幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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物語の変異は続く。

それは一つの波紋の様に。

ゆっくりと広がって行く。






第二十話 『月蝕《エクリプス》前編』

無事、エンドレスフロンティアから元の世界に帰還した私達であったが…

 

間の悪い事に連合軍とザフト・地球降下部隊が睨み合いを続けているアフリカ大陸のど真ん中へと放り出される事となった。

 

そこにベルターヌ化による転移騒動でアストラギウス銀河にある惑星メルキアの一部が出現。

 

その星内部の一角にある地下階層都市ウドがくっ付いている状態だ。

 

こちら側に転移したのが切っ掛けでウドの街の気候変化に街の住民は驚いているとの事。

 

ウドが存在する惑星メルキアではメルキア軍とバララント軍の衝突で起こった百年戦争.

 

これが切っ掛けで同惑星では戦争の影響による大気汚染で赤い酸性雨が発生する環境汚染が起こった。

 

それが一時的とはいえ無くなったのだからかなりの驚きと言えるだろう。

 

エンドレスフロンティアへの転移での時間のズレは数か月、こちら側では二週間が経過している。

 

二週間の不在の間に第一エリアの支配者であった魔族ブレアは既に討伐されていた。

 

ちなみにブレアが根城としていたのが浅間山。

 

九州エリアに遠征に出ていたゲッターチームが急遽合流し勇者チームとの共同作戦に参加。

 

早乙女研究所の防衛と共にブレア討伐を行う作戦である。

 

この作戦は成功したものの、勇者チーム側の主力戦艦が全損。

 

二番艦に当たる『箱舟』を稼働させ第二エリアへ向かったとの事だ。

 

各エリアごとにエリアを隔てる様に結界が張られているのだが、エリアを支配する魔族を倒す事で緩みが発生。

 

その緩みを大火力の主砲で打ち破ると言う荒業を披露したらしい。

 

そして問題は現時点で私達が帰還したアフリカ大陸は第二エリアと呼ばれており…

 

魔族の一角、ガープが支配する風の領域でもあった。

 

早い所、合流しないと…

 

 

******

 

 

私達は限定的凍結プロテクトから解除されたタウゼントフェスラーで航行しつつ周囲を探っていた。

 

第二エリアはアフリカ大陸を中心とした砂漠地帯で構成されている。

 

まさしく生命の息絶えた風化の大地だ。

 

そしてタウゼントフェスラーの操縦席のモニターから外の景色を眺めているロサから会話が始まった。

 

 

「何処に行っても砂漠ばっかりね。」

「アフリカ大陸丸ごとが第二エリアの特徴だからね。」

「ハスミがアカシックレコードから聞いた話だとザフトの地球降下部隊の一角が下りているんだよね?」

「そ、場合によってはATやラダムに最悪の場合は魔物と鉢合せしそうだし。」

「うーん、前途多難?」

「とりあえず、タウゼントフェスラーやAMが無傷だった事だけが救いかな。」

「もし鉢合わせしちゃったら?」

 

 

ロサの何気ない発言に私は答えた。

 

 

「勿論逃げる。」

「だよね。」

「理由は別にあるけどね…」

「へ?」

「戦場に前触れも無く響く鳥の声って知ってる?」

「ううん、初耳。」

「それを聞いた者は戦場から帰還する事も無く、必ず戦場で息絶えると噂される…告死鳥。」

「つまり、死を告げる鳥って事?」

「ま、噂だけどね。」

「ハスミ、もしかして鳥さんの正体を知ってるの?」

 

 

爽やかな笑みを浮かべるハスミに対してロサは察した。

 

 

「知っているのね。」

「まあね、話を戻すとこのエリアはその部隊が展開しているエリアに近いって事よ。」

「そっちの鉢合わせも考えられるって事?」

「可能性は否定出来ないね、まあ…彼らも任務中だからこっちに何かしらのアプローチを掛ける事はないだろうけど。」

「どうして?」

「前と同様で彼らは公式上戦死扱いになっているからよ。」

 

 

現連合軍・諜報部に潜入しているホルトゥスのメンバーに頼んで彼らの素性を調べて貰った事がある。

 

その結果、公式の史実と異なる道を歩んでいるらしい。

 

告死鳥ことFDXチーム。

 

死者を連想させる武装を使用する連合軍の非公式特殊部隊の一つだ。

 

戦闘要員は4名だが、これに艦長、情報処理担当のラルカと言うAIロボットと別にオペレーターとしてイアンと言う青年が配属されている。

 

彼は同部隊所属の戦闘要員、リェータの弟であるが、L5戦役時にあらぬ疑いを掛けられた為にこちらへ島流しさせられたのだ。

 

理由はその手の出世を妬んだ嫌がらせである。

 

正直腹が立ったので出世を妬んだ連中の木端微塵に成りそうな醜態を晒した画像&動画を捨てアドで所属部隊に送付してあげました。

 

 

「合掌した方が良いのかな?」

「何の事?いい年して嫌がらせをやってる方が悪いのだから別にいいでしょ?」

「それはそれで色々とコワイね。」

「とりあえず、この話は終わり」

 

 

私は告死鳥の話を切り上げ、現時点の問題に戻った。

 

 

「今はこのエリアの何処かに飛ばされている仲間達と運良く合流出来ればいいのだけど…」

「何処に居るのか判らないの?」

「心当たりが幾つかあるけど、記憶にある事象のどの辺まで進んでいるか判らないから確定と言う訳には行かないけどね。」

「この第二エリアって複雑な戦況になっているんだっけ?」

「ええ、ウドの街を中心としたATの部隊、魔族と戦い続ける勇者チーム、この砂漠に転移したアークエンジェルとザフトの地上降下部隊、ミスリルと追撃先のテロリスト、それらがアカシックレコードを通して確認出来たわ。」

「あれ?前に話していたデロイアは?」

「例の『断章介入』が原因でこちらの事象に引き込まれなかったらしいわ。」

「要は省かれた?」

「そうなる、どういう基準なのかは分からない。」

「…」

「出来る事なら顔見知りと合流出来るといいけどね。」

 

 

私の願いを他所に敵と言うモノは出現するのである。

 

 

「ハスミ、未確認の反応をキャッチ。」

「目視は?」

「モニターに回すね。」

 

 

操縦席近くのモニターに映されたのは異様な光景だった。

 

真っ青なグラスの様な体格に髭とステッキを付けた紳士の様な風貌の存在が進路方向に点在していた。

 

こちらの存在に気付いているらしく、後戻りは出来ない状況だ。

 

 

「敵の様子ね…(あれは台風男爵、ガープの使い魔が出て来たか。」

「ハスミ、どうするの?」

「ロサ、タウゼントフェスラーの操縦をお願い…私が追撃に出るわ。」

「うん、気を付けて。」

 

 

私はタウゼントフェスラーの操縦をロサに預け、格納庫へと向かった。

 

道中でパイロットスーツに着替えるのも忘れていない。

 

 

「乗るのは久しぶりね…」

 

 

ガーリオンC・タイプTのコックピットで機体を起動させながら呟く。

 

 

「交差する世界で貴方と再会出来た……だから絶対に生き残る!」

 

 

ガーリオンCのアイカメラが煌々と光を放った。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

タウゼントフェスラーの格納庫から発進した後、その横に付いた。

 

 

「ロサ、敵は私が惹き付けるからその内にこの領域から離れて。」

「ハスミは?」

「大丈夫、ある程度やったら跡を追うから。」

「判ったわ、必ず戻って来てね。」

 

 

私はロサに指示を出すとタウゼントフェスラーを別の空域へ逃がした。

 

 

「さてと、お相手は…四体。」

 

 

台風男爵は勇者チームでも相手にするのに手を焼いた相手だ。

 

あのバカげた風貌からは想像も出来ない回避能力と高速ファンによる疑似台風を生み出す攻撃は侮れない。

 

ガーリオンCの高機動なら避けられなくもないけど捕まったら最後、機体毎バラバラにされるのは確実。

 

猶更用心しないとね。

 

しかし、妙だな…

 

あの数だと偵察部隊程度。

 

何かを探しているのか?

 

該当があり過ぎて何とも言えない。

 

あるとすれば…

 

 

「あらあら、何なの?」

「誰だ!?」

「見ない顔ね、ブレアちゃんがやられちゃったからまた余所者が入り込んだのかしら?」

「何故オネエ言葉?(あの声でこれ聞いちゃうと腹筋が…」

「アンタに関係ないでしょ、アタシはこの領域を支配する風のガープ…まあ覚えてもアンタの命は無いだろうけどね?」

「領域?つまり貴方は地球を断裂させた首謀者の仲間って事ね。」

「地球?違うわね…アタシ達は取り戻したのよ。」

「取り戻した?」

「そうよ、あの機械仕掛けの神々から…このベルターヌをね。」

「ベルターヌ、それがお前達が使うこの星の総称か?(やっぱり今回の件もガンエデンが関わっていたか。」

「少しは理解力のある人間の様ね?」

「過去に何が起こったかは私は知らない…それでもベルターヌが地球となったのは、貴方達が一度膝を付いたと言う確かな証と言う意味かしら?」

「利口過ぎるのも良くないわね、まあいいわ。」

「!?」

「アンタはアタシが直々に切り刻んであげる。」

 

 

癪に障ったのかガープはお得意の風の砲弾を生み出し攻撃を開始した。

 

ちなみに被弾すると高速回転によって生み出された真空の風で切り刻まれるものだ。

 

例によって不意打ちを受けたエクスカイザーやパイロットを欠いたバーンガーンでさえ半壊の末路を辿った一撃である。

 

そして原作においては宇宙警察機構をたった一人で壊滅させた手練れ、油断は禁物だ。

 

だが、知っているからこそ…その軌道は見切れる。

 

 

「あら、避けられた?」

「伊達に数々の修羅場を潜り抜けて来た訳じゃないので。」

「少しは骨のある相手の様ね、いいわ…本気で行かせて貰おうかしら?」

「…(相手は五体、ガーリオンCだけでやれるか?いや、やるしかない!」

 

 

******

 

 

一方、ハスミの指示で先程の戦域から離脱に成功したロサは…

 

 

「ハスミ。」

 

 

どうしよう。

 

ハスミは絶対に機神を出すなって言ってた。

 

確かにココのボスに属性効果で私の機神じゃ歯が立たないのは戦略的に解ってる。

 

でも、何も出来ないのはもっと嫌なのに。

 

私はハスミに守られているだけでいいの?

 

あの時と同じ様に。

 

ううん、何も出来ないよりは何かしたい。

 

少しでも可能性があるなら!

 

 

「お願い、届いて。」

 

 

ロサはコンソールを操作しSOS信号を発信した。

 

敵地でのSOS発信。

 

それがどの様な結果を招くか、十分理解した上での行動だった。

 

 

「やっぱり、敵地だから反応が薄いのかな。」

 

 

SOS信号発進から約1時間が経過。

 

 

「ハスミが戻ってこない、反応もない…何も出来ないの?」

 

 

ロサのアイカメラから伝うものがある。

 

冷却用の水であるが、ロサに涙の概念を与える為にハスミがわざわざ取り付けた機能だ。

 

機械でも人の心を持つのならば涙の意味を理解する為に必要だと思った為である。

 

それは喜び、笑い、悲しみ、怒り、人の感情を構成するものの中で涙は欠かせない。

 

他者を思う心があるからこそ涙は流せるのだ。

 

 

『聞こえるか、そこのタウゼントフェスラー。』

「え…」

『応答せよ、こちら地球連合軍月面第8艦隊所属艦アークエンジェル。』

「はい、地球連合軍北米方面ラングレー基地所属戦艦シロガネ配備隊ATXチームの別働チームです。」

『確認した、そちらの状況は?』

「このエリアを侵略する敵と交戦でパイロット一名が追撃中です、私は救難信号発信のまま撤退を命じられました。」

『了解、そちらの状況は判った…旗艦は警戒任務中の本艦の進路方向に居る為、そのまま待機せよ。』

「了解。」

『なお、追撃中のパイロットにはこちらから援護部隊を選出する。』

「了解、本艦は現空域にて待機します。」

 

 

通信から流れる女性の声、恐らく軍人気質の人だろう。

 

相手側の的確な指示の元、ロサは救いの手が来た事に安堵した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一時間後、ロサと別れたハスミは…

 

 

「本当にしぶといわね。」

「しぶとさは所属チームの信念です、覆す事はありません!」

「…(この機体のパイロット何なの?こっちの動きを完全に読んでいる上に増援がてらに召喚したエネミーポットまで即破壊しちゃうなんて。」

「さて、そちらも手の内は出し切ったと思いますが?」

「そうね、手持ちの配下はさっきのでおしまい…使えない配下をポンポン出した所でアンタを痛めつけられないんじゃ意味ないモノ。」

「…(とは言ったもののバーストレールガンはEN切れ、ツインアサルトブレードは刃先がボロボロ、後はソニックブレイカーとストライク・アキュリスどちらも一発撃てる位しかエネルギーはない。」

「まあ、そっちも打つ手なしって思えるし…この一撃で決着を付けましょう。」

「そうね。(そっちにはそう言うつもりはないのでしょうけど。」

 

 

勝負は一瞬。

 

一撃はどちらを選択する。

 

 

悩むものか、いつも一緒に戦って来た相棒。

 

私は相棒を信じる。

 

そうでしょう、ガーリオンカスタム。

 

 

 

「先手を撃つ!」

「それならお見通しよ。」

 

 

私がソニック・ブレイカーでガープに突撃したのと同時に相手もまた攻撃を仕掛けた。

 

 

「アタシの間合いに入って逃げられるとでも!?」

「確かに考え無しで突っ込んだ訳じゃない、貴方の攻撃に致命的な隙があるからね。」

「まさか!」

「竜巻の中心部は空洞って事を忘れたとは言わせない!」

「くっ!?」

「ソニック・ブレイカーは囮、殿は…ストライク・アキュリス!!」

 

 

ソニック・ブレイカー発動時に逃がして置いたストライク・アキュリスを操り、ガープへ突撃させる。

 

 

「貫けっ!!」

 

 

ガープは竜巻の攻撃を解除し回避しようとするも一部のストライク・アキュリスが彼の顔を切り裂く。

 

 

「ああっ!!?」

「ご自慢のお顔が台無しね?」

「このっ人間風情が!!」

「その人間を無暗に殺し合わせた奴に言われたくもないわ。」

「お、覚えてらっしゃい!!」

 

 

自尊心をズタズタにされた為かガープは傷だらけになった顔を抑えて戦線を離脱した。

 

残ったのはガープの攻撃に耐えきったもののEN切れと装甲破損でズタボロとなったガーリオンC・タイプTだけが砂漠に墜落した。

 

 

「あー本当に後先考えない作戦は止めとこ、ロサとの約束も破っちゃったし…」

 

 

その後、私はアークエンジェルと合流を果たしたロサ達に救出された。

 

再会したロサからは泣き付かれたり、簡易的な説明と事後報告などで色々と忙しかった。

 

そこで集めた情報によると、どうやら原作に近い展開になっているらしい。

 

ヘリオポリス崩壊と共にそこからの避難民や一部の志願兵を募り、ザフトに奪われた四機ガンダムの追撃を受けつつ航海を続けていたアークエンジェル。

 

連合軍月面艦隊所属・第八艦隊と合流したものの原作通り、ザフト艦隊の襲撃を受ける事となった。

 

その最中に例の地球規模の地震が発生。

 

アークエンジェル、そして大破寸前の第八艦隊の数隻はこの第二エリアへ転移したらしい。

 

周囲偵察の末にオーストラリア大陸にあったトリントン基地を発見しそこへ移動。

 

難民キャンプのベースを兼任しつつ今日まで魔族と戦っていたとの事だ。

 

基地に滞在していた元ノードゥスのメンバーが率先して対応していたが、何分補給物資の追加もない。

 

墜落した第八艦隊の残骸から物資を発見し繋いでいるが、それも数週間分の計算だったが…

 

そこへ第一エリアを解放した勇者チームと合流を果たした元ノードゥスのメンバーがやって来た。

 

彼らの来訪により魔族によって抑え込まれた戦線を解放。

 

ついに奴らの居城を発見したが、どうやら特殊は障壁で侵入が困難になっているらしい。

 

その為、攻め込めない状況だと言う事だ。

 

ここでも変異が起きたかと自分の中で納得しておく。

 

とりあえず、トリントン基地に戻ったらお小言が待っているので報告&始末書を終わらせておきたい。

 

 

=続=

 




力尽きる幻槍の獅子。

光と闇の障壁が行く手を阻む。

だが、少女達の声と共に切り開く者は姿を現す。

次回、幻影のエトランゼ・第二十話 『月蝕《エクリプス》中編』。

陽輝と月煌よ、勇者達の往くべき道を照らし出せ。


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