幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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一つの敗北は次への再起。

だが、忘れるな。

これは偶然ではなく必然が重なった。

定められた生還である事を。




第二十五話 『来転《ライテン》』

キョウスケ、エクセレン、ハスミ、キラのMIAから二週間が経過。

 

訓練を受けていたカガリ達の護衛についていたATXチームは前回の通りであるが…

 

キラ・ヤマトの場合は黒のカリスマが放った別動隊の奇襲からカガリら四名を守る為に囮となり行方不明となった。

 

消息を絶った海域から発見された残骸から全員死亡したと判断され捜索は打ち切られつつあった。

 

ATXチームはアクセル・アルマーが隊長代理を務め、同チームのサポートロボットであるロサ・ニュムパは諜報部所属のテンペスト・ホーカーが預かる事が決定。

 

一つの波は流れを変えて更なる波が迫りつつある事を彼らは知る由も無かった。

 

 

******

 

 

四名の行方不明から一週間後。

 

地球近海に置いて…

 

 

対インスペクター並びにザフトの動きを探る為に行動していたノードゥスの宇宙組の部隊。

 

宇宙部隊の前に突如とある現象が起こったのである。

 

その状況にいち早く気が付いたのは再編されたナデシコのクルーである。

 

この現象をボソンジャンプと酷似していると思ったからである。

 

演算ユニットの一件で初代ナデシコの意思を継いだナデシコBのブリッジにて会話が始まる。

 

 

「艦長、部隊の進行ルート前方に転移反応を感知しました。」

「ルリちゃん、転移と言ってもあれはボソンジャンプでもないよ?」

「はい、恐らくは私達の知らない異なるエネルギーによる転移と思います。」

「ルリちゃん、他に反応は?」

「待ってください…これは。」

「どうしたの、ルリルリ?」

「スクリーンに転移反応のあった場所を映します。」

 

 

ルリはオモイカネにナデシコのブリッジ前方のスクリーンに映像を映し出す様に指示を出した。

 

映し出されたのは撃墜されたアルトアイゼン一機のみだった。

 

 

「あれはアルトアイゼン!?」

「ルリちゃん、ブライト艦長達に通信を繋いで。」

「準備は出来ています。」

「ブライト艦長。」

『ユリカ艦長、君達も見たか?』

「はい、」

『アルトアイゼンの位置はこちらが近い、回収は我々に任せてもらおう。』

「了解しました。」

 

 

ユリカはルリに指示を出し、同じく行動を共にしているブライト艦長らが指揮するラーカイラムに通信を送った。

 

そしてアルトアイゼンの回収は向こうが引き受けると言う事で周囲の警戒に当たる事となった。

 

 

「…(俺達が地球を離れている間に一体何が起こっているんだ?」

 

 

アルトアイゼンのパイロットであり地球で行動中のATXチームの隊長代理であるキョウスケの安否が不明と言う現実を突きつけられた。

 

この場に居た記憶を所持するアキト達はその状況に不安と言う感情が脳裏を過ぎるのだった。

 

そして同時刻、次元震に巻き込まれたキラもまた桃色の歌姫の元で目覚めようとしていた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

そしてここでも目覚めようとしていた。

 

それは最悪の展開でであるが…

 

 

 

「…」

「エクセレン、ワタシトオナジモノ…」

 

 

植物にも生物にも似た物体に絡め取られたヴァイスリッター。

 

コックピットの中でエクセレンはただその様を見ていた。

 

青い瞳ではなく赤く澱んた瞳でただ見続けていた。

 

 

「コンドハ…キョウスケ、アナタヲ…」

 

 

変貌したエクセレンを見続けるナニカが囁いた。

 

 

「テニイレル。」

 

 

徐々に形作られる影の存在に対してエクセレンはただ虚ろのままだった。

 

 

 

—モトメル—

 

 

—セイジャクノセカイ—

 

 

—カノチニ—

 

 

—モドルタメニ—

 

 

—トビラヲヒラクモノ—

 

 

—テニイレルタメニ—

 

 

そして巨大な何かがその様を見届けていた。

 

 

******

 

 

私が目覚めたのは行方不明になってから二日目の事だった。

 

 

「…」

 

 

何処かの部屋に寝かされているらしく動こうとすると身体の節々が痛む。

 

ふと思い、利き手を自分の元に持ってくると包帯が巻かれている。

 

どうやら私は負傷している様だ。

 

 

「中尉、少尉…」

 

 

二人を救えなかった。

 

判って居たのに奴が出るタイミングを見誤った。

 

また無限力の仕業らしい。

 

あの子達を救った代償とでも言うのか?

 

 

「…(黒のカリスマが現れた以上、ノードゥスの部隊は今後も狙われるわね。」

 

 

可能性とすればZのあの展開が起こる可能性がある。

 

避けようとしていたのに避ける事が出来なさそうだ。

 

その時、室内のドアを開ける音と共に入室する人物に私は驚くしかなかった。

 

 

「どうやら気が付いたようだね。」

「っ、貴方は…!?」

 

 

私は、この時点で一番逢いたくない人物に救われた様だ。

 

白いスーツの男。

 

名は孫光龍。

 

正式名称はアクラヴ・アヴォット。

 

後の封印戦争や終焉の銀河に関わるキーパーソンの一人だ。

 

 

「…」

「随分と警戒されているね、一応…君の命の恩人なのだけど?」

「助けて頂いた事には感謝します、名前は何とお呼びすれば…」

「ああ、僕の名前はアラン・ハリス…しがない武器商人さ。」

「私は地球連合軍極東方面軍戦艦ハガネ配備隊・ATXチーム所属、ハスミ・クジョウ少尉です。」

「ご丁寧にどうも。(う~ん、うまく隠しているみたいだけど怪我のせいか所々から念が漏れているね。」

「…(念の気配を隠す気ゼロってこの人何考えているのか全然分かりません。」

「やっぱり傷のせいか疲れ気味の様だね。」

「色々とあったので…」

「それにしても吃驚したよ、急に空が裂けたと思ったら君が機体ごと僕のプライベートビーチの浜辺に堕ちて来たからね。」

「お手数をお掛けします。(え、貴方プライベートビーチなんて持ってたの!?」

「さてと、冗談は程々にして…本題に入らせて貰おうかな。」

「本題?」

「こう呼べば君も話に乗ってくれるかな?」

 

 

アラン・ハリスは人を煽る様な笑みで答えた。

 

 

「君は蒼のガンエデン、アシュラヤー・ガンエデンの巫女だろう?」

「!?」

「君が継承を済ませているかは不明だけど、代々クジョウの乙女は当主に成ると同時にアシュラヤーの巫女を継承する事が掟だったからね。」

「…」

「勿論、ビッグファイアこと紅のガンエデン、バビル・ガンエデンの事も知っているさ。」

「何故、その話を私に…?」

「忠告されたからだよ、君の事を含めて…そのビッグファイア本人から。」

 

 

先程の表情とは打って変わり原作の彼とは似ても似つかない真面目な表情へと変わった。

 

 

「君は知っているんだろう?南極に眠る奴の正体やここ最近この世界を監視している奴らの事について。」

「大雑把にですがね、アラン・ハリスさん…いや、孫光龍さん。」

「おやおや、僕の正体もとっくの昔に看破されていたんだね。」

「ええ、正確には白のガンエデン…ナシム・ガンエデンの傘下でしたか?」

「正解…君も神の子と同類だし、真名で呼んでも構わないけど?」

「それはさておき、貴方に会ったら直接言って置きたい事があったので…」

「何かな?」

「この前、妖機人・烏賊八帯を嗾けたのは貴方の差し金か?」

「随分と…懐かしい名前が出たものだ。」

「どうなのですか?」

「悪いけどそれは僕じゃない、第一彼らは数百世紀前にオーダーによって倒されたし復活させる気も無かったよ?」

「…(光龍が関与していないと言うのなら、奴らは魔族の邪気か何かで復活したって事か?」

 

 

そうは言われても彼の性格上…

 

全くもって信用できない。

 

情報が少ない以上は半信半疑程度に留めて置こう。

 

 

「それと老婆心程度に言って置くけど総人尸解計画…辞めて置いた方が身の為よ。」

「!?」

「あれには決定的な欠陥があるからね。」

「どういう事かな?」

「もし成功したとしても南極に眠る奴らと戦えるのか?そもそもバラルの加護が地球全域まで届かないのに?」

「…それを僕が信じるとでも?」

「信じる信じないは貴方次第、私も忠告する程度だけ教えておくわ。」

「…(ビッグ・ファイアも君も神の子以上にこの先を見ているのか?」

「もしも仕掛けるのなら全力で止めてあげるけど?」

「結局は僕らにその計画を捨てろと言いたいのだろう?」

「貴方達の総意を捻じ曲げる様で悪いけど、でもね…犠牲となった同胞を思うなら別の策を考えるのもアリかと思うわ?」

「…考えておくよ。」

「じゃ、いい事教えてあげる…遥か昔の私達と共に南極の門を封印した存在は月の中で傍観しているわ。」

「ふうん、彼らもしぶとく生きてたんだ。」

「ただ穏やかではないわね、いずれ内乱が起こるのは目に見えているし。」

「何処もハッピーとは言えないね。」

「貴方も知っているのでしょう?茶番を焚き付けている存在に…」

「おやおや、あの連中もしぶといね。」

「話せるのはここまで、後は自力で辿り着いてください。」

「残念、もっと聞きたかったよ。」

「これ以上は奴らの抹消対象に入りかねませんよ?」

「う~ん、僕としては奴らを放って置くつもりはないんだよ?」

「果報は寝て待てと言ってもですか?」

「君に策があっても教えてはくれないのだろう?」

「目処前の脅威を叩くまでは今は何とも言えませんからね。」

「正確には僕らの敵かな?」

「そうとは言い切れませんよ?」

「どう言う事だい?」

「彼らは交わってしまった、いずれ変異するでしょう。」

「その変異とやらが起こればいいね。」

「起きますよ、必ず。」

 

 

ネタバレ覚悟で彼と話した。

 

これから彼がどう出るか。

 

唯のトリックスターでない事を祈りたい。

 

 

「さてと、次の本題に入ろうか?」

「…」

「僕はこのまま君をバラルの園へ連れて行こうと思う。」

「連行してどうするつもりですか?」

「君の想いを彼女の前で語って欲しい。」

「…」

「これで説得が出来なければ敵同士って事になるかな。」

「だとしても今の状態では彼女を納得させるには材料が足りない。」

「この僕の離反を含めればそうは言ってられないと思うよ?」

「どういう事ですか…!?」

「実は言うと僕は彼女に愛想が尽きてね、君に下ろうかと思っているんだ。」

「!?(え、ちょ!?」

「驚かなくていいよ、僕と四霊の超機人『応龍皇』が君の仲間になるんだ。」

「…驚く事だと思いますが?(あーっと色々とすっ飛ばしています!!」

「ここで僕を受け入れてくれるのなら…僕は君をバラルの園に連れて行かずに君を元の仲間の元に帰れるように手助けするよ?」

「拒否権はないか…」

「どうする?」

「言って置きますが、私が抱える案件は余りにも強大で凶悪なものばかりですよ?」

「まあハッピーに考えれば何とかなるよ。」

「そうですか…(そのポジティブ加減には色々と呆れますね。」

「さあ、どうする?」

 

 

物凄く先行き不安な申し出なのですが…

 

目には目をトリックスターにはトリックスターを。

 

奴を出し抜くには彼の力が必要だろう。

 

元々根は悪い人じゃないのは設定にもあったし…

 

新たな可能性を信じてみよう。

 

 

「では、絶対に虚偽なく私を裏切らないとその胸の白百合に誓えますか?」

「…誓おう。」

「判りました、今より貴方は私の仲間です。」

 

 

それなりの代償としてV・Bの花に誓わせた。

 

彼女には申し訳ないけど、彼をこのまま放置すればあの悲劇が待っている。

 

それを防ぐ為にも新たな策を使う事にする。

 

後は信じた流れに私は進むだけだ。

 

 

=続=




異例の共闘。

それは奇跡なのか必然なのか?

それは誰にも判らない。


次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》前編』。


新たな可能性は更なる可能性を見出す。

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