幻影のエトランゼ   作:宵月颯
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眠りにつく少女達。

私は鼓舞する為に刀を振るう。

戦うべき相手の正体を識っているから。

私は迷わない。


※マークでBGM推奨:CUSTOS


第三十三話 『光柱《ヒカルハシラ》後編』

月面決戦が始まる少し前。

 

月面都市セレネシティに事業を置くマオ・インダストリー社は地球が元に戻った直後にインスペクターによって掌握されていた。

 

しかし社内に併設された工場にある筈のヒュッケバインシリーズは地球断絶事件の前に全て地球のフランス・オルレアン基地へと移送されていた。

 

その為、インスペクターは社内に残っている研究データだけでも奪い去ろうとしたが予期せぬ相手と戦う事になってしまったのだ。

 

L5戦役時、地球の裏側で猛威を振るっていた蒼き魔神グランゾンである。

 

 

『シラカワ博士、助力に感謝する。』

「いえ、こちらこそ…救助が遅れてしまい申し訳ありませんでした。」

 

 

マオ社代表取締役のリン・マオは窮地を救ってくれたシュウ・シラカワ博士に返礼の通信を入れた。

 

その横で補佐を務めるユアン・メイロンが答えた。

 

 

『しかし、何故このバイオロイド達は急に動かなくなったのでしょうか?』

「彼らを制御するNCCネットワークに細工をしたのです。」

『では、ここ以外にも?』

「ええ、今頃各地でも同様の事が起こっているでしょう。」

 

 

マオ社を掌握していたバイオロイド達を無力化した事をリンに伝えたシュウ博士は急ぎ連合軍へ通信を送り、月各所の奪還を依頼して欲しいと答えた。

 

 

『判った。』

「では、私はこれで…次の行動に移らなければならないので。」

『次の?』

「ええ、インスペクターへの反攻作戦…そして蒼き睡蓮が予期した戦いへの布石の為に。」

 

 

それだけを答えると通信を切り、グランゾンは転移していった。

 

 

******

 

 

私は光達の居た部屋を後にする数時間前にセフィーロ城内で開かれる作戦会議に参加した。

 

現在も作戦の中核となる機体の修理が着々と進み、作戦開始時刻までに間に合うだろうとの事だ。

 

 

(戦う力を取り戻せても皆の心に染み付いた恐怖の闇は拭い去れていない。)

 

 

当時の戦闘記録もそうだが、アカシックレコードで視た事で彼らの早期敗走は正しい判断だった。

 

かつてのデビルウルタリアでの戦いを思い出させる死なない兵士の群れ。

 

そしてデボネアによる心の闇への攻撃。

 

それらが現地で戦う者達の心を折っているのだ。

 

この戦いは心の闇…つまり自身のトラウマと向き合う必要がある。

 

こう言っては何だが今回の戦闘メンバーは心の闇があり過ぎるのだ。

 

騙されて戦っていた者。

 

操られて戦っていた者。

 

創造主の意思に反して戦った者。

 

同族を裏切って正義を貫こうとした者。

 

その経緯は様々だ。

 

だからこそ、誰かが明日へ目指す道を創らなければならないだろう。

 

そして彼らが己の闇と決着を付けなければならない。

 

よりハードな戦いになると思う。

 

 

(少し、彼女らに人暴れして貰う必要があるか…)

 

 

作戦内容を聞く中で私は彼女らを呼び寄せる事を決意した。

 

天を舞う者、海を踊る者、地を巡る者。

 

蒼き守護女神を守護する三体の守護獣達のお披露目をする時だ。

 

 

(ええ、解っているわ…心配は無用よ。)

 

 

誰にも聞かれない様に私は彼女に答えた。

 

あの時、私は万丈さんに嘘を答えた。

 

彼女の呼び声は聞こえていないと…

 

正確には既に同化していると答えた方が正しかった。

 

その契約を終えたのも私が弱冠五歳の頃…母を亡くした直後だった。

 

本来なら精神の幼い子供がアシュラヤーの意思に抗える事など出来なかったが…

 

私と言うイレギュラーのせいで主導権は私のまま融合してしまった。

 

彼女も『それも運命だったのでしょう。』と割り切っていた。

 

この状況は今日まで続いている。

 

第六エリアでの万丈さんは私への質問を間違えたのだ。

 

それでもあえて問わなかったのかもしれない。

 

私がこの真実を答えるまでの時間を与えてくれたのだろう。

 

 

(ビッグファイアも薄々気が付いていると思うけど、あれでも黙ってくれていたのだろうな。)

 

 

ま、戦うべき相手の影を追い始めた以上はやるべき事はやるつもりである。

 

復活を遂げる鋼鉄の孤狼達の為にも。

 

布石と言う布石は多い方が良い。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

予想外の事態は何時も慌ただしい。

 

作戦に参加する機体の修理が終了しないままの出撃はよくある事だ。

 

だが、今回の作戦は失敗する訳にはいかない。

 

そこで機体の修理を終えた者、元々修理の必要がない機体を持つ者が先に出撃する事ととなった。

 

拠点に攻め込まれてしまえば、今までの結果が無駄になってしまう。

 

戦闘の指揮は私と共に訪れたテンペスト少佐が行う事になっている。

 

本来なら宇宙のメンバーと合流して貰おうと思ったが…

 

 

『本来ならその戦場に私は存在しない、そう言う事ならこちらの戦況を終わらせる活動に参加しても影響はないだろう?』

 

 

正論とは言い難いが少佐が決めた事に口出しするつもりはない。

 

物語は主軸にありながらも戦いは時に変異し変わりつつあるのだ。

 

だからこそ、この戦闘にも無限力の介入があったのだろう。

 

でなければ、デボネアがあそこまで強大な力を得る事はなかったのだ。

 

死すべき人々へ未来を与え、変えに変えた事象への償いは続く。

 

 

「…(いつもより周囲の気配がピリピリしていてどうも落ち着かない。」

「ハスミ、大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと変な感じがしただけよ。」

 

 

出撃準備が整わないエオニア一行が出撃出来るまで、臨時の継ぎ接ぎ部隊がセフィーロ城を背に陣取っていた。

 

エオニアの一行は行動を共にしていない間に敵幹部だった人達を仲間に引き入れていた。

 

元ジャーク帝国の司令官ベルゼブ一行、元機械化帝国の四天王・エンジン王とギルターボ、元ドラコ帝国の戦士リュウ・ドルグ、元ドン・ハルマゲ軍の戦士ダ・サイダーとレスカ一行、暗黒騎士のガルデン、ゴールド三兄弟、マーダル軍からハイ・シャルタットと言う具合である。

 

ハイ・シャルタットは兎も角、他の人達はエオニア一行と和解して協力していたとの事なので特に問題はないだろう。

 

 

『ハスミさん。』

「舞人君、本当に戦線に出て大丈夫なの?」

『はい、俺も黙って見ている性分ではないので。』

「判ったわ、ただ無理はしない様に…(病み上がりで戦わせるのはと思ったけど大丈夫そうね。」

 

 

アースクレイドルから救出された舞人達も今回の戦闘に参加している。

 

残りの勇者特急隊のメンバーと合流しているので全機勢ぞろいとなっている。

 

 

『各機に通達する、今回の戦闘指揮を任された連合軍のテンペストだ。』

 

 

少佐の戦闘前の指示が始まった。

 

 

『各々が元勢力の幹部であった事は連絡を受けている。その為、現戦場のでの判断は各々に任せる事にした。だが…これだけは各自に守って欲しい、互いに必ず生きて戻る事だ。』

「了解です。」

 

 

各自の合否を確認した後、迫りくるデボネアの軍勢への戦闘に移行した。

 

デボネアは己が取り込んだ悪意達が配下として使用していた兵器を生み出し戦力にしていた。

 

強化されているとは言え、その戦い方が変わった訳ではなかった。

 

 

「ロサ、共に牽制射撃を頼む!」

「了解です、牽制射撃行きます!」

 

 

テンペストのヴァルシオンのクロスマッシャー、ロサのエザフォスによる晶石の弾奏による弾幕が始まった。

 

突撃してくる敵機の大半をこれで撃ち落とし、その残りをハスミらが切り込む形である。

 

 

「これ以上、城へは近づけさせない!」

「ガイン、ガンナー、ギリギリまでパーフェクトキャノンを温存するぞ!」

「了解。」

「おうさ。」

「ブラックとバトルボンバー、ガードダイバーは後方から撃ち漏らした奴らの相手を頼む。」

 

「「「了解。」」」

 

「ベルゼブ、地球防衛組が戻って来るまで私達で持ちこたえましょう。」

「勿論、そのつもりだ。」

「ラムネスの奴がへばっている間に俺達でやってやるぜ!!」

「ダーリン、行っちゃおうじゃん!」

「ギルターボ、こちらも後れを取る訳には行きませんよ。」

「了解だよ、ファーザー!」

「魔竜王ドルガ、参る!」

 

 

入り乱れる乱戦の中でも互いに鼓舞する事を忘れてはいない。

 

 

「自らの不始末を付ける為にも。」

「フット、マスク、連係プレーで行くぞ!」

「マーダル様の為にもここでやられる訳にはいかん!」

 

 

己の相性を理解し互いの相性を理解する事で迫りくる敵機を一網打尽にしていく。

 

 

「何故、あ奴らは恐怖に屈しない!」

 

 

力を増したデボネアの放つ魔の気配によって恐怖へと叩き落される筈だった人間が希望を胸に這い上がって来たのだ。

 

その光景にデボネアはその妖艶な貌を歪めた。

 

 

「デボネア、貴方には判らないでしょうね!」

「!?」

「私達はお互いに自分の心の闇と折り合いを付けた、だからこそどん底に居ようとも這い上がれる!」

「恐怖を恐れぬと言うのか!」

「恐怖の底に希望を見出した俺達を止める事はお前には出来ない!」

「かつての我々は敵として恐怖を振り撒いてきた。」

「だが、戦いの中で己の愚かさに気が付き…そして希望を見つけたのだ!」

「やっちまった事はしょうがねえ、だから俺様達は前を向くのさ!」

「立ち止まる事をせず、前へ向く事をザウラーズは私達に教えてくれたのです。」

 

 

そう、希望を胸に抱かせてくれたエオニア一行に変わって。

 

今度は私達は彼らの希望の証となる。

 

 

「おのれ、おのれっ!」

 

 

この状況を否定出来ず、己の力を暴走させるデボネア。

 

その巨大な黒き雷撃がセフィーロの城へと迫っていた。

 

 

「城が!」

「この距離からではっ!」

「来る…(デボネア、まだこちら側の隠し玉は残っている!」

 

 

デボネアの黒き雷撃を撃ち返し、城を護る様に現れた三体の蒼き存在。※

 

 

「あれは一体!?」

「判らない、だけと…あの三体からは敵意は感じ取れない。(ポーカーフェイスっと。」

「じゃあ、アタイ達を助けてくれたじゃん?」

「今はそう判断するしかないでしょう。」

 

 

一体はヴァルキリーを、一体はマーメイドを、一体はアマゾネスをを思わせる風貌である。

 

 

「まだ私の邪魔をするか!異界の海を護りし蒼き機械仕掛けの神の僕達が!」

「機械仕掛けの神?(ああ、何度でも邪魔をするさ。」

 

 

三体は城に纏わりつく魔のオーラを浮き出させはじき返すとその場から去っていた。

 

 

「あれは?」

「成程、アレが原因だったのね。(ありがとう、お疲れ様。」

「どう言う事なのですか?」

「光達やエオニア一行の不調が依然と治らなかったのは、あの纏わりついたオーラが原因だったのよ。」

「ハスミさん、また感じたのですか?」

「ええ間違いないわ、アレはデボネアの気配と同じものよ…光達が目覚めなかった原因でもあるわ。」

「では、そのオーラがなくなったと言う事は?」

 

 

城から出撃するイオニアとイオニアの一行、殿としてシグザリアス、レイアース、セレス、ウィンダムが前衛の様である。

 

 

「遅くなって済まない。」

「翔君、無事でよかったよ。」

「翔、もう体調の方はいいのか?」

「はい、お陰様でバッチリです。」

「ハスミさん、ロサ、遅れてごめんなさい!」

「光、海、風、貴方達も戻った様ね。」

「ご心配をおかけしました。」

「私達も一緒に戦わせてください。」

「勿論よ。」

「皆さん、お待ちしていました。」

 

 

快調したイオニアの一行と合流しデボネアとの戦闘に戻った。

 

 

「おのれ、人間どもが!」

 

 

デボネアは己が取り込んだ悪意達の親玉を複製で生み出し、更に戦列に加えた。

 

だが、恐怖の力が薄れてきたのか各一体ずつになっている。

 

 

『各機に続く、敵の攻撃が薄れて来た…今が攻め時だ!』

 

 

 

それぞれが因縁を断ち切る為に立ち向かっていく。

 

 

地球防衛組がジャーク皇帝を。

 

ガンバーズが三魔王を。

 

ザウラーズが機械神を。

 

リュー使い達が邪竜皇帝を。

 

勇者ラムネス一行が妖神ゴブーリキを。

 

善神アーガマの子孫達が邪神ドラゴを。

 

シグザリアスがラルヴァを。

 

そして…

 

 

「デボネア、私達はもう恐れない!」

「皆が見せてくれた輝きを!」

「忘れない為に!」

 

 

レイアース、セレス、ウィンダムが重なり合神レイアースへと変化する。

 

 

「己の闇を理解し寄り添い共に歩む!」

「私達は前に進みます!」

 

 

エクリプス、エザフォスが心淵の極意を発動させモードチェンジする。

 

そしてそれぞれの必殺技が因縁を打ち砕く!

 

 

「何故…」

 

 

デボネアは輝きの中に埋もれながら何も理解できずに再びその存在はかき消えて逝った。

 

そして倒されたのと同時に曇天の空はゆっくりと輝きを取り戻していった。

 

その輝きを確認し勝利の声を各自で上げた。

 

 

******

 

 

合神レイアースを解除しゆっくりとセフィーロの城へと降りて来る魔法騎士達。

 

 

「ランティス、私…ずっと貴方に言いたかった事を言うね。」

 

 

光は笑って答えた。

 

 

「ランティス、大好き。」

「俺もだ…」

 

 

黒の魔法剣士は天の梯子から降り立つ炎の魔法騎士を抱きしめる。

 

光は自分が望んだ結末を叶えたのだ。

 

 

「…(光、ランティス、どうか幸せに。」

 

 

その先の未来は貴方達自身に掛かっています。

 

私は宇宙で戦いを繰り広げている仲間達の安否を思いながら意識を天へと向けた。

 

 

=続=




己の一撃を込めて。

己の魂を掛けて。

彼の者を解放せよ。


次回、幻影のエトランゼ・第三十四話 『赤撃《アカキショウゲキ》』


私は私に成りたい。

それはもう叶えられている。

ただ、気が付かないだけ。


*****

<ショメル>
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の機神官の総称。
意味はヘブライ語で「番人」、三体はアシュラヤーの象徴色である青系の装甲を持つ。
今回の戦闘で危機に陥ったエオニア一行を救った。
(正確には巫女であるハスミを救う為に現れた。)
戦闘後は姿を消し、行方は不明である。


※トフェル
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのカナフに該当する。
外見は腰に翼を生やした甲冑の女性で周囲に鏡の様な物体を浮遊させている。
意味はヘブライ語で「鉤爪」を意味する。

=技名=
アソン・テヴァ(天災)、ヴァツォレット(日照り)。

※二ヴ
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのケレンに該当する。
外見は上半身が女性で下半身が魚の人魚で宝飾された杖を所持している。
意味はヘブライ語で「牙」を意味する。

=技名=
マアルボレッド(渦)、マブール(洪水)、サハフ・ヤム(侵食・海)

※ラアマー
アシュラヤー・ガンエデンを守護する三体の念神官の一体。
クストースのザナヴに該当する。
外見は狼と女性を合わせた獣人で俊敏な鞭を装備している。
意味はヘブライ語で「鬣」を意味する。

=技名=
セアラー・バラック(嵐・稲妻)、レイダット・アダマー(地震)。





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