曖昧な境界線。
それはいずれ崩れ去って行く。
静かにゆっくりと…
『L5戦役』からしばらく経った頃。
ノードゥスは解散しそれぞれの場所で活動を始めていた。
そしてここ日本では…
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第3新東京市では。
同市内にある第壱中学校では朝礼も終わり、授業の真っ最中である。
この世界では例の事件があっても四季が存在し夏のみではないので桜並木も満開である。
「春やなぁ。」
「そうだねぇ。」
「二人とも真面目に、まだ授業中だよ。」
ここ二年の教室の一角で外の桜並木を見ながらボーっとする者達が居た。
その者達を注意する者も居た。
ボーっとしているのが鈴原トウジと相田ケンスケ。
注意しているのが碇シンジである。
三馬鹿トリオと称される彼らでも学生の本分を忘れる時もある。
そんな彼らの脳天に鉄槌が落ちるのだ。
「あだっ!?」
「でっ!?」
「…(い、痛そう。」
それもその筈、背後よりトウジとケンスケの脳天に出席簿の角が振り下げられたのだ。
イタイ、余りにもイタイ。
その実行者は真っ黒なオーラを醸し出しており、怒髪天ギリギリの状況である。
容姿は黒のワイシャツに紺のネクタイとブルーフレームの眼鏡を掛けたインテリ美丈夫である。
「鈴原、相田…そんなに俺の授業をサボりたい様だな?」
「トウジ、ヤバいよ。」
「か、堪忍や!堪忍してぇな!七枝先生っ!!」
「…(だから言ったのに。」
トウジ達を怒っている教師の名は
数学教師としてこの四月から第壱中学校に赴任してきた。
ナデシコクルーの一人、紅葉さんの双子の御兄さんである。
僕も最初は目を疑ったが事実らしい。
実際22歳ではかつてのスズネ先生の様に教育実習生とか院生をしていると思ったが…
本人曰く飛び級で教師になったとの事だ。
「鈴原、相田、お前ら放課後に補習な…碇と渚はこいつらの見張りを頼む。」
「えっ?」
「返事は…?」
「は、はい!(結局…こうなる訳だ。」
「渚も悪いが頼んだぞ。」
「判りました。」
トウジとケンスケ二人の失態が判明すると教室内に爆笑の嵐が巻き起こった。
その様子を見ていたアスカは「バッカじゃないの?」とボソリと呟き…
レイは教科書で口元を隠しながらクスリと笑っていた。
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同じ頃。
赤道直下に開発された研究都市の一つ『CITY-NO.5』。
そこへ修学旅行へ訪れた子供達の姿があった。
関東を中心とした小学校の合同修学旅行である。
旅行の目的は最先端技術を研究する都市の見学並びに通貨システムなどの利用体験である。
「それにしても南の島に近いのに全然熱くないね。」
「都市自体に気温管理システムが導入されているから快適に過ごせるってパンフには書いてあるな。」
「おまけにあのショーウィンドウに飾られているピッチリスーツで何着も服要らずって訳か。」
「便利だね。」
「私はあんまり好きじゃないな、おしゃれが出来ないもん。」
「そうよね、慣れてないと困るかも…」
街中を散策するのは例の勇者チームの少年達である。
順に瞬兵、洋、高杉星史、相羽菜々子、香坂ひかるの五人である。
現在は勉強テーマ毎にグループに分かれて行動中だった。
ちなみに勉強テーマは『日常生活の違い』である。
「ヤンチャー君も一緒に来られれば良かったね…」
「勿論誘ったさ、アイツ…勉強は嫌いだって言って逃げちまったよ。」
「ヤンチャー君らしいね。」
二人は遠き異星より訪れた友人の事を話していた。
「私達も早く行動しないと自由散策の時間が無くなっちゃうよ?」
「次はどこだっけ?」
「この先の歴史博物館が近いからそこから見学しようか?」
「「「「賛成。」」」」
その後、子供達は歴史博物館の中で『古き良き時代』を好む一人の青年と出会う事となる。
それは何かの兆しか若しくは必然だったのかもしれない。
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時は進み、日本の某所。
俗に言う放課後。
「六年は修学旅行かよ…いいなぁ。」
「しょうがないよ、僕らはまだ五年生なんだし。」
「そうだけどさ。」
「瞬兵君や洋君、星史君達は今頃…南の島で楽しんでるかな?」
「また厄介な事に巻き込まれたりして…って事は無いよな?」
「それ、冗談じゃなくなりそうだから止めよう。」
「お、おう…」
この二人の名は出雲銀河、草薙北斗。
星見小学校へ通学する少年達である。
一件普通の小学生に変わりはないがある秘密を抱えている。
その秘密の関係で彼らは冗談半分でも失言する事は控えている。
「そういえば、護達は?」
「たしか、新宿へ社会科見学に行っているんじゃないかな?」
「ふうん、あっちも外部学習か…」
「炎さん達はこの前の事件で余り落ち着いてないし。」
「ヨウタさん達は?」
「たしか、別件でしばらくこっちを離れるって言ってたかな?」
「何かバラバラだな。」
「一緒に居た時間が長かったせいもあるかもね。」
一月に起こったガルファの月面侵攻。
それに伴い、オービタルリング・極東エリア部分を破壊し侵攻。
彼らは星見町へ現れたガルファの機獣の侵攻に遭遇した。
察して頂く様に彼らには記憶があった。
すぐさま彼らは搬送中の電童へ向かい、発見後に搭乗。
子供とは思えない活動力で敵を圧倒。
そのまま地球防衛軍の庇護下に置かれる事となった。
それから勇者と呼ばれる存在と共に戦う子供達と出会い、馴染んでいった。
四月に入るとそれぞれが向かうべき戦いの場へ別れた。
一緒に居る事が多かったので何処か寂しいのもあるが…
このご時世にそんな悠長な事は言えない。
避けられぬ戦いがある以上は戦うしかない。
「マサトさんが言っていたナチュラルとコーディネーターとの戦いどう思う?」
「正直言うと…馬鹿らしくね?」
「何で?」
「だってさ、どっちも人間だろ?」
「そうだけど…」
「ドモンさんも言っていた事だけど、どっちも殴られれば痛いと感じる…ただ産まれ方が違うだけで変わらないって事さ。」
「…」
「どっちも人間なら話せるだろ?サルじゃあるまいし…」
「そうだよね。」
銀河のストレートな言い方で悩んでいた北斗も納得した。
「寧ろさ…あっちの方が気になるんだけどよ。」
「あっちって?」
「マサトさんの木原マサキ化。」
「うっ…それは困る。」
「だろ?」
冗談交じりの会話は続き、下校中の二人はそれぞれの家へと帰路を進めた。
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同じ頃。
第壱中学校の校舎裏。
「ああ、滞りなく監視は続けている。」
『大丈夫なの?』
「今の所はな…」
『全く、巫女様は人使いが荒いよ。』
「そっちはどうなんだ?」
『黒い王子様に動きなし、相変わらず雪谷食堂でラーメン作ってるよ。』
「そうか。」
『ティアリー姉もソルトレイク基地で缶詰だし、どうなる事やら。』
「アイツはどうした?」
『あの人ならヘリオポリスに潜入調査中だよ。』
「おい、ヘリオポリスは!」
『解ってるよ、それも見通しての潜入だってさ。』
「…」
『例の事件が迫って居る以上、色々と面倒なんだけどね。』
「所でお前は?」
『JUDAで迅雷の訓練に参加してるよ、今日はオフだけどね。』
「JUDAで?」
『ま、色々とね。』
「例の件か?」
『そ、ややこしいけど…実用性がある以上は軍も喉から手が出る程だろうし。』
「ルド社長も参入すると話していたが…」
『それだよ、兄さんだって潜入の件が無ければインペリアルヴァレイのパイロットを頼まれてたでしょ?』
「あのうさん臭い女社長に顔を合わせたくなかったから断った。」
『例の性格おブスなローズ、社長達が軍事産業に参戦するや否や合併の話をまた持ち込んでたもんね。』
「ああ、顔を合わせたら色目込みでイスルギ重工のテストパイロットに引き抜かれそうになった。」
『あ?あのブス……アタシの兄さんに手ぇ出しやがって、次あったらタダじゃおかねぇ!』
「本音が出てるぞ?」
『ごっめん、ツイね☆』
「用事がないなら切るぞ?」
『了解、またね。』
蒼葉はスマホの電源を切ると眼鏡を掛け直した。
「鏡は割れるか…」
その数日後、地球規模で大地震が発生。
更なる戦いの戦鐘は鳴らされたのだった。
=続=
始まった災厄へのカウントダウン。
消えた人々。
現れた人々。
世界と言う鏡は砕け散った。
次回、幻影のエトランゼ・第一七話『異変《イヘン》』
天変地異は新たなる出会いと災厄を齎す。
<今回の登場人物>
※七枝蒼葉
紅葉の双子の兄。
発言から数学教師として第壱中学校に潜入中。
冷静な判断力と少し毒の入った発言をする。
弟からブラコンされている。