魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第二十二話

― アルフ ―

 

 あたしは声のした方を見る。

 円柱の上に立っているやつがいる。声からして男だろうか? 全身黒ずくめの上に、真っ黒の覆面をしていて、その上からサングラスをかけている。匂いも変な匂いしかしない。

 するとそいつは柱の上から飛び降りる。魔法の類は使っていない様で自由落下してくる。自然と目で追う形になって着地した瞬間あたしは確かにそれを聞いた。

 

ゴキャ!

 

 そいつの足首から妙に痛々しい音を。

 

「だ、誰だい? あんたは?」

 

 脱力しつつ警戒しながらそいつに問いかける。

 

「カ、カリウムと、な、名乗っている」

 

 答えてくる声が何処となく痛そうなのは気のせいじゃないと思う。

 

「カリウム? 変な名前だね? 何でここにいるんだい」

 

「なに、協力者の、成果を見に来たら、この場面に、居合わせた、だけだ」

 

「協力者? この鬼婆がかい?」

 

「そうだ」

 

「勝手なこと、言わないで、ちょうだい。」

 

 鬼婆が苦しそうに言ってくる。

 

「こっちはこう言ってるけど?」

 

「それもそうか、こっちが脅迫して無理やり協力させているのだったな」

 

「何だって?」

 

 その言葉に反応する。そいつは足首をプラプラさせながら軽く言ってくる。

 

「言ったとおりだが? 「娘を殺す」と脅して協力させている」

 

「ハッ、お笑いだね! あんたみたいなのがフェイトを倒せるはずが無いだろ!」

 

「ふん、何も馬鹿正直に正面から挑む必要はない。狙撃、毒殺、爆殺、人質等々そいつを殺す手段なんてもんはいくらでもある。まあ、正面から行っても問題ないがな」

 

「それなら、あたしを倒さなきゃ無理だね。私が生きているうちはフェイトを絶対殺させやしない!」

 

「そうか、じゃあお前を「殺す」か」

 

 そいつがそう言った瞬間、あたしは三回死んだ。

 

 一回目は質量兵器で頭を打ち抜かれ、

 

 二回目は首を折られ、

 

 三回目は心臓を潰された。

 

 力が抜け四つん這いになる。

 吐き気が襲ってきて耐える事も出来ずにその場で吐く。ビシャビシャと音を立てて床にぶちまけるけど、中々止まらず吐き続け、最終的に黄色い胃液がでてきてやっと止まった。

 な、何だったんだい! 今の!? 全部一瞬の内だった。抵抗と呼べるもの何一つも出来ずに一瞬の内に殺された。まだ震えて言う事を効かない手足を無理やり動かして立ち上がる。

 

「はあ! はあ! はあ!」

 

「お、まだ立てんのか?」

 

 そいつはゆっくりあたしの方に近付いてくる。

 

「無理しない方が良いぞ? そうすれば痛くないように殺してやる。抵抗すれば抵抗しただけ苦しむ事になるぞ?」

 

「馬鹿なこと、言ってんじゃ、ないよ。絶対に、フェイトを、殺させや、しない!」

 

「その気概は認めるが、俺に勝てると思っているのか?」

 

 …………無理だ。あたしじゃ絶対に勝てない。こいつの「殺気」をあてられただけであのざまだ。戦えば間違いなく殺される。

 今だって立っているのがやっとの状態だ。手足は震えて力が入らないし、気を抜けばまた吐きだしそうになる。怖くてこの場をすぐにでも逃げ出しそうになる。けど、

 

「言っただろ? あたしが生きている内はフェイトを絶対殺させやしないって!」

 

 そう言って自分自身に言い聞かせる。私がこいつに殺されたら次はフェイトが殺されるかもしれない。そんな事は絶対にさせない。

 あの時、フェイトはあたしを助けてくれた。まだ小さくて、死病にかかって群れから追放されて、弱ってたあたしを助けてくれた。そんな優しい御主人様を殺させるなんてことは絶対にさせない!

 

「そうか。じゃあ、少しは楽しませてみろ。もしかしたら何とかなるかもしれんぞ?」

 

 そう言ってそいつは自然体で構える。

 

「ハッ! 言ってな!」

 

 私はそう言って、床を蹴ってそいつに接近する。狙うは顔面、右ストレートで思いっきりぶん殴る。

 

ドガァン!!

 

 という音があたりに響いて、そいつがかけていたサングラスが壊れ四散する。サングラスで隠れていた目があらわになる。が、

 

「痛っ!」

 

 殴った右の拳に激痛が走る。

 

「ふむ、体重の乗った良いパンチだが、それだけじゃ駄目だ」

 

 そいつはあたしの攻撃を額で受け、何事も無かったように言ってきた。右手を見てみると赤く腫れ上がっている。どうやら折れたみたいだ。

 

「本当の打撃はこう打つんだ」

 

 そいつはそう言うと、あたしの右腕を掴み、ゆっくり拳を腰だめに構え、打撃を放つ。

 次に感じたのはお腹のあたりに「トン」と拳が当たる感触と、壁に背中がめり込む感触だった。

 

ドゴォーーン!!

 

 何をされたのか全く分からなかった。

 打撃自体はそんなに速いものじゃ無かった。この目でしっかり確認できたのだから。でもその後だ、気が付いたら吹き飛ばされていて、壁にめり込んでいる。

 そして、遅れて痛みが伝わってくる。その痛みは、打たれた前面より、背中の方が痛かった。前面にあるのは触られた様な感触だけで、その次がお腹の中をかき回される様な痛みと、それが背中に抜けたような衝撃だった。

 

「ガ、ガハッ!」

 

 あたしの口からは真っ赤な血が出た。お腹を押さえて蹲り必死に呼吸をしようとするが上手く息が出来ない。

 ヒュー、ヒューと口から空気が漏れる。痛い、いたい、イタイ! 今までこんな痛みを感じた事は無かった。それほどの痛みだ。

 そして動けないあたしにゆっくりと近付いてくる足音が一つ。その足音が目の前まで来て止まる。

 

「何だ? もう終わりか?」

 

 その問いに答える余裕はもう残っていなかった。

 

「そうか、この分だとフェイトとか言う娘もそれほど強くないのだろうな」

 

 だけど、それを聞いて黙っていられるほどあたしは弱ってはいなかった。

 

「あ、あんたは、何を、する、つもり、なんだい?」

 

「おっと、目的を話してなかったか。それなら冥土の土産に話してやる。我々の目的は管理局の壊滅だ。この世界にばらまかれたジュエルシードを使ってミッドチルダを壊滅させる事にある。そこで目的を効率よく果たす為に我々は彼女に目をつけた。魔導師、技術者としても非常に優秀な彼女がいればとても心強い。しかし、ここで誤算があった。彼女はそんな事に手を貸すのは御免だと言って、我々への協力を拒んだ。それなので仕方なく娘を人質に取った訳だ。どうだ、分かったか? ドゥー・ユー・アンダスタンンンンドゥ?」

 

「そ、それなら、余計に、負ける、訳には、いかない、ね」

 

 あたしじゃ勝てない、でもここから逃げてあいつに伝えられれば、あいつなら何とかしてくれる。そんな気がする。

 今あいつは格下の相手だと思って油断している。今なら逃げられる。

 

「それじゃあ、お別れだ」

 

 そいつはわざわざそう宣言して拳を振り上げる。ここだ!

 そこからは今までにない速さで魔法を打つ事が出来た。一瞬のうちに魔法陣が展開して、自分の真下の床を打ち抜く。

 

ドゴォォォーーーン!!

 

 あたしは自分の真下に開けた穴に飲み込まれて落下していく。

 待っててねフェイト。必ず、戻るから。そう誓いを立てて、最後の力を振り絞って転移魔法を使いあいつらと出会った街に転移した。

 

― プレシア・テスタロッサ ―

 

 舞い上がった、煙があたりを包む。どうやらアルフはすんでの所で逃げたようだ。

 カリウムはその場を動かず、地面に開いた穴をじっと見ている。しばらくすると「ふう」とため息をついてこっちによってくる。

 

「失敗した。逃げられちまった」

 

 まったく気にしていないように言ってくる。

 

「どうするの? これで管理局に知られるわよ?」

 

「気にする事は無い、あなたは言われた通りジュエルシードを集めればいいだけだ。管理局と戦争になったとしても今の戦力なら俺一人でも何とかなる。それに」

 

「それに?」

 

「さっきの嬢ちゃんならもう長くない。よほどの事がない限り管理局には知らされんだろうよ」

 

「そう……」

 

「所でジュエルシードの方はどうなっている?」

 

「集める事が出来たのは七個、残りは管理局が持っているわ」

 

「七個か……残りはどうやって回収するつもりだ?」

 

「フェイトに回収させるつもりよ」

 

「ふむ、それなら七個のジュエルシードをフェイトに持たせた方が良いだろう。管理局とジュエルシードを賭けさせれば向こうも乗ってくるだろう」

 

「そうね、じゃあそのプランでやらせるわ」

 

「精々上手くいくように祈るんだな」

 

「……」

 

「ではこれで失礼する」

 

 そう言うとカリウムは部屋から出て行ってしまった。

 それを見届けてから私はフェイトの元に向かう。ジュエルシードを集めさせるために。

 

― アリサ・バニングス ―

 

 お稽古ごとが終わって鮫島の運転する車で帰る途中、なのはと亜夜からメールがあった。

 例のジュエルシードとかいうのが全部集め終わったって連絡が入った。これからはいつも通りの生活に戻れるみたい。

 なのでせっかくの休みという事で久しぶりに全員で遊ぼうという事になった。集まるのは私の家、そこでちょっとしたパーティーでもしようかと思ってる。

 まあ。「慰労会」みたいなものだ。この事を送ったら一樹からもメールが届いて、「俺の上司とか仲間もおk?」と窺いのメールが来たので、仕方がないのでОKしておいた。

 明日は久しぶりに楽しくなりそうだ。メールも返信し終わって携帯を閉じた時、車が止まる。

 

「どうしたの鮫島?」

 

 基本、家まで止まる事がないルートを走るから途中で止まる事は珍しい。何かあったのかしら?

 

「いえ、お嬢様。道路の真ん中に大型の犬が倒れておりまして」

 

 そう言って来たので運転席の後ろから顔御出して前を見る。

 するとそこにはアスファルトの上で酷くぐったりしている大型犬がいた。

 

「た、大変じゃない! 鮫島!」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

 そう言って、私は車から飛び降りる。鮫島も私についてくる。

 

「酷い怪我!」

 

 車にでも轢かれたのか、口からは血が出ていて、前足はひどく腫れている。呼吸も弱い。

 

「お嬢様、これはもう……」

 

 確かに、素人目に見てもこの犬がひどく弱っていて、もう長くない事が見てとれる。けど、

 

「鮫島、この犬を早く車に乗せなさい! 後、家に帰る前に亜夜の家に寄るわ」

 

「かしこまりました」

 

 そう言うと、鮫島はテキパキ作業を開始した。

 流石に何度も同じような事をしているので手際が良い。一方私は携帯で亜夜を呼び出した。

 

『もしもーし、アリサちゃんどうしたの?』

 

「至急確認したいんだけど、一樹は家にいる?」

 

『お兄ちゃん? まだ帰ってきてないけど? どうしたの? お兄ちゃんまた何かした?』

 

 亜夜の中では一樹はトラブルメーカーの認識らしい。まあ、その通りなんだけど。ただ、今回の要件はそうじゃない。

 

「そう、なら良いわ。直接かけてm『あ、ちょっと待って。今帰ってきたみたい』ホント!?」

 

 それを聞いて思わず大きな声を出してしまった。

 

『う、うん。ホントどうしたのアリサちゃん? そんな大声出して?』

 

「う、ちょっと助けてほしいのよ」

 

『助けてほしいって、まさかまた!?』

 

「ち、違うわよ! そっちじゃないわよ! そんな状況でこんなのんびり携帯で話なんかできないわよ!」

 

『あ、そっか。それもそうだね』

 

 鮫島が犬を、車に乗せ終わったのを見て、私も車に乗り込む。そして車はなめらかに走り出す。

 

「お稽古の帰りに怪我してる犬を拾ったのよ。ちょっと重傷で病院じゃ間に合いそうにないから」

 

『ああ、なるほど。あ、お兄ちゃんと代わる?』

 

「そうね、お願い」

 

『は~い、お兄ちゃん、アリサちゃんから。ワンコの治療のお願いだよ~、……はいよ、お電話かわりましたよ~っと。此方一樹! 雷電、聞こえるか?』

 

「誰が雷電よ!」

 

『じゃあ、ツンデレの方がいいと申すか!?』

 

「誰がツンデレよ!」

 

『あ、そうだった。デレる相手がいないからツンツンか』

 

「そうじゃないわよ! で、大丈夫なの!? 治せるの? 治せないの?」

 

『あ~、死んでなけりゃ大丈夫だと思うぞ多分。士郎さんの時も大丈夫だったし。つーか、拾い過ぎじゃね? 今まで俺が何回治したよ?』

 

「い、良いじゃない! 犬が好きなんだから!」

 

『まあ、俺も好きだから良いけど』

 

「そう、そうよね。それならいいわ。今そっちに向かってるから」

 

『ん、了解。じゃあ、もし助かったら治療費は3000万円頂くが?』

 

「分かったわ、キャッシュの方が良いかしら?」

 

『そこは「一生かけても払います」って言えよ』

 

「?、だらか即金で払うわよ?」

 

『ああ、これだから金持ちは! 家に来たら無免許医師の漫画読ましたる! お金は冗談だからいいよ。その代わり慰労会での食事は期待しているのでよろしく』

 

「分かったわよ」

 

『そう言えば、どんな犬? 大型特殊犬? 大型犬? 中型犬? 小型犬? マイクロ犬?』

 

「な、何なのよ最後の種類は? え~っと、大型犬ね。見た事ない犬種だけど。オレンジ色で額に宝石見たいのが埋まってるわ」

 

『アリサ、それ間違いないのか?』

 

 一樹の声色が途端に恐いものになる。一瞬息が詰まる。

 

「あ、当たり前でしょ! すぐ隣で見てるのに間違える訳『じゃあ、ぶっ飛ばしてこい! 一分一秒でも早く! 絶対そいつを死なせるな!』な、何よ急に。どうしたのよ?」

 

 途端に一樹が緊迫した声で指示を出してくる。

 

『そいつは、俺の知り合いだ! 詳しい事は着いてから話す! だから今は早く来る事だけを考えろ! それと、そのいつの耳元に携帯をあててくれ!』

 

「わ、分かったわよ」

 

『アルフ! 聞こえるか! アルフ! いいか、絶対に死ぬなよ! 絶対に助けてやる! だから「カ、カ……ズ……キ?」そうだ俺だ! 聞こえてるな? なら、絶対死ぬな! お前が死んだらフェイトはどうするんだ! フェイトを悲しませるんじゃねーぞ!』

 

 携帯からは一樹の声が聞こえ、その声を聞いた犬が喋った。確かに喋った。聞き間違え何かじゃ無くてしっかりと喋った。

 

「カ、カズ……キ、フェ……イト…………たす……け」

 

『馬鹿野郎! 甘えんな! 助けたきゃ自分で助けろ! 俺は手伝いしかしないぞ!』

 

「そ……こと…………たす……あげ…………とくれ……よ」

 

『アリサ! アリサ!』

 

「は、はい!」

 

『あと俺ん家までどの位だ!?』

 

「あ、後5~6分で着くわ」

 

『遅い! 2分以内に来い!』

 

「ッ! 分かったわよ! 鮫島!」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

そう言うと車は更にスピードを出して道路を駆け抜けていった。

 

 

 

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