いずれ繋がり。
そして束ねる為に。
とある場所にて。
=???=
「…」
「浮かない顔だな?」
「…そう見えますか?」
「その疲弊した貌を見ればな。」
私ことハスミの目元に隈をうっすらとさせた疲弊する酷い顔。
その片方の頬に触れる大きな手。
私はその大きな手に触れて安堵する。
「予言された災厄を防ぐ為とは言え、お前自身が疎かになっていてはどうにもならんだろう。」
「仰る通りです。」
返す言葉もなくただ私は彼の温もりを感じていた。
だが、無理を承知で動かなければ因り大きな被害が出ていただろう。
物事を解決すればする程に無限力の提示する事象は複雑になっていく。
そしてバアルの脅威もまた増しているのだ。
「止める為の術を持つのなら止める事が私の宿命、私はこの決断を後悔したくありません。」
「己の身を削りながらも己の道を往くか…俺はそれを肯定する。」
「貴方の中のスフィアがそうさせているのですか?」
「そうかもしれん。」
彼のどんな苦境でも立ち向かう力。
そして反する強大な恐怖。
それこそが彼に与えられた試練。
「ハスミ。」
触れていた大きな手は私の身を抱き寄せた。
「ケイロン?」
「この場でその名を呼ぶ事は禁ずる。」
「ですが…」
「一言だけでいい、真の名で呼んで欲しい。」
「判りました、貴方の真の名で呼びましょう…」
彼の真の名を呼ぶ事でその腕が鼓動が私を包み込んだ。
ずっと、ずっと、愛おしかった温もりを。
「ハスミ、近々お前の世界へ出向く事になるかもしれん。」
「どういう事ですか!?」
その言葉に私は動揺した。
「お前の語った御使いか或いは無限力の遊戯とでも言うべきだろう。」
「一体、何故?」
「…お前が変えた未来の影響なのだろう。」
黒の英知がそう教えたのか?
それも断片だけを?
「…」
「呼ばれるのは俺自身だけだろうか?」
「恐らくは…それもまた無限力のお遊びでしょうね。」
「そう…か。」
「出来る事なら貴方と武を交えたくはないのですが…」
私の不安に彼は『その様な心配は不要だ。』と告げる。
「いずれにせよ、お前に会いに往く…その時は再会を祝そう。」
「はい。」
私は心が躍った。
彼と再び出会える事を。
「お待ちしております。」
「ああ。」
私は彼との再会を約束した後、スフィアリアクター同士の共鳴を止めた。
遠く離れていても『知りたがる山羊』のスフィアなら彼の存在する大体の位相空間は把握出来る。
最早、チートの域である。
「波乱は続く、それでも私は貴方との再会を望みます。」
私は思春期の乙女の様に顔を綻ばせた。
喜びに満ちている。
「ケイロン…いえ、次元将ヴィルダーク。」
きっとこの再会は記憶を持つ彼らにとって不都合かもしれない。
私はどこまでも最低な女である事は自覚している。
それでも彼に逢いたいと願うのはいけない事なのだろうか?
「…どうか私の我が儘を許して欲しい。」
私は彼から貰ったタンザナイトのペンダントを握りしめた。
=続=
ハスミ、お前は己の力量を過小評価をし過ぎている。
その力の使い所を識っていながらも表に出す事を避けている。
「だが、使い所を見極めている点に関しては優れている。」
一手の出し処を見極め、常に有利に駒を進める。
それこそがハスミの手だ。
「だからこそお前に俺の背を任せられるのだ。」
彼はそう呟くと彼女から預かったペンダントを握りしめた。
だが、彼はまだ知らない。
彼女との再会は己にとって切り離せない修羅場が待ち受けている言う事を。
そう、彼女を支えていた三人の父親と言う存在が待っている。
間近に迫る戦いに再度集結するノードゥスはその大人気ない親子騒動に巻き込まれる事を。
まだ知らない。
=続=