幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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誰にでも隠し事はある。

これはその一つに過ぎない。





※初見の方は次の話へ。
※周回済みの方はそのまま閲覧してください。


隠の付箋

 

地球断絶事件の最中、第四エリアのとある無人島にて。

 

 

******

 

 

「さてと、今後…どうするかな?」

 

 

南国の無人島の浜辺で不釣り合いな白のスーツを着用する男性。

 

彼の名は孫光龍、バラルを統べる者にして強大な念の力を持つ念動者である。

 

 

(身の振り方を変えようとしたのはいいけど、どうも僕らしくないね。)

 

 

十数年前、君を失い。

 

君を失ったのと同時に大切なものを手放した。

 

そして僕は『混乱』を齎す者へと戻った。

 

僕に光なんて似合わないのだろうか?

 

あの時、君が見せてくれた光はとても心地が良かった。

 

例え、君が何度生まれ変わりその記憶を失っていようとも…

 

僕は君から貰った欠片で何度でも探すよ。

 

そして物思いに耽っていた僕の目処前にあの子が現れた。

 

 

「この気配は…!」

 

 

目処前の砂浜に突如落下して来たAM。

 

機体の損傷は酷く、特にコックピット部分が半分潰れかけている。

 

 

「生者が出るか死者が出るか…」

 

 

僕はコックピットブロックのハッチを引き剥がした。

 

そこに居たのは血濡れのパイロットスーツを纏った女性だった。

 

所々、スーツは引き裂かれ脇腹には破片が刺さり出血が酷かった。

 

ヘルメットもひび割れていて中を覗き込める状態ではない。

 

僕は安否確認の為にそのヘルメットを外した。

 

 

「!?」

 

 

彼女に意識はない、息も辛うじてしている程度。

 

額はバイザーの破片で切ったのか出血が続いている。

 

だが、その顔は忘れる筈もなかった。

 

彼女が死を覚悟してでも守ろうとした子なのだから。

 

 

「蓮華、あの時の約束を守るよ…この子を僕の命に代えても護ると。」

 

 

僕はこの子をコックピットブロックから連れ出した。

 

そして無人島の奥地へと移動を開始した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

無人島の奥地、南国由来の密林がこの洞穴を隠していた。

 

僕はそのままあの子を連れて洞穴の奥へと入って行った。

 

急がなければと…

 

それだけが僕の歩みを早くさせた。

 

そして最深部に到達した直後、僕は答えた。

 

 

「眠っている所、申し訳ないけど目覚めて貰うよ…霊亀皇。」

 

 

旧西暦時代、二度目の世界大戦が始まる前の頃。

 

僕はこの四霊の超機人・霊亀皇でオーダーと激戦を繰り広げた。

 

その戦いから数世紀経った今でも眠りに就いている。

 

L5戦役で戦死した死者達の魂を喰らいながら目覚めるその時まで。

 

だが、それも悠長としている事は出来ない。

 

 

「力を貸して欲しい、この子を救う為にね。」

 

 

霊亀皇は僕の声を聴き届けたのか、目覚め始めた。

 

本調子とは言えないが、この子を救う為の力は使わせて貰おう。

 

 

******

 

 

霊亀皇の最深部、かつてここから僕は霊亀皇を操った。

 

その一部には前の戦いの名残が残っている。

 

V・Bことヴァレリー・フォン・ブランシュタイン。

 

かつてそのヴァレリーを収めた場所にあの子が眠っている。

 

機人大戦の折に医療目的の為に残された技術。

 

それがあの子を救う唯一の方法だった。

 

 

「時間は掛かるが、これしか方法はない…」

 

 

呼吸は安定したらしく、一定のリズムで溶液に気泡が混じっていた。

 

傷は完全に塞がっておらず、内部の溶液に微量の血液が混ざり合っている。

 

そこへ収めてから数時間が経過しているが、傷の治りは現代の技術を通り越している。

 

何もしなければ出血多量でこの子の命はなかっただろう。

 

先に額の傷が無くなり出血が止まるとこの子の顔立ちが彼女に瓜二つなのが判る。

 

まだ何も知らない赤子だったこの子が今では戦場に立って戦っていた。

 

蛙の子は蛙と言うのか運命は僕らを引き合わせた。

 

僕らは未来永劫戦い続ける宿命なのかな?

 

もしも彼女が居れば『どんな世界にも『永劫』と言う言葉はないわ。』と同じ事を話してくれるのだろうか?

 

 

「僕を許してくれとは言わない、だが…あの子を傷つけた相手だけはねじ伏せよう。」

 

 

所々に赤で染まった白いスーツを纏ったままの孫光龍は己の手を握り絞めた。

 

握り絞め過ぎて血がにじみ出ていたが気にしていない。

 

彼の表情は無表情だったからだ。

 

それは殺意の籠った危うい意思でもある。

 

 

「こんな僕にも熱く滾る意志があるとはね…」

 

 

彼の行動を他所に胸元の白百合は静かに揺れた。

 

 

=続=




<おまけ>


ハスミ「あの…傷の処置をしてくれたのは有難いのですが…」
光龍「ん、どうしたんだい?」
ハスミ「単刀直入に聞きます…見たのですね?」
光龍「ああ…さすがに脱がさないと傷の処置が出来ないからね、アハハ…」
ハスミ「では、一発殴らせてください。(ニコ」
光龍「まあ、そう来るよね。」


その後、孫光龍の右頬に強烈な平手打ちが撃ち込まれたのは言うまでもない。


光龍「色々と酷い。」
ハスミ「グーでないだけマシと思ってください。」


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