幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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シナリオは覆される。

その先にある変わりつつある未来と世界に。

どんな事が待ち受けようとも。

突き進め。

歩みを止めるな。

それが一筋の希望だとしても…



第一三話 『審判《セプタギン》』

ホワイトスター最深部にて。

 

激戦を繰り返すノードゥスの部隊。

 

そして一つの決着が終わろうとしていた。

 

 

******

 

 

「馬鹿な…」

 

 

紫の番人が敗れ、黒の地獄もまた地に堕ちた。

 

 

「これで終わりだ、ユーゼス。」

「私達の運命を弄んだ罪、ここで償いなさい!」

「この様な事が…あって!!」

 

 

ジュデッカの再生機構が損傷し蓄積されたダメージによって機体は悲鳴を上げていた。

 

所々で起こる爆発と火花。

 

そのまま逃げる事も出来ただろう。

 

 

「こ、のままでは…!」

『侵略者が潰える歴史は常に繰り返させる。』

「何が…言いたい?」

『アプローチの仕方次第で未来を変える事も出来た筈と言う事よ。』

「…」

『貴方が目指そうとした未来がどんなモノなのかは分からない、それでも歪んだ犠牲の上で成り立つ未来からは何も得られない。』

「では、如何すれ…ば…良かったのだ?」

『互いに逢いより言葉を交わす事から始めればよかったのよ。』

 

 

誰もが知る言葉と言葉。

 

通じ合う事が出来ないかもしれない。

 

それでも何かで伝える事が出来るかもしれない。

 

相手に悪意があれば立ち向かい。

 

共に歩むのなら手を取り合えばいい。

 

小さな子供でも出来る事。

 

 

「ふ、甘いな。」

 

 

仮面の支配者は最後の言葉を送った。

 

 

「ハスミ・クジョウ。」

『…』

「地獄の底からお前達を嘲笑おう、愚かな選択をし続けるお前達をな…!」

 

 

その言葉を最後に黒いジュデッカは爆散した。

 

コアも損傷し跡形もなく砕け散った。

 

 

「これで終わればいいけど…」

「ハスミ。」

「ロサ…」

「本当に良かったの?」

「もう説得が出来ないまでに歪んでしまっていた、例え救ったとしても遺恨を残すだけよ。」

「…」

「相寄れない時もあるって事ね。」

 

 

正直、私の中でカーウァイお義父さんを苦しめた事で枷になっていた。

 

だから説得は出来なかった。

 

心の何処かでユルサナイと言う想いがあったからだ。

 

手を取り合いたいと願った。

 

だけど、それもここでは出来なかった。

 

このユーゼスにはかつて世界の為に戦おうとした意思は無かったからだ。

 

全ては己の欲望の為に澱み切った意思は覆す事は出来ない。

 

これが私の出来る限界だ。

 

 

******

 

 

一方SRXチームは…

 

 

「少佐、イングラム少佐…!」

「アヤ…」

「少佐!」

「ようやくお目覚めですか?」

「お前達、どうして…」

「枷は外れたみたいね。」

「ヴィレッタ。」

「あの子達に感謝しなさい、命掛けで貴方を救おうとしたのだから。」

 

 

イングラムが周囲を見渡すと集まっていたSRXチームの面々とボロボロになったSRX、無残に破壊されたR-GUNリヴァーレの残骸が目に映った。

 

目元に涙を溜めていたアヤは自身を抱きしめ、他のメンバーは安堵した表情でこちらを見ていた。

 

本来なら死ぬ事で解放される筈だったが、それらが覆された。

 

付けられた枷の気配はない。

 

消えている、何故だ?

 

 

「…(まさか?」

 

 

俺はリュウセイを見た。

 

それに気が付いたリュウセイは相槌の様に笑い返した。

 

それが何を意味するのか判らない。

 

だが、この時に感謝しなければならない。

 

もう一度、お前達と共に歩めると言う事を…

 

 

「イングラム少佐、今後の事ですが…」

「…」

「貴方はエアロゲイターに洗脳されていたと言う事で通してあります。」

「ライ…!」

「これはSRXチーム全員の総意です。」

「だが、俺は…」

「散々自分達を引っ掻き回したのです、その対価は体で払って貰うと言う事になりました。」

「それでいいのか?」

 

 

SRXチームは皆それを了承した。

 

それぞれがその証の言葉をかけた。

 

 

『リュウセイ、一大事だ!!』

「キョウスケ、どうしたんだ!?」

『メテオ3が起動を開始した。』

「何だって…!?」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ホワイトスターの守護者達を倒した後…

 

コアを失ったメテオ3ことセプタギンを破壊する事で全ては終わる筈だった。

 

しかし、ここでもシナリオは覆されたのだ。

 

 

「では、メテオ3は元々エアロゲイターが所持していた惑星殲滅兵器だったと?」

『その通りだ、それに気が付いた我々は何度かメテオ3の破壊方法を模索していた。』

 

 

合流したビアン博士から語られた真実。

 

メテオ3の正体はエアロゲイターが何かしらの状況で壊滅した場合に動き出す惑星殲滅兵器。

 

そしてその起動コアがないものの別の方法で起動してしまった。

 

恐らくは何かの安全装置が働いた可能性があるとの事だった。

 

このままでは地球圏が壊滅。

 

人類滅亡は免れないとの事だ。

 

 

「しかし、今になって何故?」

『メテオ3の正体を知ったワシらを狙う輩が現れた為に身動きが取れん状況だった。』

 

 

真実を知る者の口を封じる為に幾度もその命を狙われていた。

 

その為、ビアン博士を始めとした数名は姿を隠す必要があったのである。

 

 

『このまま放置すれば人類に未来はない。』

「しかし、ホワイトスター戦で疲弊した現在の戦力では…」

『言った筈だ、人類に未来はない…それは地球もコロニーも同じ事だ!!』

 

 

ビアン博士の言葉はオービタルリングの衛星通信で地球全土、コロニー群に届いていた。

 

 

『これは人類存続の為の戦い、臆するな諍いあった者達よ…この言葉に賛同するならばこの地に集え!!』

 

 

そして願いの言葉は届いたのだ。

 

かつて敵対していた者達が、枷に繋がれていた異星人達が、地球を守護していた勇者達が。

 

宇宙に集い始めたのだ。

 

 

******

 

 

この光景に私は涙した。

 

手を取り合えなかった筈の人々が手を取り合ったのだ。

 

これは一時かもしれない。

 

それでもこの奇跡に感謝したい。

 

 

「もう一息だ!」

 

 

ノードゥスはセプタギンに向かって追撃を開始した。

 

ホワイトスター戦で使用されなかった艦隊の核兵装をセプタギンへ発射。

 

ある程度のダメージを与え、残りの兵力で殲滅させる。

 

いつもと同じ手であるが、他に方法が無い以上…

 

致し方ない。

 

 

「何ともまあ敵さんも大きいくす玉を用意してくれちゃったわね。」

「隕石だと思いますけど?」

「兎も角、俺達で出来るだけ破壊するぞ。」

「敵は強大にして一体、いざ行かん!!」

「了解!」

 

 

 

セプタギンに向かって行くノードゥス。

 

大火力で迫りくる結晶の嵐を掻い潜り、攻撃を加えて行く。

 

しかし、最深部までには届かず停滞している。

 

 

 

「ちっ、相変わらず堅いな。」

「減らず口を叩いている暇があるのなら攻撃を続行したらどうですか?」

「へっ、言われるまでもねえぜ!」

 

 

合流したグランゾンのワームスマッシャーが周囲の結晶群を蹴散らし、サイバスターが斬り裂く。

 

疲弊する体と機体に鞭を打ち、攻撃を加えて行く。

 

どんなに困難でもその先の未来を勝ち取る為に。

 

そして宇宙に声が響いた。

 

 

 

『テトラクテゥス・グラマトン』

 

 

 

現れたのは半壊に近いSRXと大破した筈のR-GUNリヴァーレ。

 

二つの機体が呪文と共に融合した。

 

SRXの巨体とR-GUNリヴァーレの特性を持ち合わせた機体。

 

その名はSRXリヴァーレ。

 

 

「リュウセイ、長くは持たん…一度きりだ。」

「判ったぜ。」

 

 

R-GUNリヴァーレの必殺技。

 

因果地平の彼方へ送る一撃。

 

 

 

「「「「「「アキシオン・バスタぁああああ!!!」」」」」」

 

 

 

展開された魔方陣の中で崩壊し続けるセプタギン。

 

それを好機にノードゥスのメンバーも更なる攻撃を開始する。

 

最後の審判者は覆されたシナリオで覚醒したがその稼働時間は僅かだった。

 

崩壊する審判者を最後に…

 

人類は滅亡の脅威から生還。

 

そしてエアロゲイターとの戦いに勝利したのだった。

 

 

=続=

 

 




一つの戦いに終止符が打たれた。

ある者は戦場を退き。

ある者は戦う事を決意する。

『希望』は拡散し『未来』へと紡がれる。


次回、幻影のエトランゼ・第十四話『後日《ゴジツ》』


今は一時の安らぎを。



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