幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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絶望へのシナリオ。

痛みと悲しみと苦しみはそれを物語る。

正義は時として悪意へと変貌する。







第二十八話 『危機《キキ》』

アサキムとの戦いは中途な結果で終わりを告げ、再び次元震に飲み込まれた。

 

そして閉鎖空間にあったパラダイムシティごと元の世界に帰還した私達。

 

それは第五エリア陥落の時であった。

 

 

******

 

 

転移後、距離の関係で救援が早期到着する可能性のある連合軍・アラスカ基地に救助を求めた。

 

その後、色々と手続きを終えて引き取られた私達であったが…

 

更なる戦いの幕開けでもあった。

 

 

『オペレーション・スピットブレイク』

 

 

その言葉が私の脳裏を過ぎった。

 

 

「まさか…『大天使』の他に『王道ではない』の人達も揃っているってどう言う風の吹き回し?」

 

 

またWの介入か、随分とゲームの駒を増やすものですね…無限力様。

 

恐らく、今回の戦いはWにおけるSEED原作シナリオの再現だろう。

 

やはりアラスカ基地はゼーレ主体のブルーコスモスの手が回っている事は予想出来たので下手な事は出来ない。

 

余りにも嫌な予感しかない。

 

あるとすれば、一つ目の巨人の名を関した戦略兵器。

 

あれの発動だけは避けないといけない。

 

今頃…ロゴスの老人連中は金儲けの会合でもしているでしょうね。

 

害悪風情の金の亡者共が、血と涙で染まった汚金をベッドにくたばってください。

 

御爺様が御存命ならそうなされたでしょうから。

 

 

「斬り裂きエド、月下の狂犬、煌く巨星J、乱れ桜、白鯨か…有名なエースパイロット様方が集結とは…」

 

 

やはり、この基地はサイクロプス以外に何かあるわね。

 

如何言う訳か、基地に保護されていたティアリー博士、アークエンジェルと共に出向を命令されたお義父さんとロサに再会出来たので色々とやらかそうと思う。

 

勿論、説教はしっかりと受けております。

 

 

******

 

 

アラスカ基地の一室にて、今後の活動方向を考える為に会議中。

 

救出された私はお義父さん達と共に新造戦艦ドミニオンへの転属命令が出されていた。

 

艦長はナタル少佐、艦長就任と同時に階級が上がったらしい。

 

例の如くあの三人悪トリオと一緒です。

 

再会したら悪態付いてたので軽く遊んで置きました。

 

異世界で人間サイズのアインストとバトっていた人間を舐めて欲しくないので。

 

如何言う訳か三人悪から『姉さん』って呼ばれる事になりました。

 

君達、私より二つ下でしょ?

 

キラは今だ発見されておらず、ずっとムウ少佐や三人悪トリオが奮闘してくれていたのでそれには感謝したい。

 

ちなみにムウ少佐の機体はオーブに救助された連合艦隊がアラスカ基地に納機する予定だったストライクの二号機である。

 

先んじて小父様にデータを渡してオーブで作られる筈だったライトニングパックを装備している。

 

そしてアークエンジェルには不足人員として『煌く巨星J』ことジャン・キャリー氏が配属となっていた。

 

置き去りフラグ確定です。

 

道中一緒だったランドさんとセツコさん、ロジャーさんはアークエンジェルが引き取る形が決定した。

 

そして四人の会話へと戻る。

 

 

「お義父さん、連絡が遅くなり申し訳ありません。」

「いや、その『次元震』が関わっていたのなら致し方ないだろう。」

「うん、ハスミが無事でよかった。」

「それでも、キョウスケ中尉とエクセレン少尉、キラを守れなかったのは…」

「ハスミ。」

「あのキョウスケ中尉らがそう簡単に倒れる筈ないだろう?」

「お義父さん。」 

「身近にいたお前なら判る筈だ、無事だと。」

「はい…」

 

 

判っている、最高の形と最悪の形で再会する事も。

 

私は自身の行方不明中に起こった出来事を話せる範囲で答えた。

 

 

「ええっ、リクセントに居たの!?」

「ゴメンネ、合流したかったのは山々だけどそっちの部隊にもうカイメラ隊から出向している人が居たから戻れなかったのよ。」

「カイメラ隊の人達がどうかしたの?」

 

 

続けてカイメラ隊の動きとアサキムの件に関して説明した。

 

 

「アサキム・ドーウィン…マサキ・アンドーに酷似した青年か。」

「恐らく、並行世界の同一人物と私は推測しています。」

「やっぱり、あのカイメラ隊の人達って悪者だったのね。」

「おまけにトンでも変態集団だから気を付けてね。」

「変態?」

「極度の女性恐怖症と変態眼鏡に色々と可愛そうな露出さん、最後にドSでドMなサディストだったかな…」

「…頭が痛くなってきた。」

「お義父さん、頭痛薬ありますよ。」

 

 

カイメラ隊の正体を知り、頭を抱えるテンペスト。

 

横から常備している頭痛薬を渡すハスミ。

 

ソファーでコーヒーを飲みながらティアリーは告げた。

 

 

「結局の所、ハスミちゃんはこれから如何したい訳?」

「…当初の目的の通り、これからも世界の破滅させる根源と戦います。」

「意思は変わらないのだな?」

「はい、それが自分の意思であり…『あの人』との約束ですから。」

「ねえ、ハスミちゃん…その前から話している『あの人』って誰なの?」

「今は話す事が出来ません。」

「どうしてもか?」

「あの人を知る事……それを誰かが知る事は私が全員の敵に回る時と承知してください。」

「それ程までに知られたくない相手なのだな?」

「はい、それがあの人と交わした約束ですから。」

 

 

あの人、ケイロンの事をまだ知られる訳には行かない。

 

記憶を持つ大尉達なら名前で感づいてしまう。

 

どうか、愛してしまったあの人を救いたいと言う自分を許して欲しい。

 

あの日、出会った時のあの人の後姿はとても寂しかったから。

 

護るべきモノを失っても立ち向かおうとした。

 

その反面、抗えない恐怖心にも襲われてもいた。 

 

そして置かれている立場による板挟みに苦悩していた。

 

だからこそ私はあの人の願いを支えてあげたいと決めた。

 

今はその結末に至るスタートライン。

 

私は負ける訳には行かない。

 

待っているがいい、黒のカリスマ…いやジ・エーデル・ベルナル!!

 

その捻じ曲がった性根を粉々に砕いてあげるわ!

 

勿論、完全に仕留めしない。 

 

奴もまた『テンシ』と対抗する為に必要なキーパーソンだから。

 

 

******

 

 

その後、色々とやらかしている間に第一種戦闘配備の放送で強制出撃を余儀なくされた。

 

機体の修理が完了した直後で良かったと思う。

 

アークエンジェルとドミニオンは基地の防衛戦線の維持の為に出撃。

 

フレイがドミニオンに乗艦したのは確認しているので拉致の心配はないだろう。

 

問題はひじきパンマンことジエー・ベイベルがランドさんとセツコの機体の修全と改造をした事である。

 

二機のパワーアップの為に致し方ないがあの顔面を一発ぶん殴りたいと思った。

 

多分、気色悪い程喜ぶと思うけど…

 

ちなみにひじきパンマンは第一種戦闘配備命令後にさっさと雲隠れしましたよ。

 

そして出撃後、基地に残留していた他の部隊も防衛戦線へ散り散りになって応戦していた。

 

相手は予想通りザフト。

 

先程の述べた作戦『オペレーション・スピットブレイク』が開始してしまったのだ。

 

ザフト側はパナマの予定だったのだろうが、史実通りアラスカへ進軍を開始したのだ。

 

 

「アラスカ基地に残っていた例のデータの回収作業後で良かったね。」

「ええ、問題はここから脱出出来るかと言う事かな?」

 

 

アークエンジェルとドミニオンが防衛線の前線に回され、他の部隊は別のエリアの防衛に周って行った。

 

たった二艦で襲撃を仕掛けて来るザフト軍を相手にしなければならなかった。

 

ザフトにとっては連合軍から強奪したイージスを除いた三機が奪い返されたのだ。

 

しかもパイロットがザフトの議会関係者の親族なら躍起にもなるのだろう。

 

今回の戦闘に彼ら三人は参加させる事が出来ないので独房入り。

 

現状で出撃しているのはアークエンジェル側からライトニングストライク、エールパック装備のストライクダガー、ランチャースカイグラスパー、ガンレオン、バルゴラ改、ビッグオー。

 

ドミニオンからレイダー、カラミティ、フォビドゥン、色々とあって譲渡されたヴァルシオン、ガーリオンカスタムが二機である。

 

合わせて戦艦二艦と十二機で進軍するザフト軍と交戦しなければならないと言う事である。

 

原作であれば無茶振りなシナリオステージに見えるだろうが、現実に起こっているのだ。

 

 

「テンペスト少佐、その機体は…」

「ああ、博士からの置き土産だ。」

「こちらにいらっしゃったのですか?」

「いや、お前と再会する前の道中でな…」

「そうでしたか。」

「博士もお前と同様に連合軍や各勢力を暗躍する存在には気が付いていた様だ。」

「…(ブルーロータス経由で情報は渡して置いたけど、流石ビアン博士です。」

「ハスミ、あの基地の地下にあったのはまさかと思うが…」

「あれはサイクロプス、発動すればアラスカ基地の周辺数千キロが巨大電子レンジになる代物です。」

「ここで私達に足止めをしろと言う命令だが、我々ごともみ消すつもりか?」

「その通りです、恐らくはゼーレが関与したブルーコスモスいえ黒のカリスマの思惑でしょう。」

「そう言う事か、ここで撤退し全滅を免れても敵前逃亡で後ろから撃たれるしかない。」

「申し訳ありません、大天使と座天使のクルー、スフィアリアクター達を救う為とは言え無茶な方へ引きずってしまって。」

「お前の無茶は前々からだろう、今更何を言う?」

「正論過ぎて何も言えません。」

 

 

私はSEEDにおける原作ルートに引っ張られつつも反逆の時を狙った。

 

それぞれが応戦しザフト軍を防衛戦線で押し留めてもいずれ疲弊と弾薬不足に陥るだろう。

 

そしてその時は訪れようとした。

 

 

「各員、何としてでも艦に敵を寄せ付けるな。」

 

 

数で推し進めるザフト軍。

 

とうとうアークエンジェルにジンが取り付き、その銃口がブリッジに向けられた。

 

その状況に逃げる者、頭を抱えて隠れる者、マリューは最後までその銃口を睨み付けた。

 

そして撃たれる瞬間、ジンのライフルを撃ち抜く機影が現れた。

 

それは青い閃光。

 

ジンの武装のみ使用不能にするとコックピットを狙わず、撃墜した。

 

アークエンジェルを守る様に現れたガンダム系の機体。

 

名はフリーダム。

 

 

『マリューさん、応答願います。』

「その声、キラ君なの?」

『はい、僕です。』

「一体、その機体は…?」

『話は後です、皆さん急いでここから撤退してください。』

「どういう事?」

『アラスカ基地内部のサイクロプスと言う戦略兵器が稼働を開始しました。』

「えっ!?」

『時間がありません、早く撤退してください。』

『ラミアス艦長、彼の話は本当だ。』

『バジルール艦長?』

『アラスカ基地にはサイクロプスが設置されており、この状況では基地ごと放棄する可能性がある。』

「ここへ来る道中でエドと言う連邦の士官の方が教えてくれました、その人達の部隊も撤退を開始しています。」

『斬り裂きエド、エドワード・ハレルソン中尉か。』

「はい、僕達が援護します…今の内に撤退を!」

『他に誰かいるの?』

「キラ、ザフトも状況を知って撤退を始めた。」

「判った。マリューさん、彼は味方です。」

『判ったわ、バジルール艦長、この空域から即離脱…それでいいわね?』

『こちらも異存はない、各員!負傷した兵員を回収しつつこの空域を撤退するぞ。』

 

 

サイクロプス発動が近づく中、アークエンジェルとドミニオンは戦闘で負傷した兵員を回収しつつ撤退を開始した。

 

中にはザフトの兵士も含まれていたが、人道的措置として救出した。

 

これに関してはアークエンジェルの独房入りしていたイザーク達が協力を申し出てくれた。

 

そしてアークエンジェルとドミニオンの離脱後、アラスカ基地はサイクロプス発動に伴い地図上から消滅した。

 

 

******

 

 

キラとそのお友達のアスランの協力もあり、無事とは言い難いが撤退する事が出来た私達。

 

そこでサイクロプス発動に関して驚くべき事が判明した。

 

サイクロプス発動の件に関しては左遷されていた筈の某真空管ハゲや某野菜人ヘア達の独断だったらしい。

 

軍内部でも彼らへの非業中傷が高まりつつあった。

 

そして、私達は修理と補給を済ませる為に北米のラングレー基地にそこから経由でノードゥスが目指している第六エリアへ向かう事が決定した。

 

第五エリア解放と共に現れた異邦人達の処置など色々と騒いでいたが、ロジャーさん達の事もあったのでそれも上へ報告書で上げて置いた。

 

宇宙でもとうとうアインストが動きを本格化しその中に変異したヴァイスリッターの姿があったそうだ。

 

今は宇宙組が応戦しているが、いずれは戦う時が来るだろう。

 

ザフト、インスペクター、アインスト、そして黒のカリスマ。

 

目覚めつつあるスフィア。

 

ランドさんは体の痛みを。

 

セツコは五感を失う感覚を。

 

私は流れ込む知識の濁流を。

 

善悪が織りなす正義の在り方を識った時、スフィアの完全なる覚醒の時は近い。

 

それはこの騒動の結末を近づきつつある証なのだろう。

 

=続=

 

 

 




自身の中で蠢く闇と憂い。

美しくも深淵へと誘う黒き睡蓮と魔性の蒼き薔薇の開花。

闇に飲まれようともその心の輝きを忘れない。

次回、幻影のエトランゼ・第二十九話 『覚悟《カクゴ》』。

大天使と座天使は暗黒の大地で繰り広げるそれぞれ正義の在り方に出遭い迷う。





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