幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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取り戻す事は出来ない。

それでも解放する。

これはその痛み。

悲しみはその怒りだ。



第三十五話 『来星《ライセイ》後編』

ノードゥスが先遣隊としてホワイトスターに攻撃を仕掛けた頃。

 

地球では…

 

 

******

 

 

青き星は赤に染まる。

 

それは空を覆い尽くし、人々を不安へと導くかの様に。

 

カナダのとある片田舎では…

 

 

「シロー殿、空を!」

「ノリスさん、これは…!」

「何があったの?」

 

 

一組の夫婦とその付き人が先ほどまで星空に輝いていた空を見上げる。

 

それは紺碧の空を覆い尽くす紅だ。

 

 

「…(俺は…この光景を覚えている?」

 

 

シローの脳裏に朧げに蘇る記憶。

 

宇宙から視た地球を染める紅。

 

 

「シロー、一体何が起こっているの?」

「俺にも解らない…ただ宇宙で何かが起こっている。」

 

 

身重であるアイナの肩を寄せてシローは空を見上げた。

 

今も戦い続けている仲間達の安否を気遣いながら。

 

同じく日本の雷門通り近くの下町では…

 

 

「じっちゃん、空を見てくれ!」

 

 

15歳位の学生が紅に染まった空を見上げた。

 

その横で妹だろうか?

 

パグを抱き上げた少女と共に居た。

 

家の中に籠る祖父へ危機を知らせるが聞こえていない様子だ。

 

 

「…(鋼龍戦隊の皆、頑張ってくれ!」

 

 

この少年ことコウタ・アズマは戦えない歯痒さを抱えながら何れ共に戦うだろう仲間の安否を気遣った。

 

同じ様に浅草の観光地で騒めく観客達の中で店員用の制服を着た青年が…

 

龍神が住まうと伝承された池の前で10代の少年が…

 

 

「頑張って、エクスクロスの皆…!」

 

 

北海道の学園内で双子の姉弟が…

 

同じく北海道の郊外で紫色の髪の親子が…

 

オーブの街で紅に染まった空を見上げながら妹や友人達と共に祈りを送る赤い眼の少年。

 

 

「…(キラさん、アスランさん!」

 

 

とある遺跡が眠る孤島で蒼き巨人と共に空を見上げる少年が…

 

アースクレイドル跡地でクライウルブズ隊が…

 

地球各所で同様の事が発生しながらも諦めずに応戦する人々。

 

人類は諦めた訳ではない。

 

紡がれた奇跡は人々の心の中にも届いて居た。

 

ある者はそれを歌で伝え。

 

ある者は名も無き英雄として戦場で仲間達を鼓舞し。

 

ある者は戦いの渦中に居る者達の帰還を信じながら。

 

己の恐怖と戦っていた。

 

 

******

 

 

先のインスペクター組との話し合いの後。

 

ノードゥスは彼らの案内の元、警備が手薄となっているエリアからホワイトスターに侵入する事に決定した。

 

アインストに侵食されたとは言え、一部の戦力はこちら側で使用出来ると判った為である。

 

だが、それも時間の問題だろう。

 

インスペクターの前線司令官がアインストに侵食され、既に本人自身ではない以上。

 

この戦いも避けられないのだから…

 

 

「…(この状況、INの流れが強いか。」

 

 

ホワイトスター宙域に潜入したものの、予想を超えた激戦を繰り広げる事となった。

 

ホワイトスターを依代に顕現したシュテルン・レジセイアを中心にクノッヘン等の初期アインストが網を張っていた。

 

同時に戦闘指揮官的立場なのだろうかアインストの大群の中にウェンドロが搭乗するディカステスの姿も見えていた。

 

メキボスを皮切りにヴィガジとアギーハも話すが当のウェンドロは聞き流していた。

 

 

「…ウェンドロ。」

「煩いね、裏切り者さん達。」

「ウェンドロ様、何故この様な事を!」

「煩いと言っているだろう、君達は本当に分からず屋だね。」

「ウェンドロ様…!」

「君達は静寂を乱した、その償いはして貰うよ。」

「何時からだ?お前がそんな事になっちまったのは?」

「この衛星に来てから僕は彼らと解り合った…そして知ったのさ。」

「…!」

「君達は滅びる定めであるとね…!」

 

 

ウェンドロが本性を現したのかディカステスはその姿を変異させていった。

 

 

「こっちも最初からそのつもりだ…!」

「メキボス、アンタいいのかい!」

「もう腹は決まっている、アイツが変わっちまったのなら兄貴である俺が奴を倒すだけだ!」

「メキボス、お前。」

「俺達の戦いも最初から仕組まれていたのなら今が尻拭い時だって事さ。」

「…」

「シカログ判ったよ…腐れ縁らしくメキボスの手伝いをしてやるさ。」

「ふん、結局はこうなるのか。」

「お前ら、こんな兄弟喧嘩に付き合わなくてもいいんだぜ?」

「言っただろ?腐れ縁だってね。」

「ウェンドロ様は戦死された、ならば生き恥を晒させる訳にも行くまい。」

「…」

「礼は先に言って置くぜ、お互い生きていたら祝杯でも挙げようや。」

 

 

それぞれが因縁の相手と戦う中で一つの布石が始まっていた。

 

 

「アルフィミィ。」

「キョウスケ、エクセレン、今度こそは私と一緒に来ていただきますの。」

 

 

混戦の中でキョウスケとエクセレンはアルフィミィと対峙していた。

 

そしてエクセレンはアルフィミィの言葉の意味を理解し答えた。

 

 

「貴方はそれでいいの?」

「え?」

「私ね、貴方と一緒に居る時に何となく解っちゃったのよ。」

「何を…でございますの?」

「貴方は自分が消えたくないからキョウスケと私が必要と思ったんじゃない?」

 

 

アルフィミィはエクセレンの言葉に動揺したものの判らないと答えた。

 

 

「それは…私には判りませんの。」

「胸がモヤモヤするとか~ずっと言ってた割にまだ気が付かないのかしら?」

「エクセレン…?」

「貴方はアルフィミィでありたい、私達と家族になりたいって思っているのよ。」

「それがこのモヤモヤの意味ですの?」

「ま、私の結論って言うか考えだから…その答えはお嬢ちゃんが決めなさいよ。」

「私は…」

「エクセレン。」

「解ってるわ、こう言う時に限って邪魔者さんはやってくるものね。」

 

 

戸惑うアルフィミィを用済みと判断し処理しようと現れたアインスト。

 

それは予期せぬ新手の襲来でもあった。

 

 

「あれは…!」

「ちょっと、これ如何言う事よ!」

 

 

混戦の中でシュテルンレジセイアを一刀両断したダイゼンガーとアウセンザイターであったが…

 

蛹から成虫が羽化する様にシュテルンレジセイアの亡骸から現れた機体。

 

通称ノイヴォルフである。

 

ノイヴォルフ出現と同時に私達は例のアインスト空間へと閉じ込められてしまった。

 

崩壊したホワイトスターの残骸中でノイヴォルフの搭乗者であるベーオウルフは答えた。

 

 

「所詮は古きレジセイアの堕とし種、静寂を齎す事は出来ないか…」

 

 

巨大だった機体は白い装甲へとサイズダウンし四方に篝火の様な物を上げる。

 

 

「破壊は創造…滅びは新生…それが静寂なる世界へのトビラを開く…真の鍵!」

 

 

篝火と共に現れたのは同種のアインスト。

 

向こう側の遊撃部隊マーチウインドことノイ・マーチウインド。

 

これが今回の戦いで齎された悲劇の一つである。

 

 

「あれは!?」

「アクセル?」

「間違いない、アレは…」

「我々の世界の遊撃部隊マーチウインド…その成れの果てだ。」

 

 

アインスト空間の中で戦い続けていたヴィンテルの搭乗するツヴァイサーゲイン。

 

機体の所々に亀裂が入り、動かせるのがやっとの状態である。

 

 

「ヴィンテル、生きていたのか!」

「アクセル、お前の推測通りだった…我々の目指した理想は奴らによって捻じ曲げられた。」

「ヴィンテル…」

「アクセル、キョウスケ・ナンブ、奴を倒さねばこの世界に未来はない。」

「…共に戦うのか?」

「奴を倒す為に生き恥を晒す程度で済むのなら構うものか!」

 

 

この時、捻じ曲がった筈の道は繋がった。

 

これも奇跡なのだろう。

 

 

「全機、目標は白いアインスト!全員で元の世界へ生還する!」

 

 

ダイテツ艦長の発言を皮切りにノードゥスはノイ・マーチウインドへ攻撃を開始した。

 

 

「真の新生を前に抵抗するか…ならば!」

 

 

ノイヴォルフを倒す為に向かったATXチームの前に四機のノイ化したアインストが立ちはだかった。

 

 

「…(スーパーアークゲイン、スイームルグS、アシュクリーフ、ラーズグリーズ、64の主人公機勢揃いか。」

 

 

少々見た目は変わってしまっているが、彼らの機体である事は目視で確認した。

 

幼い頃に夢で視たマーチウインドの敗北がここで障害になってしまった。

 

 

「奴らの相手は私とロサが勤めます、キョウスケ隊長達は最終目標を追ってください!」

 

 

ハスミはATXチームのメンバーを先に行かせて四機へ応戦の構えを見せたが…

 

 

「ハスミ君、彼らの相手は僕らが引き受ける。」

「万丈さん、それにドモンさん、アムロ大尉、クワトロ大尉。」

「彼らは僕らが倒さなければならない。」

「…(そうか、万丈さん達は64のシナリオでも彼らと親しくしていたんだっけ。」

 

 

私は彼らと深く関わっていた人達を今更ながら思い出していた。

 

 

「知るからこそ、その手は鈍る…君が言っていた言葉の意味が判ったよ。」

「えっ?」

「我々は識っている、だからこそ躊躇いが残ってしまう。」

「だが、躊躇っていては本当に護りたいものを守れない。」

「アムロ大尉、クワトロ大尉、ドモンさん…」

「君は例の事情で遠回しだが僕らを助ける為に助言を送ってくれていた…今度は僕らもその痛みを受ける番だ。」

 

 

話を終えると万丈はスイームルグS、ドモンはスーパーアークゲイン、アムロはアシュクリーフ、クワトロはラーズグリーズにそれぞれが対峙した。

 

 

「ハスミ…」

「ロサ、キョウスケ隊長の跡を追おう。」

「うん。」

 

 

私達は万丈さん達の勝利を信じて、後追いとなったがノイヴォルフの元へ向かった。

 

 

「…」

 

 

己の現身。

 

己の在るかも知れなかった姿。

 

捻じ曲がった運命が対峙し最悪の形で繋がった。

 

止めようがなかった。

 

だからと言って歩みを止めるつもりはない。

 

ノイ化した機体を一機、一機と倒す毎に脳裏に過ぎる断末魔。

 

そのパイロット達の末路が蘇る。

 

ゴメンナサイ。

 

ごめんなさい。

 

御免なさい。

 

私はいつの間にか涙を流していた。

 

救えなかった人達を眠らせる為に銃を握り剣を振りかざした。

 

 

「過去が未来に…!」

「貴様の言う過去だからこそ未来は変えられる!!」

「ベーオウルフ!これが貴様の最後だ!!」

 

 

仲間の援護を受けてソウルゲインの拳がノイヴォルフの装甲を打ち破り、アルトアイゼン・リーゼの杭がベーオウルフを撃ち抜いた。

 

向こう側のアインストの首魁、ノイヴォルフを討ち倒しアインスト空間から脱出を試みるノードゥス。

 

念動者同士の共鳴と索敵により脱出に成功するものの事態は一変した。

 

 

「脱出出来たのか?」

「違う、これは!?」

「イングラム隊長、これは引き寄せられています!」

「何だと!?」

 

 

SRXチームのマイ、リュウセイ、アヤが状況の危機を悟った。

 

私はこの状況の先を知っていた為、あえて沈黙していた。

 

 

「…(これからZの流れの戦いが始まる。」

 

 

これが望みか、黒のカリスマ…

 

いや、ジ・エーデル・ベルナル。

 

望みとあらば始めよう、Zの聖戦の開幕を。

 

貴様と言う存在の一度目の敗北を。

 

全ては流れのままに。

 

 

******

 

 

同時刻、地上では。

 

 

「…そろそろ君らも諦めてくれないかな?」

 

 

悪戯に対して仕置きされる子供の様な態度で答える者。

 

 

「それを僕らが許すとでも?」

「そう言う冗談はあの世でやってくれるかい?」

 

 

それに対し彼らは許す気など無かった。

 

南米大陸の片隅、UNのネットワークを管理する軍事施設。

 

其処にエーデル・ベルナル達が潜伏していると突き止めた国際警察機構。

 

施設内に潜入したエキスパートと外部の守備に携わっているカイメラ隊に攻撃を仕掛けるBF団と孫光龍。

 

これは誤字ではない、前回の共闘宣言は続いてる為にこの様な形となっている。

 

外部ではBF団所有の怪ロボット軍団と孫光龍の応龍皇がカイメラ隊の機動兵器と交戦。

 

その多くを倒したが、隊長クラスであるレーベン、シュラン、ツィーネ、アサキムの四人によって暫く泥沼へと変貌。

 

だが、流石の四人でも荷が重すぎたのか痺れを切らせたエーデルが出撃した。

 

流石のビッグファイアもこの状況を良く思わなかったのだろう。

 

自らの護衛であるアキレス、ネプチューン、ガルーダの三体を呼び出して交戦を開始。

 

流石の彼女らも伝説と謳われたバビル二世を守護する三体には不覚を取ったのだろう。

 

ツィーネとアサキムは戦場から離脱。

 

レーベンとシュランは機体を破壊され脱出後にエキスパート達に逮捕された。

 

問題のエーデルは分が悪くなったのと同時に現れた黒のカリスマにバインド・スペルを使用され呆気なく倒されてしまったのである。

 

かつて聖女と謳われた彼女にとっては悲惨な最後であろう。

 

話は戻り、黒のカリスマもといジ・エーデル・ベルナルが搭乗するカオス・レムレースと対峙。

 

これもビッグファイアと孫光龍によって追い詰めたのだが…

 

 

「残念だけど君達に構っている暇はないんでね、この辺で失礼させて貰うよ。」

 

 

ジ・エーデルは次元震を発生させ、その場から離脱。

 

それと同時にその場から離れようとする応龍皇。

 

 

「…」

「光龍、何処へ行く気かな?」

「この場に僕は必要なさそうだからね、奴を追うよ。」

「行き先に宛があるとでも?」

「彼の性格が僕の予想通りなら、ね。」

 

 

黒のカリスマは僕同様のゲテモノ好きだからね。

 

そう言う輩は真っ先に特等席へ向かう筈さ。

 

 

「…この戦いの見届け人は君に任せておくよ。」

「珍しいね、君が直接見物しないなんて?」

「彼女の事が心配なのだろう?」

「それもあるが、僕は宣言した通りにするつもりなだけだよ。」

 

 

ビッグファイアに図星を突かれていたが、いつものポーカーフェイスで返した。

 

 

「…(さてと、僕もそろそろ君達の戦いに参加させて貰うよ。」

 

 

光龍は帽子を深く被り直すとその場から立ち去った。

 

そして応龍皇の操縦席で呟いた。

 

 

「黒のカリスマ、僕の大切な娘に傷を負わせた報いは受けて貰う。」

 

 

戦いの決着は見届け人の彼とノードゥスの手に委ねられたのである。

 

 

 

=続=

 

 




願わくば再会を願う。

私達は前へと進む。

次回、幻影のエトランゼ・第三十六話 『天災《ジ・エーデル》』。

這いつくばろうと私達は立ち上がる。


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