幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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目覚めし赤き戦士。

道化と相対する赤き戦士達。

これもまた奇跡の証なのだろうか?

だからこそ魂の縁は続くのだ。




第四十二話 『甦炎《コンパチカイザー》後編』

ほおずき市。

 

七月の始めに行われる祭りの一種。

 

今回は空白事件のあおりもあり夏の長期休暇に合わせて行われた。

 

その為、開催日が七月の後半となっている。

 

その祭りの場である浅草では…

 

 

「それにしてもお兄ちゃんもほおずき市に来ているなんて…」

「ちょっと、ダチと会う為にな。」

「ふうん、お兄ちゃんに他のお友達が居たなんて…私知らなかった。」

「悪いかよ?」

「そう言う訳じゃないけど…」

「それに今日も祭りで人の出も多いから変な奴に突っかかるなよ?」

「もう解ってるわよ。」

 

 

ほおずき市の開催地である浅草雷門通り。

 

二人の兄妹、コウタとショウコの二人は偶然この場で遭遇した。

 

その後、しばらく話をした後に二人はほおずき市を散策する事となった。

 

 

「ジャータ、双子は元気?」

「ああ、もうお腹の中で元気すぎるってガーネットが話していた位だ。」

「そう、良かった。」

「もうすぐ生まれる予定さ、その時は見に来てやってくれよ。」

「うん、判った。」

 

 

同じく、ほおずき市を訪れていたラトゥーニ、アラド、ゼオラ、オウカ、ジャータの五人。

 

ラトゥーニはジャータより双子の事を聞いており、その横でアラドとゼオラの懐事情をオウカが仲裁していた。

 

 

「でもよ…」

「心配すんなって、焼きそば位俺が奢ってやるよ。」

「いいんすか?」

「ジャータさん、そんな…」

「例のトライアルの見送りで出来た折角の休暇なんだし楽しまないとな。」

「ありがとう御座います、ジャータさん。」

「ありがとう御座いますっス。」

 

 

ジャータが助け舟を出した事でアラドは念願の焼きそばを食べられる事となったが…

 

鉄板に乗っかっている量は約十人前。

 

その注文量にバイトの青年がプロか?と驚いていた事など気にもしていなかったアラドである。

 

そして同じく屋台で注文しようとしていた小学生二人からも驚きの声が上がった。

 

 

「じゅ、十人前って…アラドさん?」

「アレ?銀河に北斗じゃないっすか?」

「こんにちは、アラドさん。」

「今日はどうしたんすか?」

「銀河と僕の伯父さんと一緒に街を散策に来たんです。」

「オジさん?」

「始めまして。」

「えっと、北斗の母ちゃんの兄ちゃん…だから北斗にとっては伯父さんになるって事。」

「ああ、そっちのっすね。」

 

 

銀河と北斗に連れられたアルテアも軽く挨拶をしていた。

 

ちなみに髪色が目立つのでアルクトス製の染粉(黒)を使用している。

 

その為、閲覧側からすればかなりの違和感がある。

 

 

「その声はアラドか?」

「あっ!タカヤさん、シンヤさん、お久しぶりっす。」

「久しぶり。」

「お二人もほおずき市に来ていたんですか?」

「そ、息抜きでね。」

「アラド、その焼きそば…一人で食べる気なのか?」

「そうっす。」

 

 

屋台の店員の手によってパック詰めされていく焼きそば。

 

その光景に北斗と銀河が呟いた。

 

 

「店員さん、パックに詰めるのも大変そう。」

「仕事だけど…何か可哀想になってきたよな。」

「うん…」

 

 

喜んで焼きそばを食べようとしているアラドの表情に何とも言えない二人であった。

 

しかし、その直後。

 

 

「おわっ!?」

「わっと!」

「銀河、ナイスキャッチ。」

 

 

アラドにぶつかった禿頭の男性。

 

その拍子にアラドが焼きそばを落としてしまったが、銀河がパックを旨く挟んで落下を阻止したのである。

 

 

「アラド、大丈夫か?」

「大丈夫っす、銀河もありがとう。」

「いや~ヒヤヒヤしたぜ。」

「それに…」

 

 

その様子を見ていた少女は男性に注意した。

 

 

「ちょっと、そこのおじさん!」

「…」

「さっき、この子にぶつかったでしょ!」

「俺、大丈夫っすから。」

「良くないわよ、ぶつかって置いて謝りもしないなんて…!」

「ふん、この程度の理由で争うとは…この世界の人間も落ちたモノだな。」

「えっ?」

「凡人が、この俺に楯突いた事だけは後悔させてやる!」

 

 

禿頭の男の言葉に記憶保持者達は意味を察した。

 

アラドに介抱してくれた少女に北斗と銀河が話しかけ、禿頭の男の前に立ちふさがった。

 

 

「お姉さん、この人から離れて!」

「え?ちょっと…どうしたの?」

「銀河、この人…」

「ああ、このおっさん…そっちの姉ちゃんに殺気をビリビリ出してきやがって!」

「ほう、その年で俺の殺気を感じ取れるとは…」

「…では、どうするつもりだ。」

 

 

禿頭の殺気に気が付き、少女を離れさせる北斗と銀河。

 

既に止められない状態になってしまっている。

 

そして禿頭の行動が危険と判断し応戦態勢を取ったアルテア。

 

 

「さてな…(あの餓鬼もそうだが、この男も只者ではないようだな。」

 

 

禿頭の男ことアルコ・カトワールは修羅の本心に従い見極めた。

 

 

「だが、俺に楯突いた…その小娘だけは許さんぞ!」

「ああっ…」

「させっかよ!」

 

 

アルコの一撃を銀河が押し返す。

 

だが、大人と子供。

 

その差もあり空白事件でドモンに鍛えて貰っていた銀河でさえ怯んでしまう。

 

 

「痛ってえ!何つう堅さだよ!?」

「くっ、子供と侮ったのが間違いだったか…!」

「銀河、大丈夫!」

「何とかな…(アイツの打撃はチボデーさんよりも下位だけど…もう一発喰らったら俺でも防ぎきれねえ。」

「北斗、銀河とその娘を連れて離れていろ。」

「伯父さん、でも!」

「…刀が無くとも護身の心得はある。」

「それに僕らを忘れて貰っちゃ困るよ。」

「三対一…どちらが不利な状況なのは判るだろう?」

 

 

アルコと対峙するアルテアに手を貸すD兄弟。

 

 

「待ちな!」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 

そこに騒ぎを聞きつけて学ランを纏った少年が現れた。

 

会話から察するに少女の兄らしい。

 

 

「ショウコ、また余計な事に首突っ込んだろう?」

「ご、御免なさい…」

「言い訳は後だ、よくも俺の妹に手を出しやがって!」

「ふん、また余計なのが現れたか…!」

 

 

アルコは先程の銀河と同様に捻じ伏せようとしたが、逆に反撃を喰らう事となった。

 

 

「くそ、またしても…!」

「テメエの動きが見切ったぜ。」

「…」

「さあ、どうする?」

「くくく…」

「何がおかしい!」

「どうするか?か……どの道、貴様らに未来などないがな?」

 

 

アルコは捨て台詞を吐くとその場から去って行った。

 

 

「お兄ちゃん…」

「ショウコ、俺は前にも言ったよな?」

「御免なさい。」

「待ってくれっす、この子は俺の事で…」

 

 

かくかくしかじかとアラドが今までの経緯を説明。

 

その間に自己紹介もしていた。

 

 

「ありがとな、妹の事を助けてくれて。」

「怪我が無くて良かったです。」

「でも、銀河君が…」

「へーき、母ちゃんの拳骨より大したことないって。」

「…(言えない、銀河のお母さんが素手で木を吹き飛ばせる腕力の人だなんて…」

「済まなかったな、我々がもう少し早く動けて居れば…」

「いえ、私が勝手に口出ししてしまったのが悪いんですし。」

「でも、俺…すっごく嬉しかったです。」

「アラド君。」

「ショウコちゃん、ありがとうっす。」

 

 

騒ぎを聞きつけ、ジャータ達も合流し改めて自己紹介が行われた。

 

件の焼きそばに関しては無事確保されている。

 

しかし、アラドは少し冷めた焼きそばを頬張ることとなった。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

同時刻、浅草近辺の河川沿いにて。

 

二人の青年が話し合いをしていた。

 

片方は青い服装、もう片方は白と黒の服装である。

 

 

「どうやらアルコの奴はミザル様の命令で動いている様だ。」

「その様だ。」

「フン、修羅神に認められぬ半端ものがコソコソと…」

「奴の事など気にするな、俺達は俺達の命令を遂行するまでの事。」

「この温い空気で満ちた世界に俺達が求める闘争などあるのか?」

「別動隊からの情報に寄れば、ガンダムファイターと呼ばれる者達が居るらしい。」

「ほう?」

「俺達はこの世界に再び辿り着いた、それは何かの導きだろう。」

「ならば見極めさせて貰おう、この世界に戦いの狼煙を上げる為に。」

「待て、我らの新たなる居城『転空魔城』の機能が回復するまでは我慢しろ。」

「それは命令か?」

「いや、万全を期して攻め込むのも悪くはないだろう?」

「ああ…その提案は受け取って置こう。」

「…(俺達の真の目的の為に今は道化として演じさせて貰おう。」

 

 

白と黒の服装の青年ことフォルカ・アルバーグはある想いを抱きつつ修羅として行動していた。

 

だが、彼の纏う覇気が以前と異なる事を知るのは青の服装の青年ことフェルナンド・アルドゥクだけであった。

 

 

******

 

 

突如、緊急避難警報が鳴り響く。

 

浅草周辺に現れた四足歩行の機動兵器。

 

 

「これって…!」

「あれは、インスペクターの!」

「ありゃ、敵なのか!?」

「うん、インスペクターの使用していた無人の起動兵器。」

「ちょっと待てよ、インスペクターは前の戦いで…!」

「地球から撤退した筈、でも…どうして?」

「恐らく…何者かがインスペクターの機体を奪取して使用している可能性があるわ。」

「姉様、まさか…Anti・DCが?」

「その可能性もあり得なくはないでしょう。」

 

 

ゼオラとラトゥーニが目視した機動兵器。

 

それに対しジャータは機動兵器の所在を聞くとアラドがその後のオチを話した。

 

オウカはテロリストに使用されている可能性を視野に入れて話した。

 

 

「このままじゃ街が…!」

「ここは俺達が奴らを抑える。」

「皆は早くシェルターに!」

「判りました。」

「銀河君と北斗君も…!」

「俺達は大丈夫。」

「ショウコさん達は早く逃げて!」

 

 

この状況に軍の防衛部隊が到着するのに数分のタイムロスが発生する。

 

それを理解したD兄弟達が殿を務めると話した。

 

それと同時に銀河、北斗、アルテアもまた応戦すると目線で合図を送った。

 

ラトゥーニ達に促され、ショウコはシェルターに向かった。

 

 

「コウタ・アズマだったな…話はキョウスケ中尉から聞かされている。」

「成程、アンタ達が中尉の…」

「初対面のメンバーだけど同じ記憶持ちとしてよろしくね。」

「よろしく頼むぜ。」

「コウタさん、機体の方は?」

「悪いけど少し時間を稼いでくれないか?アレを呼び出すのに時間が喰うんだ。」

「…判った。」

 

 

ショウコ達の姿が見えなくなった後、アルテア達はコウタに正体を明かした。

 

コウタも事前に連絡を受けていたのですんなりと話が進んだ。

 

その後、コウタはアズマ研究所と連絡を取りバトルフォースロボの発進を急がせた。

 

周辺に民間人の姿が見えなくなった後、彼らはそれぞれの変身と愛機を呼び寄せた。

 

 

「「テックセッター!」」

 

「バーナゥ・レッジー・バトー!」

 

「「電童、出動!!」」

 

「凰牙、参る!」

 

 

 

かつてラダムを震え上がらせた白と赤の騎士ことテッカマンブレードとテッカマンエビル。

 

悪しき賢者を倒す為に目覚めた赤き戦士ファイターロア。

 

七つの光を宿した戦士・電童と騎士・凰牙。

 

今、戦士と騎士達の戦いが幕を開ける。

 

 

 

「ファイターロア、我々でコンパチプルカイザーが出撃するまでの時間を稼ぐ。」

「ロアは近づいてくる奴らだけ相手を頼む。」

「判ったぜ!」

 

 

到着した凰牙に搭乗し指示を出すアルテア。

 

遠くの敵は自身と電童で。

 

ブレードとエビルが追撃して来た空中の機動兵器を相手にする形となった。

 

 

「往くぞ!!」

 

 

空白事件を勝ち抜いた歴戦の戦士を偵察と防衛程度の戦力しかない機動兵器が止める術など持たない。

 

応戦はするものの成す術もなく斬り裂かれ撃ち落とされていく。

 

 

「まさか、この世界の者共が…ここまでの力を持つとは。」

 

 

この戦闘を仕組んだアルコは戦闘の光景を浅草のビルの屋上より見届けていた。

 

 

「くくく、これはミザル様にご報告せねば…」

「そこまでだ、ガイコツ野郎!」

 

 

其処へ変身を終えたファイターロアが昇って来たのである。

 

 

「貴様は…!」

「俺の名はファイターロア、テメエらをぶっ倒す奴の名前だ!」

「その声、あの小僧が…丁度いい今ここで先ほどの決着を付けてやる!」

「さっきまでの俺と思ったら大間違いだぜ…バーナゥ・ファー・ドラグ!」

「!?」

 

 

ロアは炎の龍を呼び出しアルコに差し向けるが…

 

 

「くっ、あの一撃を喰らったら厄介だな……勝負は預けるぞ、小僧!」

「待てっ!」

 

 

アルコは分が悪いと悟り撤退してしまった。

 

ロアはその後を追いかけようとしたが、キサブローより発進準備が整った連絡を受けた為に追撃するのを止めた。

 

 

『コウタ、バトルフォース・ロボの出撃が整ったぞ!』

「待ってたぜ、爺ちゃん……こい!ロボォオオオオ!!」

 

 

ファイターロアの掛け声と共に周辺で稼働音が響き渡る。

 

 

『オーバーゲート・エンジン、出力上昇!』

 

 

同時刻、アズマ研究所地下にてキサブロー博士がてんやわんやでシステムを起動していた。

 

 

『ハンガーロック解除!クレイドル、リフトアップ・スタンバイ!』

 

 

モニタールームでコンソールを操作しコンパチカイザーの射出準備が整う。

 

 

『地上部、安全確認!防御柵、煙幕噴射装置、作動!』

 

 

浅草のテーマパーク付近からスモークが噴出され姿が目視出来なくなる。

 

 

『フラワーハウスゲート、オープン!』

 

 

射出される赤き特機。

 

 

『出ませい、バトルフォース・ロボ!コンパチブルカイザー出撃!!』

 

 

煙幕が薄れ赤き装甲を輝かせて出現したコンパチブルカイザー。

 

ファイターロアもそれに合わせて移動し合身を果たす。

 

 

「こっからは俺も参戦だ!」

 

 

追撃して来た機動兵器群を相手にコンパチブルカイザー、電童、凰牙、ブレード、エビルが奮闘する。

 

 

「やっぱり、アレの合体機構はオミットされていたか…」

「珍しいね…君が今回見物とはね。」

「本来なら私はここに居るべきではありませんし、見物も悪くないでしょう。」

 

 

三機の特機と二機のパワードスーツの戦闘光景を浅草郊外より見物する二つの影。

 

 

「で、アレが例のコンパチブルカイザーかい?」

「そうです、元は自立AIを搭載していたり四体合体とか可能だったのですが…改修の関係でオミットされた様です。」

「逆にパワーダウンしちゃったとか?」

「どうでしょう、裏を返せば一人乗りにした方が運用しやすくなったと考えられますけどね。」

「それで敵の正体は掴めたのかい?」

「あの無人兵器を仕向けたのは修羅で間違いないでしょう…それに後から現れた機動兵器に関しても心当たりがあります。」

「見た感じ、君が話していた『火星の後継者』とやらかな?」

「ええ、お陰様で監視と保護の対象が増えましたよ…」

「ま、他のエージェントが失敗しない事を祈るしかないかな?」

「いや、失敗はさせませんよ……むしろ敵は芋蔓式にしょっ引きます。」

「あらら…彼らもご愁傷様だね。」

 

 

新たな敵の正体を把握したハスミと孫光龍。

 

他愛もない話をしながらも今後の道筋を決めていた。

 

そしてハスミは静かに勝利を収めたファイターロアにエールを送った。

 

 

「コウタ、ロア、お疲れ様。軽くエールを送るけど…君の戦いも始まったばかりだよ。」

 

 

そう、可能性の世界の戦いで現れるかもしれない宿敵。

 

君は彼らと戦う事が出来るか?

 

いや、心配する必要もないかな。

 

 

「さてと、あの骸骨さんはどうしたものかな…」

「とっくの昔に逃げ果せたみたいだよ?」

「それなら大丈夫ですよ。」

「え?」

「今頃、衝撃さんと楽しい楽しい鬼ごっこをしていますから。」

「…君もえげつないね。」

「さあ、どうですかね…フフフ。」

 

 

撤退したアルコ・カトワールは別行動をしていた衝撃のアルベルトに遭遇。

 

力量を考えずに敵対した為に死に物狂いで逃げ回っていた。

 

これに関しては元からの共闘関係からの協力になるので特に問題はないだろう。

 

但し、衝撃のアルベルトに関しては小物を押し付けられたので腑に落ちない様子だったりした。

 

 

「私はインドの厄介事を片付けて来ます。」

「無理はしない様にね、そろそろ北の方でも妙な動きがあるようだから…」

「判っていますよ、お父さん…例の蟲退治には間に合わせますから。」

 

 

その後ハスミは光龍と別れ、テレポートでインドに転移し出向先の調査部隊に何事もなく静かに戻って行った。

 

 

=続=

 

 




深き大地の奥底。

魔物の声が響き。

魂の花は揺れ動く。


次回、幻影のエトランゼ・第四十三話 『石窟《アジャンター》』。


古き約定を護るべく蒼き女神は動く。

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