蠢く蟲。
浮き彫りになる真実。
今までが前座。
これが本当の始まりだった。
前回から少し時間を戻そう。
私ことハスミはロサ達と共にギリアム少佐からの指示でホンコンへ調査に向かった。
そして新型DG細胞を追う最中に起こったGGGとバイオネットのガオーマシン強奪事件を解決した後の事。
私は事後報告の為にギリアム少佐と連絡を取っていた。
「ゴブリン結社?」
『ああ、万丈君と友好関係を結んでいた海商王・蘭堂氏の海洋牧場が何者かの襲撃を受けて一家共ども行方不明なのは知っているな?』
「はい。(うん、遺跡探索の度に遺跡を木端微塵にする一家ですよね。」
『蘭堂氏の牧場を襲ったのはそのゴブリン結社と呼ばれる組織が関わっていると判明した。』
「…名前の方は国際警察機構でも情報が入っています。」
『そう…か。』
「それと…」
私はいずれ知る事になると思ったので彼らが辿るであろう結末をギリアム少佐に話して置いた。
「暴露を承知でお話しますが、ゴブリン結社の目的は『地上への回帰』が目的…恐らくL5戦役で壊滅した恐竜帝国と何らかの接点を持っていると推測しています。」
『…何だと?』
「蘭堂一家とゴブリン結社が狙っている『クワスチカ』に関しては見当が付いているので何とかなると思います。」
『クワスチカ?』
「簡単に纏めますと…とある古代文明が残したリセットボタンです。」
『言葉通りであるのなら厄介な代物と言う事か?』
「その通りです、ですが…例の組織が諸々処分する予定です。」
『…判った、その件はそちらに任せる。』
私の例の組織と言う言葉に反応したギリアム少佐。
これに関しては『こちらで何とかするので手出しの必要はない』と言う合図でもある。
察して頂けて本当に助かります。
『では、ホンコンの件だが…進展具合はどうだ?』
「調査は継続中ですが…一部調査の結果、ホンコン在住の民間人に新型DG細胞が感染している事が判明しました。」
『規模は?』
「ロサの索敵の結果…ほぼ全域と見て間違いないでしょう、但し子供と老人は省きます。」
『何故、子供と老人が?』
「理由は新型DG細胞は潜伏期間から発症期間を任意に出来る反面、急激な変化に未成熟な子供と衰えた老人には耐え切れないからです。」
『…』
「旧型のDG細胞から変わった点は感染力と扱いやすさでしょうか?」
『では、ハスミ少尉…この件では君はどう考える?』
「新型DG細胞、まだピースが揃わないのでハッキリとした答えが出た訳ではないのですが…」
どうしてもこの条件下で私の脳裏に例の事件がチラつく。
終わった筈、終わらせた筈なのに。
これは警鐘なのだろうか?
「『始まっていない事件』が再発すると伝えて置きます。」
『始まっていない事件だと?』
「正確にはこの時点で発生している筈の事件…それが後者に発生する可能性があります。」
『…』
「ODEシステム、その弱点は何だと思いますか?」
『戦闘経験を共有し並列化する事が出来なかった…だったか?』
「では、ODEシステムに新型DG細胞を使えばどうなると思いますか?」
『!』
「そう言う事です。」
『…もしも、それが実行されれば!』
「可能性はなくもないですよ……所在が不明なバルトールの件や廃棄された筈のODEシステムの研究も密かに継続されていた痕跡もありましたし。」
『君は何処まで真実を知っている?』
「散らばった可能性と言う欠片を繋ぎ合わせただけです、それも貝合わせの二枚貝の様な…偶然を。」
私は一呼吸置いてからギリアム少佐に伝えた。
「無論、止めますよ。」
『…ハスミ少尉。』
「あの事件でも数多くの犠牲者が出ました、結末を識る身として放って置きません。」
『判った、だが…無理をするな?』
「肝に銘じます、無茶をすればお義父さん達が烈火の如く怒りますし。」
うん、あれは怖い。
「では、次の任務がありますので失礼します。」
私は一旦ギリアム少佐との通信を切った。
次の任務の為にホンコンから一度離れる事も話してある。
続いて別の通信が入ったので出た。
ちなみに私はDコン機種の中で旧西暦のレトロ型端末のスマホを愛用している。
別で皮膚に張り付けるタイプも使用しているが、これは個人連絡用だ。
通信を送って来たのはL5戦役以降から別行動中だった紅葉さんからだ。
『やほー、元気かしら?』
「お久しぶりです、紅葉さん。」
『頼まれていた仕事は何とか終わったわよ。』
「アキト達の回収は無事に終わりましたか…」
『何とかね、それにしてもあの北辰と六人衆とかって言う奴らを撒くのに手間取ったわよ。』
「ボソンジャンプが使えずとも奴らの暗殺者の能力は一流ですからね。」
『とにかく二人はこっちでしばらく預かった後に梁山泊へ引き取って貰う形でいいかしら?』
「その方向でお願いします。」
『じゃ、また後でね。』
私は通信を切ると一人安堵した。
火星の後継者によるクーデター。
その要となったのは演算システムとA級ジャンパーだ。
この世界の演算システムは普通の人では手の届かない場所に隠蔽したので手出しは出来ない。
それでもA級ジャンパーを捕えようとする動きがあったのでこちらで色々と動かさせて貰った。
アキト達も数日中にこの件で誘拐されてしまう結末だったがイラっとしたので変えさせて貰った。
しかし仲間に行方を告げずに消えた事に二人も不安であるだろうが、致し方ない。
ルリちゃんは現在、連合軍士官学校へ編入しているのでガードは固いだろう。
一応、監視も付けている。
そう言えば、僅か一年でTV版から劇場版に成長しているのは驚きました。
本人曰く『頑張って牛乳飲みました。』らしい。
まあ、年齢が14歳なのは変わらずである。
「アキト達の件はこれで良いとして…問題は。」
残された者がどう出るかだった。
だが、既に始まってしまった以上は止める事は出来ない。
今暫くは原作通り二人の死亡と言う誤認情報で通して貰おう。
******
数日後、約束の日。
ここお台場湾岸では警視庁特車二課によってバビロンプロジェクトの要である箱舟への破砕活動が進行していた。
篠原重工はレイバー用の新たなOS『HOS』を開発。
都心圏内のレイバーに書き換えを行っていた。
だが、これを期に各所でレイバー暴走事件が発生。
この不可解な事件に対して一部の警察関係者は真相を追っていた。
そしてバビロンプロジェクトの一環で建設された『箱舟』が『HOS』に書き換えられたレイバーを暴走させる現象を発生させる事が判明した。
間の悪い事にその現象を引き起こす大型台風の上陸も差し迫っていると言う最悪の事態。
これに対し警察庁並びに警視庁の上層部は『箱舟』の破砕を許可した。
だが、使用されているレイバーの殆どは『HOS』の書き換えが済んでしまった後だった。
そこで運良く免れた特車二課のレイバー隊とブレイブポリスによる共同活動が決定された。
一行は台風の影響で避難指示が終わった『箱舟』の中に潜入した。
整備用レイバー搬入用エレベーターから侵入しメインの指令所まで進む事となった。
「いいか、各自警備用レイバーとの戦闘は避けつつ移動するぞ。」
「向かってくる奴らも居るんだぞ!?その時は撃ちまくるからな!!」
「太田、レイバーの弾薬にも限りがあるんだぞ!今回はブレイブポリスも協力してくれているし俺達は一直線で指令室に向かうぞ!!」
指揮用の装甲車両から特車二課のレイバー隊を指揮する篠原とレイバー二号機の搭乗者である太田の会話から始まった。
同じく会話中の篠原の横でブレイブポリスの勇者達を指揮する勇太がデッカードらに命令を下した。
「皆、箱舟の中ではいつもの合体が出来ないから注意してね。」
「了解、ボス。」
念の為説明するが、立場上刑事である勇太の方が上官に当たるものの今回の作戦と現場の指揮権は篠原に一任されている。
レイバー事件に関する経験と大人の都合と言うモノである。
「おし、全員一気に中央エレベーターまで突破するぞ!!」
装甲車のアクセルを踏み、レイバーと勇者ロボ達を前衛と後衛に分けてから一行は内部に侵攻した。
同じ頃、この箱舟に別の侵入者達が訪れていた。
現在、この地球に転移してきた四機のAT乗り達である。
それぞれのATの片方の肩の装甲は赤く塗装されている。
「連中、動いたようだぜ?」
「判った、俺達も箱舟の暴走レイバーを片付けるぞ。」
「しっかし、ブルーロータスって奴も厄介な仕事を依頼して来たもんだぜ。」
「バイマン、文句を言うなら依頼料の金塊は三人で山分けにするぞ?」
「はいはい。」
「ムーザもよく協力してくれたな。」
「ふん、唯の気まぐれだ。」
「気まぐれね…ここをぶっ壊さねえと例のガキ共が住む街が破壊されちまうのが本音の癖に。」
「バイマン、お前!?」
「それに関しては俺も同感だ、こんな無法者の俺達に懐いてくれた瞬兵達を巻き込む訳にはいかねえ。」
「協力に感謝するぞ…グレゴルー、ムーザ、バイマン。」
「キリコ、礼なら仕事を片付けた後にしてくれ。」
「判った。」
各自、別ルートの搬入用エレベーターから内部に侵入するとATの脚部の加速装置を作動させ移動を開始した。
******
同時刻、北海道では。
濃霧によって視界を遮断され霧の街と化した札幌を始めとした各地で民間人達の失踪が始まった。
その多くは巨大で奇怪な蟲の大群による誘拐である。
札幌ではシグザリアスとメルヴェーユに母艦エオニアを中心に防戦が開始されていた。
連合軍と防衛軍の救援が期待出来ない以上は彼らも腹を括ったのだ。
同じくしてその郊外にて戦闘を続けている機影もあった。
「くそっ、こんなに数が増えるなんて!」
「トーヤ、焦らずに敵の数を徐々に減らす事に専念するんだ。」
「解っているよ、父さん。」
郊外に建てられた邸の近辺に現れた管蟲型UMAのメデューサと対峙する蒼いヴォルレント。
メデューサは本体こそ小さいが数多くの個体が一つに集合し巨大な管蟲へと変貌していた。
ヴォルレントの複座式のコックピットからぼやくトーヤと叱咤するセルドア。
前回の親子喧嘩を一旦休戦した上で共に行動していた。
「…(キョウスケ中尉の話していた人が間に合えばいいんだけど。」
非常時とは言え、ヴォルレントに装備された武装は護身用の最低限の物だけだ。
かつての様に行動していたなら撃墜されていただろう。
トーヤは勝機が見えるまで防戦を続けていた。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
同時刻、釧路湿原。
出現したキングベヘモットとベヘモットの大群と戦闘を続けている魔法騎士達が纏う魔神の姿があった。
ベヘモットが繰り出す超音波攻撃を退けつつ個体の数を減らしていた。
同じ様に魔神を生み出して援護するエメロード姫達。
自分達が引き下がればその背後にある街に被害が及ぶ。
光を始めとした彼女達は続く限りの防戦を続けた。
「…(この先は絶対に行かせない!」
同様に釧路湿原の上空。
アカマツ工業のクルーが搭乗する輸送機がバイオ羽虫の集合体のUMAのイカロスによる襲撃受けていた。
二機の輸送機は墜落しBPLに近い湿原へと不時着したが、イカロスの強襲によってモーディワープからの派遣者達が全員死亡する結果となった。
残されたアカマツ工業のクルーらは覚醒人一号とティランを動かして消息不明の都古麻御と八七木翔を探しにBPLへと向かった。
だが、この時BPLでは所長である梅崎博士の思惑を打ち消す様な光景が起こっていた。
「あれは…人間だと言うのか!?」
所長室のモニターから外部の様子を伺っていたが、彼の眼には恐るべき光景が起こっていたのだ。
巨大な怪虫を使役する幽霊。
岩の巨像を操る忍者。
湿原を走り、自身の手駒であるUMAヘラクレスを仕留める紳士達。
追撃させたイカロスを瓢箪酒で燃やし尽くす酔拳の様な使い手。
ベヘモットを刀で断ち切る少女とガトリング砲でハチの巣にする人間サイズの人型兵器。
余りにも場違いな背広姿の集団に驚愕するしかなかった。
「虫達をこんな目に遭わせた報いは受けさせてやる。」
「幽鬼、余りの光景に興奮でもしたか?」
「マスク…お前こそ、手が滑ってとか言って標的を殺ってしまうなよ?」
「…(他所でやってくれ。」
幽鬼とマスク・ザ・レッドのやり取りにやれやれと遠目で様子を見ていたヒィッツカラルド。
指パッチンで向かってくるメデューサを斬り裂きながら戦闘狂の二人に関わりたくないと心の中で呟いた。
「貴様ら、羽目を外し過ぎて目的を忘れた訳ではあるまい?」
「忘れてなどいないさ、アシュラヤーの巫女の護衛は続けている。」
戦闘に夢中の二人に対しアルベルトが叱咤し本来の目的を思い出させていた。
「先程、施設内に潜入した所だ。」
「うむ。」
セルバンデスの助言もありアルベルト達は周囲のUMA達を文字通りに血祭りに上げる為に動いた。
「我ら十傑衆をこの雑魚程度で止められると思うなよ?」
アルベルトは両手に衝撃の力を込めて更なる追撃で現れたUMAヘラクレスの身体に大穴を開けた。
♱ ♱ ♱ ♱ ♱ ♱
それからしばらく経過してからである。
私は捕らわれていた民間人と都古麻御を村雨さんと戴宗さんに任せて施設の奥に進んだ。
道中で潜入したセルバンデスさんと合流しロサ達にメインコンピューターの捜査を任せた後。
私は所長室へと向かった。
そして私の目処前にはシリンダー型の調整槽から投げ出されて死亡した梅崎博士の死体が転がっていた。
山羊の眼で視た所、彼に手にかけたのはアジャンター石窟に居たチャンディーで間違いないだろう。
博士の顔面からは妖しく咲いたアニムスの花が開いていた。
実った実の形はフォルテ。
研究施設内の遺体管理室にあったカクタスの分を合わせると三つ目である。
私はフォルテの実をセーメが回収したのを確認すると博士の護衛のUMA・サラマンダーを倒したラミアに話しかけた。
「それで三つ目です。」
『…すまない。』
「それと…残念ですが、残りの三つに関しては今回の様にすんなりと手に入りません。」
『何故、残りの三つが手に入らないのだ?』
「一人は既にアルジャーノンを発症させていますが、残りの二人は未発症です。」
『可能性のあるモノが実を宿していないと?』
「その通りです、保険の利く残りの実は後一つと了承しておいてください。」
『判った。』
「…どうやら真実を求める者がここへやって来た様です。」
『ラミア、どうする?』
「姿を隠すなら私がして置きますよ?」
『頼む。』
「では…『幻影の蜃気楼』。」
ラミア達と話を続けているとこの部屋にやってくる足音を耳にしたので私は姿を変化させた。
ホルトゥスのエージェントとして動く時の姿と首のチョーカーから変声機を作動させる。
最後にラミア達を『幻影の蜃気楼』で姿を隠した。
そして部屋にやって来たのはアカマツ工業に出張している八七木翔。
部屋の惨状に彼は声を荒げた。
「梅崎博士…!」
「…博士はアルジャーノンを発症し先程何者かによって殺害された、博士お抱えのUMA達の暴走もこれが原因だ。」
「それを信じろと?」
「貴方は見た筈だ、この研究施設で何が行われていたのか?」
「くっ…!」
「私はブルーロータスの指示でここへやって来たが、既に終わっていた。」
「ブルーロータスだと!?」
「モーディワープ社フランス支部所属・八七木翔、貴方にこれを託す。」
私は彼にメモリーと装置に試薬の入ったケースを渡した。
「これは?」
「今回の事件に関わる調査資料とアルジャーノンの発症を抑制させる装置と試薬だ。」
「何だと…!」
「どう使うかはそちらに任せる、後者に関しては既にいくつかの医療機関にも譲渡済みだ。」
「…」
「ダイブインスペクション。」
「それは…?」
「貴方達を取り巻く元凶の始まり。」
「元凶?」
「それを知る者に聞くといい…」
それだけを伝えると私は魔法で姿を隠しているラミア達と共にその場を去った。
ラミア達とは研究所から脱出した後に別れた。
私は潜入メンバーと合流するべく集合場所へと向かった。
私が最後であり、全員が揃っていた。
「遅かったな。」
「すみません、少し野暮用を済ませて来ました。」
アルベルトさんが葉巻を吸いながら機嫌が悪そうに答えた。
私は彼に謝罪した後にセルバンデスさんから話を持ち掛けられた。
「あの研究所を潰したのはいいが、良かったのかね?」
「残っていてもアルジャーノン化の負の遺産しか残っていないので潰して大丈夫です。」
「ハスミ、BPLのメインコンピューターから例の研究資料と経過報告書を発見したよ…まあ、見なくとも判ると思うけど?」
「念の為、見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
私は光龍からメモリーカードを受け取ると端末で資料を拝見した。
その内容に私は例の件が再発した事を確認した。
「やっぱりか。(結局、真の群れ成す軍勢が始まる。」
私は止めた筈の事件が息を吹き返した事を改めて実感した。
奴らの決行の日は明日、場所はホンコン。
そう新型DG細胞はそのお膳立てだったのだ。
「ノードゥス再結成の時、か…」
私は濃霧より晴れた夜明け前の空を眼にして呟いた。
******
同時刻、ホンコン。
「何やら不穏な気配を感じる。」
ホンコン市街郊外の廃墟にて瞑想に耽っていた東方不敗が呟いた。
彼の傍に寄り添って居た愛馬もまた何かを感じ取り唸っていた。
「どうやら良からぬ事が起きそうだな。」
東方不敗の予感も的中しており、それは明日に迫っていた。
=続=
始まった奇襲。
応戦する者達。
変わった真実。
次回、幻影のエトランゼ・第四十六話 『群勢《バルトール》』。
呪いは呪いを喰らう。
次の章に移る関係で見たい話。
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エンデ討伐
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アンチスパイラル戦
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オリ敵出陣