幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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昏き闇の底で問われる。

何がしたいのか?

その理由は?

偽るのは止めるべき?

だからこそ語る時なのだろうか?


第三十一話 『決心《ケツイノココロ》後編』

先程GGG救援チームと別れ、発見したネクロを追撃していた私達だが…

 

突如、私達を含めた数名がこの暗黒の海へ落とされてしまった。

 

残ったメンバーは追撃場所にてネクロとネクロ配下の下級魔族のエレによって阻まれてしまっている。

 

交戦する仲間達の姿を最後に私の意識はブラックアウトした。

 

 

******

 

 

光も届かぬ暗黒の海の底で私達は眼を覚ました。

 

落とされたメンバーは私ことハスミ、ロサ、万丈さん、キラ、アスラン、ロジャーさんである。

 

各自の機体は動くようだが、闇雲に行動せず固まって態勢を立て直した。

 

 

「皆、無事かい?」

「こっちは大丈夫です。」

「それにしてもここは一体?」

「周囲は闇ばかり、余りいい状況じゃない事は確かだね。」

 

 

万丈の声掛けに各自が応対する。

 

 

「ここは何かの異空間ではないでしょうか?」

「異空間?」

「はい、以前私達が第二エリアで戦ったガープも根城に結界の様なフィールドを形成していました。」

「もしもネクロが結界を張ったのであれば、同じ様な気配がありますし。」

「それが感知出来ないので全く別の何かとしか言いようがなくて…」

「ふむ。」

「ここがネクロの創り出した異空間でないと推測すると一体誰が?」

「まさかアインスト?」

「それはないわ、奴らの気配は覚えているし…それらしい気配は今の所感じられない。」

「どちらかと言うと澄んだ気配だよね?」

「ロサの言う通り、ここは余りにも澄み切った気配しか感じられない。」

 

 

アインスト空間とはまた違った純粋とも言える気配。

 

余りにも不純物が入っていない様な澄み切った気配。

 

それは生物が住まう事を許さない様な空間とも言える。

 

どんな生物でも若干の不純物を取り入れる事で生体を維持している。

 

人が酸素を取り入れ、生きる為に徐々に肉体を老化させる様に。

 

金魚が塩素を抜いた不純物混じりの水の中で生きる様に。

 

どちらかが多くても少なくてもいけないのだ。

 

それは陰陽の考えにも捉えているのだろうか?

 

だが、ここは一度見た事がある場所。

 

ここは…

 

 

 

「そう、ここは黒の英知の中。」

「黒の英知!?」

「どうして貴方がそれを!」

「それはこっちのセリフ、どうして貴方達が黒の英知について知っているの?」

「それは…」

「では、こちらも聞こう。」

「万丈さん。」

「ハスミ・クジョウ君、君は何者だ?」

「何者か…しいて言うなら私は異物でしょうか。」

「異物?」

「何者にも該当しない、異物。」

「君が異物と言う理由は?」

「私は知り過ぎているから、この世界の事や行く末の先々を…いずれ現れるであろう脅威の存在をね。」

「つまり君は既にサイコドライバーの域に達している、だからこそアカシックレコード通して知っているのか?」

「サイコドライバー?」

「強力な力を持った念動力者が達する域、万物の記憶を司るアカシックレコードにアクセスする事が出来るそうです。」

「だから黒の英知を知っていたのか?」

「恐らくは、前世でアカシックレコードを介する事が出来るのはイルイとルアフ位と思っていましたが…」

「ハスミ君、君はサイコドライバーでアカシックレコードを通して黒の英知の存在を知った、それが答えで合っているかな?」

「半分正解、半分不正解です。」

「半分不正解?」

「不可抗力とは言え、黒の英知に触れてしまった貴方達には話す事が出来るのでご説明しましょう。」

「ギリアム少佐の話していた君の制約条件を僕らが満たしたと?」

「その通りです、万丈さん。」

「では、聞かせて貰おう…君の知る情報とやらを?」

 

 

ええ教えますよ、今知るべき情報だけはね?

 

 

「まずは貴方達は逆行ではなく転生者で間違いありませんね?」

「逆行?」

「自分自身の意識が過去若しくは未来の同一人物の中へ戻ってしまう現象を逆行と言います。」

「確かに僕達が視た未来と今の状況はかけ離れている…」

「逆に転生の場合は同一人物若しくは全く別の人物として転生し同じ人生若しくは時系列が変わった人生を送るパターンが多いです。」

「他にも憑依や成り代わり等がありますが、特に説明する理由もないので省きます。」

「先ほどの転生の説明が何か関係があるのか?」

「はい、私もまた転生者ですが…貴方達とは違う世界から転生してきました。」

「違う世界?」

「私は…この世界を物語と称する世界からの転生者です。」

 

 

私は貴方達を空想上の物語として生み出した人々が住まう世界からの転生者。

 

それはある意味で創造主と同じ世界からの転生者を意味する。

 

だからこそ事の成り行きと今後起こり得る可能性と必然性の事象を知っている。

 

 

「僕達が物語の存在…?」

「そんな事があり得るのか?」

「確かに在りえるのかも知れない。」

「僕らの世界が物語を称される可能性はあった、かつて多元世界を巡って来た僕らならその可能性に行き着くことだってあり得たんだ。」

「それがハスミさんの生きていた世界では当たり前に起こっていた?」

「空想上の物語としてなら今の状況のフィクションはいくらでもあったわ。」

「ハスミ君、それがあったからこそ君はL5戦役で数々の奇跡を起こせたのか?」

「…そうかもしれませんね。」

「DG事件の早期終結、ブルーコスモスの活動停滞、犯罪組織の施設摘発、起こり得る危機の予知、そしてL5戦役の最終決戦における架け橋も君の差し金なのか?」

「半分は、もう半分は記憶を持つ人達が繋いだ奇跡です。」

「…」

「私は助言しただけに過ぎません。」

 

 

もう少し話すタイミングを伸ばしたかった。

 

けれども、彼らが真実に辿り着いてしまった時点でもう言い逃れは出来ない。

 

だからこそ、この空間で出来得る限りの布石を残して置く。

 

 

「だからってそんな…」

「そんな事ですか?」

「ロサ。」

 

 

今まで会話に入らず、口を閉ざしていたロサが話しかけた。

 

 

「私、あの時ハスミに助けて貰わなかったら皆さんに会う事もこうして稼働している事も出来ませんでした!」

「助けて貰った?」

「昔の私はDGのコアユニット制御用のAIでした。」

「DG!?」

「訳あって私はアイドネウス島で暴走してしまい、その場に居たキョウジさんやハスミにDG細胞を感染させてしまいました。」

「ロサの言う事は本当よ、但しその時のロサはガイゾナイトと言う外宇宙から飛来した寄生型鉱物生命体に寄生されていたの。」

「感染しているのに暴走を止められなかった私をずっとハスミは励ましてくれた、大丈夫、必ず助けるからって。」

 

 

そして私は救われた、私にロサと言う名前と新しい身体と共に新しい道を歩み始めた。

 

 

「ハスミのした事は無駄じゃないです!」

「ロサ、大丈夫…解っているから。」

 

 

機体越しではあるが、泣き始めてしまったロサを私は抱きしめた。

 

DGの経緯を知らないロジャーは静観。

 

他の三人はロサの叫びを聞き続けた。

 

 

「DGの暴走原因は一通り知っている、この子はただ差し伸べてくれる手が無かったから暴走を続けたの。」

「差し伸べる手?」

「誰だって理由も判らずにただ消えろだけでは納得しないでしょう?」

「つまり…彼女にもGGGの勇者ロボ達の様に自我があるからですか?」

「そう、私は理由を知っていた…だからこそ必ず助けると決めた。」

「君はそうやって暴走し続ける可能性のある人物達を救い続けたのか?」

「先程話した通り、私は情報を与えたにすぎません…それを元に成し遂げた人達こそ感謝されるべきです。」

「…」

「これは私の独り善がりのエゴかもしれません、それでも誰かの救いになるのなら私は今の行動を続けます。」

 

 

私はそう決めた。

 

生まれ変わる時にあの場所で。

 

誰かに後ろ指を指され様とも。

 

 

「それでも力及ばず…救えなかった命は数多くありました。」

「君がそれを全て背負い込む必要はない、君はこれまでも出来得る事をやって来たのだろう?」

「フレイやナタル少佐、トールを救ってくれたのも貴方なのですか?」

「そうなるかな、遠回しだけどあの三人組も助けられたし。」

「クロト達の事も?」

「L5戦役の頃に根回しをしてね、あの子達も自分の道を自分の歩む事が出来る。」

「どうして彼らを?」

「彼らもブルーコスモス主体の施設…ロドニアの施設に引き取られていたから。」

「ロドニア!?」

「そう、オーブに居るステラ達もあの施設に囚われていたの。」

「そうだったのか…」

「最初はラトゥーニの…スクールの子達を救いたいと思って調査をしていたら偶然そこに行き着いた。」

「それで根回しをして救出した訳だね。」

「はい、ステラ達が今後共に戦うかはあの子達次第、その時まで今は普通の事をさせてあげたいと願ったわ。」

「あの…シンに記憶は?」

「残念だけど思い出していないわ、時期に覚醒すると思う。」

「成程、僕らの前世の記憶も時差による覚醒という訳かい?」

「あくまで私の推測です、詳しくは教えて貰えませんでした。」

「僕らの記憶はアカシックレコードによって目覚めさせられたと言う訳か…」

 

 

アカシックレコードは数々の世界に散った希望をこの最後の世界に集約させた。

 

ここで失敗すれば後は無い。

 

ただ永遠と絶望の世界が続くだけ。

 

そうバアルの望んだ支配の世界が産まれる。

 

 

「ハスミ君、最後に聞かせて貰えないだろうか?」

「何でしょうか?」

「君は新たなガンエデンと関わりがあるのか?」

「残念ながらありません、私もガンエデンはナシムとゲベルの二体と思っていましたし。」

「そうか…(つまりもう二体のガンエデンは何かの理由で生まれたと言う事か?」

「アシュラヤーに関しては選ばれたと言う事は知っていますが、私には呼び声の様なモノは感じられないのです。」

「呼び声?」

「正確にはガンエデンの意思に呼ばれると思って頂ければ。」

「ナシム・ガンエデンもそうだったのか?」

「前世の私にはそう言う風に見えましたね。」

「見えた?」

「感覚で言うと監視カメラの映像を覗いている様な感じです。」

 

 

監視カメラから覗いた様に。

 

様々な主人公の眼から視た様に。

 

物語の舞台となった情勢から視た様に。

 

戦いの場である世界から視た様に。

 

それらを綴った文章から紐解いた様に。

 

鮮明に造られた映像から視た様に。

 

私は見る事、聞く事、プレイする事で貴方達の物語をこの世界(SRW)を知った。

 

 

「SRW、それが僕らの世界の物語の名前か?」

「はい、幾多の可能性が集約した世界の物語。」

 

 

数々の戦いの果てに産まれた可能性の未来が描かれた世界。

 

時に破滅、時に悲しみ、時に苦しみに苛まれた世界。

 

それでも諦めずに前に進む事を教えてくれた物語。

 

前の世界で兄さんが幼い私と遊ぶ為に一緒にやってて、お母さんによく怒られたっけ。

 

それでも兄さんと一緒にテレビの前でプレ○テ弄ってたな。

 

お母さんが『一緒に遊ぶのは良いけど、女の子の遊びもしてやってね。』って話しても止められなかったな。

 

もうあの世界での私の名前も思い出せないのに。

 

きっと前の世界の自分の名前を忘れてしまったのは私が未練を残さない為かな。

 

 

「アシュラヤーの事は今後私に何かのアプローチがあると思います。」

「出来れば何事もないと良いけどね。」

 

 

それは出来ない。

 

ナシムは封印戦争の過ちを繰り返す可能性がある。

 

その時は私が止めると約束した。

 

幼い姿のイルイを何処まで説得出来るか判らない。

 

それでもあの過ちを繰り返させる訳には行かない。

 

 

「ハスミさん、僕達はこの空間から出る事は出来ないんですか?」

「残念だけど…これに関しては黒の英知の意志次第、こちらから何かをする事は出来ないの。」

「つまり、勝手に元の空間に戻るまで待つしかないと言う訳か…」

 

 

私の秘密の一部を話し終えた後、この黒の英知が創り出した異空間から脱出出来ないかとキラが話すが…

 

これに関しては黒の英知の意思が決める事で決定権はこちら側にはないと話した。

 

黒の英知に触れた人間はその絶望によって堕ちる筈だが、彼ら記憶保持者達は希望の欠片の為にその被害を受けなかった様だ。

 

 

「ネクロに関しては勇者達が対処法を知っている筈だから悪い方向には行かないと思うけど…問題はGGGの方ね。」

「ハスミ君、こちら側とエジプトエリアに現れた原種の正体が判るのかい?」

「はい。」

 

 

エジプトエリアに出現したのはギザのピラミットに融合した腕原種とスフィンクスの像に融合した胃袋原種。

 

こちら側に潜入した原種はモアイ像と融合した鼻原種とマヤのピラミットに融合した腸原種。

 

どちらともゾンダーメタルプラントを精製し現地の観光客をゾンダー化させようとしている。

 

今回は双方共に観光客が居る様な状況ではないので邪魔者排除と考えた方が良い。

 

だが、この戦闘には問題がある。

 

 

「この戦闘でGGGの超竜神が復活し木星のザ・パワーで撃龍神とシンメトリカル・ドッキングで幻竜神と強龍神に特殊合体を成功させ双方の原種を倒す事に成功します。」

「…」

「逆にこの戦闘が切っ掛けで原種側にザ・パワーの在処が木星にあると知られてしまいます。」

「成程、それで原種は木星に移動していたのか…」

「奴らの監視端末にちょっかいを掛けて貰える様に情報を流しましたが、何処まで防げるか不明です。」

「そんな奴がいたのか?」

「GGGの面々は最後までその存在を知りませんでしたけどね。」

「そこまで細かく情報を知るとなると君の能力は人前に出せないね。」

「ええ、その為に何処にでもいる普通の人間を演じていました。」

「だから制約があるにしろ僕らにも正体を明かす事が出来なかったという訳か。」

「何処かの世界にも私の様な存在が送られた様ですが、どれも失敗に終わっています。」

「失敗した?」

「その世界の住人との接触方法が悪かった、本人が暴走した、行動する前に消された等……理由は色々です。」

「その…理由は聞かないでおこう。」

「…話しにくそうだからね。」

 

 

もっと詳しい事情を話す事は出来ない。

 

余りにも事の顛末が酷過ぎるので。

 

私でさえ呆れている理由があるのだ。

 

察してくれた万丈さんやロジャーさんには感謝しきれない。

 

 

「兎に角、君はその能力に関しては事情を知るメンバー以外には秘匿のままの方が良いだろう。」

「万丈さん、やはり…アクセル中尉達にこの事を話しますか?」

「皆には僕が旨く説明しておくよ、君は危険が迫ったら必要な情報をくれるだけでいい。」

「判りました。」

「他の皆もそれで頼みたい、ハスミ君がこれ以上重荷を背負う必要はない。」

 

 

万丈の説明に対し他の三人も了承する。

 

 

「ハスミ、これでいいの?」

「うん、あの人達なら信じられるから。」

「ハスミがそう言うなら、私も信じる。」

「ありがとう、ロサ。」

 

 

それから黒の英知の異空間から抜け出せるまで会話が続いた。

 

これからの事。

 

ホルトゥスの事。

 

ホルトゥスに関してはブルーロータス本人に情報を与えているだけで組織の所載は不明と説明しておいた。

 

能力でも詳細を知る事は出来ないと付け加えてある。

 

アカシックレコードでも検索不可能の事例もあると認識させる為だ。

 

私は一部だけ教えた。

 

今はまだ全てを語る事は出来ない。

 

多分、万丈さんなら察しているだろう。

 

本当にゴメンナサイ。

 

 

******

 

 

その後、私達が空間から出られたのは戦闘後だった。

 

周囲には敵の罠と説明し納得して貰った。

 

黒の英知の情報を今の仲間達に教える事が出来ないからだ。

 

ネクロは倒され、こちらのGGGの戦闘も無事に終わりを告げたとの事。

 

見たかったイベント見逃しました。

 

そしてエジプトエリアの方にクロガネクルーが現れ、共に原種を撃退したとの事。

 

いつの間にか隊長はダイゼンガーに乗り換えていたのでこっちのイベントも見逃しました。

 

初『刃馬一体』見たかったです。

 

そして次の戦いは再び私達の部隊を二手に別れさせる事となった。

 

アースクレイドルでの決戦とベルターヌ内部のコアへの進軍。

 

戦いの最終決戦は近づきつつあった。

 

 

=続=

 




咆哮する赤と青の鬼神。

己の信念を掛けて雌雄を決する時は来た。

次回、幻影のエトランゼ・第三十二話 『大地《アースクレイドル》前編』

斬り裂け二対の斬艦刀よ。

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