幾多の時を巡りそして芽吹く時を。
だが、人は愚かではない。
心の中に勇気と希望が無くならない限り。
人は何度でも歩めるのだから。
今回の戦乱の元凶であるジ・エーデル・ベルナルを打ち倒し次元修復を終えたノードゥス。
だが、時に運命は些細な悪戯を仕掛けていた。
文字通り次元修復は成功した。
しかし、それが完了するまでに多少の時間を要したのである。
互いに別れを告げるには少し長い時間が生まれたのだ。
いずれ帰還する人々が属する世界に。
それぞれが戻れるまで支える方針を政府上層部は滞在者達側の代表達と議論する事となった。
一部は属する世界への帰還をすぐに行える。
だが、何分にも失ったモノは多いので準備が整うまで滞在する国や組織も多かった。
後に地球連合政府は滞在国並びに滞在組織への不可侵条約を決定。
扱いはリクセント公国やスカンジナビア王国の様に特別自治区…
簡単に言うなら中立と言う立場で扱う様なものである。
滞在組織は地球連合政府からの依頼で太陽系復興の要請に協力。
それぞれが各方面へ異動する事となった。
大体、こう言う場合には異議を申し立てる者が少なからずいるのだが…
当面の衣食住、機体の整備、賃金の支払いなどが条件として盛り込まれているので簡単にOKを出したらしい。
チョロいと思ったのは自分だけか?
私達、ノードゥスは部隊解散の前にオービットベースにて待機が命令された。
戦いが終われば所属している場所へそれぞれが帰還する。
ある者は再び戦場へ。
ある者は再び日常へ。
ある者は再び航海へ。
私達は何時でも人生に明日と言う旅の途中である。
現在、機体の修復や今後の方針等が各部隊の代表と艦長らで今も議論中。
残りはオービットベース内のホールで祝勝パーティを行っているが…
人類滅亡のタイムリミットが迫っている事を誰も知らないまま。
その時を迎えようとしていた。
******
オービットベース内が祝勝パーティで賑わう中。
メディカルルームの一室でそれは起こった。
「凱兄ちゃん、命姉ちゃんが!」
「遅かったか!」
戦いを終えた者達を待ち受けた悲劇。
それはEI-01のイヤゲ土産とも呼ぶべき種子。
それが卯都木命に寄生し、長き時の中でGストーンやJジュエルへの耐性を身に着けていたのである。
毒を持って毒を制すとでも言うのか?
私としては早い内に接触し彼女から種子を摘出した上で無力化させたい所だったが…
その機会もなくアカシックレコードからも止められていたので何も出来なかったのである。
機界新種と化した命さん改め、ゾヌーダはオービットベース内の艦を奪取し地球へ降下。
始まり地であるGアイランドへ向かったのである。
こちらも手を子招いている訳には行かず、出撃可能な機体を箱舟に乗船させて後を追った。
理由は先のゾヌーダによってエネルギーを吸収され動けなくなったり修理自体が終了していない為に動けない機体も数多く存在したのだ。
その煽りを受けない機体が選出されゾヌーダの跡を追跡する事となったのである。
それがテッカマン、魔神、一部の勇者、KLF、修理が終わっていた小型のMSや特機などである。
ゾヌーダの物質分解オーラを受け止められるのは一度切り。
そして地球の機界消華までのタイムリミットはたったの15分。
再び地球が危機に陥ったのである。
だが、ノードゥスは戦えない仲間達の支援を受けられなくとも奮闘。
数々の戦いを戦い抜いた一人一人が一騎当千の戦士。
だからこそ振り返る事はない。
諦めず最後の一体になるまでその攻防は続けられた。
そして最優先修理を終えたスターガオガイガーとキングジェイダーが増援として参戦。
その身がボロボロになるまで続き、ついにゾヌーダの機体を対消滅覚悟で破壊。
だが、ゾヌーダの浄解はこれからだった。
勇気と希望を持って勇者達は幼き少年達と言の葉を紡ぐ。
愛した人を世界を救いたい思いと共に紡いだ。
「「クーラティオー、テネリタース、セクティオ、サルース、コクトゥーラ…」」
「「テンペルム、ムンドゥース、インフィニ、トゥーム、レディーレ…」」
機界消華の中心となったGアイランドを緑色の光と赤色の光が周囲を包み込んだ。
それは幾つもの生命が持つ命の輝き。
「…奇跡が起きたよ。」
「これが奇跡か…」
浄解モードの護と幾巳の前で彼ら彼女らが人としての姿を取り戻したのだ。
「凱、その姿は…!」
「神様が取って置いてくれたらしい。」
機界新種の姿から戻った命。
機界消華の果てにボロボロになった筈のサイボーグの肉体から生身の肉体へと戻った凱。
それは奇跡の証であり、これから始まる戦いへ赴く為に進化した姿でもあった。
多くの人はまだ知らないだろう。
それが人の根源が引き出す力の果てに起こる真化に由来する力である事を…
その余韻は戦いに参加していた者にも余波を与えた。
サイボーグ体であり肉体に銅鐸を宿した宙。
JジュエルとGストーンのサイボーグであるJとルネ。
DG細胞をその身に宿したドモンとレイン。
DG細胞によって生み出されたシュバルツ。
アインストとして滅びを迎える筈だったアルフィミィ。
彼らもまた有機物と無機物が融合し新たな存在となったのだ。
別の意味でエヴォリュダーとして。
「これも新たな選択肢に於いての結末か…」
私は瓦礫の山となったGアイランドの街並みの中。
勇気ある誓いが手にした奇跡の光景を眼にしながら静かに涙を流した。
彼らの帰還に祝福とこれから起こる戦いに巻き込む懺悔の為の涙を。
******
「一足遅かったけど、何とかなったみたいだね。」
「…」
「さっきも話した通り、これからが君達の本番だよ。」
瓦礫と化したビル街の影で話す二つの人影。
「例の奴は僕らの方で追っている、君は護るべき者と奴を倒す為の鍵を探すといい。」
「…」
「僕らの巫女様は約束を守る方さ、勿論裏切った場合の報復は凄まじいけどね?」
「アシュラヤーに礼を伝えてくれ。」
「じゃ、商談成立って事で…」
影の一つがビル街の影に溶け込む様にして消えた。
「またね、ソムニウムのラミア。」
彼は消えた存在の名前を静かに答えた。
同時にハスミからの念話を受ける光龍。
『光龍、そちらはどうですか?』
「何とかなったよ、ただ損害は君の予想通りだね。」
『そう、ですか…』
「アサキムとツィーネはこっちで身柄を預かっているけど大丈夫なのかい?」
『利害が一致している以上、その時までは何もしないでしょう。』
「ま、いいけどね。」
『一息つけたら調べて貰いたい事があります。』
「また調べ物かい?」
『ええ、GAILとバビロンプロジェクトと言うのは御存じでしょうか?』
「片方は国際コングロマリット…大手の複合企業でもう片方はデモばかりの土地開発プロジェクトだったね。」
『どうもキナ臭い感じがし始めているので調査をお願いします。』
「で、調査中のウォン重工業とモーディワープとかはどうするんだい?」
『私の方で調べます、丁度いい辞令がこちらに来る予定なので。』
「…君も抜け目がないね。」
『血は争えないと言った方が正しいのでは?』
「!」
『後でキッチリ決着を付けましょう…お父さん。』
その後、彼女の念話は一方的に遮断された。
「プッ…アッハハハ……流石は僕の娘だよ。」
彼の実の娘と悟ったハスミの言葉は光龍に笑いを与えた。
=第二章・完=
様々な思惑が飛び交う中。
傀儡師は目覚める。
次回、幻影のエトランゼ・第三章『修羅ノ詩篇』
踊ろう、この乱世の中で。