悪魔に囚われた国を取り戻す為に。
魔族よ、お前達の目論見は全て見通されている。
その全てを天撃にて討ち貫け。
リクセント公国奪還作戦決行開始から数時間前。
第四エリアのとある空域にて。
*******
「侵略者の癖に弱いね…君達?」
雷雲と共に雲の間をうねりながら移動する巨大兵器。
かつて地球の守護者としてその力を奮った応龍の化身。
名は応龍王。
「まあ…君達なら力の差は歴然だと判るよね?」
「…(原作同様にえげつない攻撃。」
応龍王より放たれた龍王雷槍。
それは天候操作によって無数の雷撃を生み出し敵を貫く技。
その攻撃の前に成す術もなくインスペクターのレストジェミラとガロイカで構成された部隊は壊滅した。
「そこまでだ、アギーハ、シカログ。」
「メキボス、アンタ今まで何処に居たんだい!」
「こっちも色々とあったんだよ。」
「で、ヴィガジの奴は?」
「奴はEU方面で仕損じて先に撤退している。」
「!」
「どういう事だい!」
「前に俺が忠告しただろ、地球人の戦力を甘く見るなって?」
「…」
「その結果がヴィガジと同じ末路か…あれだけ忠告しておいたってのに。」
「…アタイ達がこんな奴らに後れを取ったとでも言うのかい?」
「この現状ではそう見るしかないだろう。」
第四エリア侵入後に私達が鉢合わせたのはアギーハ達が率いる部隊だった。
アギーハ達の目的は第四エリアの調査、隙あらば点在する地球の軍施設の制圧が予想出来た。
しかし、予期せぬ私達との遭遇によってそれも不可能となった。
と、言うよりもこっちに攻撃を仕掛けたので正当防衛と言う形で向こうの自滅を招いた。
その結果、彼女らの戦力であるレストジェミラとガロイカの部隊を全滅。
残っているのはアギーハ自身が搭乗するシルベルヴィントとシカログのドルーキン。
そして先程現れたメキボスのグレイターキンだけである。
「全く、遭遇した途端に攻撃とは…異星人と言うのはデリカシーに欠けているのかね?」
「それは同感です。」
生き残った自称リーダー達の前にインスペクターの偵察部隊を壊滅させた蒼い巨龍こと応龍皇とバリアコートで姿を隠している機体が対峙している状態は続いている。
「さて、ここまですればこちらの言い分は判りますよね?」
「黙って撤退するか、このまま自滅するか、どちらを選ぶ?」
流石に自分達の状況と敵の言葉にアギーハは痺れを切らせた。
「地球人が!一度の戦闘で勝ったからって調子づいてんじゃないわよ!」
「ああ、そうですか…この場での壊滅がお好みで?」
「そうさね、ここでアンタらを倒せば!」
「…本当に馬鹿ですね。(呆れるほどに」
シルベルヴィントのブースターを加速させ、バリアコートの機体へ突撃させる。
「…(貴方の動きは原作通りですよ。」
「なっ!?」
シルベルヴィントは高機動における戦闘では優位だろう。
だが、その反面防御力が格段に落ちている。
スピード重視に視点を置いた結果だろう。
参考機体がリオン系やサイバスターなだけに判りやすい。
「私も似た機体に搭乗していましたので弱点位は把握出来ますよ。」
高周波ソードで切り刻むつもりだったのだろうが、そのパターンを把握している私にはわかりやすい行動だった。
私は相手の突撃のタイミングの隙を突いて回避しシルベルヴィントのスラスターを破損させた。
「ア、アタイのシルベルヴィントが!?」
「貴方と話をするつもりもないのでご退場願います。」
スラスターの破損により動きの鈍くなったシルベルヴィントに更なる攻撃を仕掛けた。
紫闇の月輪が白銀の風を斬り裂いた。
「シ、シカログ!!」
「!?」
「アギーハ!?」
シルベルヴィントはそのまま爆散し爆炎が収まった後、現れたのはバリアコートの機体。
だが、その機体の手には人影があった。
「…!」
「お前、どうして?」
機体の手に乗せられていたのは爆散したシルベルヴィントのパイロットであるアギーハ。
所々、煤で汚れてはいるが気絶しており無事である様だ。
「そこの緑色の機体の人、この人…貴方の恋人なのでしょう?」
「…」
「今回だけだ、次は無い。」
私はドルーキンのパイロットに回収したアギーハを預けた。
「さて、こちらの力量は分かって貰えただろう?」
「ああ、お言葉に甘えて撤退させて貰うぜ。」
「…」
アギーハの回収を終えたドルーキンとグレイターキンはそのままこの空域を離脱して行った。
「返して良かったのかい?」
「あのまま倒していたら話し合いの余地もありません。」
正直に言えばINのアギーハ達の最後に同情してしまったのが本音だ。
もしも立場が違っていたら解り合えたかもしれないと今でも思ってしまう。
そう思ってしまうとスフィアが反応し、その力の影響でその時の光景が鮮明に蘇ってしまった。
甘いと自分でも思う。
これでも自重してきたつもりだが、何処かで甘さが出てしまう。
私にはまだ覚悟が足りないのかもしれない。
「…所でどうやって倒した機体のパイロットがあの機体のパイロットの恋人だって判ったのかな?」
当然ながら先程の行為に対して質問をする光龍。
私はあらかじめ考えて置いた答えを伝えて置いた。
「それは機体の動きです。」
「?」
「貴方が敵の部隊を一掃した攻撃の際にあの人達は互いに庇い合っていました、それだけです。」
「ふうん、まあ…そう言う事にしておくよ。」
「思ったよりも時間を掛け過ぎました、早くリクセント公国に向かいますよ。」
「了解した。」
二機は空域を離脱し激戦を繰り広げるリクセント公国へと向かって行った。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
そして時は戻り。
ノードゥスとホルトゥス・バロン部隊による公国奪還作戦が開始した。
奇襲する部隊はオクト小隊、戦技教導隊ことゴースト小隊、スペースナイツ、EDF。
手薄になった公国内部に侵入し人質の確保を行うのがホルトゥスの男爵率いる部隊とギリアム少佐率いる特別救助部隊である。
残りは所定の位置で待機し人質救出が完了次第、敵本陣に攻撃を仕掛ける予定だ。
理由は公国を占領しているシードは自らの醜悪な姿に対して綺麗なモノが好きと言う趣向を持っている。
この為、リクセントを奪った理由も公国が美しい国である事と手に入れた国を壊してしまう事を恐れる為に自ら前線に出て来る可能性が多いにあった。
それを利用したのである。
勿論、人質や公国への被害を最小限に抑える事が出来るので今回の作戦は皇女も納得している。
事の顛末を一部知っているからこそ出せる作戦とその提案である。
******
「予定通り、俺達で奴らをおびき寄せるぞ!」
カイ少佐の号令を皮切りにリクセント公国を目視出来る海域へ到達。
敵をおびき寄せる為に攻撃を開始した。
「連中、例の魚共の他にMSやPTまで接収しやがったのか!」
「一筋縄ではいかないでしょうか?」
「今まで戦って来た連中が甘かったのかもしれねえ。」
「中尉、私達は左側の敵をおびき寄せます。」
「判った…タスク、敵が出てきたら加減しろよ!」
「了解っす。」
「ラッセル、アタシ達も少佐達に続くぞ!」
「了解!」
オクト小隊もまたゴースト小隊に続き行動を開始した。
「ラトの奴、大丈夫かな?」
「アラドじゃあるまいし、大丈夫…あの子だって私達以上に場慣れしているもの。」
「ええ、私達もラトに負けない様に進みましょう。」
「了解、姉さん。」
オーブで最終調整を終えた、アラドのビルドビルガー、ゼオラのビルドファルケン、オウカのラピエサージュ。
大地震前にハワイの基地でラトゥーニが稼働テストに協力し完成した機体である。
末妹のラトゥーニの思いが入った機体で夜空を飛翔する。
余談だが、ラピエサージュの原案はアクセル中尉からである。
「ノアル、バルザック、ソルテッカマンの調子は?」
「ああ、例のフライトユニットの調子も悪くないぜ。」
「今まで煮え湯を飲まされていたんだ、空さえ飛べればこっちのもんだ。」
「島に上陸するまでは油断するなよ。」
「解っているさ。」
「じゃ、僕達は先に先行するよ。」
オーブで再会したノアルとバルザック、両名とも今回の戦闘から改修されたソルテッカマンで参加している。
前回のソルテッカマンの利点は地上戦における高速移動と多彩な射撃攻撃。
その反面、フェルミオンの残量が少なくなると無防備になると言う欠点を持つ。
パワードスーツである為にフェルミオンを積載出来る量も限られているのだ。
そこで積載量の増加と攻撃範囲を増やす為に専用武装の作成を前々から検討していた。
そしてオーブで最終調整が終わり、完成したのがこのフライトユニットである。
形からするとストライクの様にエールパックを装着している姿になる。
飛行が可能、そしてフェルミオンの積載量が増加しているのですぐ弾切れになる心配はなくなった。
元々、空はテッカマン、陸はソルテッカマンの形が理想であるがラダム以外の敵の対応策としてこの様な措置となったのである。
そのノアル達と離れ、先に先行するブレードとエビル。
シンヤことエビルは兄であるブレードに話しかけた。
「兄さん、あの事を聞くつもりでしょ?」
「勿論、この戦いが終わったら聞くさ。(聞かなくてはならない、ホルトゥスに預けたミユキやフリッツの事を。」
「僕らを救ってくれた組織だから大事にならないと思うけど…二人の治療は旨く行っているかな?」
「向こうは出来得る限りの治療は施すと約束した、それを信じるしかない。」
「…そうだね。」
託した希望が光る事を祈りつつ二人の騎士は夜空に閃光を描いた。
「Dボゥイさん…俺も負けてられないな。」
その後をもう一人の弟分であるオーガンが追いかけた。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
陽動組の戦闘が開始ししばらく経った後。
リクセント公国内、城に続く地下水路にて。
「俺達、一緒に来た意味があったのか?」
地球防衛軍側より内部に潜入するチームに組み込まれたダグオンチーム。
そのリーダーであるエンがボソリと呟いた。
こんなご時世の為に彼らも対人戦闘の心得は受けていたが…
それが無意味になりそうな状況を見た為である。
「ふん、いくら操られているとは言え…この程度か?」
ノードゥス側より内部潜入チームへと組み込まれたシャッフル同盟のドモン・カッシュが答えた。
「ドモンの兄貴、これはやり過ぎだと思うよ。」
地下水路内に現れたAnti・DCの兵士と恐らく手を組んでいたシャドウミラーの残党兵。
行く手を阻む敵の部隊の中に量産型Wシリーズも含まれていたのが理由だ。
「放って置けば何をしでかすか判らん連中だ、この位どうってことないだろう。」
「そうは言うけど、地下水路の通路内がボコボコだからね。」
「…」
「まあ半分は兄貴じゃない事は判ってるからあんまり言いたくないけどさ。」
「…次は加減する。」
先程の敵部隊の兵士達が某犬○家の様なスタイルで水路に突き刺さっていたり、水路の壁にはエジプトの壁画の様に様々な人型を作っていた。
勿論、この惨状を作ったのは紛れもなく内部侵入チームのドモン達である。
相手も反撃の際に壁に弾痕を作っていたので全てこちらに非があるとは言いづらい。
「この騒ぎで敵に感づかれなければいいのですが…」
「警報装置の類は一切反応していない、恐らくはまだ向こうも気付いていないだろう。」
「ふも、ふももふもふ、ふーもふも、ふもも…ふもっふももふも。」
「えっと『リクセント内の警報装置の位置はシャイン王女からの情報より把握している、まだ反応はない…このまま警備室まで進むぞ。』です。」
「ロサ、翻訳ありがと。」
「つか、何でソースケじゃなくて隊長が着ているんだ?」
「クルツ、作戦を聞いてなかったのか?」
「いや、聞いてはいたけどよ…ボン太くんの中身があれじゃあ。」
「はいはい、そこまで。」
同じく内部突入に組み込まれたミスリル。
メンバーはマオ、クルツ、宗介、そして…オーブで合流したクルーゾである。
ちなみに今回の作戦に導入されたパワードスーツのボン太くんであるが…
お察しの様にクルーゾが着用して使用している。
理由は彼のASがオーブで起こった某モミアゲとの戦闘で使用不能となったので代用としている為だ。
例の如く翻訳機が故障している為、今回はロサが翻訳している。
「私は可愛いと思います。」
「ふーも、ふももっふも。」
「えっ…『ありがとう、後で俺の秘蔵コレクションを紹介してやろう。』ですか?」
「ベン、いい所だけど…そろそろ目的地に到着するよ。」
「ふもっふ。」
「『了解した。』です。」
緊迫する状況下でもいつもの調子の会話で内部突入チームは目的地へと進行していった。
淡々と任務をこなすロサにマオは安堵した様子で話しかけた。
「少しは元気になったようだね。」
「えっ?」
「いくら平気です、って行動しても判るものよ。」
「…」
「急にパートナーだった相手を失ったのよ、そう簡単に割り切れるもんじゃないわ。」
「すみません、ご心配をお掛けしました。」
「いいのよ、ハスミが言う様にそれも人間らしいって事なんだろうね。」
「変ですよね、機械なのに…」
「確かに変だ。」
「宗介、ちょっとアンタね…」
「だが、それがお前なのだろう?」
「私…」
「だったらお前の信念とやらを貫き通せ、ハスミならそう言う筈だ。」
「はい、ありがとうございます…宗介さん。」
「あの唐変木も良く言う様になったものね、あの子の影響かしら?」
「きっと、それが宗介さんの優しさだと思います。」
「ふうん、そう言う事にしておくか。」
宗介の精神的な成長に感心したマオと心の閊えが取れたロサは進む。
どんな事があろうとも前に進む覚悟を決めた。
ロサはその想いを胸に前へと進む。
******※
「よくも吾輩の楽園を!」
リクセント公国への奇襲に気が付き、手に入れた国を死守する為に動き出したシード。
「お待ちなさい、この国は貴方のモノではありませんわ!」
「!?」
奇襲チームと合流したハガネより出撃する金と銀の妖精。
「リクセントの皆、私戻って参りましたわ!」
スポットライトに輝く赤い装甲と紫の装甲のリオン系の機体。
その名はフェアリオン。
「私の国と民を返して頂きます、覚悟なさいませ!」
妖精の羽ばたきの様にふわりと飛翔するフェアリオン。
「行きますわよ、ラトゥーニ!」
「はい、シャイン王女!」
シードに向かって動き始めた二機に攻撃を開始するAnti・DCの機体。
パイロット達はシードによって催眠術を掛けられており、こちらを敵と認識し攻撃を仕掛けて来ている。
だが、敵である以上は戦わなくてはならない。
「一国の主が戦うか、それが何を意味するのか解っているのか?」
「己と他人の血を流すと言う意味で御座いましょう、その覚悟は出来ております。」
「成程、それがその機械人形の色か?」
「そう、この赤いフェアリオンはその証です!」
シードは己の問いかけでシャイン王女が戸惑うかと思ったが、覚悟を決めて戦場に出た君主を迎え入れた。
「ならば、吾輩も本気を出そう…来るがいい!小さき君主よ!」
「シャイン王女!」
「W-I3NKシステム、弾道予知!」
シードの肉体より発射された無数の超重水圧弾をシャイン王女が予知。
ラトゥーニがその情報を元に行動パターンを構築。
「「W-I3NKシステム、シンクロ!!」」
二機は踊る様に弾道を回避しシードへ突撃し攻撃を加える。
「すごい、あれだけの弾幕を避けるなんて…」
「ラトゥーニは兎も角、シャイン王女は初陣なんだろ?」
「それを可能としたのが、フェアリオン両機に搭載されたW-I3NKシステムです。」
プロジェクトTDのメンバーであるツグミチーフよりフェアリオンの機体説明が入る。
説明が長いので要約するが、シャイン王女の予知とその情報を元にラトゥーニが行動パターンを構築すると言う荒行があって成り立つシステムである。
だからこそ二機は『超音速の妖精』となるのだ。
「くっ、護衛の騎士達は一体何をやっておるのだ!?」
シードが語っているのは己が操っているリクセント公国を襲撃したAnti・DCの幹部、アーチボルト・グリムズとワルザック共和国よりリクセントへ公務で訪れていたワルター・ワルザックとその部下達の事である。
自らの護衛としていたが、他のノードゥスのメンバーによって足止めされていたのである。
「ゴルドラン、ワルターの奴の眼を覚まさせるにも!」
「ガツンとよろしく!」
「まあ、死なない程度に程々にね…」
「了解、主達!」
ワルターと因縁を持つレジェンドラの勇者ゴルドランとそれを従える三人の少年達。
「アーチボルド、よもやここで貴様に出遭うとは!」
「ライ、ここは俺達がサポートする!」
「因縁を断ち切るんだ。」
「すまない!」
そしてアーチボルドと因縁を持つSRXチームのライもまた仲間の援護で立ち向かう。
洗脳されてはいるが、奴の搭乗するグラビリオンは一筋縄ではいかないだろう。
「足止めだと!?」
「その通りだ!」
シードに攻撃を加える蒼い髭男と桃色のワルキューレ。
「貴様の様な唯の魚の化け物に俺達が負けるとでも思ったか?」
「吾輩を……化け物、よくも!!」
「なっ!?」
アクセルが偶々シードの逆鱗に触れた事で攻撃の手数が増加した。
「アクセルさん、シードは自分の姿にコンプレックスを持っているんです…あんな事を言ったら。」
「成程、地雷を踏み抜いてしまったが…だが、賭けは勝ったようだな。」
「どういう事ですか?」
「奴は怒りで周囲が見えていない、今がチャンスだ!」
「副長、いえ…隊長、指示を!」
「俺達で王女のフォローに入る、各機遅れるなよ!」
「「「了解。」」」」
この場にいるべき筈のゲストが不在の中で戦闘は続く。
「まさか、ライディース君とここで再会するなんてね。」
「アーチボルド!」
「おっと、動かない方が賢明ですよ。」
「まさか!?」
「ええ、シェルターに避難させたこの国の要人達は爆薬を共に隔離させてあります。」
「貴様…!」
「僕に何かすれば、ドカン!と行きますよ?」
「くっ!」
ライとアーチボルドの会話に割って入る音声通信があった。
『残念だが、貴様の手は無くなったぞ!』
「どういう事ですか?」
『貴方がお話していた爆弾は解除しました、脅迫しても何も出来ませんよ?』
「なっ!?」
『そう言う事、それとおまけがそっちに行ったから精々ボコボコにされな!』
「こんな事が!?」
宗介とロサ、マオの会話の後に何処からか狙撃されるグラビリオン。
「そんな、両腕に異常!?」
「ふもっふ!」
「ね、鼠!?」
グラビリオンの前に現れた鼠ことボン太くん。
「ふももふ、ふもっふ!(ネズミではない、ボン太くんだ!」
毎度おなじみの対AS用グレネードランチャーによる強襲を受けるグラビリオン。
そしてボン太くんの機動性に右往左往する事となる。
先程の狙撃によってメガ・グラビトンウェーブが使用不可能となった為に捉え切れないのである。
「鼠如きにこの僕が…!?」
「アートボルド、ここが貴様の納め時だ!!」
ボン太くんの援護でSRXに合体を済ませたSRXチームの追撃によってグラビリオンは大破。
脱出ブロックに使用されているガーリオンカスタムが出現しなかったので死亡したものと思われる。
そして地平線の彼方で輝く朝日の中で妖精は今宵の踊りを終わらせる。
「「ロイヤル・ハート・ブレイカー(ですわ)!!」」
要約すると『大失恋』と呼ばれるフェアリオンの必殺技がシードに向けて繰り出される。
そしてアンジェルクのイリュージョン・アローとソウルゲインの玄武甲弾がシードを貫いた。
だが…
「こんな事で吾輩の楽園は…!」
「じゃあ、君の夢を終わらせようか?」
朝焼けの空が突如曇天のへと変わり、天より太鼓の音が鳴り響く。
遥か昔の人々はこう語っていた『天鼓が鳴り響くのは乱神の現れる前触れ』であると。
「貴様は!?」
「お久しぶりと言いたいね、水の百邪君。」
「まさか、動き出したのか…かの者達が!」
「その真実を知る事も無く君はここで終わるんだよ。」
雷雲の海をうねりながら現れる巨大な龍。
「坊やは良い子だ、ねんねしなってね…応龍豪雷槍、ドカンと行ってみようか!」
先程のダメージを引きずるシードに逃げ道は無かった。
ただ周囲を巻き込む心配がない海域へその身を移動させたのが丁度良かった。
蒼き巨龍より放たれる雷の天撃と応龍の咆哮は奴の存在を掻き消す様に消失させた。
「吾輩の…らく、エ…ン。」
「…(せめて、静かな海の底で眠りなさい。」
私は奴の最後の姿に心の中でそう答えた。
シードの居た場所より出現した青い光が海域で戦闘を続けていたセイバーヴァリオンに吸収されたのを見届けた後、私達はその場を離れようと念話で会話した。
『目的は完了した、これでいい。』
『そうかい、なら…僕らもそろそろ戻ろうか?』
『ああ。』
シードの撃破と第四エリアの解放を見届けた私達はその場から撤退しようとしたが…
「待て!」
「まだ何か?」
「お前達は何故俺達に手を貸した?」
「そうだね、アシュラヤーの頼みとでも言っておこうか?」
「!?」
「僕らに関わるのはもっと先の事だけど、一応忠告して置こうかな。」
「忠告?」
「貴方達の仲間を襲ったのは『黒き天才』いや『狂気の天災』とも言える存在だ。」
コートで姿を隠した機体の通信から響いた電子音声で語られる真実。
その言葉の意味に反応する記憶を保持する者達。
「まさか中尉達を襲撃したアンノーンの事か?」
「まあ君らの仲間かは判らないけど…機体の装甲に君達の付けているのと同じのマークが入ってたしそうかなって?」
「やっぱり、キョウスケ中尉達は…」
「あの、中尉達は?」
「残念だけど、僕らが向かった頃には既に終わった後だったよ。」
「中尉…」
「こちらの調査の結果、奴が引き起こした現象で何処かへ飛ばされたのは確認したが…その後の行方はこちらでも掴めてはいない。」
「…」
「恐らくこのエリアを解放したのなら各地との通信が可能だろう、それで調査するなり連絡を取り合うなりするといい。」
「だけど気を付けるんだね。」
「奴の眼は鋭い、今後も隙を見せない事をお勧めする。」
それだけを告げると二人は転移し行方を眩ませてしまった。
「奴らは一体(孫光龍は兎も角、あのマントの奴は誰だ?」
「連中は奴の事を知っていた、恐らくは…」
「記憶を持っている、か?」
「そう考えるのが妥当だろう。」
知る筈のない情報を持つ者は記憶を持つ者。
若しくは記憶を持つ者より情報を齎されたのかもしれない。
それはどちらなのかはあの者達が知る事である。
ノードゥスは応龍王とマントを羽織った機体の介入によって予定が狂ってしまったが、無事リクセント公国を解放。
そして第四エリアの支配者シードを撃破する事に成功した。
残るは第五エリアと第六エリア、最深部エリア、そして地球へ着実に進行しているバルドーの対応で魔族との戦いは一区切りを迎える。
だが、それ以外の事にも目を向けなければならない。
未だ侵攻を続けるインスペクター。
動き出したアインスト。
ナチュラルとコーディネーターの争い。
暗躍する黒のカリスマ。
まだ全てが終わった訳ではない。
******
リクセント公国近海より離脱した二人は…
「もう一度聞くけど、良かったのかな?」
「既に決めた事、私は戻る訳には行かない。」
「君を決定付けた何かが彼らの中で起こっていた、それだけは理解したよ。」
「…」
「ま、無理強いはしないよ…僕も君とのバカンスをもう少し楽しみたいからね。」
「残念ですが、そう言える状況ではない様です。」
「どういう事だい?」
「後、数分でこの海域に次元震が発生します。」
「まさか!」
「ええ、これもお遊びの一環の様です。」
「…どうする?」
「私はこの『お遊び』に付き合う必要があります、貴方は以前お話した通りに動いてください。」
「了解したよ、だけど…無理はしない様にして貰いたいね。」
「安心してください、向こうでは姿を晒しても大丈夫の様です。」
「そうか、なら僕も命令があるまで気長に待つよ。」
私は彼と別れた後、迫りくる次元震に身を委ねて次の戦場へと向かった。
=続=
今世に集う、それぞれのスフィアの目覚め。
更なる次元震。
そして引き込まれる新たな世界。
次回、幻影のエトランゼ・第二十七話 『胎動《タイドウ》』。
定められた運命に抗え。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
とある異星人達の会話。
「シカログ、アタイ…負けちゃったよ。」
「…」
「あんな強い奴が地球に居たんだね。」
「…」
「シカログ?」
「…」
「アタイが生きてて良かった?」
「…」
「ありがとう、心配かけてゴメンね//」
ドルーキンのコックピットの中、アギーハをシカログは抱きしめた。
ただ、彼女の無事をその手で実感している。
何かを失う覚悟が出来ていなかった、確実に自分達の勝利を妄信していた。
あのパイロットが語った様に次は無い。
本当にそうだと…シカログはアギーハの体温を感じ取りながらそう思った。
「自分のコックピットでイチャコラするのは構わねえけど、せめて通信を切ってからやってくれよ。」
蚊帳の外にされているメキボスは空しく溜息をついた。