語られるは悲劇と奇跡。
奇異な記憶の覚醒のルーツは何を意味するのか?
その一端が明かされる。
睡蓮は母との遺言を語る。
数日後、リュウセイの念は回復したもののアヤ大尉の錯乱症状からの昏睡は今だ続いていた。
現在もアヤ大尉は念の力に不調を見せていた為、メディカルルームから出て来る事はなかった。
念動力に関してはケンゾウ博士の元で治療する必要があるとの事でSRXチームは地球帰還後は伊豆基地へ単身戻る事が決定した。
そしてリュウセイとライの二名はイングラム少佐の裏切りもあり、現在も独房へ入れられている。
元々SRX計画はイングラム少佐が関わっていた為、何処までエアロゲイターに情報が漏れているか不明だった。
リュウセイ達に何らかの暗示操作も行われている可能性も捨てきれないとの事でしばらくは戦闘に参加する事は出来ないだろう。
肝心のRシリーズも前回の戦闘で無理をした為に修理されないまま現在も凍結されている。
そして他のT-LINKシステム搭載機はRシリーズとの関係を否定されたので凍結措置はされなかったのは救いだっただろう。
イングラムによって私やクスハ達を含めた念の力も持つ者はマークされていた事が判明した。
ダンガイオーチームのミア・アリス達やひびき洸など他の念に関連した能力を持つ者達もである。
疑う者達を納得させる為に全員が検査を受け、全員シロで会った事が検査結果で判明されたので事なきを得た。
そして…
*******
「ハスミ、貴方の念の測定値なのだけど…」
「…」
「測定値を超えた念を検出したわ。」
「やはりですか。」
私だけメディカルルームの検査室でラーダさんから検査を受けていた。
前回の戦闘で私から膨大な念の波動を感知した為である。
あの戦闘の後、リュウセイ達の拘束のドサクサでペンダントを没収されてしまったのだ。
未だ返却すらして貰っていない。
「話して貰えるかしら?」
「…」
「勿論、話せない理由があるなら私からは何も聞かないわ。」
「ラーダさん。」
「貴方にも話せない理由があったのでしょう?」
貴方にもと言う言葉に私はラーダさんの過去を思い出した。
彼女もまたその能力によって被検体として扱われていた時期があった事を。
そしてその後の悲しい別れも。
「私は…絶対に話してはいけないと死んだ母の言葉を守っていました。」
「ハスミのお母様の?」
「はい、母はずっと死ぬ間際まで私の事を守ろうとしました。」
「…」
「そして…」
私は『信頼に至る人物が現れるまで何があろうともその力の事は口外してはならない。』と答えた。
「その信頼に至る人物と言うのは?」
「今だ、見つかっていません。」
「そう。」
私が口外するに至る人物に貴方達は出会っていない。
だからこそ貴方達にとっては見つかっていないが正解にあたる。
あの人の正体をまだ語る訳には行かない。
名前だけで気付く人物もこの部隊には存在しているから。
本当に屁理屈と言葉の理、言葉遊びは便利である。
言い方を変えればその意味は千差万別と様々な意味に置き換わる。
私は仲間すら欺いている。
だけど、その仲間すら危険に晒す訳には行かない。
例え、裏切る形になったとしても私はやり遂げなければならない。
そうでしょう、ケイロン。
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それから数時間後、イングラム少佐の裏切り、私の念、そしてスペースナイツの参戦についての説明が行われた。
イングラム少佐の裏切りはαとOG基準で誰もが疑心暗鬼になっていた。
元々、感情をさらけ出す様な人ではなかったのでその印象は人それぞれだろう。
元々史実では出会う事の無かった人達の印象は何処か複雑だった。
なお、私の念については所持していたペンダントが念を抑える特殊な作用を持っていたのではなく、死亡した母親からの遺言が強力な暗示となって念の力を押さえ付けていたと言う話をラーダさんが説明した事で終わった。
私が前回の戦闘でその暗示を断ち切った事で発動した。
その為、今まで低の低として見られていた念の素養は一気に跳ね上がったとだけ説明された。
ちなみに返却されたペンダントは私以外が使用する事は出来ないので、ただの装飾品と思って貰えた。
とりあえず、窮地に立たされる事だけは避けられた。
そして問題のスペースナイツであるが…
外宇宙開発機構の創設者であるハインリッヒ・フォン・フリーマン氏より大まかな説明された。
数か月前に外宇宙調査に旅立ったアルゴス号とシグナライト号の二隻がある宙域で行方が途絶えた。
その二隻の内の一つであるアルゴス号が謎の宇宙船と接触し調査に当たった。
しかし、そこに居たのは寄生生物ラダムと呼ばれる外宇宙生命体だった。
彼らは何も知らずに乗艦してしまったアルゴス号の乗組員を襲い、瞬く間に制圧してしまったとの事。
僚艦であるシグナライト号だけは逃がしたもののシグナライト号は敵の攻撃で航行不能なったばかりか偶然発生したブラックホールに飲み込まれてしまい、その消息は途絶えてしまったとの事だった。
そしてアルゴス号の乗組員は寄生生物ラダムによって彼らにとって都合の良い素体にする為、改造されてしまった。
だが、その急激な身体改造に耐えきれる筈もなく乗員の95%近くが死亡した。
残されたのはここに居るDボゥイ達二名と他数名だったとの事。
しかし、奇跡が起こった。
同じ様に身体改造に耐えきれず排除された乗組員の一人であり、今回の外宇宙探査の計画の立案者でもある相羽孝三博士によって二人が囚われていたブロックを破壊し逃がしたそうだ。
偶々、二人だけは別ブロックで洗脳されないまま身体改造を終えて奴らの道具にされるのを待つばかりだった。
そして二人が居たブロックは切り離しが可能だった為に博士は最後の力を振り絞って二人の居たブロックを切り離して逃がした。
博士はブロックの切り離す為に爆発に巻き込まれ消えて行った。
その爆発のせいで奴らの宇宙船は航行不能となり追撃を免れたそうだ。
二人は当てもなく宇宙を彷徨う事になった。
そしてここで問題なのが…
「二人を救助したのがあのブルーロータスの仲間だった事だ。」
彼らは宇宙を彷徨っている中でブルーロータスが所属する組織のエージェントに救出され、そこで治療を受けていた。
その組織の名は『ホルトゥス』と呼ばれ、ラテン語で庭園を意味する。
ホルトゥスの実働部隊である『庭師』達によって発見され救助されたのだ。
そして研究部隊である『園芸家』達により治療と研究が進められ、二か月前に治療を終えて地球圏へ戻る算段だった。
彼らは地球を敷いては世界を救う手助けになる事を願い、無償で二人の立て直しを支援してくれたのだ。
そして木星軌道上で彼らの部隊と別れ、地球へ向かう最中にスペースナイツ所属のブルーアース号と接触しそのまま協力する形となったとの事。
地球に帰還しなかったのは調査対象の追跡中、つまりラダムの先遣隊を追撃していた為であった。
そして二か月後の今回で冥王星に飛ばされてしまったマクロスと接触するに至ったという訳である。
そしてホルトゥスに接触した二人からある事を告げられた。
「ホルトゥスが俺達を発見できたのは彼らのメンバーに先視と呼ばれる予知能力者がいた為だと話を聞いた。」
「僕らの乗っていたブロックは推進装置や救難信号を発信する装置も故障していて、発見されたのが奇跡的…正直生きた心地がしなかったよ。」
その言葉は驚愕を与えた。
ブルーロータスの奇跡は予知による先視。
それだけであれだけの奇跡が起こせたのだ。
だが、先視だけではない。
ブルーロータスの独自の戦略と戦術、そして今だ姿を見せない彼らの戦力によるものも含まれると思う。
「だが、ブルーロータスは自身がホルトゥスの取締役ではないと語っていた。」
「そうそう、確か…上に組織を運営する元締めが居るって話していたよね?」
「その存在が先視の能力を持った人物と協力体制にあるとだけ知る事が出来た。」
「後は知る必要のない事って言われてバッサリお断りされちゃったけどね。」
二人が手に入れる事が出来た情報はここまでであり、彼らと協力体制になる存在は今だ不明のままとなった。
例の火星で地獄を見せたマジンガーの様な機体、各地で活動する機動兵器の謎もまた不明のまま…
話は終わりを告げた。
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ハガネ艦内のハスミの部屋にて。
私は長い尋問と始末書の束を片付け終え、自室で一息を入れていた。
そして蒼い睡蓮の情報を開示した所、更にややこしい事が起こっている事が判明した。
「またややこしい事に…」
折角入れたコーヒーの味が不味くなりそうな勢いである。
もうミルクココアを入れてカフェモカに味換えでもしようか。
「無事に地球圏に戻れたのはいいけど、ここまで厄介な事になっているとはね。」
「何があったの?」
「予想はしていたけど、こちらの読み違いでラダムの侵入を許してしまったのよ。」
「だが、お前の話していたオービタルリングには何の損傷も見られないが?」
同じくロサとテンペスト少佐もまたこの自室で今後の事を検討する為に集まっていた。
ここ暫くはシュバルツさんの監視が激しいのであの人の偵察任務が重なる時間に合わせて行っていたのだ。
「アイドネウス島でのゼントラーディ偵察部隊が現れた時、奴らの機体や戦艦に張り付いていたんです。」
「!?」
「何だか虫みたいです。」
「ロサ、ラダムの習性としては寄生虫の一種に変わりないんだけど…」
ロサの天然発言に一応ツッコミを入れるハスミ。
「規模はどの位なんだ?」
「数体程度ですが、既に奴らは行動を開始し…各地へラダム樹として地中に埋まってしまっています。」
「それが向こう側からの連絡か?」
「はい、ホルトゥスが奴らの同行を捜索していますが…これも無限力の差し金の為に監視に留めています。」
「手が出せないと言う訳か…」
「恐らくはラダム樹の開花は奴らのシナリオの一つとして定めされていると見ていいでしょう。」
「…」
「本題は、地球圏と火星での戦況変化です。」
私達が地球から離れて二カ月と数週間近く経った。
そしてその戦況は一変し再び複雑な分布に変異していた。
月では例のアイドネウス島での任務後、新たな敵が襲来していた。
ガルファである、奴らの襲来は半年後と予想をしていたのだが余りにも早期に飛来したのである。
そして同盟を結んでいるグランダーク一味、ギャンドラー、ガイスターズ、機械化帝国などの機械化同盟で構成されている。
その為、月の半分は奴らの侵略領域へと変貌してしまったのだ。
現在も月の駐留部隊が応戦し何とか食い止めているが時間の問題だろう。
マスドライバーを占拠したジオンとギガノスの混成部隊は早期に撤退、理由とすればギガノスの大将であるギルドールが自軍の士官に暗殺されたのだ。
その為にギガノスでの内部抗争に発展してしまったのだ。
しかも原作では月にギガノスの拠点が存在した筈なのだが、どう言う訳は無くなっているらしい。
やはり月は様々な勢力が点在している為か、現在の月が軍事拠点に向かないと思ったのだろうか?
ここからは展開が読めるのであえて何も言いません。
今の所、月面都市フォン・ブラウンやセレネシティ、そしてヒュッケバイン系統の製造を行っているマオ・インダストリー社の安否が気になる。
月の地中で籠城しているフューリーが現時点でどう動くかは不明であるが、自分達の平穏を脅かすのであれば動くだろう。
なお、同じ月面都市であるグラナダは既に機械化同盟に占拠されてしまった為にジオンも更なる戦力低下の首締め原因となっている。
何となくメガノイドらが機械化同盟と手を組むと思っていたが…
やってくれちゃいました、破嵐万丈さん。
同世代とは言え、末恐ろしい。
やっぱり最強裸族な竜の星座は伊達じゃない?
どうやったら、たった一人でメガノイドを壊滅に追い殺れるのですか?
αでも度肝を抜かされましたが、本当に完全無欠の超人と言うキャッチコピーは伊達ではない。
本当に眼玉ドコーです。
その為、火星のメガノイド勢の戦力が激減し衰退中との事だそうです。
そこで逆に戦略的陣地を拡大しつつあるのが異星人連合と木連である。
地球側のマーズクレイドルも防戦の一方であったが、火星へダイモビックと大空魔竜が援軍として向かったのである。
本来ならばあの某野菜人の様な髪型の人に邪魔をされそうであるが、ご本人は例のダカールでの一件で今も塀の向こうでお勤め中である。
蒼い睡蓮も火星に秘密裏に援軍を送ったそうなのでとりあえずは事なきを得ている。
これが今の月と火星の現状である。
地球でもザンスカールによる地球を洗浄するとかの物騒な作戦を行おうとしているので、そろそろ『正義の味方』のご登場を迎えるとしましょうかの予定だ。
ドレイク軍も地上から更なる勇士を募って戦力増強を行っている様だし。
沈黙を貫いているOZの方もそろそろご対面の予定もあるだろう。
こちらは竜宮島メンバーにも動いてもらう算段でいる。
さてと、無限力とやら…
ここまでド派手な事をしてくれたのだから、その下剋上の凄まじさを見せてあげましょう。
私とてここまでやられて黙っているつもりはないのでね。
前回のドサクサでガルインを奪い返された怨みもあるので。
「何だかハスミ…怒ってる?」
「ロサ、あれは寧ろ…怨念と言った方が正しい。」
「?」
=続=
新たなる試練と新たなる戦い。
月の女神の聖地は焦土と化す。
二対の鷹は女神を守る為に羽ばたき。
呼応する竜の騎士と宇宙の騎士。
次回、幻影のエトランゼ・第九話『月廻《ツキメグリ》』
月の元へ騎士達よ集結せよ。