幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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どの様な枷があろうとも彼らは立ち向かう。

大切な恋人を救う為に。

大切な仲間を救う為に。

闇に飲まれる覚悟を決める時が来た。

それが修羅の道であろうと受け入れる覚悟を決めろ。


第二十一話 『影鏡《シャドウミラー》後編』

デビルウルタリアへの侵攻作戦の会議が終わりかけた頃。

 

治療中だったドモンがハガネのグリーフィングルームへ訪れた。

 

身体の状態を見る限りにDG細胞の感染が除染しきれていない。

 

上半身に巻かれた包帯の隙間からじわじわと侵食するDG細胞がそれを物語っている。

 

 

******

 

 

「待ってくれ…!」

「あ、アニキ!」

「治療中だった筈では!?」

「ダイテツ艦長…この作戦への参加の許可を貰いたい。」

「君はDG細胞の除染がまだ済んでいない、負傷した兵士を戦場に送る者などいないぞ。」

「それでも行かなければ…レインが連れ去られたのは俺の責任だ。」

「ドモン…」

 

 

ドアの隙間で体を支えているも崩れる様に倒れそうになるが…

 

遅れて来たキョウジとシュバルツがドモンの身体を支えてバランスを取り戻した。

 

本来なら立ち上がるのもやっとの状態だ。

 

いつ、その自我が乗っ取られるのかも判らない。

 

それでも自分の意思と抗う眼は真実であると悟った者達は…

 

 

「艦長、俺達がドモンのサポートに入る。」

「それでこの馬鹿が収まるならそれでいいだろう?」

「…」

「艦長。」

「本来ならば出撃を許可する事は出来ん、だが…君がDGを止める為のキーだろう。」

「では、出撃の許可を?」

「ああ、ドモン君…君も内部へ侵攻するメンバーに加わって貰う。」

「済まない、ダイテツ艦長。」

「その代わり、必ず生きて帰ってこい…これは君だけではなく全員に当てはまる事だ。」

 

 

作戦開始前から修羅場になりそうだったが、ダイテツ艦長の機転で落ち着く事が出来た。

 

ドモンさんには支えてくれる仲間が居る。

 

後の事は彼らに任せよう。

 

問題はデビルウルタリアを創り上げたシャドウミラーのヴィンテル達がどう動くかだ。

 

アクセルさんもシャドウミラーの統括者が現れた事で表情に陰りが見え始めた。

 

恐らくはあの人なりに落とし前を付ける気でいるのだろう。

 

そして最後はラミアさん。

 

信じています、貴方が変わってくれた事を…

 

私は私の出来る事をするだけだ。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

それから数時間後に作戦が開始した。

 

外部攻撃部隊に特機を中心としたスーパー系。

 

龍虎王、エクリプス、エザフォスら特機部隊。

 

私達の役目はデビルウルタリアへ攻撃を仕掛け、内部侵攻部隊への注意を逸らす為のものだ。

 

内部へはシャッフルを中心としたMS等の高機動部隊。

 

敵の攻撃を掻い潜り動力源へと向かう。

 

レインさんを救うキーはドモンさんの為、彼を守りながらの行動である。

 

デビルウルタリアから漏れ出したデスアーミーの大群をイオニア一行と救援に駆け付けたレジスタンス連合らが止めてくれている。

 

そしてドーザとの決着は勇者チームとマーダル軍連合が引き受けている。

 

今も東京で戦い続けるGGGと向こう側の駐留部隊の安否も気になるが…

 

向こう側には既にホルトゥスの先行メンバーも到着している頃だろう。

 

今は彼らを信じて自分の事をやるしかない。

 

 

「クスハ、行けるか?」

「大丈夫よ、ブリット君。」

「クスハ、今回は広域戦術が要…戦闘はクスハがメインの方が良いわ。」

「ハスミ、判ったわ。」

「ロサ、クスハが符術攻撃に呈する間は私達で周囲の雑魚を片付けるわよ。」

「了解です。」

「それで構いませんね、アクセル中尉。」

「すまん、俺は俺でやらねばならん事がある。」

「いえ、ドモンさんにはキョウスケ中尉達が付いていますので悪い結果にはならないと思いますが…」

「だが、注意しろ…何が起こるか判らん状態である事は確かだ。」

 

 

デビルウルタリア上空にて外部攻撃部隊が展開を始める中。

 

私達ATXチームは二つのチームに分かれて行動する事となった。

 

内部突撃部隊にキョウスケ中尉、エクセレン少尉、ラミア少尉。

 

外部攻撃部隊に私、ロサ、クスハ、ブリッド、アクセル中尉である。

 

外部攻撃部隊の指揮はアクセル中尉が担うのだが、別件の事もあり各自対応に任せる事となった。

 

要は自分で判断し行動しろと言う事である。

 

 

「綾人君、今回が一緒の戦闘になるけどよろしくね。」

「はい、皆さんよろしくお願いします。」

「修理が必要なら俺達に任せてくれよな。」

「壊れた機械を治すのもビーター・サービスの十八番だからね。」

「はい、ランドさん、メール。」

 

 

今回はラーゼフォンとガンレオンの救援もある、何事もなければいい。

 

ラーゼフォンは例の神様版は封印されているし、ガンレオンはスフィアの覚醒の兆しがまだない。

 

前者は記憶持ち、後者は記憶がないのだろうか?

 

詳しい話を聞く機会がなかったので今度調べてみる必要がある。

 

今回の戦闘はこちら側と向こう側の件が大きく関わっている。

 

そしてウルベがホルトゥスの追撃を逃れられた事もそれが関係している。

 

そろそろ奴も出て来るか黒の天才こと黒のカリスマ。

 

そう、ジ・エーデル・ベルナールが…

 

黒の英知とアカシックレコードは切っても切れない関係。

 

それも暴露されそうな気もしなくもないけど…

 

成る様に成るしかないのか?

 

いや、もっと拙いのはマサキとアサキムの出会いだ。

 

それがどんな結果を生み出すか…

 

無限力め、絶対にこの状況を楽しんでいる。

 

一歩間違えばより多くの命が奪われる危険性もある。

 

止めて見せる、それが私の願い…そして未来に繋がると信じている。

 

どんな事でもいい、教えてアカシックレコード。

 

私はあの人を…皆の未来を守る為に闇に堕ちても構わない。

 

それが輝きを増す光に映る影の闇に成り果てようとも。

 

 

******

 

 

一方、内部突入部隊は…

 

 

「…っ!」

「ドモン、大丈夫か?」

「平気だ、これくらいの事で奴に屈する訳には行かない。」

「アニキ…」

「我々も以前DG細胞に感染し捻じ曲がった欲望のまま戦う事になりましたが…」

「アイツは必死にそれに抗っているのか…へっ、相変わらず無茶しやがるぜ。」

「だからこそ、俺達はドモンをDGの元へ向かわせる。」

「ドモン、ちゃんとレインの事を救えよ。」

「私達が全力を持ってサポートします。」

「アニキはレインねーちゃんを救って。」

「お前達、すまない。」

 

 

ガンダムシュピーゲルに支えられながら行動するゴッドガンダム。

 

本来ならば戦える体力など残っていないに等しい状況である。

 

全ては自らの決着と愛する者を救う為にその強靭な精神力だけで動いているのだ。

 

出撃前にDG細胞を可能な限り除染し搭乗したが内部に突入してからと言うものDG細胞の侵攻速度が速まっている。

 

シャッフルの仲間達は可能な限りドモンのサポートに呈する事にしたのだ。

 

 

「どうやら心配する必要はなさそうね。」

「何をだ?」

「とぼけちゃって、ドモンとレインの仲よ。」

「…」

「ドモンがもう決めているんだし、後はレイン次第ね。」

「おしゃべりはそこまでだ、もうすぐ動力源に着くぞ。」

「はいはい、解ってますって。」

「…(あれが愛の表れか。」

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

デビルウルタリア最深部・動力炉にて。

 

DG細胞による浸食で所々が触手の様な物で埋め尽くされている。

 

その最奥にDG事件の首謀者である男が控えていた。

 

 

「ようこそ、シャッフル同盟とオマケ達。」

「ウルベ、レインを返して貰おうか!」

「ふん、もうじきDG細胞に飲み込まれる君に取り返せると思っているのか?」

「俺はやり遂げて見せる。」

「キング・オブ・ハートの継承者は伊達ではないか…ならばお相手しよう、このグランドマスターガンダムでな!」

「グランドマスターガンダムだと…!?」

 

 

ドモンとシュバルツ、キョウスケはその言葉に驚愕した。

 

驚くのは無理はない。

 

この世界におけるDG事件はあの旧東京エリアでの一件で終息しグランドマスターガンダムを構成するデビルガンダム四天王と交戦していない所か存在していない。

 

そう、問題は存在しない筈ものがそこにあると言う事だ。

 

それが示すのは…

 

 

「シャドウミラーとやら居たあちら側の世界でもDG事件が起こっていた様でね、その時に生み出されたグランドマスターガンダムをここで創り上げたのだ。」

 

 

どうやらシャドウミラーの世界におけるDG事件はデビルコロニーになるまで続いていたらしい。

 

それも終息したかは不明であるが…

 

 

「あれがグランドマスターガンダム。」

「まるでいくつものガンダムの集合体ですね。」

「やべえ気配があのガンダムから漂ってくるぜ…」

「それだけあのガンダムが強大だと言う事か。」

 

 

どうやら彼らにも虚億としてグランドマスターガンダムとの戦いの記憶が残っているらしい。

 

蛮勇的な行動はとらず、相手の様子を伺う様に体制を取るのは彼らなりの成長の表れなのかもしれない。

 

 

「ドモン・カッシュ、その半死半生の姿で何処まで耐えきれるかな?」

「俺は…ぐっ!?」

「ドモン!」

 

 

熱い、全身の血が沸騰しそうだ。

 

俺の意思が…呑まれ…る?

 

違う、呑まれてなるものかぁああ!!!

 

 

「俺は貴様を倒し、必ずレインを救ってみせる!!」

「持ち直したか、素直にDG細胞に身を委ねて居ればいいものを…」

「ウルベ、貴様の挑発は俺には通用しない!」

「ならば、掛かってくるがいい…新生シャッフル同盟共よ!」

 

 

******

 

 

戻って外部では…

 

ドモン達が動力炉に辿り着いたのを切っ掛けにこちら側の攻撃が激しくなってきた。

 

そして鏡に映る影もまたその姿を現した。

 

 

「ヴィンテル、貴様…!」

「アクセル、私が見込んだ時よりも随分と腑抜けになったな。」

「腑抜け?違うな。」

「?」

「俺は知った、理由も無く戦いが続く世界に未来はないと!」

「永遠なる闘争はお前の望みでもあっただろう!」

「それが産み出す結末を知った以上、俺はお前達を止める。」

「アクセル…それが貴方の選んだ道なのね?」

「ああ、レモン…旅立ったお前の子供達は無事に無限の開拓地で根付いた様だぞ?」

「えっ!?」

「ハーケンとアシェンもラミアも別の未来を生きる事を望んだ、お前はどうするんだ?」

「私は…」

「作られた者が戦いの中でしか生きられないと言う事はない。」

「どう言う事?」

「誰であれ武器を取る事も捨てる事も出来る、後は自分次第と言う事だ。」

「…」

「アクセル!貴様も我々の野望を止めると言うのであれば全力で掛かってくるがいい!!」

「そのつもりだ…これが俺の後始末の付け方だ、これがな!」

 

 

アクセルもまた己の決着を付ける為に立ち向かっていた。

 

 

「全機、ヴィンテル様とレモン様をお守りするぞ!」

「そうはさせない!」

「!?」

「貴方達がこの戦いを引き起こしたのなら…超機人の操者としてそれを止めて見せます!」

「クスハ、俺が虎龍王で攻める!」

「判ったわ、ブリット君。」

「ロサ!全弾発射の大盤振る舞い、遠慮は無しよ。」

「了解です!」

「僕も止めてみせます!」

「こんな戦い早く終わらせなきゃ、ダーリン!」

「ああ!!」

 

 

エキドナ率いるWシリーズの部隊に対してクスハ達が対応。

 

構成はエルアインスとラーズアングリフ、そして黒いアンジェルグである。

 

だが、戦闘続行の中でデビルウルタリアにも変化が起き始めていた。

 

何もかも飲み込もうとデビルウルタリアは周囲の機体に襲い掛かって来たのだ。

 

 

「ハスミ!」

「!?」

 

 

私もこのガンダムヘッドに吹き飛ばされ、ウルタリアの内部に墜落する事となった。

 

 

「いっつう…ここは研究施設か何かかしら?」

 

 

先程の場所からデビルウルタリア内部の最底部まで叩き落された。

 

一瞬研究施設か?と思ったが、何かの保管庫らしい。

 

そしてエクリプスにめり込む様に何かの結晶が付着していた。

 

 

「これは一体?」

 

 

エクリプスの手で触れると私の意識はブラックアウトした。

 

それが一瞬だったのか不明であるが…

 

見た事のある光景の中にいた。

 

 

「これが…こんな所にあるなんて!?」

 

 

これが私に与えられた新たな試練なのか?

 

それでも受け入れよう。

 

私もまた聖戦に赴く運命ならば!

 

 

 

「私は受け入れるわ!知りたがる山羊のスフィア!!」

 

 

それから数十分後、私は元の場所に戻っていた。

 

 

通信機からは例の発言の真っ最中だったらしい。

 

 

はい、皆様ご一緒にご清聴ください。

 

 

「俺は、お前が…お前が…!!」

「!?」

「お前が好きだぁぁあ!!! お前が欲しいぃぃぃ!!! レイィィィン!!!!」

 

 

何ともまあ木っ端微塵に成りそうな恥ずかしい台詞ですよね。

 

前世のリアルタイムで聞いた時はこっちまで恥ずかしくなったよ。

 

でも、悪くない響きです。

 

 

「さあ、最後の仕上げだ!」

「ええ!」

「二人のこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと!」

「轟き叫ぶ!」

「ばぁぁぁぁくねつッ! ゴッド! フィンガー!」

「石!」

「破!」

「ラァァァブラブ! 天驚けぇぇぇぇん!!!」

 

 

二人の愛の輝きが悪魔を貫いたのである。

 

デビルウルタリアは機能停止し第三エリアの荒野に墜落。

 

シャドウミラーの大部分も掃討。

 

一つの戦いに終わりを告げたのである。

 

 

=続=

 




受け入れた先に待つ者。

代償は重くのしかかる。

次回、幻影のエトランゼ・第二十二話『代償《ダイショウ》』。

この代償は次への反逆の時である。


=今回の登場用語=


※精霊石の正体
エルンスト機関に保管されていた精神エネルギー結晶の一つ。
その内の一つの真の姿は念動力を蓄積する事が可能な念晶石。
デビルウルタリアにて偶然発見した結晶は念神・エクリプスが取り込んだ事(正確には不可抗力でめり込んだ)で稼働限界の心配が無くなった。


※知りたがる山羊
後のZ事変で大きく関わるアーティファクトの一種。
エルンスト機関に保管されていた先程の念晶石にそのスフィアが入り込んでいた。
偶然にもエクリプスが念晶石を取り込んだ事でハスミがスフィア・リアクターとして選ばれた。
反作用の代償により『無尽蔵の知識の収集』で必要のない情報まで取り込む始末である。
最初のステージの為、まだ軽度であるがステージが上がる毎にSAN値減少に悩まされる事となる。
本来の持ち主となるべき存在はとある人物の闇を垣間見た事で自壊したらしいがこの世界ではどの様な結末を辿るかは不明である。
尚、今世のハスミの生誕日は双子座の域であるが前世での生誕日は山羊座の域に入るので関係していると思われる。

次の章に移る関係で見たい話。

  • エンデ討伐
  • アンチスパイラル戦
  • オリ敵出陣

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