そして償うべき戦い。
歩み寄る絆。
絶望を覆す作戦は動き始める。
今回の話を始める前に私こと男爵の過去を少し話させて貰おう。
今の私が仮面の敗者として生きているのも彼らとの出逢いが遭ったからだ。
そして私の中に残る記憶もまた今の私を形作っているのだろう。
黒き記憶に触れ、そして彼らに未来を託した私が望んでもいない破滅への未来を迎えた世界の記憶。
それが産まれ持って受け継いだ前世の私が持つ記憶だ。
その結末を迎えない為に私は何度も事を起こそうとした。
だが、反って裏目に出てしまう。
その結果がリクセント公国の一件である。
上層部を抑えきれず、私はあの国を戦火に巻き込んでしまった。
私が敗者を望んだからか?
何も変えられないのか?
諦めかけたその時、彼らは現れた。
彼らはホルトゥスの使いと名乗り、私を助けに来たと説明した。
一度は疑ったが…私は例の組織による裏工作の件で死を待つ身。
だからと言って、ただ指をくわえているつもりはない。
私は部下共々死亡したと言う形で彼らに着いていく事にした。
そして彼らの当主代理である『ブルーロータス』に出遭った。
幾つか興味深い話を聞く事となった。
彼女の話に寄ると前世の記憶を持つ者達を総称してメモリーホルダーと呼称されている事。
私と同様に過去の記憶を持つ者達が独自に集まり、世界を変えようと動き始めている事。
そしてこの世界に例の組織が侵略を開始している事を告げられたが…
この話の中で一つ気掛かりな事があった。
それは私と同様に記憶を持つ者が複数存在している事である。
何故か?と私はブルーロータスに問いを投げかけた。
彼女はこう話した。
『当主曰く…この集約された世界に残された希望の欠片、もしも失敗すれば次はない。』
我々の記憶が希望の欠片と言うのだ。
そして失敗と言うのは我々が破滅の運命を覆す事が出来なければ次はないと理解した。
それ程までに我々の世界は危機に瀕していると言う事か。
『当主はその運命を変えるべく動いています、ですが…世界の意思の中には面白半分で人の一生を操ろうとしている者も居るのです。』
延々と続く破滅の未来を変えようとするアカシックレコードの意識集合体。
本来在るべき未来へ進ませようと邪魔をするのが無限力と呼ばれる意識集合体。
二つの意識のぶつかり合いが今も続いている。
そして世界の裏に潜む高次元生命体。
その中でも己の我欲の為に真化を遂げたのがバアルである。
永く続く戦いの中でバアルと呼ばれる存在達が力を強めてしまった。
そのバアルの力を強めてしまったのが疑似的真化を遂げた『御使い』達だ。
早急に奴らを鎮め、世界の均衡を正さなければ再び破滅の未来が待ち受けている。
陰陽は常に等しく。
因果関係を平等にしなければ世界は再び崩壊するだろう。
『当主はこの状況に対しバアルを根絶とまでは行きませんが、奴らを鎮め…世界の因果関係を元に戻す為に動いています。』
初回であれば唯のホラ吹き話と思われるだろう。
だが、私にはこれが真実と判る。
英知とも呼ばれる黒の記憶に触れた前世の自分の記憶がそれを物語っているからだろう。
だからこそ、彼女達と共に戦う事を願い受け入れた。
黒の記憶に取り込まれた後に起こった悲劇を食い止める為に。
さて、この敗者の戯言はここまでとしよう。
こちらが招いた客人達を待たせる訳には行かないのでね。
******
指定時刻、第四エリア内の無人島の一つにて。
「よく来てくれた、諸君らがノードゥスの使いか?」
「その通りだ、エージェント・バロン。」
無人島の浜辺で男爵とその部下、ノードゥス代表としてギリアムとアクセルが対面している。
「早速だが、こちらが渡した手紙の要件は受け入れて貰えるだろうか?」
「男爵、我々と共闘すると言うそちらの要件はこちらも了承したい。」
「元々リクセント公国の奪還はこちらも考えていた所だったからな。」
ノードゥスはホルトゥスの情報によって何度も救われた。
今回の要件の受け入れは今までの恩返しの意図も含まれていた。
「そちら側にも悪い知らせではない筈だ。」
「…こちらの提案を受け入れてくれて感謝する。」
「男爵、こちらで考案した作戦内容だが…」
ギリアムは前もって考案した作戦プランを男爵に提示した。
それを見た男爵は幾つかの作戦の要点を取り入れ、一つの作戦に纏め上げた。
勿論、公国に取り残されている公国関係者達の安全を最優先にする事を条件にしている。
「この作戦を成功させるには敵に奇襲を仕掛け公国外へ誘き寄せるチーム、手薄になった公国へ潜入し人質の解放と護衛をするチーム、この二つのチームが重要になってくる。」
「公国内突入に関してはこちらにメンバーの伝手がある、そのメンバーと合同で作戦を行っては貰えないだろうか?」
「判った、こちらでも選出部隊を調節しよう。」
進められる公国奪還作戦。
反逆の時は近い。
そして更に時は流れる。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
ノードゥスの部隊とホルトゥスの男爵率いる部隊が公国奪還作戦を決行を開始する頃。
その頃、第四エリアを分断中の障壁前に向かう影。
それは巨大な青い龍がその巨体をうねらせながら雷雲の中を移動していた。
「確かに連中の結界が弱まっているけど、これは無茶振りすぎないかい?」
「何故です?それだけの力があるのですから…使う時に使わなければ錆付きますよ。」
「ハハッ、そう言う所は君のご先祖様と変わらないね。」
あーもしかして…
私のご先祖様も色々と何かしちゃった系ですか?
本当にうちの家系はやらかし放題してくれますよね。
その子孫としてツッコミを入れたいです。
「…お聞きしてもいいでしょうか?」
「ん?」
「私の先祖は…どんな方だったのですか?」
「そうだね、印象強かったのは旧西暦時代の一回目の世界大戦後だったかな…その頃の君のご先祖様は時代が時代のせいか男装の麗人として生きていたよ。」
「安定の亭主関白の男尊女卑な時代ですね。」
「ちなみに僕が手助けしたグリムズ家、当時の連中が呼び出した雀武王をちゃっかり奪って搭乗していたけど?」
「…(脳裏に仏壇の鐘の音が響きました。」
「元々、君の家系は古くからある念者の家系の中でも強念者の家系だったからね…魂を喰われる事なく使役していたよ。」
「そしてバラルと敵対した…ですか?」
「そうなるね、結局僕らが今の時代に復活せざる負えないまでに致命傷を与えてくれたのもオーダーとして戦った君らのご先祖様達だったよ。」
「怨恨…そう言う感情はなかったのですか?」
「そうだね、僕もどこか完敗したなって気持ちもあったよ…それでもあそこまで暑苦しい思いは抱けなかった。」
「そうですか…」
「さて、昔話もこの辺で。」
第四エリアを仕切る障壁の前へと辿り着いた。
エリアを遮る障壁、肉眼では認識できないがある程度の能力者であれば判る範囲のモノである。
「それでこの障壁、僕の応龍王の力でも壊せるらしいけど…壊したら相手にバレそうだけど?」
「どうでしょう、障壁を壊して潜入を考えている連中なら私達以外にも居ますけど?」
「成程、その連中と誤認させて潜入するつもりかい?」
「潜入どころか後追いですよ。」
「おやおや、もう潜入している輩が居るのかい?」
「ええ、自らを監査官と名乗っている連中です…どっちが監視されているのかも解らないのにね。」
「うーん、君が言うと何か企んでいる様にしか聞こえない。」
「バラルを裏切った貴方にだけは言われたくもありませんけど?」
「耳が痛いね。」
「まあ連中には少々やり過ぎな面があったのでここら辺で痛い目に遭って貰うつもりです。」
「どういう事だい?」
「連中、外宇宙の色んな所にご迷惑を掛けています…それも最悪な顛末で。」
「だから裁きを下すと?」
「私は唯の人間です、神じゃありません。」
「これは失敬。(ま、僕にすれば君も神様である事は変わりないんだけどね。」
監査官ことインスペクター。
正式呼称はウォルガと言う。
理由は明かせないが、生命の発祥の地とされる地球を監視する為に連中の上層部に当たるゾヴォーク…枢密院が地球に送り込んだ連中の事である。
今回はウェンドロと言う見た目爽やか美少年、中身はドロドロ腹黒我が儘ボクちゃんと言う傲慢さバリバリの司令官が派遣されている。
勿論、話し合いの余地なし。
理由は察しの通り、INと言えば画面外の皆様方なら判るだろう。
既に乗っ取られている。
時期はホワイトスターを掌握された直後。
恐らく、インスペクター側の彼らは気が付いていないだろうが時間の問題だろう。
これでホワイトスターのシュテルン・レジセイア化は確定した。
そして破壊された残骸がエンドレスフロンティアに流れ…
そこでヴァールシャイン・リヒカイトら亜種達が誕生する。
ヴァールシャイン達は既に倒しているので向こう側での暴走は暫くないだろう。
二回目があるのなら用心しなければならないが…
その流れがまだ来ない以上はEF関連は様子見とするしかない。
「話は変わりますが、機体の件…感謝します。」
「僕のコネが役に立ってよかったよ。」
「まさか、貴方がダニエル・インストゥルメンツ社と面識があるなんて思いませんでしたよ。」
「表向きは武器商人アラン・ハリスで僕は通ってるからね。」
「その縁でこうしてガーリオンの修理の目処がたったので助かりました。」
「それにしても修理と言うよりも改造までして良かったのかい?」
「元々、改修しないと機体性能が私に追いついていない状態でしたし丁度良かった所です。」
「成程、向こうから使い物になりそうにないパーツを引き取ったのはそれか…」
「パーツ自体の出来は良かったですし、後は裏技で調整すれば何とかなりましたよ。」
「彼ら、相当泣きそうだね。」
「そうですかね、使えないパーツを廃棄同然で引き取りましたし向こうの廃棄処分代を浮かせてあげたと思えばいいんですよ。」
「そう言う事にしておくよ。」
FDXチーム結成の要因となったダニエル社。
そことコネを持っていた孫光龍の伝手でガーリオン一機分の部品と廃棄処分予定のパーツを購入。
予算はとりあえず向こうが開発する予定の武装やらのシステムの発展データと引き換えで何とかしました。
買取の時にそのデータを作った相手に会わせて欲しいとか何とかがあったそうですが、企業秘密と言う事で誤魔化して貰った。
バリエーションのデータは余り露出させる訳には行かないので。
その後、目星を付けていた廃棄済みの工場跡地で修理と改造を開始。
一応、前もって作って置いたサポートメカ達を呼び出して作業を進めていたのでどうにか今回の戦いに間に合ったと言う形である。
本当に便利だね、このセフィーロ製のオーブ。
青いタヌキのポケット様様の収納力です。
ついでに廃棄パーツから使えそうな武装も作成。
このチートな発展スキルはお義父さん達に感謝するべきだろう。
テスラ研に居た時もリシュウ先生やジョナサン小父さんに少し教えて貰ったのもあるが…
こんな時に役に立つとは思わなかった。
PTやAMのパイロットになると同時に機体の管理や応急処置等の講義を受けるのが前提だ。
それを受けなければ一介のパイロットは務まらない。
L5戦役時の私やクスハ達は志願兵からだったので訓練を受けつつ講義を受けていた。
必要な知識の講義は真面目に受けるべきだね。
長話はここまでにして話を戻そう。
「敵の部隊構成はシルベルヴィントとドルーキン、レストジェミラにガロイカか…」
「あの数なら何処かに襲撃する予定だったのかな?」
「恐らく狙いは連合軍の各方面基地襲撃だったが…大地震の一件でそれが出来なくなったと見るべきでしょう。」
「こんな状況じゃ連中も偵察するしかないのだろうね。」
「ですが、放って置くつもりもありません。」
「叩くかい?」
「はい、このまま連中を放置するつもりもありません。」
「判ったよ、行きかけの駄賃替わりだ……彼らには僕らの相手になって貰おう。」
「了解です。」
この時、進軍中だったアギーハとシカログはその心に恐怖を刷り込まれる事となる。
雷雲に抱かれた巨大な龍が雷撃にて部隊を一掃したと…
地球に手を出すなと言う彼の忠告が現実のなるとは思わなかったのだろう。
だが、もう遅い。
お前達は天の逆鱗に触れたのだから。
さあ、お膳立てはここまで。
次は水魔の討伐だ。
=続=
巨大な蒼き龍はその雷撃にて海の魔物を一掃する。
それは一つの戦いの終わりでもあった。
次回、幻影のエトランゼ・第二十六話 『共闘《キョウトウ》後編』。
駆け抜けろ月下の空を。