幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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先を知るからこそ出来る事。

これ以上は好きにさせない。

白き魔星…

これがお前達の墓標だ。


第一二話 『白星《ホワイトスター》後編』

無事アタッドことジェニファーとガルインことカーウァイを救出した旧戦技教導隊の一行。

 

ヒリュウ改にて彼らの引き取りと機体の補給を済ませた後、先行したノードゥスの部隊と合流した。

 

現在、第二次敵防衛ラインを突破し最終ラインへの戦闘を行っていた。

 

そう、ホワイトスターへの直接攻撃開始の合図である。

 

 

******

 

 

『ハスミちゃん、無事にパパを助けられたのね。』

「はい、ご迷惑をおかけしました。」

『いや、何事もなくて良かったな。』

「正気に戻っても相変わらずでした……そちらの戦況はどうなっていますか?」

『SRXチームのサポートする部隊と周囲の敵を引き付ける部隊に別れている所だ。』

「転移による敵の強襲などは無かったのですか?」

『それはマサキとリューネ、ダンガイオーチームやナデシコのメンバーが防いでくれた。』

「それでは展開しているグレートアーク級艦隊の壊滅は無かったと言う訳ですか?」

『その理由はこれを見れば判る。』

 

 

ATXチームと合流した私はホワイトスターへ突入するまでの経緯をキョウスケ中尉から聞く事となった。

 

本来ならばホワイトスターからの転移戦法で味方艦隊の被害は甚大だった。

 

だが、転生者達の機転と思わぬ援軍によってそれらは阻まれたのである。

 

 

「赤いヴァルシオン?」

『パイロットの名前を聞いたら驚くわよ、何とビアン博士が乗ってるのよ!』

「まさか、ビアン・ゾルダーク博士が…!」

『ああ、博士達もブルーロータスの進言を聞き付け…戦場に出向いたそうだ。』

『ホント、あの人達のおかげね。』

「…」

 

 

浸透する蒼い睡蓮の奇跡。

 

先視の力と卓越した戦術、そしてその戦力。

 

場合によっては危険視の言葉も入ってくるが、今回はそれを煽る一派が一掃されたのでそれはなくなっている。

 

先を視る事で危機と成り得る事象を防いできた。

 

だが、彼らが表舞台に出る事はない。

 

今はその時ではないから…

 

 

「キョウスケ中尉、ATXチームはどちらの部隊へ入る事になりますか?」

『俺達はSRXチームのサポートに入る。』

「…やはり、伊豆基地での一件ですか?」

『ハスミちゃんだって一矢報いたいでしょ?』

「ええ、お義父さんをあんな目に遭わせたのですから…出来る事なら。」

『だが、無理は禁物だ…俺達がチームである事を忘れるな。』

「了解です。」

 

 

幕引きまでは程遠い。

 

残るは漆黒の堕天使、黒き地獄、紫の審判者。

 

負ける訳には行かない。

 

この先の災厄戦はそれほどまでに過酷な戦いであるから。

 

 

「…」

『ハスミ。』

「キョウスケ中尉。」

『これは秘匿通信だ、俺はお前とだけで話をしたい。』

「…話ですか?」

『そろそろお前の本性を見せて貰いたい。』

「本性?」

『俺の考えが正しければ、お前は転生者だろう?』

「…何故ですか?」

『お前はさっきの話で艦隊について聞いたな?』

「それが何か?」

『お前はグレートアーク級艦隊が転移奇襲を受け、壊滅する事を知っていたのだろう?』

「…」

『先程、お前は壊滅は無かったと言った。』

「はい。」

『そこで本音が出た。』

「?」

『お前はどうやってグレートアーク級艦隊がこの戦場で壊滅する事を知った?念視や先視だけでは全体を把握出来ないだろう?』

「…(あ。」

『…お前はこうなる事を事前に知っていたと言う事だ。』

「…」

『グレートアーク級の壊滅が無かった事でお前は何処か安心していた。』

「それだけですか?」

『お前は何かしらの方法で艦隊が必ず無事である事を知った、それにこの戦場でグレートアーク級艦隊が壊滅をする事を知るのは転生の記憶を持つ者だけだ。』

「…(失言だ。」

 

 

ああ、こう言う性格で少ない情報で真実に辿り着く人だって事を忘れていました。

 

私も爪が甘い。

 

一番厄介な人物に情報を与えてしまったか…

 

けれども、言うべきか?

 

話せば災厄の脅威に晒される。

 

災厄はずっと私を監視し続けている。

 

なのに…

 

また私の一言で誰かを巻き込もうとしている。

 

 

『ハスミ、お前は俺達の敵なのか?』

「違います!」

 

 

私は貴方達の敵じゃない。

 

そう言いたい。

 

だけど…

 

だけど!

 

 

『…』

「ある話です『少女が魔王となった切っ掛け』は何だったのでしょうか?」

『それは?』

「その小説を探してください、それが答えに繋がります。」

『ハスミ…』

「そろそろ時間です、配置に戻ります。」

 

 

私は通信を切ると泣いてしまった。

 

本当の事を伝えたい。

 

だけど、伝える事が出来ない。

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

 

******

 

 

あの話は私の前の世界での生涯とその後の願いを御伽噺風に綴ったものだ。

 

あの話の教訓は嘘は付けない、いずれ暴かれると言うものである。

 

そして掟は必ず守らなければ罰が待ち受ける。

 

例えに利用するには十分な題材である。

 

 

「…(考えるのは止めよう、もうホワイトスターに着く。」

 

 

今度はリュウセイ達の手助けをしなければならない。

 

次も助けるとそう決めた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

周辺の敵は赤いヴァルシオン率いる強力な援軍によって一掃され、ノードゥスは半分に別れる必要はなくなった。

 

ホワイトスターの障壁を破る為にノードゥスの艦隊が集結。

 

トリはSRXチームのSRXとR-GUNパワード。

 

そして障壁を破壊する為にジガンスクードとクロガネ、ハガネ、ヒリュウ改が配置に着いた。

 

だが…

 

動揺していた私はイングラムの罠により結界に取り込まれる史実に気が付く事が出来ずに…

 

失態をまた犯してしまった。

 

そしてタスクが障壁を破壊する為に無理をし過ぎて戦線を離脱する結果を作った。

 

レオナには嫌な思いをさせてしまった。

 

ごめんなさい。

 

私達は迎え撃つ雑魚と隔壁を破壊しつつホワイトスターの最深部に突入した。

 

そこにあったのは…

 

 

「空に草原?」

 

 

地球の環境に酷似した場所。

 

けれども、私はこの光景を知っている。

 

モノクロのページとカラフルな液晶画面の中でだけど。

 

ここは奴らが地球人を繋ぐ牢獄だから…

 

 

「ようこそ、地球人種よ。」

 

 

銀色の髪に独特の赤いタトゥーを付けた男性が鎮座していた。

 

ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ。

 

ゴッツォ家によって創り出されたハイブリットヒューマンの一体。

 

彼自身はその事実を知らないだろう。

 

彼もまた人形だから…

 

 

「我が名はラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ、この自動要塞ネビーイームを統べる者。」

 

 

やはり、レビの代わりがラオデキヤ。

 

そして裏で操っているのはユーゼス。

 

だけど、その姿は無い。

 

当の本人は高みの見物だろうか?

 

 

「…(奴がリュウセイの話していたゴッツォの創り出した人形か。」

「…(何度か問いかけをしているがこいつから答えが聞ける状態じゃない、これがな。」

 

 

他のメンバーが問いかけを行うが、聞けるのはレビの…OGと同じ事だけだった。

 

答える必要はないと…

 

元々答えるべき真実を知らない以上、これ以上の詮索は出来ない。

 

本当に厄介だわ。

 

 

「貴様達に許されるのは我らの元に仕える事のみ、答えよ…我らの軍門に下るのか?」

「断る!」

 

 

ラオデキヤの問いに答えるキョウスケ。

 

それは拒絶。

 

 

「俺達は貴様らの手鼻を挫く為にここまで来た。」

「俺達は屈しない。」

「貴様達は踏み入れてはならぬ地へ訪れたのだ。」

 

 

 

アクセルが、アムロが、クワトロが。

 

 

「人を人形の様に扱うお前達の好きにさせてたまるか!」

「我々はどんな事があろうとも抗う覚悟は出来ている!」

「俺達にもやるべき事が残されている!」

「ここで立ち止まる訳には行かないんでね。」

 

 

コウが、ガトーが、D兄弟が。

 

 

「僕達は貴方に立ち向かう。」

「そうだ、これ以上の好きにはさせない!」

「目標が目処前に現れてくれたんでね、やらせて貰うぜ!」

「地球だけじゃない、他の星々を解放する為に!」

 

 

シンジが、アキトが、ジョウが、エイジが。

 

 

「ラオデキヤ・ジュデッカ・ゴッツォ…ここが貴様達エアロゲイターの墓標だ!」

「地球へ攻め込んだその罪、償って貰おう!」

「倍返しの時だぜ!」

「犠牲者を出させる訳には行かない!」

 

 

ドモンが、シュバルツが、マサキ、ラウルが。

 

侵略者への反攻の意思を伝える。

 

 

「この期に及んでも…まだ自らを篩にかけるか?」

 

 

ラオデキヤは座席から立ち上がるとそのマントを翻した。

 

 

「よかろう、この時を持って我らの審判をその身に受けるがよい。」

 

 

空間内の隔壁が開閉し現れた機動兵器。

 

その名はズフィルード。

 

人の形を象ったネビーイームを守護する門番。

 

 

「…(真の審判はまだ始まっていない、貴方はその前座に過ぎない。」

 

 

それぞれが倒すべき相手に銃口を向けた。

 

 

******

 

 

「くっ!」

「イングラムっ!!」

「…(SRXの機動性能ではリヴァーレに追いつける筈が…!」

「俺はアンタのツラに一発ぶち込む……そしてアヤ達の前で土下座させてやる!!」

「やれるものな…がぁ!?」

「やれるものじゃない、やってやるんだよ!!」

 

 

ホワイトスター内部でズフィルードと共に現れたR-GUNリヴァーレと交戦するSRX。

 

機動性ではリヴァーレの方に利があるが、リュウセイはそれを見通してザインナックルをリヴァーレに叩き込んだ。

 

転生の記憶を持ったリュウセイの念はイングラムが想定していた以上に成長を遂げていた。

 

それは数々の修羅場を潜り抜けて来た彼らだからこそ成し得る事だった。

 

 

「レビ、ヴィレッタ、やはり裏切ったか…」

「私の名はマイ・コバヤシだ…ユーゼス!」

「貴方には随分と苦渋を舐めさせられ続けられたわ…」

「ふん、レビよ…それが偽りの名であってもか?」

「それでも私はアヤの妹、マイ・コバヤシだ!!」

「マイも私も前に進む、お前達を倒す事で!」

 

 

ユーゼスのジュデッカにR-GUNパワードとビルドシュバインを中心に攻撃を仕掛けていた。

 

そして私もまた、奴と交戦を開始した。

 

 

「地球人如きが…!?」

「どうだろうか、その見解は?」

「何だと?」

「貴方の様な人形遣いに話す事は無い。」

 

 

お義父さんやジェニファー達を操ってくれた事、忘れたとは言わせない!

 

ユーゼス・ゴッツォ。

 

貴方も倒して見せる。

 

 

「貴様か、アウレフを通じて監視していたが……よもや貴様こそが最も危険で有用な存在だったか。」

「…」

「レビが戻らぬ以上、貴様を捕らえ…ジュデッカのコアにしてやろう。」

「お断りよ!」

「…(あの愚帝を思わせる念、排除すべきと思ったが傀儡として使役する方が得策と言えよう。」

 

 

我らの母星に存在した黒の死海文書。

 

対成す様に地球に存在した白の死海文書。

 

その二つを合わせる事である真実を語っていると思われた。

 

だが、違った。

 

死海文書は二つではない。

 

四つに分かれていたのだ。

 

残りの二つ。

 

記述に残されていた紅の死海文書と蒼の死海文書。

 

それらを奴らより早期に見つけ出さねば…

 

 

「…(ジュデッカのコアは完全に破壊しないとアレが起動してしまう。」

「ハスミ、援護有難う。」

「いえ、それよりも…奴を倒さないと!」

「うん、ユーゼスを放っておく訳にはいかない。」

「マイ、ヴィレッタ大尉、私達が援護します。」

「判った。」

「任せるわ。」

「ロサ、一気に詰めるよ!」

「了解です!」

 

 

後は奴の行動パターンを思い出して戦うだけ。

 

予行演習無しの一度きり。

 

油断はしない。

 

ここで終わる訳にはいかない。

 

キョウスケ中尉、皆さん。

 

ラオデキヤの相手を頼みます。

 

私はここで奴を食い止めます。

 

それがこの先の未来に関わる事でも…

 

 

******

 

 

「…(ドモンやリュウセイから聞いていたが、厄介な相手だな。」

 

 

奴の機体に搭載されているズフィルードクリスタル。

 

その大元は今もアイドネウス島に眠っている。

 

あの時はシュウ・シラカワの手によって大気圏外に転移させた事で事無きを得たが…

 

今度はどう転ぶか。

 

マサキは考えがあると言っていたが…

 

兎に角、奴を倒さなければ話にならん!

 

 

「ふっ、やはりお前達は他の地球人種と異なり予想を超える戦力を…」

 

 

ズフィルートの攻撃の際に現れる影。

 

かつて前世で戦った機械仕掛けの神の姿。

 

それは女性的だったり男性的だったりと姿を変えて現れる。

 

その正体を知る者はその光景を思い出す。

 

ナシムとゲベルの名を…

 

 

「その台詞は聞き飽きたぜ!」

「!?」

「お前達が俺達を成長させ自身の手駒として利用する事は既に解っていた。」

「だが、貴様達はこの時点で失態を犯している。」

「俺達がお前達を超える戦力を手に入れてしまうと言う失態をな…!」

 

 

ズフィルードに目掛け、それぞれの必殺技が炸裂する。

 

燃え上がる不死鳥が、鉄杭と鉛のオンパレードが、蒼き麒麟の一撃が。

 

それらがズフィルードを貫いた。

 

爆炎を上げつつ朽ち果てる機体へ言葉を送る。

 

 

「お前達の事だ…この時点でそれを覆す策でもあるのだろう?」

「…だとしたら?」

「悪いが既にその対策はこちら側で用意済みだ。」

「シュウ、用意は出来ているんだろう!」

 

 

『やれやれ、人使いが荒いですね。』

 

 

******

 

 

地球、アイドネウス島にて。

 

 

「ですが、奴らに復讐が出来るのならお手伝いしますよ。」

 

 

島の中心部より打ち上げられるメテオ3。

 

 

「以前の様な後出しにはなりませんよ?」

 

 

最後の審判者が宇宙へと転移する。

 

早期決戦はこれから始まる。

 

 

「さて、私も決戦の場へ赴きましょう。」

 

 

蒼き魔神もまた宇宙へと舞台を移した。

 

 

=続=

 




母なる大地に眠る悪夢。

それは星を滅ぼす災厄。

危機を察して集結する人類。

志は一つ。

次回、幻影のエトランゼ・第一三話『審判《セプタギン》』

可能性は目処前に。

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