関係ない様だが縁と言う糸で結ばれている。
そう、これは有り得たかもしれない出来事と…
彼らの滞在が引き起こした奇跡の前触れでもある。
浅草での事件が起こる一週間前。
ここ雪谷食堂では…
「じゃあ、二人は今GGGに?」
「ああ、出向と言う形でな。」
雪谷食堂の店長を務めるテンカワ・アキト。
その客としてD兄弟こと相羽タカヤと相羽シンヤの二人が彼の店に来店していた。
ちなみに二人ともラーメンを注文している。
「所で凱はどうしているんだ?」
「新型機の開発でGGG北米支部に出張中だってさ。」
「俺達もGGGで凱が戻って来るまでの保険だ。」
「まあ、新生スペースナイツ設立までの間だけどね。」
「そう言えば…例の事件で素体になった人達はどうなったんだ?」
「ちょっとややこしい事になっててね…」
口を噤んだタカヤに代わりシンヤが説明した。
例の事件とはゾンダーとの東京決戦の事である。
その事件で早咲ラダム樹の開花で素体テッカマンになってしまった人々が数多く存在した。
一部はスペースナイツで預かる形となったのだが、残りは日陰に隠れる者と反乱を企てる者に別れてしまったのだ。
空白事件後から数週間後に起こった『プラハの黒い月』が痕を引きずっている。
チェコ・プラハで起こった素体テッカマンによる暴動。
彼らは独自にテックシステムの開発に成功し自分達が優れた人類であると豪語し反乱を起こしてしまった。
旧スペースナイツがそれに対応したものの軍強硬派の行動で数多くの素体テッカマンが死亡する事となった。
生き残りはスペースナイツで引き取り、更生の道を進む事となったが抉られた傷は何時広がるか不明である。
(もしかして…例のあの子達を手元に置いているのか?)
(ああ、新生スペースナイツの次期候補生として今も訓練中だ。)
(巻き込みたくなかったけど、僕らでもどうしようもなかったからね。)
ヒソヒソと前世上での会話を続けるアキト達三人。
これも必要な縁である事を彼らはまだ知らない。
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翌日、海辺に佇む西園寺邸にて。
先日より夏の長期休暇に入った為、子供達は夏の課題と格闘しながら夏の想い出を作っていた。
だが、ここに居る子供達はある目的の為に訪れていた。
邸の一室で子供達はある人物と再会していた。
「始めまして…アルテアさん。」
「今回は初めましてか…久しぶりだな、北斗、銀河。」
月での決戦後、ガルファの刺客して洗脳されていたアルテアは救出されたものの深手の為に今まで昏睡状態に陥っていた。
空白事件後、奇跡的に目覚めたのである。
そして彼にも子供達と同様にある異変が起こっていた。
「まさかアルテアさんまで記憶があるなんて…」
「私も驚いている、事情はドモン・カッシュより聞いているが……正直、慣れないものだな。」
「えっ、ドモンさんが来ているんですが?」
「いや、奴が訪れたのはほんの数日前の事だ。」
「きっと、ドモンさんも忙しいんだよ。」
「やっぱりか…例のガンダムファイト再開でややこしい事になってるもんな。」
色々と事件が始まっている事を口々に言う北斗と銀河。
その横でアルテアは静かに見守っていた。
「北斗、銀河、今回のガルファの事だが…」
「アルテアさん?」
「今回の暴走はデュミナス一派が関わっている。」
「アイツらが…!」
「ああ、間違いはない。」
「ヒューゴさん達やラウルさん達が居るからまさかって思ったけど…」
「どっちにしろ…ややこしい相手なのは変わんねえよな。」
アルテアより聞かされた真実。
それはある事件と繋がっている事を二人はまだ知らなかった。
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浅草での事件が起こる二、三日前の事。
都内で『女性の髪形を針金とボンドで強制的にポニーテールにしてしまう』と言う悪趣味な事件が発生。
襲われた女性達は口々に『馬男』と『ぽに』と話した為、この通り魔の名を『ぽに男』と命名される事となった。
陣代高校でも同一の事件に巻き込まれた生徒が居た為に生徒会よりパトロールを命令された宗介と千鳥。
何度目かのパトロールでぽに男と遭遇し、対峙していたのだが…
その場にとある人物が来訪したのである。
「おや、相良君と千鳥君じゃないか?」
公園の敷地内でぽに男と対峙する宗介とかなめの前に現れた陣代高校・用務員の大貫善治。
夏の長期休暇に入ったばかりだが、しばらくぶりの再開である。
「お久しぶりです、大貫殿。」
「こんな夜にどうしたのかね?」
「はっ、自分達は夏期講習で帰宅が遅くなってしまい近道しようとこの公園を通ったまでです。」
「そうか、オジサン感心したよ。」
二人は『勉学意欲があるのはいいが帰りが遅くなるのは注意した方が良いよ』と大貫より小言を受けた。
「それで、あの変なのに遭遇して…」
「あの馬君の事かな?」
「はい、もしかしたら最近有名な通り魔じゃないかって…」
「通り魔?」
「はっ、夜更けに髪の長い女子学生を襲って無理矢理ポニーテールにしてしまう襲撃犯です。」
「私達のクラスでも何人かポニーテールにされて…それに針金とボンドで固められちゃうのでしばらく戻せないんです。」
「…ふむ、事情は分かった。」
大貫は宗介達の話を聞き終えると大きめのボストンバックを卸してあるモノを取り出した。
それは…
「ぽに男君だったかね?」
「ぽに?」
「ワシの可愛い生徒達を捕まえてポニーテールにしたそうだね?」
「ぽにぽに。」
「うんうん、ポニーテールは可愛いと思うよ。」
「ぽに~」
「でもね、無理矢理はちょっといけないよ?」
大貫は静かに今回の件を諭す様にぽに男に話した。
「ぽに?」
「だからね、ぽに男君…覚悟は出来ているね?」
大貫がバッグから取り出したのは愛用のチェンソー。
ゆっくりとぽに男に振り向いた大貫の表情は某海外映画の閃光のモードへと変貌し。
デハハハ!!と笑い、ぽに男に向かって一閃した。
「ぽにー!?」
「ダーイ!!」
ぽに男は暴走大貫に襲撃され、その場から逃走した。
「そ、ソースケ…」
「千鳥、何も言うな。」
「ぽに男、どうなるかしら?」
「恐らく、今回の事で二度とポニーテールをしたくなくなる程のトラウマとなるだろう。」
「何とかならないの?」
「無駄だ、先程ぽに男が逃走したルートは俺が仕掛けたトラップが満載しているエリアだ…移動が止まっていないとなると俺でもどうする事もできん。」
「あ、そう…」
「あの破損個所は後でロサに頼んで修繕工事する予定だ。」
「手際が良い事で…」
「何事も予防が第一だ。」
宗介はかなめに説明した後、彼女をマンションへと送り届けた。
このチェンソーが鳴り響く騒動は翌朝まで続き。
巡回中のブレイブポリスのパトカー君が黒焦げの半裸状態のぽに男を回収する羽目になったとか…
この騒動は後に都市伝説として語り継がれ、チェンソーが鳴り響く夜の犯罪率は急激に下がったとの事である。
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浅草事件前夜。
「いよいよだ。」
『ああ…コウタ、覚悟は出来ているか?』
「当然だ、もうあんな思いはしたくねえからな。」
『判った。』
「待ってろよ、ダークブレイン……今度こそ俺がぶっ倒してやる。」
とある研究施設の特機用ハンガーの前で少年は誓いを立てる。
明日は戦いへの道に進む。
だが、歩みを止める事は無い。
彼は戦士ロアの意思を受け継いだ。ファイターロアなのだから…
=続=
それは目覚めた。
赤き炎を纏って。
次回、幻影のエトランゼ・第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》後編』。
この目覚めは奇跡の伏線に至る行い。