幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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深き山脈の奥深くに佇む秘境。

過去の記憶を携えた者達の限界が知らされる。

強すぎる力は時として制御不能の領域へと至る。

また、満を期して新たな災厄もまた現れた。

そして睡蓮は選択を迫られる。


第十一話 『竜虎《リュウコ》後編』

本来であれば国際警察機構の北京支部で行われた筈の出来事。

 

変異とは新たな可能性と予測不可能な出来事を引き起こす。

 

偶然でもなければ必然であるかの様に。

 

今回の私達はノードゥスの部隊を離れて梁山泊へと到着。

 

早速、こちらで秘密裏に整備されていたヒュッケバインmk-Ⅲとグルンガスト参式を受け取る準備に入った。

 

私達がこちらへ出向く前に国際警察機構でも例の事件に関して一通りの真相を話していた頃だと思う。

 

このシナリオを察している方は解るとおりますが、シュウ博士が来てます。

 

まあ、今回は決められたシナリオなので流れのままに進む事しか出来ない。

 

そう…変える事は出来ないのだ。

 

 

*******

 

今回のメンバーはATXチーム、アクセルさん、マサキ、ドモンさんらGガンチーム、スペースナイツ、大作君ら国際警察機構である。

 

なお、例の件でエルザム少佐、ギリアム少佐が同行している。

 

大作君達は経過報告の為に国際警察機構本部の司令部へ、クスハ達はLTR機関のエリ博士と話があると言うので別行動になった。

 

マサキはシュウ博士の姿を見つけるや否やそのまま姿を消した。

 

彼らにも色々と事情でもあるのだろう。

 

同じ様にドモンさん達は保護されている御両親と再会、私とロサも御挨拶に出向いた。

 

DG事件の一件でギクシャクが取れていなかったが、ロサ自身は受け入れられる様になっていた。

 

そして今回呼ばれた要件の為に私とロサはエルザム少佐達と共に別の部屋に案内された。

 

ジェガン破壊で有名な極東支部襲撃事件のドサクサで会う事も無かった為、今回が初対面となる。

 

案内されたのは一見何の変哲もない個室で取引先に使われる様な感じの部屋だった。

 

 

「急な申し出で済まなかったね。」

「いえ、それよりも彼女を呼んだ理由の説明を願えますか…中条長官?」

 

 

それぞれ軽い挨拶の後、九大天王の一人静かなる中条こと中条長官と呉先生こと呉学人が話を始めた。

 

 

「君がハスミ・クジョウ君だね?」

「はい、ハスミ・クジョウ准尉です。」

「蓮華君によく似ておられる…」

「母をご存じで?」

「元々彼女は我々国際警察機構のエキスパートで九大天王候補にと推薦される位だったのだよ。」

「えっ?(初耳なんですけどー」

「驚くのは無理もない、彼女は君の前ではそのお転婆ぶりを見せていなかった様だからね。」

「あの…覚えている限りでは母は儚げでおしとやかな感じでしたが?」

 

 

「「…」」

 

 

あの、長官、呉先生…

 

ちょっと顔が青いですけど?

 

うちの母が過去に何かしましたか?

 

しちゃった系ですかね?

 

 

「あの…?」

「あ、いや…すまなかったね。」

「つかぬ事をお聞きしますが、私の母が過去に何か?」

「まあ、色々とあったね。」

 

 

呉先生、視点が遠い所に行ってますけど?

 

 

「それはさておき今回君達を呼んだ件なのだが……話せば長くなるのだがね。」

 

 

中条長官は後に『約定事件』と呼ばれる事件の話を始めた。

 

今から数十年前のある日、私の母『蓮華』は中条長官に辞表を叩き付けて失踪。

 

他エージェントを送り、その消息を掴もうとしたが全て的外れとなったらしい。

 

そして、その数日後にBF団の開戦布告によって『約定事件』が開始された。

 

双方が拮抗する戦いが始まり、しばらく経った頃…

 

行方不明だった蓮華がその姿を現した。

 

母は双方の戦いに介入し『約定』と呼ばれる能力を発動。

 

その結果、国際警察機構とBF団の能力者達はその能力を封印されてしまった。

 

封印されたのは特殊能力のみであり、通常の格闘戦ならば行使する事は可能。

 

何故、蓮華が能力を封印し失踪したのか不明のまま今日に至った。

 

その謎は私の祖父『漣』から託された手記に記載されているが、遺言が残されていたので今まで開封する事が出来なかったとの事だ。

 

 

「開封が出来ないとは?」

「漣氏の遺言では『次期当主である君が16歳を過ぎた頃、戦いの場に居るのならば…君をこの日に呼ぶ事。』と聞かされていたのでね。」

「御爺様がそんな事をですか?」

「呉先生、例の手記を…」

「はい、こちらに。」

 

 

呉先生がアタッシュケースから取り出したのは何の変哲もない手帳、何かの鍵が施されており開封出来ない様だ。

 

 

「これがその手記だ。」

「鍵の様な物が掛かっている様ですが?」

「その通りだ、漣氏との約束もあったのでね…手付かずのままにしてある。」

 

 

あれ?この形は…

 

 

「もしかして?」

 

 

私は形見のペンダントを取り出し、手記の鍵穴に合わせた。

 

形は合っている、恐らくは嵌め込み式の鍵の様だ。

 

 

「鍵が開いた。」

「成程、君の持つペンダントが手記を開く為の鍵だったのか。」

「鍵かどうかは解りませんでしたが…」

 

 

鍵の部分が外れた手帳を改めて確認する事となった。

 

中に記録されていたのは約定事件の真実だったのだが、詳しい事は何も書かれておらず簡易的な言葉しか記載されていなかった。

 

 

『封印の時、終焉の時を抗った先の未来。』

 

『四封の機械仕掛けの神々が集う時、傲慢な御使い、大いなる破滅に抗う時である。』

 

『十二の宝玉が現れ、破界と再世、時獄と天獄が始まる。』

 

『約定を断ち切り、人としての抗いを求めるのなら御伽の声を聴け。』

 

 

物凄く拙い事が掛かれています。

 

予測通り封印戦争、銀河大戦、Z事変の到来の前触れです。

 

ガンエデンは察し、ついでにエゴイスト四人衆と完璧親父の事も記載されてますとも。

 

内心冷や汗ダラダラモノですよ。

 

 

「約定を断ち切るなら御伽の声を聴け?」

「恐らくは詩篇刀・御伽の事だろう、だが…」

「例の約定事件で失われていますからね。」

 

 

例のレポートを閲覧していない中条長官達は詩篇刀が失われたままの認識しかない。

 

ギリアム少佐が朗報がてら説明を入れてくれた。

 

 

「…その事なのですが。」

「どうしたのかね?」

「詩篇刀・御伽は現在クジョウ准尉が所持しています。」

 

 

そんなチベットスナギツネの様な眼差しを送らないでください。

 

こちらもこんな事になるなんて知ってはいましたが、ここまでとは思いませんでしたから。

 

本当にごめんなさい。

 

 

「ハスミ准尉、出して貰えるか?」

「はい。」

 

 

私は忍ばせて置いた手甲を右手に装着し詩篇刀を呼び出した。

 

以前よりも形状が少し変わってしまったが、面影が残っていたので詩篇刀である事は判って貰えた。

 

 

「長官。」

「ハスミ君、実は君に…」

 

 

呉先生と長官が何かを言いかけた時、室内にアラート音が響き渡る。

 

 

「何事だ!?」

『長官、この梁山泊に侵入者が!?』

 

 

監視施設からの通信が入ったが、爆発か何かに巻き込まれて通信が途絶してしまう。

 

 

「ハスミ准尉、何か分かるか?」

「確認中です。」

 

 

ギリアム少佐の発言で私は念を通して梁山泊を視る。

 

 

「梁山泊の格納庫にスーツを着た人……指を弾いただけで人が切れた!?」

「恐らくそれは十傑集の一人、素晴らしきヒッツカラルドだろう。」

「他には?」

「赤い仮面でスーツ姿の忍者が貯水施設に独特の和服を着た隻眼の男性が梁山泊の搬入口に居ます。」

「マスク・ザ・レッドに直系の怒鬼。」

「十傑集が三人も…!」

「っ…待ってください!」

「眼帯を付けた人と…あの人はセルバンテスさん!?」

「衝撃のアルベルトに眩惑のセルバンデス…十傑集の半分がここに集まったと言う事か!?」

「長官、他の九大天王の方々にも…!」

 

 

呉先生の掛け声の後に続く爆発音、今度は外部からの様である。

 

 

「また爆発!?」

「あれは!?」

 

 

この気配はアインスト!?

 

しかもエンドレスフロンティア版じゃない。

 

ここに超機人が現れるからかもしれないけど…

 

でも、どういう事?

 

原作ではBF団とあしゅら男爵がここへ攻めて来る筈。

 

キョウスケ少尉達が居る事でシナリオに変化が起きたのか?

 

確かにOGの超機人絡みのシナリオではアインストが現れたけど…

 

これは流石に展開が早すぎる。

 

また無限力のお遊びか…

 

相変わらず性根が曲がり過ぎている。

 

何とかしたいけど、今回はアカシックレコードから介入禁止って釘打たれてるし。

 

キョウスケ少尉達、申し訳ないです。

 

今回はそちら様だけで何とかしてください。

 

 

******

 

 

梁山泊内部にBF団、外部周辺にアインストと言う『前門の虎後門の狼』状態な今回の

敵の布陣。

 

格納庫に近かったメンバーは梁山泊在住のエキスパート達の援護で出撃しアインストに対応。

 

しかし、クスハとブリッドの機体は念対応のアップデートが済んでいないので無理は出来ない。

 

現れたBF団への対応については…

 

貯水施設にシュバルツさん、搬入口にドモンさんと言う布陣である。

 

なお、衝撃のアルベルトと眩惑のセルバンデスは九大天王の方々が追っている。

 

避難道中でエキスパートの一人、不死身の村雨健二こと村雨健二と大作君らと合流したが…

 

必然的に指パッチンこと素晴らしきヒッツカラルドに鉢合せと成りました。

 

もうムンクの『叫び』をやりたい位に心境はパニくってます。

 

 

「長官。」

「村雨君、いつ戻って来た。」

「つい先程です、それよりもBF団の狙いは…」

「我々の目的が『草間大作』とでも言うつもりかな?」

「っ!?」

 

 

指をスナップさせる音で私達が居るフロアの障壁を斬り裂くヒッツカラルド。

 

 

「初めましてかな、私の名は素晴らしきヒッツカラルド。」

「やはり、十傑集か。」

「今回は確実な任務達成の為にゲストを追加させて貰っている。」

「…(その為に十傑集の半数も集結させるとは無限力も汚いね。」

「我々の目的はただ一つ、そこに居るハスミ・クジョウをこちらに引き渡して貰いたい。」

 

 

「えっ!?」

 

 

「どうしてハスミさん何ですか!」

「判らないのかい?彼女も強力な念者、そして次代のアシュラヤーに選ばれた存在だ。」

「アシュラヤーって!?」

「さてね、我々も詳しくは聞かされていないが…我らがビッグファイアの命令である以上、こちらに引き渡して貰いたい。」

「そんな一方的に!」

「勿論、ある程度の条件はこちらも呑もう。」

「条件?」

「例えば、彼女をこのまま引き渡して貰えれば…何もせずに我々は引き下がる所存だが?」

「…(典型的な天秤掛けか、中条長官はこの条件をどう判断するか?」

 

 

ヒッツカラルドが提示した条件は私がBF団に来れば梁山泊に居る全員の命を保証すると言うものだ。

 

断れば問答無用で血が流れる。

 

問題は管轄の違う私と言う一人の兵士をこのまま連中に引き渡せば、国際警察機構の管理体制に異議を唱えて一部のタカ派の連邦軍から横槍が行われるだろう。

 

余りにも計算尽くした条件だ。

 

そのドサクサで何かの行動を起こすつもりだろう。

 

今回は介入禁止にされている以上、下手な芝居は出来ない。

 

想定していたとは言え、接触するにも早いと思ったのだが…

 

余程、想定外の事がBF団でも起こっているのだろうか?

 

さて、どうする?

 

外はアインストの襲撃の最中、無事にクスハ達が竜虎王と接触出来ても残りの十傑集を彼らが相手に出来るか不明だ。

 

常に理不尽な選択を強いられるのは解っていた。

 

今回も読み違えれば多大な被害が出る。

 

失敗は許されない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

その頃、外部では。

 

 

「んぅもう!何なのよあいつらは!!」

「エクセレン!梁山泊には一歩も近づけさせるな!!」

「解ってるわよ、ハスミちゃん達がまだ中に残っている訳だしね!」

「…(レジセイア側のアインストが現れるとは想定していたとは言え、行動が早すぎる。」

 

 

現在梁山泊へ侵攻しているアインストの種類は動物の骨の様なクノッヘン、植物型のグリート、鎧型のゲミュートである。

 

以前の戦闘力程度の為、偵察が目的だろう。

 

だが、油断できないのは確かである。

 

下手をすればアインスト化を促す霧の様な物質を散布する可能性がある為だ。

 

その為、防衛ラインを決めて防戦一方の戦法になってしまっている。

 

梁山泊内部ではBF団の十傑集が侵入している為に避難が完了せずにいる為にいつになっても深入りが出来ないのだ。

 

内部で十傑集を相手にしているドモン達でさえ苦戦を強いられる相手である。

 

無理強いは出来ない。

 

 

「っ!?」

「クスハ、どうしたんだ!」

「弐式のT-LINKシステムが動かない!?」

「ちょっとどう言う事よ!?」

「クスハ、梁山泊へ下がれ!」

「りょ、了解です!」

 

 

その時だった、ゲミュートの一体が交代するグルンガスト弐式に張り付いたのである。

 

 

「クスハっ!?」

「あっ!」

 

 

引きはがそうとブリッドのヒュッケバインmk-Ⅱが応戦に入るが逆にこちらもT-LINKシステムに異常をきたし動けなくなってしまう。

 

 

「ブリッド君!」

「mk-ⅡのT-LINKシステムも限界が!」

 

 

二人に待つのは死。

 

その時だった…

 

二人に語り掛ける謎の声が響いた。

 

中国の武将の姿をした二人の人影が二人に声をかけたのだ。

 

 

要約すると『この世界を守る覚悟があるのか?』と。

 

二人は答えた。

 

真っ直ぐな想いを告げた。

 

青の竜と白の虎はその声を聴き届けて覚醒した。

 

 

 

「竜虎王、顕現っ!」

 

 

 

グルンガスト弐式とヒュッケバインmk-Ⅱを核に竜王機と虎王機が融合したのだ。

 

そして四神クラスの超機人が合体する事で顕現する。

 

破邪を祓う力が今この時をもって生まれた。

 

 

「龍王破山剣!逆鱗断っ!!」

 

 

古き破邪を竜の逆鱗が切り裂く。

 

真っ二つにされたゲミュートは事切れる様に塵と化した。

 

残存していたアインスト達もその破竹の勢いで壊滅し、この場の驚異は去った。

 

 

† † † † † †

 

 

アインスト壊滅を遠目で確認するハスミとロサ。

 

 

「さて、ハスミ君行こうかね?」

「…約束は守ってください。」

「それは君次第だ。」

「ハスミ。」

「ロサ、大丈夫よ。」

 

 

私が選んだ選択。

 

それはBF団の提案を受け入れる事。

 

あの時点で受け入れなければ、梁山泊内部に行われる攻撃で各エリアが連鎖崩壊を起こし…

 

避難中の人々が圧死していたのである。

 

その中にドモンさんの家族が含まれていたのもある。

 

それを避ける為とは言え、私のやり方は裏切りに近いのかもしれない。

 

誰からも分かって貰えない事は重々承知している。

 

この選択が間違っているかも判らない。

 

それでも出来る限りの可能性があるのならやるしかない。

 

 

* * * * * *

 

 

一行は梁山泊におけるアインストとの勝利を収めたが、ハスミ・クジョウとロサ・ニュムパがBF団に拉致されてしまった。

 

それは限りなく灰色に近い勝利でもあった。

 

 

=続=




これは必然。

孤島の鳥籠で睡蓮は仲間の無事を願う。

だが、巨大な炎と対話の時が迫る。

次回、幻影のエトランゼ・第十一.五話『捕人《トラワレビト》』

迫る選択肢はいつも理不尽が付きまとう。

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