幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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深き大地に潜む魔物。

猛き産声を上げて。

己に与えられた使命を果たす為に。

だが、流れ通りには行かない。

これはその為の布石。


第四十三話 『石窟《アジャンター》』

浅草での戦闘が行われた翌日。

 

連合軍は新型機のトライアル計画の見直しと延期を各メーカーに通達。

 

理由は計画の責任者のよる一企業への癒着事件が問題となった為である。

 

ウォン重工業に強制調査が行われ、CEOのリック・ウォン以下関係者全員が逮捕される事となった。

 

しかし、ミロンガ数機と製造中のバルトールが開発主任のジジ・ルー以下数名の研究者達と共に行方が掴めていない。

 

同じく大連の製造工場にも調査が入ったが、もぬけの殻だったそうだ。

 

結果的に軍の膿出しとウォン重工業の悪行を世に晒し、バルトールが連合軍の次期主力機になる事は避けられた。

 

その流れなのか、スカルヘッドと呼称されていた軍事プラント・ヘルゲートが何者かによって破壊された事が判明した。

 

修復作業を請け負っていたイスルギ重工若しくはウォン重工業のどちらかがAnti・DCの残党を招き入れていた事が追加の調査で分かった。

 

これによりイスルギ重工は、上層部との取引により次期トライアルへの参加件を剥奪され数か月の運営凍結を条件に罪に問われなかった。

 

これでもイスルギ重工にとっては大きな痛手である事に間違いないが、これ位で済んだ事を幸運に思って欲しい。

 

尚、ウォン重工業は諸々の罪状により倒産への道筋を辿る事となった。

 

だが、行方不明のジジ達や最近になって現れ始めた謎の機動兵器群の詳細が判らないまま日数だけが過ぎていった。

 

 

******

 

 

インド、マハラーシュートラ州北部。

 

私達はその州のワゴーラー川の湾曲部に沿ってアジャンター石窟へと向かっている。

 

アジャンター石窟とは川湾曲部を囲む断崖を550mにわたって断続的にくりぬいて築かれた大小30の石窟で構成される古代の仏教石窟寺院群のことである。

 

数年前にその地下からアニムスの花が発見された。

 

しかし、ここ暫く起こった戦争によって調査が中断されていたが最近になって再開された。

 

だが、再調査中に出現した謎の生物によって行く手を阻まれてしまい先の調査部隊は全滅。

 

これにより調査をしていたモーディワープは有限会社アカマツ工業へ調査の依頼を行った。

 

そして軍からの視察兼護衛としてハスミ・クジョウ少尉とロサ・ニュムパが同行している。

 

近年発生しているアルジャーノンの調査は軍でも行われている。

 

勿論、その危険性も兼ねてより調査されており…隙あらばと言うのが上層部からのお達しもあった。

 

ギリアム少佐曰く『要は発見次第それらを排除しろ』と言うのが上層部の結論との事である。

 

どうやら再三行ったブルーロータスの警告を漸く受け入れたらしい。

 

…全く、これでも遅すぎる位だ。

 

 

「ハスミ、そろそろ目的地に着くって。」

「判ったわ、ロサも準備はいい?」

「うん、大丈夫。」

 

 

移動用のトレーラーが発掘現場に到着すると私達はトレーラーから降りて他のトレーラーに乗っていたアカマツ工業の人達と合流した。

 

一応、自己紹介はある程度済ませてある。

 

モーディワープの監察部から出向している都古麻御からはかなり引かれているのは気にしない。

 

と、言うよりも彼女だけに近寄りがたいオーラをワザと出しているので。

 

超能力者の紅楓からは『すっごい力ね、私もびっくり~』と天然発言をされた。

 

これでも抑えているつもりなのだが、修行し直さないかな…

 

念の為、私は念動力者である事は説明しておいてあるが…イマイチ反応が薄い様だ。

 

逆にロサは蒼斧蛍汰にべったり張り付かれていた。

 

お願いだからロサに某アダルトな素体を進めないで欲しい。

 

マジで…インドアヒッキーになる位に再起不能にしてあげますけど?

 

そんな茶々もありつつ、私達は発掘現場へと向かった。

 

雇ったガイドの話に寄ると最近になって巨大なうねり声が発掘現場の奥地より響いてくるそうだ。

 

現地の人々は『ベヘモット』と呼んでいる。

 

ベヘモットとは別名ベヒーモスと呼ばれ旧約聖書では陸の魔物、イスラム教の神話ではバハムートと同一視されている神話の怪物の名前である。

 

元の姿を識っている私から言えば『ガネーシャ』の方が合っていると思うのは気のせいだろうか?

 

しかし、調査道中で地震が発生…それぞれが地下へと落下する事となった。

 

ご丁寧にガイドのオッサンは地震と同時にさっさと逃げました、チッ。

 

あのターバンオッサンめ、後で覚えてなさい。

 

ま、こっちとすれば…別行動の方が本来の目的を達成できるからいいのだけど。

 

そろそろ、彼と鉢合せしないといけないので。

 

 

「それにしても長い。」

「うーん、ハスミの念で周囲のエリアを調べて、私が地図化したけど…ここってかなり複雑になってるね。」

「まあ、地図化に成功しただけマシかもね。」

 

 

地下に落下してから一時間弱経過した頃。

 

私の念で周囲のエリアを反響させ、そのデータをロサが収集して地図化に成功した。

 

要は念による蝙蝠や梟と同じ方法である。

 

私達は目的の場所で鉢合わせる様にゆっくりと地下洞窟を進んだ。

 

そして彼らに出会った。

 

ベターマン・ラミアとベターマン・セーメの一人と一羽に。

 

 

「始めまして、ソムニウムの一族達。」

『お前は?』

「蒼き女神の器と言えば判ると思う。」

『貴様が今代の蒼き女神の器か…』

「希望の見護り、ご苦労様。」

 

 

リミピッドチャンネルを通して話を進めるラミアとセーメ。

 

念話に近いがちょっと慣れないと気分が悪くなるのは言わないでおこう。

 

 

『…器よ、何故ここへ?』

「昔の約束を守る為と忠告しに来た。」

『忠告?』

「ここにはフォルテの実が一つしかないからだ。」

『…』

「オルトスに至るにはフォルテが三つ必要になる…だが、希望を護る為にここのフォルテを使わざる負えないだろう。」

『それは巫女の予言か?』

「半分は…私の調べではフォルテと成り得る者は全員で六名。」

『…』

「全て揃えたとしても…チャンスは二度だけだ。」

『…かなり低いな。』

「私は過去に契約した約定通り、貴方達に手を貸す所存だ。」

『元凶なりしモノを倒せるのなら…』

「本当に申し訳ない、元はと言えば私達人が犯した事を貴方達に背負わせる事になってしまった。」

『…』

「一つ目のフォルテはこの先の大空洞の地下に眠っている、だが…」

『奴が目覚めたのか?』

「奴の名はベヘモット、ネブラでは倒しきれないだろう。」

『それでも戦わなければならない…』

「…そこでこちら側も手を貸す。」

『方法でもあるのか?』

「奴の名を識ると言う事はその特性や弱点を識っていると言う事だ。」

『ラミア…』

『…聞こう。』

「作戦は…」

 

 

私は単純であるが、行うにはそれなりの準備が必要な作戦を提示した。

 

 

♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱

 

 

一方その頃、一人で地下を彷徨っていた蒼斧蛍汰が謎の少女にチャンディーと言う名を付けて別れた後。

 

彼は地下の大空洞で気絶していた彩火乃紀を発見するが、その奥から現れたのは…

 

 

「べ、ベヘモット…!!?!?」

 

 

ケータはヒノキを担いで逃げようとするが、体格上奴の動きが早く捕まりそうになった時。

 

彼が現れた。

 

 

「べ、ベターマン!?」

 

 

ベターマン・ラミアは懐からネブラの実を取り出すと一気に噛り付いた。

 

そしてベターマン・ネブラへと変貌。

 

ベヘモットに対峙するが、サイズと腕力に差があり徐々に押されていた。

 

 

「その間合い貰った、巨月落牙!!」

 

 

だが、それに援護する者の姿もあった。

 

巨大な刃がベヘモットの片耳を切断したのである。

 

 

「は、ハスミさん!?」

「ケータ、彼女を連れて早く逃げなさい!」

「で、でも…!」

「私なら大丈夫、伊達に魔物とタイマン張って来た訳じゃない。」

「あー確かに…」

 

 

先程の攻撃によりベヘモットは片方の耳状の部分を切断され、お得意の催眠音波が使用出来なくなっていた。

 

ハスミは前もってラミアに囮になった隙に奴の超音波を発する器官を潰す作戦を提案していた。

 

その為、ネブラへのサイコヴォイス封じが使えなくなったベヘモットに退路はない。

 

 

『…』

 

 

目線の合図でベターマン・ネブラはハスミに感謝の言葉を送った後。

 

ベヘモットをサイコヴォイスで一掃した。

 

が、同時に地下落盤を引き起こした為にケータ達は他のメンバーと合流し地上へ脱出した。

 

 

『ラミア。』

『セーメか…』

『この地のフォルテはあの小さき者より預かった。』

『判った。』

『言付けだが、次のフォルテは…あの島の北の地にあるらしい。』

『そうか…』

『だが、その地に忍び込むには次の満月を待てとの事だ。』

『その時まで休むとしよう。』

 

 

砂と化したネブラから這い出たラミアはフォルテの実を携えたセーメと合流し、崩れる大空洞から脱出した。

 

彼女達から次の道標と共に…

 

 

******

 

 

アジャンター石窟は象型UMAとの戦闘後、内部崩落を起こし侵入不可となった。

 

石窟内で発見した『アニムスの花』の原生地が失われた事でアルジャーノン治療の希望が消えた。

 

調査部隊は何も得る事が出来ずに『骨折り損のくたびれ儲け』となった。

 

だが、護衛に就いていたハスミだけは慌てる事も無くその光景を見ていた。

 

 

「ハスミ少尉、お前さんの上司から連絡が来ているぞ。」

「すみません、ありがとう御座います。」

 

 

私はアカマツ社長から取り次ぎ、調査用のトレーラーの通信室でギリアム少佐の連絡を受け取った。

 

 

『ハスミ少尉、急な話で申し訳ないが…このままホンコンに移動して欲しい。』

「何かあったのですか?」

『ああ、DG細胞と言えば判るだろうか?』

「!?」

『ホンコンへ向かうルートでテスラ研へ出向中のティアリー博士と合流し、その調査に赴いて欲しい。』

「了解しました。」

 

 

ギリアム少佐からの連絡を終えた後。

 

私はアカマツ社長達に次の任務が入った為と伝えて、そのまま別れる事となった。

 

 

「…北海道の事件に間に合えばいいけど。」

「ハスミ…」

 

 

私は再び起こった可能性の事件を止めるべくホンコンへと向かった。

 

可能性の事件…

 

あのデュミナスが現れた。

 

Rにおいての例の事件だって引き起こされる可能性があったのだ。

 

その事件の犠牲者が誰であるかは判らない。

 

ただ、Gアイランドシティでの機界新種戦に於いてドモン達の身に起こった事が原因であると私は推測する。

 

そしてホンコンにはもう一つの事件が差し迫っている事も視野に入れている。

 

 

「ロサ、そろそろ因縁と決着を付けるべき時なのかもしれないね。」

「うん。」

「大丈夫、貴方なら出来るわ。」

「ありがとう、ハスミ。」

 

 

私はロサの安否を心配しつつ合流ルートへ急いだ。

 

 

=続= 

 




それは静かに起こった。

捻じ曲がった流れが引き起こした渦。

それは静かに渦巻きながら広がる。


次回、幻影のエトランゼ・第四十四話 『闘乱《トウラン》前編』。


蝕銀の呪い再び。

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