光が一つまた一つ消えて逝く。
嗤いながら消えていく。
そして自らも。
ボトム・ザ・ワールドの一般開園を前に予約限定で手に入る先行招待券。
それを手にした者は文字通り夢の世界に行けただろう。
だが、時として夢は悪夢へと変わる。
そう、夢見た夢は悪夢の惨劇へと変異した。
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ボトム・ザ・ワールドにて開園前作業中に事故が発生。
その入場門前にはパトカーのサイレン音、立ち入り禁止の黄色のテープ、野次馬の山が出来ていた。
雨が降り注ぐ曇天の空で一人の青年がその様子を伺っていた。
『我らの希望に危機。』
『ならば、行かねばなるまい。』
青年はその肩に乗せた鳥の様な生物と共に姿を消した。
その様子を現場に居た人々が気が付く事はなかった。
「彼らも向かったみたいだよ。」
「では、私達も動きましょう。」
「所で本職ほったらかして大丈夫かい?」
「軍務の方は現在休務扱いです、国際警察機構からの緊急指示とあれば致し方ないでしょう。」
「そう…ま、EVAのパイロット達がアレに巻き込まれているんじゃ仕方がないか。」
「いえ、他にも二人ほど巻き込まれています。」
「二人?」
「一人は2年B組の傘係兼ゴミ係、一人はミリタリー好きの少年です。」
「また妙なネーミングだね。」
「敵に本人特定されると不味いので…」
「とりあえず、話は程々に地下に潜ってみようか?」
「そうですね、お父さん。」
近くの喫茶店で野次馬の様子を店内から見ていた二人組。
遅めのティータイムを終わらせると代金を支払い、店を後にした。
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一方地下では…
「な、なんなんや一体!?」
「俺だって分かんないよ。」
「いきなり…河童に一つ目鎧に髪長女だもんね。」
「あれってお化け屋敷のパフォーマンスかな?」
「絶対違う!」
「カヲル君も解っていると思うけど、あれ僕達を…!」
「うん、確実に殺しに来ていたね。」
ボトム・ザ・ワールド内の障害者用トイレにて。
先行招待券で入園した四人を待ち受けていたのは凶悪な宴である。
アトラクションから従業員が突如襲い掛かって来たのである。
何とか命からがら逃げ果せた四人であるが、袋の鼠である事に変わりはない。
「まあ、渚が咄嗟にATフィールド張ってくれたおかげで助かったんやけどな…」
「ありがとう、カヲル君。」
「君の為なら僕も協力するよ、シンジ君。」
妙なエフェクトがシンジとカヲルの背面に出ているのを想像して頂きたい。
「おーい、御二人さん…間違ごうとも道踏み外すなよ。」
「トウジ…駄目だよ、二人の世界に入ってる。」
「おう、ナデシコのヒカルさんが見たら…喜びそうな光景やな。」
「うん…連載漫画のおかずにされるのは確実だと思う。」
いつもの事と言う事でツッコミを入れるトウジとケンスケである。
時を同じくして…
ボトム・ザ・ワールド内で行動する一つの人影。
場違いな着ぐるみが一つ目の鎧軍団と対峙していた。
その名は…
「ふもっふ!」
そう、ボン太くんである。
「ふもーふももふも!」
「…」
「ふーふも。」
ちなみに言語機能が故障しているのは相変わらず。
簡単に要約すると「これ以上の追撃を行うなら始末する。」である。
散弾銃からのスタンロッド攻撃に移り、前方の一体の行動を不能にしたのと同時にグレネードランチャーで一気に数を減らした。
が、増援として数が徐々に増えており…正に焼け石に水である。
ボン太くんこと中身の相良宗介は早期撤退を行い、煙幕弾で姿を散らした。
更に同じ頃、蒼斧蛍汰が髪長女こと濡れ女や河童と鬼ごっこをしている最中。
運が悪いのか良いのか整備区画の抜け穴に落ち、とあるトレーラーの前に辿り着いたのである。
蛍汰はそのトレーラーに乗っていた少女『紗孔羅』と出会った。
そして彼女より迫りくる危機を伝えられた。
******
その後、蛍汰は幼馴染である彩火乃紀と再会。
道中、覚醒人一号のヘッドダイバーで彼女のパートナーだったカクタス・プリックルがアルジャーノンを発症し死亡。
動かせる人間が居なかった為、急遽蛍汰が搭乗し再び稼働する事が出来た。
そして巨大植物型ロボットと巨大チカちゃんと呼ばれるロボットが遊園地内に出現。
前者は覚醒人のシナプス弾撃にて破壊する事に成功したが、リンカージェルの限界で覚醒人は沈黙。
絶体絶命の窮地に現れたのは黒ずくめのサングラスを掛けた青年。
「…」
薄暗いライトがドーム内で点滅する中、青年は懐からあるモノを取り出した。
そして喰らった。
ガリガリと捕食し終えると彼は咆哮と共に渦巻きの中へ消え…
代わりに現れたのは巨大な生物。
ベターマン・ネブラである。
生物の様で無機物の様な強固な鎧を持ったベターマンは巨大チカちゃんを翻弄し…
サイコ・ヴォイスで破壊し姿を消した。
その様子を影で伺っていた者達が居た。
「助かったんか?」
「そうみたい…」
「良かった。」
「…良かったじゃない!」
「は、ハスミさん。」
「貴方達、危うく奴らの餌食にされる所だったのよ。」
地下へ潜入したハスミは光龍、ロサと別れて内部を探索中に通路エリアの落盤で地下ホールに落下するシンジ達を発見し『浮月の羽衣』と言う浮遊魔法で落下する彼らを救出したのだ。
事情があったとは言え、危うく命の危機に陥った彼らを叱咤していた。
「い、いや…俺らもこんな事になるとは思わかったんや。」
「事情は相田君や渚君から聞いているから、もう怒らないけど…」
「そう言えばハスミさんはどうしてここへ?」
「一時間前、ここの作業区画で事故が発生して封鎖されたの。私はある事件の捜査でここに調査に来ていたのだけど…」
「事件?」
「それ以上は機密情報に触れるから言えないわ、ただ…貴方達が巻き込まれているとは思わなかったから。」
「…」
「あの、ミサトさんには…」
「もう報告はしてあるわ、事情が事情だったし免除してくれるかもしれないけど…ちゃんと謝っておきなさい。」
「ありがとう御座います。」
「私はもう少し調査しないとだから、貴方達はこの先の通路から地上に戻りなさい。」
「判りました。」
「ウルズ7、後は頼んだわよ。」
「了解した。」
シンジ達はハスミが指示した通路に案内されボトム・ザ・ワールドから脱出した。
彼らの姿が見えなくなった後、ハスミは呟いた。
「彼らがアルジャーノンへの耐性を持ってて良かった。」
EVAの呪縛がアルジャーノンを発症させない様に彼らを護っていた。
それだけでも今は感謝しなければならない。
「お父さん、そちらはどうですか?」
『順調だよ、君のロサ君がしっかり調査してくれたからね。』
私は周囲に気配がない事を確認してから念話は開始した。
「そちらのメインコンピューターはどうなっていますか?」
『…一言で言えば遊園地全体が処刑道具と言うか殺戮マシンになっているよ。』
「そうですか…」
『それに先に入場していた来園者と従業員全員が死亡していたよ。』
「…」
『アルジャーノンに感染した以上、救いようがないのは君の言う通りだね。』
「放って置けば次の犠牲者が出る事は確実です。」
『で、その彼らの行き先は解っているのかい?』
「BPL…の息が掛かった病院施設に搬送される予定です、恐らく調査に入った警官や自衛官達も手遅れでしょう。」
『いずれアルジャーノンを発症する、か…』
「私達念者や記憶保持者達はアルジャーノンへの耐性を持ち合わせていたので難を逃れましたが…」
『カーウァイとテンペストを内密に極東から離れさせようとしたのはその為かい?』
「現時点でアルジャーノン化を防ぐ装置の量産が済んでいない以上は触れさせたくありませんでしたから。」
『…空白事件の結果が響いていると?』
「言い訳をするならそう言う事です、アカシックレコードも伝えるのが遅くなったと謝罪を受けました…」
『嘆くのは後、今は成すべき事に集中する事だ…ハスミ。』
「…お父さん。」
『レンゲが生きていたなら、君の泣き言に叱咤する筈だよ。』
「はい。」
私達は調査を終えてからボトム・ザ・ワールドを後にした。
そしてボトム・ザ・ワールドは落盤事故により開園中止の末、諸々の問題で廃業となった。
だが、これは始まりの一端に過ぎない事が私の脳裏に不安を過ぎらせた。
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後日、連合政府は各方面合意の末に一時頓挫していた「イージス計画」の再開を決定。
各軍事メーカーへ次期連合軍量産主力機の開発を依頼。
そのトライアルの開催が間近に迫っていた。
私達は一度、各方面の情報収集の為に一度別れる事になった。
私ことハスミとロサは極東エリアで情報収集。
孫光龍は中国・ロシアエリアで情報収集。
出向命令が出されたカーウァイ中佐とテンペスト少佐はインジリスク基地での一件後、アビアノ基地を含めたEUとアフリカ方面で情報収集する事となった。
「それで次はどうする?」
「そろそろ軍のトライアルで不穏な動きがあるので他のエージェントを動かして置きます。」
「僕は?」
「向こうでの情報収集中でもこちらと連絡を取れるようにお願いします。」
「了解したよ。」
「私達はインジリスク基地への出向時間が迫っているのでな、先に失礼させて貰う。」
「カーウァイお義父さん、テンペストお義父さん、気を付けて…」
「解っている、ハスミ…お前も気を付けるんだぞ。」
「はい。」
伊豆基地の屋上から義父二名を乗せインジリスク基地へ飛び立ったレイディバードを見送った後、次の行動に移った。
今の時間ならば、連絡をしても向こう側に迷惑を掛けないだろう。
「お久しぶりです、小父様。」
『お久しぶりです…空白事件以来ですね、ハスミ君。』
「例のトライアルの件はどうなっていますか?」
『君の言う通り、マウロ・ガット准将とやらがトライアルに横槍を掛けて来たよ。』
「では、ウォン重工業の動きに注意してください。」
『判っていますよ、例の出来損ないのシステムを使用している以上は油断出来ないからね…それと。』
「何か?」
『君があの事件の危険性は低くなったと話していましたが…その当事者の一人に動きがありましたよ。』
「まさか…!」
『例のネオホンコンの甘党君からガンダムファイトの再開申請が提出、つい先程受理されましたよ。』
「成程、これで裏が取れましたよ。」
『裏ですか?』
「はい、ネオホンコン首相ウォン・ユンファはバイオネットと繋がっています。」
『…どういう事ですか?』
「国際警察機構でもバイオネットの動きが最近になって活発化が目立っていると報告が上がっていまして…」
『…』
「現在フランス方面のシャッセールとGGGが対バイオネット対策に追われています。」
『それと彼に何の関係が?』
「…DG細胞です。」
『それは確か…!』
「空白事件でもシャドウミラーが使用して戦場に混乱を招き…その後も様々な手を巡ってばら撒かれてしまいました。」
『つまりDG細胞がバイオネットや彼の手に渡ったと?』
「はい、こちらでも捜索は行っていたのですが……ようやくピースが繋がりました。」
『そう言う事ですが…その為にガンダムファイトを開催するのですね。』
「私の不手際です…先の空白事件で動けなかったとは言え、ここまで野放しにしてしまったですから。」
『起きてしまったものは仕方がありませんよ、今は起きると確定した事件を収めなければね。』
「はい…」
『僕も国防産業理事として、あのチョビ髭君や甘党君のやり方には鬱憤がありましたし…お手伝いしますよ。』
「…ありがとう御座います。」
『今後調査に必要な伝手は僕の方でも弁座を図ります、随時事前連絡を頼みますよ。』
「お手数を掛けます。」
私は小父様に礼を伝えた後、通信を切った。
「お父さん、次の戦いが始まります。」
「とうとう始まるんだね。」
「はい、空白事件に続く戦い…」
そう、ディバイン・ウォーズとジ・インスペクターに続くユニファイド・ウィズダム…
無垢なる刺客と修羅の乱、邪神の呪縛を打ち倒す為に。
私は戦う!
=続=
動けなくなった身体。
動かす為に身体を器に入れた。
だが、魂はそれを望んだのか?
次回、幻影のエトランゼ・第四十話 『白霊《ウェンディゴ》』。
子を思う気持ちは誰も同じとは限らない。