今は別の道を歩むだけ。
第三十八話 『選道《センドウ》』
先の戦いから数週間後、季節は初夏。
真夏の暑い日差しが近づく中で人々は壊された街の復興に勤しんでいた。
元々の生活に戻った者や新たな新天地を求めて移動する者も多い。
戦いの傷跡が所々残る世界で人々は歩みを止めずに歩き続けるのだ。
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「はぁ~」
「溜息をついてどうした?」
「だって、うちのチーム随分と寂しくなっちゃって…」
ロシア極東に位置するペトロパブロフスク・カムチャツキー基地の分隊室にて。
ATXチームのエクセレンの愚痴を聞きつつ書類整理に勤しむキョウスケの姿があった。
「クスハとブリットは引き続きテスラ研で超機人の調査、ハスミとロサは国際警察機構に出張後ギリアム少佐の諜報部隊に異動、ゼンガー少佐はトロンべ隊に異動、ラミアも戦技教導隊に異動になったばかりだぞ?」
「だ・か・ら・よ~皆出張やら異動やらでお姉さん寂しくなっちゃうわ。」
「諦めろ、上からの命令もあれば望んで移動願いを受けているんだ…俺達が邪魔をするいわれはないだろう。」
「エクセレンは寂しがり屋ですの。」
「アタシの気持ちを分かってくれるのはミィちゃんだけよ~」
前回のGアイランドの戦いにて消滅を免れたアインスト・アルフィミィ。
現在、彼女の処遇や正式な登録手続きの関係でこのカムチャツキー基地に島流し状態を受けている。
平たく言えばこっちで正式な書類が出来るまで隠れていろと言う形でもあるのだが致し方ない。
ちなみにソファーに座っているアルフィミィの頬を同じく頬でスリスリしているエクセレンが未だに愚痴っている。
「兎に角、レイカー司令が何とかアルフィミィの存在がバレない様にギリアム少佐と動いている以上は俺達も静かに待つしかない。」
「それは判るけど、ミィちゃんだってこんな氷ばかりの所じゃ…嫌になっちゃわない?」
「私は雪とか氷は初めてなので大丈夫ですの。」
「ミィちゃんがピュアっ子すぎてお姉さん泣けちゃう。」
確認した書類を纏め上げたキョウスケはその様子を静かに見守っていた。
「全くこっちの気も知らんで呑気な奴らだ、これがな。」
当番制の基地周辺の巡回を終えたアクセルが分隊室の前で同じく愚痴っていた。
「アクセル、巡回が終わったのか?」
「相変わらず周辺の様子は変わり無しだ。」
「そうか…」
「所でキョウスケ、さっきから何を見ているの?」
先程の書類の束を片付けたキョウスケ。
次に見ていたのは新兵器トライアルに提出されるメーカーとその起動兵器の一覧表だった。
「これって今度の連合軍の新兵器トライアルに出る機体?」
「そうだ、戦技教導隊がこのトライアルに参加する予定だ。」
「戦車っぽいのもあれば、戦闘機っぽいのもあるわね。」
「性能面からJUDAコーポレーションの迅雷、GreAT社のヴァレイシリーズ、ウォン重工業のバルトールが有力候補とされている。」
「えー?アナハイムとかルオ商会にサナリィ、アクタイオン・インダストリーにモルゲンレーテ社とか大手も参加しているのに?」
「ネルガルはL5戦役の失態を抑えるのに大忙し、篠原重工とシャフト・エンタープライズはバビロンプロジェクト一択で参加を見送ったとの事だ。」
「最上重工とアシュアリー・クロイツェルはどうなった?」
「機体開発が滞っているらしくこちらも辞退したそうだ。」
「そう言えばマオ社とイスルギ重工は?あっちも良くトライアルに参加しているでしょ?」
「前回のトライアルで新型機を提出したばかりだ、ネタがないのだろう。」
度重なる異星人の襲来とブレイク・ザ・ワールドによる並行世界からの来訪者。
この事態に政府は太陽系防衛の為に新兵器の開発を進めていた。
「…(マサキによればユルゲン博士は既にビアン博士と共に行動している、この世界のバルトール事件は一体誰が引き起こす?」
変わりつつある事象にキョウスケは不穏な空気を読み取っていた。
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一方その頃。
ギリアム少佐ら諜報部隊は詐欺メール騒動と共に起こった機動兵器関連企業の社長殺害事件を追っていた。
そしてその詐欺メールの出所が外州精機と呼ばれる中小企業である事が判明し潜入する所だった。
そのギリアムの部下の怜次、壇、光次郎。
光次郎からガイシャの頭部が何か鈍器の様なもので粉々に吹き飛んでいる状態の写真に対し『鉄のボクサーグローブで殴打とか?』と下らない発言をし。
怜次が『そんな事が出来るのはガンダムファイター位ですよ。』とツッコミを入れた。
今回の事件捜査に参加していたロサから『鉄球を撃ち出す様なものでないと無理がありますし犯人は人じゃないかもしれません』と説明。
その説明に壇はそんな馬鹿なと考えるがブレイク・ザ・ワールドやベルターヌ騒動でバケモノや魔物と言う存在を見てしまった以上、有り得ると肯定した。
同じく事件捜査に参加していたハスミはギリアム少佐に『万が一の事があるのでその手の相手が出たら自分達が応戦する。』と答えた。
ギリアムも危険と分かっていたが、空白事件の最中…アースクレイドルでの戦闘を見ているので許可を出した。
流石に女の子にそれはないでしょ?と怜次と光次郎が止めに入るも…
「言って置くが、ハスミ少尉とロサの戦闘能力は国際警察機構のエキスパートレベルだぞ?」
とギリアムが答えると…
『え?』と二人の顔が真っ青になったのは言うまでもない。
壇からは『君達、PTを生身で壊せるのかい?』とハスミとロサに話していた。
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外州精機のビル入り口近くに止められた運送車。
その中で外州精機のネットワークに詐欺メールを送るウイルスを仕込み、犯人を特定する作業に入っていた。
ギリアム少佐と壇、ハスミ、ロサがビル内部に潜入。
ウイルスの発信を待って犯人を燻り出すのを待っていた。
そして作戦開始の合図音が響いた。
オフィスのPCに流れる詐欺メールの嵐。
サラリーマン達が各デスクでメールの嵐を止めようとしているが無駄な作業である。
流したウイルスはマオ社の技術者達が悪戯で作り上げたえげつない代物。
そんなものを止められるとしたらラーダさんやセロ博士位なモノだろう。
その混乱でお茶くみの女性がお盆を落とした様子を見たギリアムは彼女が犯人と確信し後を追った。
その後を壇、ハスミ、ロサが追って行った。
お茶くみの女性が避難経路にあるドアを開けようとした所…
ドアが爆発でも起こしたかの様に弾け飛んだ。
ギリアム少佐と壇が女性を確保した後、ドアの奥から現れたのは浮遊する鉄球を装備した鉄板の様な物体。
勿論、その物体に自己判断など出来る筈もない。
問答無用で襲って来たのだ。
「ギリアム少佐、奴はこっちで惹き付けますので屋上で合流しましょう!」
「ハスミ少尉、無茶はしないでくれ!」
「了解です。」
こっちの事情などお構いなしに鉄球を発射してくる鉄板もといモノリスモドキ。
余りにもしつこいので鉄球を斬り裂いて置いた。
屋上に出た後、ロサにはモノリスモドキに砲撃を仕掛けて貰った。
流石のモノリスモドキも煙を上げて地上に落下するのかと思ったが突如出現した機動兵器と合体しそうになった。
しかし…
「ギリアム少佐!今です!!」
反対側の工事中のビルに待機してあったゲシュペンストmk-Ⅱのメガブラスターキャノンにて合体途中のモノリスモドキを機動兵器ごと砲撃。
それによりモノリスモドキが本体だったらしく機動兵器は沈黙した。
「さてと、これを仕掛けたのがあっちか…」
私はロサにその場で待機を頼んでビルからビルへ飛んで今回の首謀者を追った。
暫く移動するとピンク色の髪をした少女が愚痴っているのが見えて来た。
「どっか壊れてたのかな、全然使えないし。」
「子供の玩具には随分と大きいわね。」
「アンタ、いつの間に!?」
私はこの事件の首謀者である少女の背後を取って話しかけた。
しかし、少女と言っても腕力は化物級。
その反撃を喰らわない為に少し移動する羽目になった。
ちなみに私は敵に顔を判別させない様に行動中は常に仮面を付けている。
「あの機動兵器を動かしていたのは貴方ね。」
「だったらどうする訳、お面さん?」
「さてね、悪い子にはお仕置きしなきゃでしょ?」
「悪いけどアンタの相手をしている暇はないし、今はバイバイするわ。」
「逃がすとおもっ…!?」
動きを封じようとした矢先、転移の様なもので逃走した少女。
気配も完全に消えており、その後を追跡するのは無理があった。
「ギリアム少佐…申し訳ありません、モノリスモドキの犯人を取り逃がしました。」
「そうか、こちらは詐欺メールの犯人を拘束する事に成功した…一旦戻ってくれ。」
「了解。」
私は仮面を外して溜息を付いた。
「はぁ、最初っから失敗する何て…幸先悪そうだわ。」
あの少女、ティスをここで逃がした以上…外伝のコンパチフラグは成立しそう。
「さてと、次はモーディワープ社に調査か……流石に仕事は多いわ。」
私は事後処理の為にギリアム少佐が居る現場に戻った。
=続=
梅雨入りの季節。
雨降る都心に蠢く影。
少年達は一つの悪意に晒される。
次回、幻影のエトランゼ・第三十九話 『覚醒《ベターマン》』。
それは戦いの兆し。