幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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歪の開閉と共に帰還した睡蓮。

その手に携えた刀と力は何をもたらすのか?

睡蓮は静かに永き旅路の記録を書き記す。



第九.五話 『追憶《ツイオク》』

歪の先を超えて帰還した私達。

 

長い時間を向こう側で過ごしたが、こちらでは数時間の出来事だったとの事だ。

 

時間のズレは様々な要因を生み出すと聞かされていたが、それでも不思議な体験であった。

 

私は事の説明をする為に艦長室に呼び出され、説明をする事となった。

 

異なる別世界での出来事。

 

それは険しくも自らを高める旅であった事を告げた。

 

 

******

 

 

数時間後。

 

 

「はぁ…(口から魂が抜けそう。」

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫だけど、報告書が山積みでどうもこうも…」

 

 

只今、向こう側で起こった出来事を報告書に纏めている最中です。

 

まだ半数もある報告書を纏める為に自室のPCとにらめっこ中。

 

本当に真っ白に燃え尽きたい気分。

 

 

「ロサ、コーヒー…お代わり貰える?(セフィーロの次は九十九事件ってハードすぎやしませんかね。」

「うん、ちょっと待っててね。」

 

 

本日4杯目のコーヒー。

 

カフェインの取り過ぎ上等である。

 

前世のOL時代に比べればまだ十分の一にも満たない量である。

 

 

「まさか、向こう側で事前に作って置いた報告書のデータが帰還時に破損しているなんて誰が予想できた?」

「う~ん、判らない。」

「絶対、無限力の陰謀よ……呪ってやりたいわ。」

「ハスミ…(また黒いオーラが。」

「何が何でも地球に戻るまでに終わらせるわ。」

 

 

こんな所で足止めを食う訳には行かない。

 

私達が地球に戻る頃には『地上クリーン作戦』と『恐竜帝国による極東進撃作戦』、『ドレイク軍の最終決戦』が待ち受けている。

 

あんな事を二度とさせる訳にはいかない。

 

それを見通し、蒼い睡蓮が先行してエージェント達を派遣している。

 

ティターンズが設立されなかったし、OZもホルトゥスのエージェント達によって既に瓦解が始まっている。

 

旨く行っているといいけど…

 

アクシズは例のザビ家暗殺事件で宇宙に引きこもっている。

 

プルとプルツーはこの前のドサクサに紛れて救出したし、ゼナとミネバの母子は地球に居るから様子が不明だ。

 

残るはギガノス、ジオン、木連、Anti・DGの連合組織、ザンスカール帝国、ジュピトリアン、クロスボーン・バンガード、ゼ・バルマリィ帝国の先遣部隊に異星人連合。

 

この頃になると先遣部隊は支配下に置いている異星人連合とジュピトリアン達の監視を強めて内部分裂の要因を引き起こし始めている。

 

何とかして瓦解に持ち込めないだろうかと考えている。

 

地上は恐竜帝国、Dr.ヘル、妖魔帝国、ドレイク率いるバイストン・ウェル軍か。

 

ラダムは偵察部隊を壊滅させたし、STMC共は雷王星を壊滅に追いやったので奴らの侵攻は停滞している。

 

機械化城は壊滅し、グランダーク城も崩壊、他の同盟組織も瓦解し再起までに時間が掛かるだろう。

 

既にメガノイド達も万丈さんによってフルボッコ状態、

 

第13使徒と第18使徒の件はシンジ君に任せるとして…

 

これだけシナリオが変異した世界でBF団とバラルがどう動くかが問題。

 

不安要素はまだまだあるけど、今の戦力でやれるのはここまでだ。

 

足並みは揃いつつあるけど肝心の力が足りない。

 

未来世界直行までは何とか防げたけど、インスペクター事件や修羅の乱、封印戦争も控えているのにこのまま行けるのだろうか。

 

考えてもしょうがない、今は目処前の仕事を片付けないと。

 

まだアレを動かすには早すぎる。

 

過ぎた力は災いを呼ぶ。

 

自分自身でよく解っている事じゃないか。

 

だからこそ出来る限りの生存&救出フラグは立てて見せるわ。

 

 

******

 

 

更に半日後。

 

ラーカイラムの一室にて。

 

前回の戦闘で無理をし過ぎた為、アーガマは月のドッグ入りとなった。

 

その為、月面基地でラーカイラムに乗り換える事となり今に至る。

 

 

「…」

 

 

ハスミが提出した報告書のコピーを閲覧する記憶保持者達。

 

現在は戦艦を直結させて行き来可能な状況になっている為、他の艦に乗艦しているメンバーもここへ来ていた。

 

 

「セフィーロは聞かない名だが、九十九事件はアクセルからの情報だったな。」

「ああ、指定閉鎖区域渋谷から始まった揺らぎの始まりだ。」

「それに関する詳しい経緯を彼女達のおかげで手に入れる事が出来た上に我々も新たな情報を手に入れる事が出来た。」

「惑星セフィーロの存在する宇宙にペンタゴナ・ワールド、ドキドキスペース、惑星ガイア、惑星アースト、惑星Zi、アースティアが存在する、か…」

「通りで俺達が知る世界と接点が見つからなかった訳だ。」

「一瞬、バルドナドライブで惑星エリアに吹っ飛ばされたと思ったけどよ。」

「前回の事もある、もしもと言う事も視野に入れた方が良いだろう。」

「しかし、どれだけ事件が起こっているんだ…この世界は?」

「解っていても頭が追いつかないと言うか…」

「胃が…」

 

 

キョウスケの言葉を皮切りにアクセルは九十九事件の始まりを語り。

 

クワトロとアムロはハスミの報告書によって行方が不明だった世界の情報を知る事が出来た。

 

マサキが次元転移の状況をかつてのアナザーセンチュリーズエピソードと呼ばれる惑星エリアでの出来事を思い出した。

 

しかし、度重なる状況変化にコウ達は思考が追いつかずにいたのである。

 

なお、ガトーは最近胃薬がお友達と化してしまっている。

 

 

「しかし、こんな短期間であれだけの報告書をよく纏め上げられたものだな。」

「仕事を必ずやり遂げるのが彼女の良い所じゃないか?」

「そもそもハスミは苦労している様に思えますが、慣れていると言った方が正しいです。」

「どういう事だ?」

「これも隠している様子ですが…彼女、小説家です。」

 

 

「「「「「は?」」」」」

 

 

「以前、月面都市で衛星通信越しに小説の原稿やら印税やらと隠れて騒いでいましたから。」

「印税まで付くとなるとかなりの売れっ子の様だね?」

「ペンネームは白野睡蓮、最近話題になっている作家と雑誌に取り上げられてます。」

「白野睡蓮って…ニナが読んでいた恋愛小説の作家じゃないか。」

「そう言えばアキも新刊が出ないと話していた。」

「白兵戦も出来て、ハッキングから爆薬処理、おまけに事務処理に長ける人間ってどうなんだろう?」

「まあ、優秀と言う事で良いんじゃないか?」

「そう言うものかな?」

 

 

本日のキョウスケの爆発発言を皮切りにD兄弟はツッコミを入れたい気分の様だ。

 

 

「話を戻すが、今後の我々は地球に降下し地上で進撃中の地下組織、バイストン・ウェル軍、ザンスカールの動きを止めなければならない。」

「ザンスカールは欧州を中心に地上クリーン作戦を開始する頃合いの筈だった。」

「ああ、恐竜帝国もこの期に極東制圧を進め、バイストン・ウェル軍も最終決戦を行う予定だ。」

「火星での状況だが、向こうでも厄介な事が起こったらしい。」

 

 

クワトロとアムロの説明で更なる情報が展開された。

 

 

「厄介な事?」

「ゼ・バルマリィ帝国からの逃亡者と避難民達を確保したらしい、SPTと言えば判るか?」

「SPT…エイジ達か!」

「ああ、そしてエイジ君にも記憶があったそうだ。」

「話によると彼の姉と義兄と共にゼ・バルマリィ帝国の後続部隊から脱出し火星に降り立ったとの事だ。」

「それだけじゃないだろう?」

「ああ、火星の研究施設跡地でラウル達を発見したそうだ。」

「木連の部隊に囚われていたそうだが、隙を見て脱出したらしい。」

「ラウル達が…」

「記憶に関してはラウル君だけで他はないそうだ。」

「向こう側の事は何か言っていたか?」

「話に寄ると向こう側の地球圏はアインストによって掌握され滅んだそうだ。」

「そうか。」

 

 

ゼ・バルマリィ帝国の隷星となってしまった惑星グラドスからの逃亡者。

 

そして、かつて不完全と戦ったラウル一行の消息が判明した。

 

事情や名前を知る者達は安堵の声と感想を告げた。

 

だが、アクセルの居た向こう側の世界の崩壊も告げられたのだ。

 

複雑な想いもあっただろうが、なるべくしてなった世界に未練はないそうだ。

 

 

「キョウスケ、リュウセイ達の今後は変わらずか?」

「ええ、SRXチームは謹慎が取れても伊豆基地で待機の予定だとギリアム少佐から連絡がありました。」

「問題はその伊豆基地にレビやイングラムの奴らがちょっかいを掛けて来るって事だ。」

「確か例の記憶の…?」

「それだけじゃねえ、ハスミの前の義親父さんも引き連れてな…奴ら胸糞悪い事をしやがるぜ。」

「恐らくはイングラム…いや、ユーゼスの思惑が絡んでいる筈だ。」

「キョウスケ少尉、結局の所…彼女の真意は掴めていないがどう思う。」

「何とも言えませんが、我々の敵ではない事は確かでしょう。」

「敵ではないと?」

「彼女から悪意は感じられないとリュウセイから聞きましたから。」

「真意が判らない以上、今後も彼女の行動は監視を視野に入れ続けるしかないだろう。」

「ええ、それが妥当と思います。」

 

 

そして語られる先の記憶。

 

 

「最後にだが、クスハ達が梁山泊で手に入れる力が今後の我々の先を示す事になる。」

「白き魔星か異空間か…どちらにしても手を抜けない戦いになるだろう。」

「我々は進まなければならない。」

 

 

そう『テンシ』との戦いが待ち受けているのだから…

 

 

=続=




英雄、柱、勇者、魔法騎士。

たった一人の犠牲によって成り立つ世界群。

そんな幻想世界で起こった出来事。

次回、幻影のエトランゼ第十話『少女《マジックナイト》』

睡蓮よ、喜びと悲しみの思い出と共に覚醒せよ。

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