みました。」

「まさか…ハスミ、お前は。」

「言っておきますが…浅はかな希望はお持ちにならない方が宜しいかと思いますが?」

「…それがお前の本性か?」

「さぁ、どうでしょうね?」

 

 

DG細胞によって操られた者はその本心を晒される。

 

この場にいるハスミは本来の本性を晒しているのだろうか?

 

それも余りにも災厄な状況で。

 

 

「フォリア・エストはどうした?」

「彼なら地上です、他の兵士達もDGのご命令で出撃しています。」

「ならお前は何故ここに居る。」

「私はDGからアナタに伝言を届ける為のメッセンジャーとして残りました。」

「何だと?」

「ドモン・カッシュ、我々の同志になれ…との事です。」

「俺がそんな事に加担すると思ったか?」

「ええ、思っていませんよ?」

 

 

ハスミはニコリと笑みを浮かべる。

 

それは清楚な少女を思わせるが一瞬にして冷酷な表情に変わった。

 

 

「だから力づくでなって頂きましょう。」

 

 

指を鳴らすとホーム内の出入り口全てのシャッターが閉まり、代わりに車両搬入用の大型シャッターが開閉する。

 

 

「こいつは!?」

 

 

現れたのは車両整備用に配置されていた整備用レイバーである。

 

レイバーはMSやPT、特機などの開発に伴い。

 

需要性を失ってしまいその数を徐々に減らしていった。

 

現在地球圏で使用されているのは公共や民間用として下げ降ろされているものだけである。

 

有名なのはお台場の僻地に置かれた特車二課と呼ばれるレイバー隊である。

 

もっとも金喰い虫扱いされ不遇の扱いを受けてしまっている。

 

話を戻すが、放置された旧東京エリアには回収されていない破棄レイバーも数多く存在する。

 

DGならそれらをかき集めて手駒として使用する事も可能だろう。

 

 

「幾ら貴方でもこれだけの数を相手にするのは無理でしょう?」

「ふっ、俺も舐められたものだな…だが!」

「そうでしょうか?」

 

 

突如、西側ホームのシャッターを突き破れた。

 

そこから現れたのは二人の人影。

 

 

「兄さん!?シュ…っ!?」

 

 

ドモンは言い掛けた言葉を飲み込んだ。

 

ドモンはこの世界ではシュバルツ・ブルーダーに出遭っていない。

 

知りもしない相手の名前を答えるにはリスクが多すぎる。

 

 

「やはり、罠だったか…(ドモン、何故ここへ!?」

「さて、役者が揃った所ですしそろそろ…っ!?」

 

 

シャランと鈴に似た音が周囲に響いた。

 

 

「えーっと、ドモン・カッシュってアンタ?」

「誰だ、貴様は!?」

 

 

更に現れたのは黒いタキシードに身を包んだ男性。

 

先ほどの音は唾の長い帽子の端に取り付けられたリングから鳴り響いたものだ。

 

 

「あー俺はブルーロータスに頼まれてアンタらを助けに来た。」

「ブルーロータスだと!?」

「悪いが名前を明かす訳にはいかないんで…メンドーだし。」

「…(ブルーロータス、とうとう庭師達を動かしたか。」

 

 

分が悪いか。

 

流石に白兵戦に置いて狂人を超えている三人に整備用レイバーでは荷が重い。

 

ならば、戦場の舞台を変えよう。

 

 

「では、地上で再度お会いしましょう。」

「待てっ!?」

 

 

ハスミがその場を去ろうとしたので追いかけようとしたが整備レイバーに遮らてしまい。

 

その姿を見失った。

 

 

「くっ!」

「さっさと行けよ、俺はメンドーを押し付けられてイライラしているんで…!」

「しかし…」

「ドモン・カッシュ、この場は彼に任せて我々は地上へ戻るぞ。」

「…分かった。」

 

 

ドモン達はタキシード姿の男性をその場に残して彼が進んできた道を辿って地上へ向かった。

 

 

「やれやれメンドーだ。」

 

 

タキシード姿の男性は蛮刀を取り出すとこちらへ向かって来た整備用レイバーに切りかかった。

 

 

******

 

 

再び地上では。

 

地上での戦闘を聞き付け、旧東京エリアへと到着したハガネ、クロガネ、アーガマ。

 

なお、ヒリュウ改とエルシャンクは別エリアで発生した戦闘を止める為に二手に分かれている。

 

現在、地上へ現れた四機のガンダムと連れ去らわれた軍兵士の搭乗するPT、AM、MSの混成部隊とそれにデスアーミーの歩兵隊と言う部隊が待ち構えていた。

 

先の戦闘の首謀者である二機は既に撤退した模様で姿は無かった。

 

これも『蒼い睡蓮』の仕込みであり、旧東京エリアに潜む『悪魔』を燻り出す為の行為であった。

 

囚われていた民間人達は既に『蒼い睡蓮』のエージェント達によって救出されている。

 

その連絡を受け取ったハガネ以下二つの僚艦は残った兵士達を無力化し救出する為に行動していた。

 

 

「彼らも操られていたなんて…」

 

 

四機のガンダムの姿に反応したレイン。

 

続けてATXチームとカーラ、ユウが会話に加わった。

 

 

「うっそお!?レイン、彼らって確か!?」

「ええ、彼らもガンダムファイター…そしてドモンと拳を交えた事のある人達。」

「あの四機、強豪とされている国家代表のファイター達ですね。」

「確かネオアメリカ、ネオチャイナ、ネオフランスだっけ?」

「最後はネオロシアか、武装から察して接近戦は控えた方が良いな。」

「だが、ハスミの姿がないな。」

「ハスミ。」

 

 

展開する敵部隊にハスミのガーリオンCの姿は無かった。

 

恐らく、まだ出撃していないのだろう。

 

肝心のDGの姿もないので後続出撃と思われた。

 

 

「せっかく呼ばれたので出ますよ。」

 

 

通信を傍受していたのか地響きと共に現れるDGとその僚機としてガーリオンC・タイプTがその姿を現した。

 

 

「ハスミちゃん。」

「お久しぶりです、三日ぶりでしょうか?」

「ハスミ、無事だったのね!」

「無事とは?」

「クスハ、待って!」

「ああ、DG細胞ならまだ私の中にありますよ?」

「ハスミ。」

「DGを狙う者にはそれ相応の対価を…それがDGの命令です。」

「それはお前の本意か?」

「どうしてです?」

「お前からは殺意を感じられない。」

「それは戦えば判る事ですよ。」

「何だと?」

「DGの悲しみを理解出来ないのなら何も知らないまま消えてください。」

 

 

******

 

 

別ルートで脱出中のドモン達は。

 

脱出の道中でドモンはシュバルツよりDG暴走の真相。

 

そしてそこに巣くう黒幕の正体を語った。

 

 

「それじゃあDGは!?」

「ああ、全てはあの始まりの日が原因だ。」

「EOT機関にそんなものが保管されていたのか。」

 

 

EOT機関に保管されていたある物質がUGをDGへ変貌させてしまった正体である。

 

それに気づかず、同じ暴走だと思い込んでいたドモン。

 

 

「それはお前の知らぬ所で起こった事だ、自分を責めるな。」

「シュバルツ…いや、兄さん。」

 

 

ドモンの落ち込みに叱咤を加えるシュバルツ。

 

その思いを感じ取りドモンはシュバルツを兄と呼んだ。

 

 

「兄さんか…そう呼ばれるのはいつ振りだろうか。」

「例え、兄さんの映し身であっても俺にとってアンタも兄さんと変わらない。」

「ドモン。」

「必ず、アイツらもDGも俺と仲間達と共に救ってみせる。」

 

 

かつては猪突猛進の如く一人で突っ走っていたが冷静に状況を判断し仲間を信じ突き進む。

 

その姿にシュバルツは変わったなと呟いた。

 

 

「…(成長したなドモン。」

「だから力を貸して欲しい。」

「ああ、解っている。」

 

 

二人の会話にキョウジも加わった。

 

 

「だか…ら…言った…だろう?」

「兄さん!」

「俺の…俺達の弟は……誇れると…」

「キョウジ、今は…」

「ああ…ドモン、シュバルツ…後を任せるよ。」

 

 

一度は目覚めたもののDGの生体コアにされていた為、衰弱も激しく余り体力も残っていなかったのである。

少しだけ会話をすると再び眠ってしまった。

 

 

「兄さん。」

「ドモン。」

 

 

「「今は成すべき事の為に!!」」

 

 

******

 

 

再度、地上にて。

 

 

「やはり、姿が無かったとは言え油断してしまいましたね。」

「ISA戦術の弱点を探すのがお前の目標の一つだった、その戦術の裏の裏を突いただけの事だ。」

「敵に塩を送ってしまったか。」

「ハスミ!」

「お義父さん、本気で来なければ死ぬだけだとそう教えてくれましたね。」

「そうだ、だからこそ私はお前を救うと決めたのだ!」

「ならば、本気で戦い合うのみです!」

 

 

同型同士の戦い、戦いを制するのは搭乗者の技量のみ。

 

 

「少佐っ…!」

「義娘の不始末は私が着ける!お前達はDGを頼む!!」

 

 

他の機体をDG討伐に向かわせ、テンペストは義娘を取り戻す為に銃口を向けた。

 

 

******

 

 

DGと共に現れるガンダムヘッドの猛攻を掻い潜り、一機、また一機とDGに近づき攻撃を加える。

 

またその僚機を狙うガンダムヘッドやデスアーミーを撃墜しながら援護射撃を加えていた。

 

洗脳されていた兵士達や四機のガンダムは行動不能にしライゾウ博士より提供されたDG細胞を阻害する特殊弾薬のおかげで身動きが取れなくなっていた。

 

 

「レイン、無事か!」

「ドモン、今まで何処に!?」

「話は後だ、まずは奴を止める!」

 

 

「出ろぉぉぉ! ガンダァァァァム!」

 

 

ドモンが指を鳴らすとハガネの格納庫に収容されていたシャイニングガンダムを呼び出し搭乗する。

 

ちなみにこの状態で呼ぶと格納庫のハッチを壊しかねないので特機用のハッチから瞬時に出られる様に配備して貰っていた。

 

 

「シュバルツ、頼む!」

「任せて貰おう。」

 

 

「超・級・覇王!電影弾っっ!!」

 

 

ドモンはシャイニングガンダムに搭乗後、待機していたガンダムシュピーゲルと合流しDGに強烈な一撃を披露した。

 

本来ならば彼の師匠と共に行うべき技であるが不在の為、致し方ない。

 

繰り出された技は周囲に展開していたガンダムヘッドとデスアーミーを巻き込みDGの左側腕部をもぎ取っていった。

 

シャイニングガンダムはその一撃を終わらせると元の位置へ戻って来た。

 

 

「皆聞いてくれ!あのDGはガイゾナイトと呼ばれる鉱石生物によって操られている!」

「ガイゾナイト?」

「EOT機関に保管されていたが、あの襲撃事件でDGに取り憑いて復活の機会を待っていたらしい。」

「それじゃあハスミちゃん達を操っていたのも…!」

 

 

「ドウヤラワタシノソンザイニキガツイタチキュウジンガイタトハ?」

 

 

DGは瞬時にDG細胞で再生するとコックピット部分に生物の瞳を巨大化させたような物体が配置されていた。

 

 

「とうとう出て来たか…!」

「ハハハハハッ、ズイブントオモシロイキゲキヲミレタガマダマダミタリナイ、キサマラヲゼンインワタシノテゴマ二ッ!?」

 

 

だが、この一瞬だった。

 

DGに寄生したガイゾナイトが動きを封じられたのは。

 

 

 

ーソウハサセナイー

 

ーワタシハアナタノアヤツリニンギョウジャナイー

 

ーダカラトメルー

 

 

「クッ!DGメ、ニンゲンニウラギラレタミデナニヲイウカ!!」

 

 

ーワタシハヒトヲシンジルー

 

ーハスミガワタシノコエヲキイテクレタカラー

 

ーワタシハヒトヲシンジタイー

 

 

「オノレ!!」

 

 

ーミナサンゴメンナサイー

 

ーワタシゴトガイゾナイトヲハカイシテクダサイー

 

ーワタシガトメテイルウチニハヤクー

 

 

朧げな電子音でその言葉を伝えたDG。

 

搭載された『超AI』が心に目覚め始めた兆しでもあった。

 

『自己犠牲』による『人格』の確立。

 

それはこの世界における新たな可能性だったのだ。

 

 

「DG、お前の気持ち受け取った!!」

 

 

シャイニングガンダムが黄金へと染まり、その両手には巨大なビームソードが形成される。

 

 

「お前の愛と怒りと悲しみを重ねる!!」

 

 

その意思は曇り無き一滴。

 

 

「俺のこの手が光って唸る、お前を倒せと輝き叫ぶ!」

 

 

明鏡止水の志と共に。

 

 

「喰らえ! 愛と、怒りと、悲しみのぉ!!」

 

 

闇を葬り去る。

 

 

「シャィィィイニングッ!フィンガーソード!!」

 

 

巨大な剣はDGの機体ごとガイゾナイトを斬り裂いた。

 

 

「ソンナ…バカナァアアア!?!?!?!」

 

 

断末魔と共にその呪眼は光の浄化を受けて消えて行った。

 

そしてDGもその原型を失い爆発四散した。

 

だが…

 

 

「せっかく解り合えたのならやり直す事も必要だと思うな。」

 

 

ボロボロになった二機のガーリオンCの腕には不釣り合いなコアブロックが収まっていた。

 

 

「全く、私の義娘ながら無茶ばかりする。」

「…申し訳ありません。」

「戻ったら私を含めてゼンガー達との説教とこの経緯の始末書が待っている事を覚悟して置け。」

「りょ、了解です。(前途多難だよ。」

 

 

その後、改修されたコアブロックに収まった『超AI』より感染してしまった人々からDG細胞を除去した後、その力を使い果たして眠りに就いたのだった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱ 

 

 

ある場所において。

 

 

「やれやれ、僕らが眠っている間に面白い事が起きているじゃないか?」

 

 

男性は笑みを浮かべる。

 

 

「トウゴウにブランシュタインそしてクジョウ、グリムズとあの彼女の子孫はいないみたいだけど…かつての大戦を思い出すねぇ。」

 

 

球体状の装置から映し出される映像を見る男性はある事に気が付いた。

 

 

「君は…そうか、そう言う事か?」

 

 

映像に映し出された少女の思念を察し、その顔に手を添えると笑みを浮かべた。

 

 

「君と神の子、どちらが地球を…いや、銀河を守護する巫女に相応しいか見極めさせてもらうよ。」

 

 

男性はスーツのポシェットに添えられた花に触れた。

 

 

「君もそう思うだろう?」

 

 

花は静かに揺れた。

 

 

=続=

 




一つの禍は去った。

しかし油断は出来ない。

仲間の結束を高める為にある名称を付ける事となった。

次回、幻影のエトランゼ・第七.五話『名称《メイショウ》』

その名の如く志を胸に乱世を駆けめぐれ。



<今回の登場人物>

※新生シャッフル同盟
ここではドモン以外の四名を指す、今回もDG細胞に操られてしまっていた。
今回の一件で双方共に救出され、旧シャッフル同盟の後継者に選ばれた。
現在はその傷を癒すと同時に旧シャッフルより過酷な修行を受ける事を決めた為、今回は仲間にならず離脱した。

※シュバルツ・ブルーダー
DG細胞より生み出されたキョウジのコピー。
その生命はDGが居る限りと言う限定の為、不安定な生命を持つ。
前世の記憶を所持しドモンと再会。
その後、今回のDGの行動を説明し止める為にドモンと行動を共にする。
事件後はDGより独立した存在として切り離されたので消滅を免れた。

※キョウジ・カッシュ
DG細胞によって操られていたドモンの兄。
DGの興味対象が変わった為に一時的に支配下から逃れた。
再び支配下に置かれない内にDGが欲しているものや裏で糸を引いている者の正体をシュバルツを通してドモンに知らせる。
戦闘後、無事救出されたがDG細胞の感染期間が長かったので精密検査の為に伊豆基地に移送された。

※DGのコア
DG細胞を制御する為に『超AI』のチップが搭載された制御コア。
今回の戦闘で肉体となっていた機体は大破したが『超AI』が収まった制御コアのみはハスミによって救出された。
安全の為、制御コアのみ梁山泊へ護送される事となった。
肝心の『超AI』のチップは破棄と言う名目でハスミに譲渡された。
現在も名称のないまま、新たなボディが出来るまでハスミの携帯端末にお引越ししている。

※ガイゾナイト
鉱石生物、以前はブレイブポリスによって倒され封印の為にEOT機関に保管されていたが例の強襲事件の際に逃走。
DGが暴走した原因であり今回の事件で寄生していた事が判明。
DGが自らの躰を失う覚悟で己の躰に留め、その隙をついてドモンの明鏡止水版シャイニングフィンガーソードで破壊された。


※ヴァン
『新郎』の正体でダン・オブ・サーズデイのパイロット。
訳アリで『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっている。
地下鉄車両を収容するホームで苦戦していたドモン達に加勢した。
マイペースかつ変な敬語やボンクラ路線は相変わらずの様である。
だが、剣技の腕は落ちておらず蛮刀でDG細胞によって操られた整備用無人レイバーを一網打尽にした。

※石神邦生
『将軍』の正体でJUDAコーポレーションの社長を務める。
前回の一件でイスルギ重工から合併の話を持ち込まれたが早々に却下している。
既に『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっており、DG出現の際にジュダを駆って出撃した。
会話から目には目を大物には大物をと言うスタンスで『御旗』の事をルドに話していたのでもう一つの記憶も所持しているものと思われる。

※ルド・グロリア
『大統領』の正体でGreAT社の社長を務める。
前回の一件でイスルギ重工より合併の話を持ち込まれたが石神同様に早々に却下している。
嘗て自らが起こした所業を知っており、今度は道を外さない様に考えを改めた。
石神同様に『蒼い睡蓮』のメンバーに加わっており、DG出現の際にインペリアルヴァレイを駆って出撃していた。
尚、サブパイロットとしてHL-1が同乗している。
本来の乗機であるガルトデウスを持ち出さなかったのは『蒼い睡蓮』から内密にと依頼されていた為である。

※HL-1
普段はハルカ・オルヴェと言う名でGreAT社の社長秘書を務めるアンドロイド。
今回の戦闘でインペリアルヴァレイのサブパイロットとして同乗し戦闘補佐をした。
本来の名前を偽る意味で与えられた名前ではあるがルドより共に歩むと言う意味合いで名前を与えられた事に感謝している。
エージェント活動時は『織花』と言う名称で活動する。


※ハスミ・クジョウ
ガイゾナイトに寄生されたDGからの精神干渉で凶暴性を控えた冷酷な感情に支配されている。
過去に旧戦技教導隊に教え込まれた技術を披露し旧東京エリア内に数多くのトラップを設置し迎え撃った。
現在はDG細胞の感染期間がキョウジと同時期だったので精密検査の為、伊豆基地に収容される。


※軍曹
メタ発言をする謎のカエル?。
今回は戦闘の様子を伺っていた。
『蒼い睡蓮』の仲間と思われる。


※謎の男性
普通に素性は判ります。

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