幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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真の敵は己自身。

武器を持つ意味を噛み締めて。

己の恐怖を戦え。



第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》前編』

アースクレイドル戦から数時間後、私とロサ達はダイテツ艦長らの指示の元で部隊を離れて北米大陸へと戻って来た。

 

本来ならインスペクターへの反攻作戦に向かう筈だったが、協力者であるセフィーロの人々を放って置く訳には行かないとの判断だ。

 

前回は色々とあり、話しそびれてしまったが舞人君達は無事である。

 

例の研究施設に所属していた一部の研究員達は例の生工食料研究所やバイオネット、アマルガムの表向きのダミー研究機関から出向している者達が多かった。

 

彼らを気絶させた後で口腔から這い出して来たあの蟲達には今でもぞっとするしかない。

 

勿論、某世紀末風に汚○は消毒だ!!で蟲共は全て処理して置きました。

 

あれ放って置くと危ないし。

 

寄生されていた人達の体内に残った神経毒は私とロサの浄化魔法で処理したので後遺症は残らないだろう。

 

但し、自らの口腔内に蟲が入り込むトラウマだけは残して置いた。

 

精々自分達がやっていた事を後悔して貰おう。

 

まあ…普通に蝗の佃煮や蜂の子とか食べられる人には意味はありませんけどね。

 

蝗だと感触は桜エビを食べている感じだから蜂の子の方が正解かな?

 

微妙な食レポは程々にしておいて…

 

その奴らに何かされる直前だったので舞人君は事無きを得ているが、距離上バルドーへの防衛戦には参加出来ないのでそのままセフィーロへの戦いに参加する事となった。

 

投降したウォーダン・ユミルは自身の負傷と愛機のスレードゲルミルの修復を兼ねてテスラ研へ移送される事となった。

 

そこには第三エリア戦にて同じく投降したものの負傷し療養中のレモン・ブロウニングが居るので彼女に彼の治療を依頼する事が決定した。

 

そして最後に北米大陸に戻って来た理由について説明する。

 

これは導師クレフがセフィーロ城から救援要請の知らせを送って来た事から始まる。

 

内容はデボネアの出現と完全覚醒に関する事である。

 

現地に残留する魔法騎士達とエオニアの一行、現地で戦い続ける白の谷を始めとしたレジスタンス連合に救援に駆け付けたエルドランメンバー達が抑えてくれていたが圧倒的な悪の力を前に敗走を余儀なくされた。

 

今は後方支援に回っているレジスタンスやセフィーロ側の世界から来た各国の軍隊が足止めをしている状況である。

 

マーダル軍も再び協力を申し出てくれたのもあるが時間の問題だろう。

 

恐怖は時間が経つ事に増大しているのだから…

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

ハガネ連合艦隊は既に宇宙へ上がった頃だろう。

 

理由はラウ・ル・クルーゼの離反によって奪われたジェネシスの奪還並びにホワイトスターへ籠城しているインスペクターへの反攻作戦に参加する為である。

 

この作戦にはオーブも参戦、元々火種の原因となった機体を自国のコロニーで製造していた事への清算を兼ねているらしい。

 

地球を守ると言う大義名分の元での戦いなのでその意味は成してないと思うが気にはしない事にする。

 

一方でエルドランチームを抜いた勇者組は地球に接近しつつあるバルドーへの防衛戦。

 

この防衛戦から抜けたGGGは機界31原種が逃げ込んだとされる木星へと移動を開始している。

 

これは道中に双方出くわす可能性があるのでこちらも混戦を予想される。

 

GEAR、スペースナイツ、EDFは月で混戦を開始したガルファ、ラダム、イバリューダーへの戦い。

 

これに対し地球連合軍・月面駐留艦隊も参加する予定である。

 

そして敵勢力の多くが殲滅された地球でエオニアの一行と共にデボネア戦へと移行した。

 

どれも厳しい戦いになる事は判っている。

 

連絡が取れる様になった私はブルーロータスに指示を送り、各方面の戦闘にホルトゥスのメンバーを送り込んだ。

 

これで釣り合いは取れる筈である。

 

そして私は有る存在に今回の件を訪ねようとした。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

セフィーロ城内。

 

広がる黒雲と鳴り響く雷鳴。

 

その光景を誰も居ない一室の窓から覗くモコナの姿があった。

 

 

「ぷぷぅ。」

 

 

私は誰の気配も姿も感じないのを確認してから言葉を発した。

 

 

「モコナ、そろそろ聞かせて貰えませんか?」

「ぷぷ?」

「モコナ、いえ…セフィーロの創造主様。」

 

 

私の発言にいつものポーカーフェイスを貫こうとしたが、既に正体がバレている事を察しモコナは本性を晒した。

 

セフィーロの存在する世界を生み出した創造主こと創造主モコナである。

 

話し方が原作と若干異なるのはこの世界だからだろうか?

 

 

「最早、君には隠し通せないようだな?」

「生まれ持った能力もありますけどね…貴方はこの状況をどう見ますか?」

「この件に関しては私の想定外と言うべきだろう。」

「…でしょうね。」

「ハスミ・クジョウ、君はこの状況に関してどう考える?」

「あるとすれば、セフィーロ以外の存在の介入が今回の要因でしょう。」

 

 

デボネアは本来セフィーロの人々の深層心理の奥底にある恐怖から誕生する筈だった。

 

だが、今回はセフィーロと同じ世界に存在する他の国を巻き込んで誕生した。

 

それが要因ならば、デボネアは他の国に属する人々の恐怖も取り込んでいる可能性がある。

 

いや、結果としてセフィーロやこの世界に進軍して来た悪意の持つ者達の怨念を取り込んだ。

 

だからこそ魔法騎士達だけでは抑えられず敗走を余儀なくされた。

 

今のデボネアが取り込んだ強い悪意を持つ者達の怨みや恐怖は並大抵のものではない。

 

今回は他の国の人々やこの世界の人々の力を得られなければ勝利など望みが薄いだろう。

 

但し、戦いの要は魔法騎士達である事に変わりはない。

 

 

「…私の見解は以上です。」

「それが本当ならば彼女達だけで抑えられる筈もなかったと言うのか?」

「私やロサは兎も角…光達は半年前まで戦いを知らない女の子達だったのですよ?」

「…」

「私の知る限り…エルドランに選ばれた幼い子達は彼女達よりも前から戦い続けている、実戦経験の差が違うのです。」

「私は…」

「私はセフィーロでの旅であの子達に出来得る限りの戦い方と心構えを教えたつもりです。」

「済まない。」

「それは光達に答えてあげてください…後は光達次第です。」

「…判った。」

「私は光達の元へ戻ります。」

 

 

私が部屋を後にしようと踵を返した時、創造主モコナは答えた。

 

 

「今まで魔法騎士達を支え続けエメロード姫を救ってくれてありがとう。」

「姫に関しては光達のお陰ですよ。」

「…そう言う事にしておこう。」

 

 

実際、エメロード姫を説得したのは光達だ。

 

私はロサと共に説得の間だけザガートを足止めしたに過ぎない。

 

 

「ありがとう…ガンエデン。」

 

 

私は創造主モコナの最後に答えた言葉を聞かないふりをして部屋を去った。

 

 

******

 

 

再びセフィーロ城内にて。

 

幾つかの階層を行き来し、とある一室へ私は赴いた。

 

 

「光、海、風…」

 

 

私が訪れる前に彼女達はデボネアの侵攻を阻止しようとしたが、圧倒的な力の前に負傷し心に傷を負ったのだ。

 

負傷は治癒魔法で癒えているが、心の傷だけはどうしようもない。

 

その彼女達は今もこの一室で眠り続けていた。

 

 

「…状態はどうですか?」

「余り良くはない、どんなに声を掛けても僕らの声が届かない。」

 

 

眠りに就く海の手を握りながら召喚師のアスコットは答えた。

 

普段から前髪で目元を隠しているが今回は余計に暗くなっているのが判る。

 

同じ様に光の傍で様子を見る魔法剣士のランティスが呟いた。

 

 

「それだけデボネアの脅威が凄まじかったと言う事か…」

「恐らくは…それでも誰かがデボネアを止めなければならないのは変わりません。」

「止めるって、あんな奴の所に戦いに行くの!?」

 

 

私の発言にアスコットが叫んだ。

 

それに対して私は非情だが切り返した。

 

 

「私は軍人です、大切な人達を護る為に軍に志願したのです。」

「だからって…」

「ハスミ、お前は怖くはないのか?」

 

 

アスコットの声を遮り、エメロード姫の弟であるフェリオが質問。

 

私は私なりの結論を答えた。

 

 

「ただ震えるだけでは誰かを助ける事は出来ません、今も宇宙で必死に戦っている仲間達の為にもここで立ち止まる事はしたくありません。」

「覚悟を決めたのだな?」

「それは当の昔に決めています、私は私自身がやれる事をやると決めただけです。」

 

 

最後に私は眠り続けている光達に答えた。

 

 

「光、海、風、これから私は戦いに出るわ…貴方達が心の底で震えているのなら止めはしない。」

 

 

誰でも恐怖は感じる。

 

最初に銃を握り、他人を傷付けると判っていて引き金を引いた。

 

私はあの感触を今でも忘れていない。

 

誰かの命を奪うと言う事を。

 

その覚悟を背負うと言う事を。

 

それらを踏み台にして生きていると言う事を。

 

綺麗事だけで生きていけないのは識り尽くしている。

 

貴方達はどうする?

 

私は貴方達の心を汚すつもりはない。

 

これからどうするかは貴方達自身が決めなさい。

 

 

「それだけは言いたかった…行ってくるわね。」

 

 

私は部屋を去り、ロサと共にデボネアを抑えている部隊の援護に向かった。

 

 

(さてと、後は光達次第かな…)

 

 

ここまでややこしい問題を押し付けられたのだ。

 

用足しは済ませたました?

 

仏様への御祈りは?

 

押入れの中でブルブル震えて命乞いをする準備は出来ました?

 

なら、開幕と行きましょうか。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、心の深層の奥底にて。

 

 

『…海ちゃん、風ちゃん、今の聞こえてたよね?』

 

 

海と風の手を握って励ましている光。

 

 

『聞こえたわ。』

『私達を元気づけようとしていましたわ。』

『うん。』

『でもね、私…怖いの。』

『私もです。』

『海ちゃん、風ちゃん…』

 

 

圧倒的な力の前に恐怖を覚えた二人。

 

光はずっとここに留まり、彼女達を鼓舞していた。

 

 

(私はセフィーロをこの世界を救いたい、だからもう少しだけ時間をください。)

 

 

光は必ず、三人で目覚める事を誓いながら説得を続けていた。

 

 

=続=




集結する魔法騎士。


次回、幻影のエトランゼ・第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》後編』


英雄譚と言う物語は人々の心に刻まれる。

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