幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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仕組まれた戦い。

罠に嵌る仲間達。

スフィアの鼓動と共に。

それは崩される。


第二十九話 『覚悟《カクゴ》』

北米ラングレー基地での補給を終えた私達。

 

アラスカ基地での一件はタカ派一派の暴走並びに同軍を巻き込む卑劣な行為として私達のお咎めは無しとなった。

 

引き続き、私達は第六エリアに向かったノードゥスを追う事となった。

 

第五エリアの件はアカシックレコードの情報で補完した。

 

第五エリアとは欧州ヨーロッパエリアが切り取られた場所。

 

その上の天空神殿から第五エリアを支配している魔族アズラエルが統治する場所である。

 

小父様と同じ名前だが全くの別人である。

 

天使の様な風貌を持つが、その在り方は魔族と言ってもいい。

 

古代で神でもないのに人間を裁いていた報いと思う。

 

だからこそ本当の光に勝つ事は出来なかった。

 

そして第五エリアでリガ・ミリティア、月光号クルー、フリーデンクルー、ミリシャ、エクソダス組、エレメント組と合流。

 

どうやら動きを見せていなかったグランナイツも第五エリアの戦闘後にノードゥスに加入したらしい。

 

日本で行動していたGGGはエリア解放毎に現れた原種と戦闘している。

 

恐らくは第六エリアで鉢合せになるだろう。

 

そして第三エリアでの一件も終わりを迎えている。

 

ただ、ガルファと機械化帝国が再び同盟を結んで月に籠城をしているのが気になる。

 

後々、合流を果たすメンバーに事情でも聞こうと思う。

 

これでノードゥスの遠征中にそれぞれが戦いの決着を着けられた。

 

勿論、救えなかった命もあった。

 

それでも前よりは救えたと思う。

 

記憶があるのだから全員救えなんて無茶振りは神様でもなければ出来ないだろう。

 

それでも出来得る事は出来たと思いたい。

 

問題はここからだ。

 

第六エリアは南米アマゾンエリアが切り取られた場所である。

 

連合軍本部のジャブローも含まれているのでどうなっているのか見当もつかない。

 

現在はオーストラリアのトリントン基地が臨時の連合軍本部となっている。

 

そして南米にはUNことUNIVERSAL NETWORKの施設が存在する。

 

一応、施設は第六エリアから外れており第4エリア解放時に元に戻っている。

 

私の不在時に例の同士討ちになる為の情報は流れてしまっていた。

 

あのひじきパンマンが遊びで出ている所を狙って孫光龍にUN管理施設に潜入して貰った。

 

勿論、改竄に改悪した情報の証拠も入手している。

 

彼とはラングレー基地で密かに合流し情報は回収している。

 

ただ、ランドさんとセツコさんの体調も思わしくない。

 

今回の獅子座のスフィアはランドさんが所持しており、その痛みは苛烈だ。

 

乙女座のスフィアは前回同様にセツコが所持しており、五感が旨く機能していない。

 

私もただでさえ溜まりに貯まったストレスが限界値を越えている。

 

もう少しだけ我慢できるだろうか…

 

自分の中の闇が花咲くその時まで。

 

 

******

 

 

「何でこんな事に…」

 

 

第六エリア到着後、戦闘を行っている反応をキャッチし急ぎ急行したアークエンジェルとドミニオン。

 

そこで見たものは踊る悪夢の再来だった。

 

どうやらノードゥス内で寄せ集めと言う部隊だった事と双方の情報の行き違いで対立しあっているらしい。

 

最悪な事に部隊に居た筈の記憶保持者達が全員いなくなっていた。

 

どうやら私と同様に『次元震』に巻き込まれ行方不明になっていたらしい。

 

どう見ても罠としか言い様のない情報と改竄映像だけで判断してしまったようだ。

 

私が危険視していた最悪の結末が今再現されようとしている。

 

 

「どうして。」

 

 

目処前で仲間と慕っていた人達が互いに銃を向け剣を向けている。

 

一部が仲裁に入ろうとしたが、逆に倒されて動けなくなっていた。

 

これを見て何とも思わないのか?

 

貴方達の仲間と言う言葉はその程度だったのか?

 

もうキレていいよね?

 

 

「ロサ、行こう。」

「うん。」

 

 

私はナタル艦長に出撃許可を貰い、仲裁役として出撃した。

 

同じく、ランドさんとセツコも出撃してくれた。

 

二人ともスフィアの影響で体の調子が良くないのに…

 

今回は私のガーリオンカスタムにロサが同乗する形で出撃した・

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

「お前らいい加減にしろよ!」

「こんな事をして何になるんですか!」

 

 

ランドとセツコがそれぞれ所属していた部隊の間に入って戦闘を止めようとするが…

 

 

「貴方達は知らないでしょうが彼らは!」

 

 

カイメラ隊から出向して来たと言うレーベンが虚偽の説明をする。

 

世界を混乱させる異邦人達や地球防衛軍はこちらで管理すべきと。

 

 

「我々は彼らを止める義務があるのです。」

「それでどうするつもりですか?」

「君は?」

「元ATXチーム所属のハスミ少尉です。」

「聞いているよ、今まで行方不明だったそうだね。」

「話を変えないでください、彼らを倒してどうするつもりですか?」

「彼らを止め、こちら側に協力して貰う事が出来れば世界は平和に…」

「一方的なごり押しの平和が何になると言うの?」

 

 

私は説明に入ったレーベン少尉に論されるが虚偽である事は明白だったので拒絶した。

 

 

「貴方は彼らの味方なのですか?」

「違う。」

「なら、何故です?」

「頭を冷やさなきゃ真実は見えないとだけ言っておきますよ、顔だけ野郎…!」

「な…!?」

 

 

そして予定通り、私の機体をレーベンの機体が貫いた。

 

前もって脱出装置を発動させ逃げたので機体が破損しただけだった。

 

 

「残念です、貴方も平和に準ずる兵士と思いましたが…」

 

 

死人に口無しとでも思ったのか?

 

いい加減、こんな茶番を終わらせようか?

 

 

「念神顕現・エクリプス。」

「機神招来・エザフォス。」

 

 

怒りの限界値を抱えたまま念神と機神を呼び出す私達。

 

一部、この状況を知らないメンバーは一度足を止めた。

 

 

「ロサ、アレよろしく。」

「うん、大地の捕縛。」

 

 

ロサの魔法で生み出されるのは大地の牢獄。

 

殺気立っていた仲間達は全員そこへ放り込まれた。

 

敵と認識した相手を除いて。

 

 

「さてと、ようやく話しやすくなりましたね。」

「一体、何が…?」

「アラスカでの一件、そして各艦に残っていた改竄映像の束、うまく消去した様ですが私達の眼は誤魔化せませんよ?」

「皆さんが暴走している間にちょっとデータベースを拝借させて頂きました。」

「それで面白い事が判ってしまいましたよ?」

 

 

ロサが各モニターをハッキングしとある映像を映し出す。

 

それは第五エリアでの映像でノードゥスの地球防衛軍側の機体が同軍を攻撃している様になっている。

 

その映像に施されたフィルタリングを外すと出て来るのは全く別の映像である。

 

 

「ここまで完璧な合成映像は初めてですよ、それにUP時期はつい最近なのに一般には出回ってない。」

「恐らく、ノードゥスを混乱させる為に同行中の各艦に流していただけの様ですね。」

「なっ!?」

「UNを管理しているのは最近大統領になったエーデル・ベルナル准将、そしてお前達カイメラ隊だ!」

「よくもノードゥスの皆さんを嵌めようとしましたね!」

 

 

この台詞によって仲間達が判ったのは自分達が罠に嵌っていた事。

 

危うく仲間同士で戦い合う事になりそうだった事である。

 

 

「くそっ、あと一歩の所で!」

「レーベンさん、どうしてそんな事を!」

「エーデル准将は貴様達を邪魔と見なしたからだ、お前達の存在が准将を脅かす!」

「それがお前達のやり方か!」

「そうだ、そしてランド・トラビス…お前のスフィアは俺が貰い受ける!」

「やはり、狙いはスフィアだったのですね。」

「恐らくセツコの仲間を襲ったアサキムも彼らの仲間と思います。」

「えっ?」

「カイメラ隊のカイメラは合成生物のキメラの事、キメラは獅子、山羊、蛇、鴉が合成されて出来た生物です。」

「最初から仕組まれていた?」

「前に聞いたセツコの話、それを合わせて今はっきりとしたわ。」

「よくもトビーと大尉を…!」

「メールを救ったのもそれが狙いか!」

「可能性はあります!」

 

 

ランドとセツコも戦うべき相手を見つけた。

 

今戦うべき真の敵はカイメラ隊。

 

 

「レーベン、事を急ぎ過ぎたな?」

「全く、もう少しで倒せそうだったのにさ。」

「でも、僕らもこれで本気を出せるよ。」

 

 

他の艦に同行していたシュランのカオス・アングイスと現れたエリファスことカオス・カペル、シュロウガ。

 

そしてコルニクスを含んだ無人機の部隊が出現した。

 

レーベンは仲間達と合流し隊列を整えた。

 

 

「知ってしまった以上はここでお前達を始末する。」

 

 

彼らは負傷した仲間と艦をこのまま倒せると思ったのだろう。

 

だが、答えは否だ。

 

 

「俺の痛みは…」

「私の悲しみは…」

「…(私の知りたがりは…」

 

 

「「「この先の未来の為に!!!」」」

 

 

ガンレオンはマグナモードにバルゴラ改はグローリーへ変貌。

 

そして私達もまた極意を発動する。

 

 

「ロサ、行けるね?」

「うん、もう迷わない。」

 

 

二人なら出来る。

 

 

「「知るからこそ、その手は鈍る、躊躇いは全てを失う、迷うな、抗う事こそ未来へ繋ぐ!!」」

 

 

ー心淵の極意ー発動。

 

 

「っくううう!!?」

「あああああ!!」

 

 

心の深淵、己の心の闇と対峙する。

 

一歩間違えれば闇に飲まれ暴走する。

 

だけど、心の中の輝きを知るから出来る。

 

己の心の闇と向き合い、解り合い、溶け合う事で一つになる。

 

 

「「極意発動!!」」

 

 

エクリプスは本来の装甲は黒に染まり所々に紫が入る程度に変色。

 

装甲も鋭利な刃へと変異する。

 

エザフォスも装甲が黒に染まり所々に橙が入る様に変色。

 

装甲は重圧な鎧へと変異する。

 

搭乗者達の装いもまた変異し黒を基調とした物に変化した。

 

ハスミは堅牢な和装だったが、露出する部分が多くなった。

 

ロサは逆に装着する装甲が少なくなり軽い感じに変化した。

 

 

「まさか、闇の力を自分のモノに…?」

 

 

この光景に驚くアサキム。

 

だが、ハスミは訂正した。

 

 

「違う、これは己の闇と解り合った力だ!」

 

 

極意モードのエクリプスがシュロウガを。

 

 

「ダーリン、遠慮なしでいっちゃお!」

「おう!」

 

 

マグナモードのガンレオンはカオス・レオーを。

 

 

「貴方達を私は許さない!」

 

 

バルゴラ・グローリーがカオス・アングイスを。

 

 

「私も止めて見せます!」

 

 

極意モードのエザフォスがエリファスと対峙する。

 

コルニクスの無人機部隊は無傷だったアークエンジェルとドミニオンの部隊が応戦している。

 

戦うべき相手が判った以上、彼らは何もためらわない。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻。

 

離れた場所からノードゥスの潰し合いを観戦しようとした黒のカリスマ。

 

それを盛大に邪魔したのが…

 

 

「よくも私の邪魔をしてくれたね。」

「邪魔はするよ、僕も色々と君には怒っているんでね。」

「私、君に怨みを買う事したかな?」

「逆に言わせて貰うよ、君が知る必要はない。」

 

 

孫光龍の応龍王が黒のカリスマが搭乗するレムレースと対峙していた。

 

この時の孫光龍の表情はいつもの敵対する相手を挑発するモノではない。

 

無表情を通り越した殺意そのモノである。

 

 

「君の様な中途半端な道化はいらないんだよ。」

 

 

一瞬ではあるが、光龍の脳裏にあの光景が蘇った。

 

 

(救え…なくて…ごめんな…さ…い。)

 

 

あの場所で倒れ傷ついた身体で無意識に答えた彼女のあの言葉を。

 

鉄の匂いと赤に染まった彼女の身体を抱きしめたのだ。

 

そして意識は現実に戻る。

 

 

「…早々にここから退場して貰おうかな?」

 

 

白き道化と黒き道化の戦いが火蓋を切っていた。

 

 

******

 

 

その後、カイメラ隊をを退けた私達であったが…

 

スフィアの覚醒に伴い、ランドとセツコはメディカルルーム行きとなった。

 

だが、覚醒に伴いスフィアの反作用は消えた様だ。

 

私とロサは無茶振りが過ぎたので説教を聞きながら私は点滴、ロサは疲弊したパーツ交換となった。

 

まだ、仲間達の戸惑いは消えないが話し合う時間は出来たと思う。

 

宇宙の混乱を鎮める為に止まる訳には行かない。

 

 

=続=

 

 





次回、幻影のエトランゼ・第三十話 『結束《ケッソク》』


願うのは友との絆の修復。

そしてこの先の未来だけ。

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