幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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星海を翔ける光。

覆されるシナリオ。

全ては交差し大いなる光となる。

差し伸べよ、己が強き意志を。

睡蓮は闇の物語を解放する。


第八話 『騎士《テッカマン》後編』

ハスミ達がエアロゲイターの偵察部隊と交戦を始めたと思われる頃。

 

 

「…」

 

ここマクロスでもエアロゲイターの別動隊によって攻撃を受けていた。

 

しかし、今回は収容されている戦艦から部隊までかつての小戦力ではない。

 

かなりの大部隊となっている。

 

その為、それなりの戦力を相手にしなければならない事は彼らも理解している筈だ。

 

そこまでして自分達に釘付けにする理由を私は理解した。

 

奴らの目的は別行動を行ってるSRXチームと護衛に入ったハスミ達である。

 

敵の狙いがトロニウムエンジン並びに念動力者の確保が目的なら察しがつく。

 

偶然(・・)にも定時偵察に出ていたアクセルとドモンに彼らが向かった宙域へ向かう様に指示し、足の速い戦艦をその後続として向かわせる事が決定した。

 

恐らく数日前より行動を共にしたナデシコと分離型使徒との戦いから参戦したリーンホース・Jrが妥当と思われる。

 

ナデシコのボソンジャンプもしくはリーンホース・jrのビーム・ラムによる突撃離脱の戦法を用いるしかその場を離脱する手段はないだろう。

 

あるいは…

 

いや、余り考えたくないがその方法ではハスミの正体を知られる可能性があるだろう。

 

だが、人の謀が及ばぬ領域の存在ならば話は別だ。

 

無限力。

 

奴らの差し金か。

 

ハスミ、お前の語ったシナリオは早まるかもしれん。

 

私はヴァルシオンの操縦席から義娘達の無事を願うしかなかった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

しくじった。

 

横浜での戦闘、アイドネウス島からオーストラリア大陸への遠征、DG事件と当てはまる限りの無茶振りは私の責任もある。

 

解っていたとは言え…

 

私が強念者である事が知られてしまった。

 

だが、敵の言葉をそう易々と信用する彼らではないと願いたいが今回は違う。

 

記憶を持っていなければ怪しむのはライとアヤ大尉だけだっただろう。

 

だが、記憶を持つリュウセイとマサキなら恐らく感づいてしまっている。

 

もう言い逃れは出来ない。

 

本来なら私が念動力者である事を語るのはもっと先にする予定だったのだ。

 

それが現在の戦闘で見事に崩された。

 

これも無限力の仕込みだろう。

 

おのれ○○め!とナルトとしらたきの様な名前の人の台詞を叫びたくなった。

 

奴らは完全にこの状況を楽しんでいる?

 

いや、秤に賭けているのか?

 

ゲームの様に…

 

 

「…(さてと、どう攻めるか。」

 

 

念の為、現場の指揮権を持つイングラム少佐に進言をし許可を得た上で行動している。

 

しなかったら命令違反で撃たれても可笑しくない。

 

まあ裏切る予定の人の許可を貰っても意味がない様に思えるが裏切りを確定させていないので従うしかない。

 

その当人も私の念の力を見たがっている素振りもあるので遠慮なくやらせて貰う。

 

どの道、この会話は人の影にコソコソ隠れてストーキングよろしくな仮面付けた忍者に筒抜けだし。

 

マクロスの転移後、街中で似合わない色のスーツを着込んで優雅にティータイムを楽しんでいる年齢不詳の能天気紳士も来ているらしいので。

 

問題はクスハとブリッドを守り切れるかだ。

 

αのシナリオならどちらかがエアロゲイターに連れ攫われる可能性がある。

 

それを承知しているのならリュウセイとマサキも動くだろう。

 

なら、私とロサはカーウァイお義父さん…いや、ガルインと共に現れた部隊を退ける。

 

アタッドはマサキ、クスハ、ブリット。

 

レビはリュウセイ達。

 

シャピロはイングラム少佐に任せよう。

 

同時に今後奴らが手出し出来ない方法で行動させてもらう。

 

奴らも『例の存在』と同一の能力を持つ存在達に手出しはしないだろうけどね。

 

この方法は更に二つの組織に私が強念者である事を確定させてしまう上にリスクが高すぎる。

 

あの事を知られるのも早すぎるけど…

 

それでも切り抜ける方法にかけるしかない。

 

 

「ロサ、まずは周囲の雑魚を片付けるよ!」

「了解!」

 

 

こちらの動きに気が付いたのかアタッドの機体がこちらを狙って来た。

 

 

「アタシらを無視する気かい?」

「んな訳ないだろ!」

「っ!?」

 

 

アタッドの機体に張り付いたサイバスター。

 

 

「テメエの相手は俺達だ!」

「このっ…地球人が!」

「…(だから、貴方も地球人ですけど?」

「ハスミ、コイツの相手は俺達で何とかする!」

「俺達の事は気にするな。」

「だから、ハスミはお義父さんを救ってあげて。」

「マサキ…ブリット、クスハ。」

「後で訳は聞かせて貰うからな!」

「ありがとう!」

 

 

私はマサキ達に礼の言葉を告げ、エゼキエル・ラヴァンの部隊に交戦を仕掛けた。

 

 

「…(リュウセイ、後は頼むわ。」

 

 

そして。

 

史実には存在しない未完全な天下無敵のスーパーロボットが誕生した。

 

 

「未完全でも天下無敵のスーパーロボットっ!ここに見参!!」

 

 

SRX(脚部パーツ不足版)の合体に成功したのだ。

 

サルファでも脚部パーツが無くても稼働は可能。

 

しかし、そのエネルギー不足により武装は制限されてしまっている。

 

 

「大尉、無事ですか?」

「ええ、何とか…(それにしても念動フィールドの負荷がいつもより軽いような?」

「リュウセイ、合体は成功したが…一部の武装しか使えんぞ!」

「わ…解ってるって。」

「リュウ、さっきから声が変よ?」

 

 

通信で互いの無事を確認するものの、リュウセイの声に異変を感じ取ったアヤ。

 

 

「だ、大丈夫だって!」

 

 

同じく違和感を感じたライはそれぞれの念動バイタルの画面を確認した。

 

 

「ん?念動フィールド生成の……これはR-1からだと!?」

「リュウ…貴方まさか!?」

「お前、合体のみならず…SRXの念動フィールド生成までしたのか!?」

「ははっ、けど…うまくいっただろ?」

 

 

リュウセイは合体から活動までの念動フィールド生成までも自らの念で補ったのだ。

 

本来ならアヤの念動フィールドでSRXの安定を図る筈だった。

 

以前のリュウセイであればここまでの器用さはない。

 

理由は念の力はその性格から影響する為である。

 

つまり念の力は千差万別、確率の様に何通りもあるのである。

 

現在のリュウセイはいとも簡単にその複雑な念の操作を行っているのだ。

 

更にその念の操作の為に膨大な念の力を要する。

 

だからこそ二人は驚きを隠せなかった。

 

それが現実に行われているのだから。

 

 

「リュウ、どうして…?」

「アヤばっかりに負担はさせられねえって思ってさ、俺にも念動力はあるんだ…助け合えるならするべきだろ?」

「ごめんなさい、リュウ。」

「大尉、泣き言は後です…今は!」

「ええ、解っているわ!」

「わりぃ、ライ。」

「こんな無茶は今回だけにして貰うぞ!」

 

 

リュウセイは思った以上の念の消費に耐えつつも使用可能武装を確認した。

 

R-3のプラスパーツが無い事とEN不足により、テレキネシスミサイル、ブレード・キック、ドミニオン・ボール、天上天下無敵剣が使用不能である。

 

現状ではハイ・フィンガーランチャー、ガウン・ジェノサイダー、ザイン・ナックルが使用可能だった。

 

無茶振り披露合体のツケだろうと攻撃の術が奪われた訳ではなかった。

 

 

「アヤ、さっきの合体でストライク・シールドのパーツが離れちまったけど使えるか?」

「え…使えなくはないけど?」

「リュウセイ、どうする気だ?」

「やられっぱなしじゃ性に合わねえ、相手に一泡吹かせてやるのさ!」

「リュウ…」

「分かった、だが…無茶はこれっきりにして貰うぞ!」

 

 

リュウセイに策がある事を察したライはその言葉を信じ、後押しをした。

 

 

「その程度の念でこのジュデッカを!」

「何がだって!」

「っ!?(何だ?この念は!?」

 

 

SRXから発せられる念にレビは反応し一時的だが怯みを見せた。

 

 

「今のお前には解らないだろう!だがな、俺は必ず真の無敵のスーパーロボットへの合体をやり遂げて見せる!!」

「何をふざけた事を…!」

「解んねえだろうさ!図体ばかりデカいロボットを振り回すしか能がない…お前にはな!(マイ、必ず助けるからな!」

 

 

 

******

 

 

「…」

 

 

フフフ…

 

リュウセイ、お前は俺の予想以上の行動を起こしてくれる。

 

お前ならば魔星の守護者に相応しい。

 

レビ以上の念を引き出し、そして圧倒する意思の力。

 

それがお前の出した答えなのだろう?

 

そして…

 

ハスミ、お前もまた更なる可能性を見出した様だな?

 

いや、元から隠していたらしいが関係ない事だ。

 

レビが使い物にならなくなった場合を含めて新たなジュデッカの操者は必要だろう。

 

その時はお前がジュデッカの人形と成る時だ。

 

 

「…」

「どうした、ここまでか?」

「いや、計画通りだ。」

「?」

「そろそろ次の段階に入らなければならないのでな…」

「ようやく本性を現したか。」

 

 

この男、奴らのエージェントだと聞かされているが…

 

一体何を考えている?

 

得体の知れない男か?

 

いや、底知れぬ何かを感じる。

 

これは陛下にお伝えせねばな。

 

 

「…(忍、この戦いは何処か捻じ曲がっている。」

 

 

シャピロは己の思惑の中でイングラムの印象に違和感を感じ取った。

 

以前、地球連邦軍に属していた頃に出遭った彼とは異なる感覚。

 

それは彼の中にある野性が成せる事なのだろうか?

 

 

******

 

 

「標的確認、攻撃開始。」

「っ!?」

 

 

それぞれの戦いが続く中でハスミはカーウァイを救う為にエゼキエル・ラヴァンと交戦に入った。

 

僚機を数機程撃墜し、残りをロサに任せての行動だった。

 

 

「お義父さん、思い出して!」

「…」

 

 

相手の攻撃を牽制し応戦しつつ何度も説得を続けた。

 

 

「…(やっぱり、向こう側の精神操作が!」

 

 

そしてエゼキエル・ラヴァンが攻撃を近接戦闘へと切り替えた。

 

相手の実体剣を避けるべく、こちらもアサルトツインブレードでその一撃を止めた。

 

刃と刃が火花を散らす時、それは起こった。

 

 

「っ!?(これは!」

 

 

流れ込んできたのはカーウァイそしてガルインの記憶。

 

幼き頃の自身と過ごす記憶と交戦時に被弾し重傷を負った記憶。

 

そして奴らに改造されると言う恐怖の記憶。

 

人形として自らの意思に反した戦いを強いられる記憶。

 

 

「こんなの酷すぎるよ…(解っていたとは言え、これは惨すぎる。」

 

 

サイコメトリーに近い力による他者の記憶の開示。

 

その記憶が一瞬の内に脳裏に焼き付く様に視えたのだ。

 

本来ならば数行程度に記された結末だっただろう。

 

だが、現実にその記憶が呼び起こされたのだ。

 

当時の騒音や叫び声、下手をすれば生々しい惨状と共に。

 

血の臭いと恐怖の声。

 

それらは一瞬の内に人を狂わせるだろう。

 

 

「お義父さん、苦しかったね…辛かったね。」

 

 

私は涙を流すしかなかった。

 

だがその涙は悲しみの為ではない。

 

復讐の為の涙だ。

 

 

「幼き思い出は…真実へと変わる!識れ、玄き闇の物語を!詩れ、残酷な童話を!」

 

 

もう迷わない。

 

この時だけ私は!

 

自分を偽らない!

 

 

「…行こう、ロサ!」

「分かったわ、ハスミ!」

 

 

私はパイロットスーツの首元を緩めるとそのペンダントを外した。

 

黒き物語とその語り手の枷は外されたのだ。

 

 

******

 

 

同時刻。

 

マクロスでは第一種戦闘配備の為に住居ブロックに人気はなかった。

 

しかし、違和感を残す様に白いスーツを纏った男性が喫茶店の一角で冷めてしまった紅茶に口を付けていた。

 

 

「君はどこまで上り詰める気かな?」

 

 

皿に置かれたティーカップの紅茶は静かに揺れる。

 

 

「僕もご挨拶位はしておこうかな。」

 

 

 

更に同時刻。

 

地球の一角にある南国の島では。

 

夜を迎えた月夜に島に建築された城のエントランスから宇宙を眺める学生服を纏った青年と控える様に独特の羽根団扇を持った男性の姿があった。

 

 

「どうやら姿を見せた様だね。」

「どうなされますか?」

「アルベルトには連絡を送って置いた、後はマスク・ザ・レッドだけど…彼は木星の近海に居るしね。」

「では、残りの十傑集に収集を?」

「そうだよ、彼らや君の力を取り戻す為にね?」

「畏まりました。」

「…(ハスミ、いずれ君に会いに行くよ。」

 

 

新たなシナリオが刻み始めた瞬間でもあった。

 

 

******

 

 

「はぁ、はぁっ!」

 

 

久しぶりの感覚だね。

 

この念の力、抑え込まれた分だけ溢れかえるよ。

 

力が有り余る感覚。

 

だけど、飲まれるな、溺れるな。

 

与えられた力は己の為にあり他者を守る為のものである。

 

大丈夫、行ける。

 

 

「ロサ、モードの活動限界時間は?」

「約五分、それ以上は…」

「それだけあれば十分よ。」

 

 

放出される念によって弾き飛ばされるエゼキエル・ラヴァン。

 

そして周囲のT-LINKシステム搭載機に余波は届いた。

 

 

「!?(この念はハスミなのか?」

「ひゃっ!?」

「ぐうっ!」

「この念は…!?」

 

 

怒りと憎しみを通り越して救いたいと願う意思と復讐の念が周囲に広がった。

 

 

「この念をあの機体か…!」

「このっ地球人が!」

 

 

念の発生した機体を索敵したアタッドはマサキ達の攻撃を潜り抜けハスミの元へ向かって来た。

 

 

「お前か!」

「…」

「なっ!?」

 

 

瞬時にカナフ・スレイブによる先制攻撃で逃げ場を失わせたと確信した。

 

だが、それはものの数秒で崩れ去った。

 

周囲に展開したカナフ・スレイブは全て撃破され、搭乗している機体の片腕、片足を切断されたのだ。

 

 

「そんな…アタシがこんな奴に後れを!」

「貴方の十八番は封じたわ、まさか同じ事が出来る奴がいないとでも思った?」

「お前っ!」

「…見下すのも大概にして貰おうか?」

 

 

私はアタッドの機体の残された腕と足、スラスターの部分を斬り裂いた。

 

私にしてはかなり低ボイスな罵りだったと思う。

 

だが、カーウァイお義父さんが味わった恐怖に比べれは優しい方だ。

 

 

「一体何処の誰が自分達が最強と決めつけた?」

「っ!?」

「地球には『窮鼠猫を噛む』って言葉の揶揄があるけど…それが今の現状だよ?」

「お前は一体…」

「貴方は噛みつかれた猫…私は噛みつくんじゃなくて。」

 

 

『喰い千切る方だからw』と語った後、出来る限りの苦痛と恐怖をアタッドの機体に与えた。

 

ロサには四肢を切断しコックピットブロックだけ残ったエゼキエル・ラヴァンの牽引して貰っていたが。

 

全てがうまくいく訳ではなかった。

 

突然のイングラムの裏切りによりアヤ大尉の不調。

 

そして彼らの軍門に下る様にリュウセイと私に勧誘する言葉。

 

勿論、御断り申し上げた。

 

流石のリュウセイもアヤ大尉を不要と語ったイングラムの声に切れてR-GUNを破壊した。

 

しかし、イングラムは機体から脱出し原作と同様に後続で現れたエアロゲイターの部隊に救助されてしまった。

 

しかし、世界は新たなシナリオの啓示を示した。

 

見慣れない謎の未確認生物。

 

宇宙怪獣とも違う感じにその場に居た誰もが驚くしかなかった。

 

そうラダムの襲来だ。

 

だが、その集団を追って現れた白と紅の騎士と蒼き地球を意味する航宙機。

 

人型にして人間サイズの騎士達は瞬く間にラダムを蹴散らして行った。

 

 

「行くぞ、シンヤ!」

「OKだよ、兄さん!」

 

 

「「ダブルッ!!ボルッテッッカァアア!!」」

 

 

ブレードのボルテッカとエビルのPSYボルテッカ。

 

エビルのボルテッカを吸収するPSYボルテッカに力を添える事で技の威力を上乗せし敵に放ったのだ。

 

 

贖罪の紅と断罪の碧が重なり。

 

二つの力を束ねて一つとなる。

 

周囲に点在していたラダム獣とエアロゲイターの部隊を巻き込み。

 

フェルミオンの光の中でその残影は消えて行った。

 

 

「くっ!この場を退くぞ!」

「わ、解りました。」

「…(ハスミ・クジョウ、貴様もサンプルとして申し分ない…いずれはリュウセイと共に。」

 

 

不利と悟ったのかレビ達はエアロゲイターの残存部隊を率いて撤退した。

 

 

「…」

「兄さん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。(次は月、か。」

 

 

二人の騎士は藍色の海に漂いながら己の罪を再確認した。

 

この身に宿った力と暗黒の星海に置き去りにしてしまった家族への懺悔。

 

そして新たな戦乱を呼び込んでしまう事に。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

地球人の修羅場による念の胎動。

 

そして危険視していたラダムの襲撃によって撤退を余儀なくされたエアロゲイター。

 

いや、ゼ・バルマリィ帝国の偵察部隊はその経緯を総司令へと申告した。

 

そして偵察に赴いたレビ以上の念能力者が二人も出現した事はこちら側にとって朗報であり深刻な状況だろう。

 

だが、総司令は強敵との遭遇にうっすらと笑みを浮かべていた。

 

そして隣でその経緯を聞いていた仮面の男。

 

ユーゼス・ゴッツォは仮面の裏からある思惑を駆け巡らせていた。

 

 

「…(あの者、そしてアシュラヤーの目覚めはハトハラーの時である、か。」

 

 

そしてユーゼスは仮面の裏から笑みを浮かべた。

 

 

「…(ならば手に入れよう、その力を私の求めた答えを識る者を。」

 

 

思惑を新たに彼は野望の一手へと模索し始めたのである。

 

 

******

 

 

その後。

 

エアロゲイターの幹部クラスと交戦を繰り広げた私達はナデシコとリーンホース・Jrによって救助された。

 

緊張の糸が切れたのかリュウセイは念の使い過ぎでコックピットにて気絶しアヤ大尉はイングラムの言葉で錯乱した為、鎮静剤を打たれて同じくメディカルルーム行きとなった。

 

クスハとブリットも念の為、メディカルルーム行きとなった。

 

ライはイングラムの一件で一時拘束され、マサキはギリアム少佐に連行されていった。

 

私はテンペスト少佐と隊長達にカーウァイお義父さんが生きていた事を話した。

 

動揺はしていたものの念で確認したから確実であると説明したら信じて貰えた。

 

そして新たに現れた騎士達はスペースナイツと呼ばれ、偶然にもマクロスに乗艦していた責任者から照会が取れたのでその正体は私の念とイングラムの一件を説明する為に後日となった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ内のメディカルルームにて。

 

 

「これから兄さん達がこちらに来る。」

「何で急に?」

「恐らくお前が無茶をした例の件についてだろう。」

 

 

真面目な表情で忠告をしたライ。

 

 

「いいか、絶対にエルザム兄さん達を怒らせるなよ。」

「な、何だよいきなり?」

「俺は忠告したぞ?」

 

 

しかし、リュウセイには?マークの為にイマイチ読み込めず仕舞いである。

 

しっかりとリュウセイに忠告をしたライはそのままメディカルルームを後にした。

 

そして入れ替わりにエルザムとギリアムの両名が室内に入室して来た。

 

 

「リュウセイ曹長、話し合いを始めようか?」

「安心してくれ、悪い様にはしないよ?」

 

 

二人の背後に地獄の番犬と呼ばれる犬人間と小さな一つ目魔法使いを肩に乗せた死神の姿がぼんやりと見えていた。

 

 

「…(そう言う事は判りやすく言ってくれよ、ライっ!!!」

 

 

リュウセイはこの場を持ってライの意味を知った。

 

そして。

 

燃え尽きた表情で魂が抜けかかっているリュウセイをラトゥーニがメディカルルームで発見するのは約三時間後の事である。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その頃。

 

人気のない格納庫にて。

 

 

「ハスミちゃん。」

「紅葉さん?」

「蒼い睡蓮から貴方宛によ。」

 

 

ナデシコクルーの七枝紅葉は待ち合わせていたハスミにディスクを手渡した。

 

 

「どうも。」

「一応言うけど、無茶もほどほどになさいね?」

「解っています…そちらは?」

「黒い王子様は貴方の言う通り記憶を持っているわ。」

「やはりですか。」

 

 

他愛のない会話、紅葉は普段のヘラヘラな表情を変えて語った。

 

 

「所で…いつまでこの茶番を続ける気?」

「彼らはまだ『真化』への道に立っただけ、まだ続ける必要がある。」

「全く、いつになったら『巫女』としての自覚を持ってくれるのかしらね?」

「おやおや、『護行柱』の一角が嫌味?」

「別にそう言う訳じゃないわよ、兄さんや他の三人は兎も角…貴方が言う様にシナリオが加速しているのなら予定を早めた方が良いってアタシが思っただけよ。」

「予定は現状維持のまま、動きを見せる訳には行かないわ。」

「また『無限力』のせい?」

「ええ、あの陰険で強引で我が儘で傲慢で…性根のひん曲がった意識集合体のせいでどれだけシナリオの修正に手間取ったか。」

「ちょっと、真っ黒いわよ。」

 

 

ハスミの醸し出す黒のオーラにツッコミを入れる紅葉。

 

 

「そう言う訳で貴方には火星ルートの監視役として行ってもらいます。」

「は?」

「この後、この部隊は二手に分かれて火星と月・地球のどちらかに向かう事になります。」

「何でよ?」

「火星でちょっとした動きもありますからその牽制です。」

「成程ね、所で何でアタシが火星に行くのが決定済みな訳?」

「ナデシコが再度火星に向かうからです。」

「…そう言う事なら仕方がないわね。」

「私の所属部隊がどちらに配属されるかは現状では不明なので今後次第です。」

「ふうん…事によっては『紅扇』を動かす事になるけどいいかしら?」

「構わないわ、ただ素性は明かさない事を約束して。」

「了解したわ、巫女様。」

「様は止めて。(これで更なるシナリオが加速する。」

 

 

=続=




睡蓮の目覚め。

重なる白と紅の騎士。

語られるは悲劇の始まり。

そして新たな可能性。

絶対なる悪の使者の脅威。

次回、幻影のエトランゼ・第八.五話『解想《カイソウ》』

望まぬ結末を誰が受け入れるものか。


<今回の登場人物>

※相羽タカヤ
テッカマンブレードに変身する青年。
アルゴス号におけるラダム襲撃事件の生き残りの一人。
周囲には上記の事があり二つ名のDボゥイ(デンジャラス・ボゥイの略)と呼ばれる事となる。
記憶保持者だが、思い出したのはラダム襲撃の最中との事。

※相羽シンヤ
テッカマンエビルに変身する青年。
相羽タカヤの双子の弟。
同じくアルゴス号におけるラダム襲撃事件の生き残りの一人。
もう一人のDボゥイ(デストロイド・ボゥイの略)。
記憶保持者でDボゥイと同時期に思い出す。
色々とあって過去のしがらみは拭い去ったとの事。

※如月アキ
ブルーアース号のサブパイロット。
前回と同様にD兄弟の兄の方に恋い焦がれる。

※ノアル・ベルース
ブルーアース号のパイロット。
Dボゥイ達の二つ名の命名者。

※ミレッタ・ルルージュ
ミリィと言う愛称で呼ばれるオペレーター
マクロスに乗り合わせていたスペースナイツの一員。

※ハインリッヒ・フォン・フリーマン
外宇宙開発機構の創設者であるがEOT機関に出向中にマクロスの転移に巻き込まれ同乗していた。
別行動中だったブルーアース号のメンバーとDボゥイ達の身柄について説明した。


※ハスミ・クジョウ
今回の一件で自身が強念者である事が発覚。
その件に関しては次回へと続く。
そしてその思念の叫びはBF団、バラルに自身が強念者である事を発覚させてしまう結果となった。

※七枝紅葉
ハスミとの密会で彼が『護行柱』の一角と話しているが?

※リュウセイ・ダテ
SRXの合体に成功させるが、それは自身の念動力も使用してアヤの念動フィールドの形成をも自身が行うと言う荒行を見せた。
しかし、念動力の使い過ぎで病室送りとなる。

※ビッグファイア
BF団を統べる存在。
ハスミの念を感じ取り動きを見せる。

※孫光龍
バラルを預かる強念者。
ハスミの念を感じ取り動きを見せる。

※ユーゼス・ゴッゾォ
ゼ・バルマリィ帝国・帝国監察軍第七艦隊の副司令官。
野心に満ちた性格は相変わらずであるが今回は決定的に何か違う様子を見せている。
総司令官であるラオデキヤと共にヴィレッタの報告でハスミの存在を知る。
最後に『アシュラヤーの目覚めはハトハラーの時である、か…』の言葉を残している。

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