幻影のエトランゼ   作:宵月颯

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彼らは口で語るのでない。

互いの拳で語るのだ。


拳の付箋

ハスミ達がバラルの刺客と遭遇した夜。

 

それとは別の場所でもある出来事が起こっていた。

 

 

******

 

 

ホンコン国内某所。

 

 

「…」

「ドモン、体の方は大丈夫か?」

 

 

本日の大戦でキラルを己の生命を燃やしてDG細胞の呪縛から解放した。

 

だが、その反動は凄まじくドモンの精神を疲弊させる事となった。

 

同じ様に感染者が出てくれば、彼は無理をするだろう。

 

 

「この位で立ち止まるつもりはない、っ…!」

「馬鹿者、少しは自分の心配をしろ!」

「ゴメン、兄さん…」

 

 

反動の名残で眩暈を起こしたドモンはシュバルツに叱咤され素直に自分の非を謝った。

 

ちなみにドモンはこの様なプライベート時はシュバルツの事を兄と呼んでいる。

 

 

「やはり、紋章の力でDG細胞を浄化するにはリスクが大きすぎるな。」

「自分でも判っていたよ、だけど…それをしなければならない時が迫って来ていると感じるんだ。」

「…」

「兄さんはこんな俺の考えを無謀だと思ったかもしれない。」

「前世の記憶…その記憶の旧シャッフル同盟の者達がその命を賭してDG細胞を浄化した荒業、文字通りの禁忌なのかもしれん。」

「新型DG細胞の治療法が見つからない以上…この方法に賭けるしかないんだ。」

「ドモン、解っているだろうが…」

「ウォンに連れ攫われたキョウジ兄さんを救う為にも俺はガンダムファイトを放棄するつもりはないよ。」

 

 

ドモンがガンダムファイト決勝リーグを棄権する事が出来ない理由。

 

DG細胞の事後処理で各地を転々としていたキョウジだったが、ウォン首相の要請でホンコンへ訪れた際に軟禁されてしまったのだ。

 

ホンコン自体は前回の第十二回ガンダムファイトの優勝国であり、連合政府に対する有利な発言力は続いていた。

 

それ故に手出しが出来ず、兄を救う為には正攻法として今回のガンダムファイトに出場しなければならなかったのである。

 

 

「解っているならいい、だが忘れるな…あの日私達の身に起こった出来事を。」

「ああ、あの日Gアイランドシティでの戦いで俺達は…」

 

 

浄解によってDG細胞が浄化され奇跡的に人の肉体を取り戻した。

 

呪いの様に蝕んでいた筈のDG細胞が身体から消え去った。

 

この状態が一体何を示すのか判らないまま今日まで過ごしてきた。

 

凱はエヴォリュダーの様な状態ではないかと推測したが、そんな後遺症は全く見られなかった。

 

ただ人に戻っただけなのかもしれない。

 

そう思っていた。

 

 

「…あの光を受けて何も無かったと片付けるには少々問題がある。」

 

 

予兆が無いだけで何時か判らないが、それは体現するだろう。

 

何かしらの行動によって…

 

 

「兄さん、恐らくキョウジ兄さんは…」

「キョウジは新型DG細胞の研究を無理矢理させられていると推測していいだろう。」

「そうだよね…」

 

 

判っていた、判っていたのに。

 

 

「ドモン…進展する情報や次の感染者が出て来ない以上はその浄化の力は不用意に晒してはならんぞ?」

「解っている、必ず護り通して見せるよ。」

 

 

シュバルツは忠告はしつつも当のドモンはその決意を答えた。

 

心配する必要はない。

 

ドモンもまた成長しているのだから…

 

 

「ふん、やはり貴様らも奴の計画を感づいたか…」

「!?」

「その声は…!」

 

 

ドモンはその声の主が誰なのか理解した。

 

 

「ドモンよ、流派東方不敗は!!」

 

「王者の風よ!」

 

「全新!」

 

「系裂!」

 

「「天破侠乱!」」

 

「「見よ! 東方は、紅く燃えている!!」」

 

 

掛け声と共に始まった演舞。

 

ドモンは声の主である東方不敗・マスターアジアとの演舞を終えると体制を整えた。

 

ちなみに言うが今は夜である、夜明け前ではない。

 

 

「久しいなドモン。」

「空白事件以来でしょうか、お久しぶりです師匠。」

「気付いておったか、まあ良い。」

「マスター、先程までこちらの会話を傍聴していたと見えるが?」

「お前達に忠告をして置こうと思ってな…だが、そんな必要は無かった様だな。」

「師匠、やはり師匠も記憶を…?」

「うむ、それ故に儂はL5戦役より各地でとある情報を集めておったのだ。」

「情報?」

「恐らくお前達も知っていると思うがデュミナスとあの幼子達が動き出しおったのでな。」

「やはりティス達が…」

「奴らもDGを欲していた様だが、現物は当の昔に破壊されておるし下手な行動はとらんのだろう。」

「まさかと思いますが、既に手合わせを?」

「あの時の儂では少々無理があったが今は違うぞ?あの程度の力量で儂に勝とうなど百年早いわ。」

「…大人気ないと思いますが、敢えて聞かなかった事にします。」

「ドモン、貴様も言う様になったのう。」

「俺も日々精進していますから。」

 

 

何通りもある記憶のせいか色々と悟り過ぎたドモンは静観しつつも東方不敗に反論した。

 

このやり取りでさえドモンにとっては一時の安らぎに感じるのだろう。

 

 

「マスター、話を戻すが…それだけではないのだろう?」

「うむ、お主達も知っていると思うが新型DG細胞の件は既に知っておるな?」

「はい、その筋の情報を手に入れたので…」

「では、ウォンの目的は判っているか?」

「前と同じであれば政府の実権を握る為に事を起こすと思われます。」

「残念だが今回の奴は違う。」

「…どういう事ですか?」

「今回の奴が求めているのは永遠の命だ。」

「まさか…その為にDG細胞を?」

「そしてバラルと言う組織が奴に接触を図っていた。」

 

「「!?」」

 

「やはりな、かつてお前達が共に行動していた者達の中にオーダーの設立に関わった一族が居った筈だ。」

「バラル、奴らも動き出したという訳ですか?」

「いや、そうでもないらしい…奴らは自分達の統率者の失踪により暴走していると思われる。」

「やはり、孫光龍が奴らとの関わりを断ったのは本当らしいな。」

「では、一体何が奴らの暴走の原因となったのです?」

「…奴らの目的は奴らが崇拝する巫女の依代となる存在の確保だ。」

 

 

東方不敗が語った情報。

 

それは新たな波乱を呼び寄せる発言だった。

 

 

「マシヤフは確か…」

「マシヤフ…ガンエデンの中枢ユニットとなる生体コアの事だったな。」

「だが、バラルにはその存在が居た筈。」

 

 

ドモン達は封印戦争の記憶を知るキョウスケ達よりバラルの存在や活動状況をある程度知っていた。

 

だが、異例の情報により何かが狂い始めている事に気付く。

 

 

「そのバラル側に存在した巫女が行方知れずとしたらどうだ?」

「!?」

「…ナシム・ガンエデンの巫女が行方不明と?」

「詳しい事は判っておらんが、それが奴らの暴走の原因と見ている。」

「まさか!」

「恐らく奴らは彼女に接触を掛けている可能性が高い。」

 

 

この地にバラルの刺客が来ているとなれば必然的にハスミが狙われる事を察したが…

 

 

「安心しろ、あの小娘…己の力で奴らからの刺客を退けおったわ。」

「…いつの間に。」

「伊達に梁山泊で修業を積んでいる訳ではない、か。」

「ドモン、ワシは今暫く奴の元で道化を続ける…お主らも油断するでないぞ。」

「判りました、師匠もお気を付けて。」

「うむ。」

 

 

東方不敗は告げる事だけ告げるとその場を去って行った。

 

 

「兄さん、この事は万丈達に伝えて置こう。」

「その方が良い、この情報の共有はして置くべきと私も思う。」

「それに師匠はヒントも残して行かれた。」

「ヒント…あの事か?」

「ハスミとクジョウ家が秘匿するバラルとの関係…それが今後の戦いに関係すると思う。」

「恐らくはそうだろう、だが…踏み込む事が何を意味するのか解っているのか?」

「人の家の厄介事に首を突っ込むのは理解している、それでも知らなければならない。」

 

 

少しずつ歪む。

 

それは大きな亀裂となって。

 

 

=続=

 


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