幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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彼女の語る『お遊び』。

世界と言う遊戯盤で行われる出来事。

それは変えてしまった事象への償い。

罪滅ぼしの代償。

過不足なく平等にする為に彼女は奔走する。


第二十七話 『胎動《タイドウ》』

第四エリア解放から数時間後。

 

 

「では、我々はこれで。」

「ご協力に感謝する。」

 

 

ホルトゥスの男爵率いる部隊はホルトゥスの本隊からの指示で引き上げる事となった。

 

男爵は別れの挨拶を各艦長に済ませていた所ある。

 

最後にレフィーナ艦長らが男爵に質問した事から始まった。

 

 

「結局、あの機体は一体何だったのでしょうか?」

「こちらもあの機体に関しては情報を持っていない、恐らく本隊と合流すれば何か分かるかもしれないが…」

 

 

男爵より語られるアシュラヤーの正体。

 

それはホルトゥスを創り上げた存在であり、その意思を代弁するブルーロータスによってホルトゥスは行動している事が判明した。

 

だが、先程現れた機動兵器に関しては情報を彼は持っていない。

 

恐らく不在中に新規参入したメンバーではないかと男爵は推測した。

 

 

「よくある事だ、私達の部隊を含め任務中に新規加入したメンバーはいくらでも居る。」

「そうなのですか?」

「ええ、それにメンバーはそれぞれの素性を明かさない事になっている。」

「…何故ですか?」

「情報漏洩を無くす為だ、個人を特定すれば瞬く間に情報が手に入ってしまう。」

「つまり、各員のコードネーム体制とブルーロータスと言う管理者、アシュラヤーと言う司令塔が居る事で君達の組織は成り立っているのか?」

「単純だが良く出来ている。」

 

 

言葉では単純な成り立ちと答えるがそうではない。

 

ブルーロータスと言うホルトゥスの広告塔と代弁者を立てる事で敵の矛先はブルーロータスに向かう。

 

それはブルーロータスを倒せば組織は崩壊させる事が出来ると敵に認識させる為だ。

 

しかし、それだけでは組織は崩壊しない。

 

これはブルーロータス自身が囮となる事で組織を纏める真の司令官を守る為の措置だからだ。

 

つまり、ブルーロータスが居なくなっても組織を動かす事は可能。

 

司令官の影武者を何人も作ったリガ・ミリティアがその例に挙げられる。

 

恐らくはこれと同じ法則なのだろう。

 

 

「だが、情報収集能力は他の組織と桁違いである事は確かだ。」

「確かに、まるで前もって解っている様にも思えます。」

「急な状況変化にも柔軟に対応していますし…」

「それもホルトゥスの強みでもある。」

 

 

驚異的情報収集能力、迅速な対応、急な状況変化に対する行動、それらに対応する部隊と人材の配置。

 

遊戯盤の駒を決められた位置に配置するが、時には即興の踊りをする様に行動する。

 

組織を纏めるものは余程の実力者なのだろう。

 

 

「私が答えられるのはそこまでだ、これ以上は組織の意思に反するのでな。」

「いえ、少なくともこちらには有力な情報でした。」

「君達の往く道に幸あらん事を祈ろう。」

 

 

男爵は出来得る限りの情報を与え、その場を去って行った。

 

Dボゥイ達は自身の妹と仲間の無事を男爵から確認し治療を終えて地球に戻っている事を告げられた。

 

いつか何処かで再会し合流する事が出来るだろう。

 

その後ノードゥスはオーブから離港、海風が揺れるエリアを後に次のエリアへと出港した。

 

 

******

 

 

そして時間は今回の話に戻る。

 

『次元震』

 

とある平行世界で起こった次元崩壊を期に始まった現象。

 

 

それは時間と空間を越えて起こる。

 

そしてそれは数秒後、数分後、数時間後、数日後、数ヶ月後、数年後、数世紀後など…

 

様々な時と場所で発生する。

 

突然かもしれない、もっと先かもしれない。

 

だが、いずれ起こるのだ。

 

そして望もうが望まなくても、別れ、出逢い、再会の世界へと理は進む。

 

次元震とは混乱の新世界の始まりを告げる証だから…

 

 

「はぁ…」

 

 

皆様お久しぶり、ハスミ・クジョウです。

 

今回の話はここ閉鎖世界パラダイムシティよりお送りします。

 

 

「…(せっかく御洒落なBARに来てるのに未成年だから飲めないのが辛い。」

 

 

身体は十代後半、合計精神年齢五十代位の嘆きが心の中で呟かれた。

 

何故で五十代なのか?

 

前世で死んだ時、私の享年が三十代後半に差し掛かっていた為だ。

 

普通なら結婚して子供を産んで育てていても可笑しくない年齢だろう。

 

私にはそれが出来なかった。

 

愛した人の裏切りで私の中で何かが壊れた。

 

信用出来なくなった。

 

だから一人で自由に生きる事を選んだ。

 

さて、過去話はここまでにして今回の話に戻ろう。

 

 

「いや~いい酒だぜ!」

「ランドさん、ちょっと飲み過ぎでは?」

「折角の仕事終わりの一杯だぜ?」

「ダーリンってばもう。」

「ハハッ、気に入って貰えて嬉しいよ。」

「女の子にはドン引きされているけどね…」

 

 

同じく相席で酒を飲むランドとロジャー。

 

未成年と言う事でソフトドリンクで乾杯しているセツコ、メール、私。

 

酒が入った男性陣に毒舌発言をするドロシー。

 

以上が店の奥で過ごしていた。

 

 

「…(とりあえず、目的の二人には再会出来たのは良かったかな。」

 

 

私もまたドリンクを飲みながら物思いにふけった。

 

ちなみにセツコは私と同じ18歳らしい。

 

ランドさんもメールも齢が若返っていたのでこれも変異の関係かもしれない。

 

 

「そう言えば、ハスミってどこで任務中だったの?」

「配属先の独立機動部隊で各地を転々としていたの、その後に所属チームの隊長達と共にオーブ領近海で妙な機体に襲われて…」

「妙な機体?」

「機体は特機級、名称は不明でパイロットは『黒のカリスマ』と名乗っていました。」

 

 

その名前に眉を動かしたロジャーことロジャー・スミス。

 

彼もまた転生者だろう。

 

 

「黒のカリスマ?変な名前だね。」

「それじゃあ俺達が第三エリアで別れた後に襲われたって事か?」

「そうなります。」

「あの…他の人達は?」

「隊長達も私も転移らしき現象に巻き込まれて行方は分かっていないわ。」

「そう…私と同じね。」

「セツコも?」

「ええ、私もグローリースターと言うチームに配属されていたの…ここに飛ばされた時に隊長達と逸れてしまって。」

「グローリースター、たしか…独自の戦技研究を行っている月面配属チームだったかしら?」

「ハスミ、知っていたの?」

「月のマオ社に知人がいてね、その伝手よ。」

「そうだったの。」

「独特のエンブレムだったし…もしかしてと思って。」

 

 

セツコの制服に刺繍された星をモチーフとした腕章。

 

『栄光の星』を意味する部隊の名に相応しいマークである。

 

 

「それならハスミの所属しているチームも有名よ。」

 

 

交差する刀と銃、それが私の所属するATXチームのマーク。

 

本来なら要る筈のない存在であっても。

 

 

「あれは軍のプロパガンダの関係で知名度が上がっているだけよ。」

「それでも十分な功績よ、『L5戦役』でも立役者になっていた…」

「戦った相手が同じ地球人でも?」

「えっ?」

「あの戦いはエアロゲイターに洗脳された地球人が戦わされていたの。」

「そんな…」

「軍上層部はその情報で更なる混乱が予測されると判断し状況が落ち着くまでは緘口令を敷いたの。」

「そうとは知らずに…御免なさい。」

「ううん、元々その件で軍の情報開示ももうすぐ行われる予定だったの…だから心配しないで。」

 

 

BARで流れるジャズ系の音楽が響く中で手元のグラスの氷がカランと音を立てた。

 

 

******

 

 

少し今回の状況について説明させて貰います。

 

ここパラダイムシティはある日突然起こった次元転移によって切り取られた。

 

そして異空間の海を漂う事となった。

 

幸いにもシティ全域を賄える程度には物資供給を行えていたので人々の混乱はなかったそうだ。

 

だが、私達がここへ落ちて来た事によって再び混乱が訪れてしまった。

 

人々は口々に言う。

 

もしかしたら帰れるのでは?と…

 

生憎だが、今の私達にそんな術は持っていない。

 

何かしらの予兆がない限りは籠の中の鳥状態である。

 

シティで身分証すらない私達を流れ流れで助けてくれたのがロジャー・スミスだった。

 

黒いスーツでビシっと決めており、ネゴシエーターを生業としている方である。

 

うん、説得(物理)ですね。

 

昔ながらの三バカトリオ、全身包帯さん、三〇屋な声の人とバトルを繰り返して早一週間が経過した。

 

先程のBARでの打ち上げも勝利を祝してである。

 

 

「とは、言うものの…」

 

 

何の手がかりのないまま、閉鎖空間のパラダイムシティで過ごしている。

 

元の世界ではどうなっているだろうか?

 

幾つかの布石は残して置いた。

 

暴走する事はないだろうが、今のままではどうする事も出来ない。

 

判った事は転移前のセツコが第5エリアでリガ・ミリティアを始めとした連合部隊と共に行動していた事だ。

 

その中には月光号、例のセクハラ特異点、髭のガンダム、エクソダス、フリーデンなどの聞き慣れた単語を聞く事が出来た。

 

その中にも転生者達はいるだろう。

 

拙い方向に向かっていなければいいのだが…

 

不安ばかりが脳裏を過ぎる。

 

私はここで何をしているのだろう。

 

真相は掴めている、なのに何故動かない?

 

スフィアの存在を知られたくない為?

 

その力を利用される事を恐れている為?

 

確かに山羊座のスフィアはとんでもないパンドラの箱だ。

 

その使い方次第で戦局は一変する。

 

例えば、敵の戦力から点在地点に弱点を一瞬にして割り出せるのだ。

 

スフィアの存在を知られたら最後、私は仲間達の元へ戻れなくなる。

 

スフィアの威力を知った軍は総力を挙げて私を捕えるだろう。

 

それだけは絶対に避けなければならない。

 

たった数名の孤独な戦い。

 

私の脳裏に『永遠の孤独』の歌が流れた。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「君達は聖戦に選ばれた存在、その共鳴が新たな選択を選ばせる。」

 

 

突如、鴉型のコルニクスを引き連れた黒い機体シュロウガが強襲してきた。

 

ランドはメールを救って貰った恩がセツコはデンゼルとトビーを仲間を襲われた怨みが戦場を混乱させた。

 

 

「二人とも、いい加減にして下さい!!」

「ハスミ、でも…!」

「二人が争ったら敵の思うツボだと言うのが判らないのですか!」

「ハスミ。」

「話し合う事は後でも出来ます、今は奴を抑えるのが先決です!」

「彼女の言う通りだ、ここで君達が争っても何の意味もない。」

「…判ったわ。」

「ああ、今は奴を止める!」

 

 

私はロジャーさんと共に二人を説得し何とかシュロウガを抑える方向に持ち込んだ。

 

 

 

「君は…?」

「?」

「そうか、そう言う事か。」

「アサキム・ドーウィン。」

「ハスミ・クジョウ、君は面白いね。」

「…同僚と同じ顔と声で言われてもピンとこないけど?」

「君はいずれ全てを裏切る魔へ染まる、その時を楽しみにしているよ。」

「!?」

 

 

まさか『夢見る双魚』のスフィアを所持しているの?

 

いや、あれは再世編で入手する筈。

 

まさか、また変異が!?

 

 

「さあ、おしゃべりはここまでだ…行ってくるといい。」

 

 

ー最悪の結末に君達は耐えられるかな?ー

 

 

そしてまた私達は飛ばされた。

 

最悪の戦闘の中で私達は覚醒する。

 

スフィアの輝きと共に。

 

痛みと悲しみと苦しみの中で。

 

その身を刻み込まれる。

 

 

=続=

 




帰還した者達。

更なる戦いと思惑。

次回、幻影のエトランゼ・第二十八話 『危機《キキ》』。

さあ、始めよう。

正史へ反逆を開始する。

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