― 斎藤一樹 ―
「今日こそはぶちのめしてやる!」
「フゥーハハハ! 返り討ちにしてやる」
「ヴィータちゃん、頑張りましょう!」
俺とヴィータがにらみ合い、シャマル先生が応援する。それを眺めるシグナムに犬形態のザフィーラ。
『3(スリー)・2(ツー)・1(ワン)・GO!』
開始の合図と共に四人が同時に動く。
「このこの!」
「ぬははは! 甘い! 甘いなヴィータ!」
俺はちょこちょこと動いてヴィータの攻撃をかわしていき、さらにチクチクと攻撃する。
徐々にダメージがたまるヴィータ。
「てめー! じっとしてろ!」
「それなんていじめ? お、隙あり!」
パキャン!
『ピッカァ~~~~~』
キラン!
「あーーー!」
シャマル先生の電気鼠が空の彼方に吹っ飛んで星になる。
「シャマル先生、隙を見せるからそうなる」
「ひ、ひどいですよ?! 私まだ初心者なんですから!!」
「初心者はこうやって強くなっていくのです」
「う~~~~」
「シャマルの敵(かたき)!!」
「所がどっこい」
パキャン!
『ハハハハァ~~~~~』
バキン!
ヴィータの赤い配管工が手前に吹っ飛んで画面にひびが入る。
「こ、この野郎!」
ヴィータが悔しさに顔を歪ませるが、
「一樹兄ちゃんも甘いな」
カキャン!
『ぬあ~~~~!』
ドゴン!
俺の操る蛇がはやてのリン○に画面外まで吹っ飛ばされる。
「ファッキン! またはやてか!」
「フッフッフ、このゲームをどのくらいやり込んどると思ってんねん」
「ほんとにな。俺もはやてには負け越してるからな~」
「ほらほら、かかってこんかい!」
「はやて! 一樹をふっ飛ばしたい!」
「ええよ~、私がダメージを与えるからとどめお願いな」
「わ、私も協力します!」
そう言って全員が俺の蛇を攻撃し始める。
流石にTASさんでもないのでこの状況で勝てるはずもなく、どんどんダメージが蓄積されていく。
「ス○ブラで三対一とかいじめすぐる」
『ぬわ~~~~!』
そう呟くと同時に、はやての操るリ○クにダメージを蓄積され、ヴィータの配管工にふっ飛ばされる蛇がそこにはあった。って言うか俺だった。
闇の書起動から一週間。ヴォルケンリッターの皆さんも日常生活にだんだんと慣れてきたようだ。染まってきたとも言うかもしれない。
まあ、ところどころ常識が欠けているのも仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「ただいま~」
引き続きゲームをしているとクライドさんが帰ってきた。
「あ、お帰り~。どうだった?」
「……また警察の人に声をかけられた」
「ふんふん。で?」
「とりあえず、高笑いして煙玉使って逃げてきた」
「「「「「「ぶーーーー!」」」」」」
「……流石に発案者に笑われるとイラッとするね」
全員が全員噴き出す。現在クライドさんは某ゲルマン忍者になりきるための訓練中で、その姿でとりあえず歩き回る事になっている。
だんだん口調も似てきたので、リハビリついでに行動もしてみる事になった次第である。
当然本人は断固拒否していたが、クロノがピンチの時にさっそうと現れて助けてみない? っと言ってみたら、ちょっと悩んでOKを出した。
まあ、多少なりと接点が出来るからな。自身のプライドとクロノとの接点を天秤にかけてクロノが勝利したようだ。
まあ別に犯罪者になる訳では無いから問題ないがな。地域限定の不審者にはなりそうだが。
「高笑いって、「フハハハ! 私を見つけるとは貴様なかなかやるな」とか言って逃げてきたの?」
「……よく分かったね」
「そりゃ、堂々と歩いてれば見つかるやんか。ブフーー!!」
「いや、まさかほんとにやるとは思わなかった。クックック」
俺が笑っていると、クライドさんが怒りマークを浮かべ言ってくる。
「はやてちゃん、ここは殴っていい所だよね?」
「ええで~! 何回でもOKやで」
「あ、はやて。出来ればそのセリフ恥じらいながらもう一回頼む」
「え? 恥じらいなが……」
はやて自分で想像したのか、少し経って顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
「はやてちゃん?」
不思議な顔をするシャマル先生。
「おや~? 何を想像したんだはやてよ~?」
にやにやしながら言う。
「へ、変態や! 変態がおる!」
「いや~。誉めんなよ」
「誉めとらん! 全員や! 全員で一樹兄ちゃんをこらしめるんや!」
「ゲッ!」
「ふむ、命令ならば仕方がない」
そう言ってレヴァンティンを取り出すシグナム。
「ほんとはしたくねーんだけどな」
そう言って、アイゼンにカートリッジを詰め込むヴィータ。
「怪我してもすぐに直しますので何回でもボコボコに出来ますよ」
笑顔でとんでも発言のシャマル先生。
「……最近体がなまりがちでな」
人型になり、関節を鳴らすザッフィー。
「みなさん? 言ってる事と顔が一致してませんが?」
「「「「そんな事はない」」」」
いやあるだろ。じりじりと間合いを詰めるヴォルケンリッター。
「脱兎!!」
「甘い! アイアン・ネット!!」
「な、なにーーー!!」
クライドさんがバインドを網のように組み上げネット上になったものを放ってきた。
それを見て感動もとい吃驚して捕まってしまった。
「「「「「お~~~」」」」」
その技に感心するヴォルケンリッターとはやて。あっさりと俺を捕縛した部分もあるだろう。
「うん、以外に使えるねこれは」
「流石クライドさん。まさかもう技までコピーするとは」
これならばアレもいけるか?
「以外と上手くいってよかったよ」
「俺としては失敗してほしかったけど」
捕まっている俺のそばにはやてが来る。
「さて、一樹兄ちゃん。申し開きは?」
「俺としてははやての知識にびっくりです」
「あかん加減出来そうにあらへん」
再び顔を赤くしながら死刑宣告をする。リアルスマ○ラに発展してボッコボコにされた。
― クロノ・ハラオウン ―
「はあ……」
「クロノ君、最近本当にため息増えたよね」
ため息をついてエイミィに言われる。それは自分でも自覚している。それもこれも、
「あの馬鹿のせいだ」
「はははは……」
今僕たちは捜査に奔走していた。それもこれも闇の書の修復プロジェクトのせいだ。
このプロジェクトを知ったのはテレビでだった。それは他愛もないニュース番組を見ていた時だった。番組のアナウンサーがそのニュースを読み始めたのだ。
『次のニュースです。管理局が「闇の書」を修復するプロジェクトを立ち上げました。「闇の書」とは長年管理局が追っているロストロギアの一つで……』
「ブーーーーー!! ゴホッ! ゴホッ!!」
僕はその場で飲んでいたコーヒーを噴き出して咳き込んだ。
『なお、このプロジェクトは過去にも失敗していて、未だ管理局内部でも疑問視する声が上がっています』
咳が収まり、再びニュースを見るとキャスターがまだ原稿を読み上げている所だった。
僕はそれを聞いて慌てて連絡をする。
「母さん! これはどういう事ですか!」
『クロノ、落ち着きなさい。いきなり通信してきて、そんな事言われてもどの件だか分からないわよ? それに今は提督よ? 注意しなさい』
そう言われて幾分落ち着く事が出来た。
「闇の書の件です。今ニュースでやってるんですが……何か知っていますか?」
『あら? 一樹君から何も聞いてないの? 自分から話すって言ってたけど?』
「……あの野郎、またやりやがった!!」
『分かったわ。つまり何も聞いてないのね』
「提督、笑い事じゃないですよ!」
穏やかに微笑んでいる母さんを見てそう言う。
『そうね、でも久しぶりに慌てたクロノの顔を見れたから良いわ』
「……提督」
『まず、この件に私達は関われないわよ? これに関してはクロノも分かるわよね?』
「犯罪捜査規範……ですね?」
『ええ、犯罪捜査規範、第一章第一節第十四条、管理局員は、被疑者、被害者その他事件の関係者と親族その他特別の関係にあるため、その捜査について疑念をいだかれるおそれのあるときは、上司の許可を得て、その捜査を回避しなければならない。簡単に言っていしまえば家族が被害者になった場合、その事件には関われないという事ね』
「……」
分かってはいた。でもどこか希望は持っていたと思う。自分でも犯人をこの手で捕まえて父さんに報告したいとも思っていた。
しかし、法がそれを許さない。実際に被疑者とあった場合冷静でいられるかどうか何て、その時になってみないと分からない。
綺麗事を言うつもりもない。それでも、やはり自分で解決したかった。
『やはりというか上からも言われたわ。遠回しにね。こっちも分かってるんだからストレートに言ってもらいたかったわ。全く時間ばかりとられて碌な事言わないんだから』
母さんが珍しく愚痴を言う。やはり母さんも気にはなっているみたいだった。
『でもね、そんな私達に地上から声が掛かったのよ』
「地上から?」
なぜ? と疑問が浮かぶ。地上と本局、まあ海とは犬猿の中である。そんな中何故声をかけてくるのか?
『レジアス少将がね、プレシア・テスタロッサの保護観察をしてほしいって言って来たのよ』
「プレシアをですか?」
『ええ、どうもプレシアは拠点が97管理外世界にあるみたいなのよ。そこでの生活の許可が下りたみたいでね、そこの人達とも親しい私達が選ばれたという事なのよ。何かあっても現地の戦力を使って何とか出来るって考えたみたいね。まあ、これは表向きとでもいいましょか?』
「表向き?」
『ええ、今回プレシアは闇の書修復プロジェクトの一角を担うわ』
「!」
それを聞いて僕も気が付いた。
『護衛も兼ねてるんでしょうね。今のプレシアはある程度リミッターがつけられているわ。手錬の人間が来たら厄介でしょうね、その為の戦力としてみたいね』
「そうですか」
自分でも声が弾んでる気がする。母さんも少し笑っている。
『保護観察中に巻き込まれてもしょうがないとも言われたわ。むしろその可能性の方が高いんでしょうね。全く何処まで手をまわしているのかしらね?』
「すごいですね」
『ええ、ホントにね。ただね何故他の人に頼まなかったのか聞いたのよ。他にもいるのよね、あの世界と関わりのある人は』
その通りだ。少なくとも僕の魔法の師であるリーゼ姉妹の主であるグレアム提督もそのうちの一人だ。
「何て言ったんですか?」
『一樹君が推薦したんですって。あいつなら大丈夫だって。アースラのスタッフなら信頼できるって。今回の件一樹君もそれなりに慎重に動いてるみたいね。裏切りやスパイなんかがいたらプロジェクトが瓦解しかねないわ。周りが敵だらけで大変よ』
「!!……そうですね、ホントに大変そうだ」
『ふふ、嬉しそうねクロノ。それと、プロジェクト開始は六月の頭からだそうよ。ちょっと長くなりそうだからそれまでに準備しておきなさい』
「了解しま……長期任務ですか?」
『そうなるわね』
それを聞いて疑問がわき上がる。
「僕、今何件か抱えてるんですけど?」
『あら、それは大変ね。六月までには終わらせておいてね?』
「…………」
『じゃあ、連絡事項は終わりよ。細かく決まったらまた連絡するわ。クロノお仕事頑張ってね』
母さんはそう言って通信を切った。そのあと自分の机がどうなっているか思いだす。
この間の「P・T事件」の書類に、その他僕の抱えていた事件の書類。
つまり机には書類が山積みされているという事だ。そしてそれを終わらせるためには、
「……休日返上で仕上げるしかないな」
そう結論づけ、一樹をぶん殴ると決めたのだった。
― シグナム ―
呼び出されてから一週間が過ぎた。今回の起動は驚きの連続だった。
馬鹿がいたというのもある。主が年端もいかない少女だったというのもある。しかし、一番驚いているのはこの穏やかな日々だ。
我々は常に闇の書とあり、そこには必ず争いがあった。血にまみれ、慾に溺れ、騙し、騙され、殺し、殺され、そんな戦の日々だった。
しかし、今はどうだ? 日々を楽しみ、笑う。今までの生活とはかけ離れていた。こんなに穏やかに過ごしたのはいつ以来だろうか……? 主はやてが入れてくれたお茶を飲み一息つく。
(おい、シグナムが何かたそがれてるぞ? 何思ってるかかけねぇか?)
(いいぜ、あたしは今日のデザートをかける)
(お? 強気だな。なら俺はダッツを掛けてやろう)
(味は?)
(クッキー&クリーム)
(ぜってー勝つ!!)
感慨にふけっていると後ろからヒソヒソ声が聞こえてきた。
一人は言うに及ばず、もう一人はだんだん馬鹿が感染し始めている奴だ。
(で、何をたそがれているかだが?)
(それはアレだ。この生活に戸惑ってんだろ? あたしもそーだったし)
ふむ、馬鹿が感染しはじめているが長い付き合いだ。しっかりと理解してくれている。
(ふ~ん、俺はアレだ。手頃な鍛錬相手がいなくて不満なんじゃないか?)
む、確かにそれはあるかもしれないが軍配はヴィータだな。
(まあ、最近鍛錬してないからそれもあるかもしれねーな)
(流石、戦闘中毒(バトルジャンキー)そこに痺れも憧れもしねーけど)
(流石のあたしもあそこまでじゃねーし)
(何だ? そこまでひでーのか?)
(ああ、三度の飯より好きなんじゃねーか?)
ピクピク
それを聞いて顔が引きつるのが分かる。ヴィータが私の事をどう思っているかが分かった。
(マジでか!?)
(いや、まー例えだけどよ。あながち間違えでもないかもしれねーし)
(すげーなそれ)
(だろ、でもそれだけ頼れるんだよ。うちらの将は。戦闘面はだけどな)
(ふむ、後で手合わせでもしてもらうかね?)
「それだったら後でと言わずに今手合わせをしてやろう」
私は振り向かずに言う。
「「げ、もしかして聞かれてた?」」
「ヴィータお前が私の事をどう思っているのかよ~く分かった」
「い、いや、あたしは悪口は言ってねーぞ! 頼りになるって言ったしな!」
「戦闘面はだったか?」
うっ! とヴィータが呻く。
「俺も言ってねーぞ」
「バトルジャンキーだったか?」
「……地獄耳」
「ほう、余程私と訓練がしたいようだな?」
「夜の訓練なら大歓迎!」
「夜間訓練か、暗闇時の戦闘も時には必要だろう。敵が攻撃してくるのは日中とは限らんからんからな。しかしそれまで時間がある。まずは通常戦闘その後に夜間戦闘にするとしよう」
「……やっぱ戦闘中毒じゃねーか」
む? こいつは何を言っているんだ? 自分から言ってきたのだろうに。
「そうか、休憩もいらないのか」
「一樹! てめーが余計な事を言うから!!」
「……因みに俺とヴィータどっちの勝ち?」
一樹がそう聞いてきた。私が何を思っていたのか知りたいようだ。
「ヴィータの勝ちだ」
「ホントか!?」
ヴィータが眼を輝かせる。
「しかし、そのダッツは私が貰おう」
ヴィータ は はいに なった!
「あ~あ、お~いヴィータ?」
返事がない。ただの屍のようだ。
「ふん、これで少しは懲りるだろう」
「酷いね~シグナムは」
「お前達は酷くないと?」
「ほんの冗談じゃん。本気にすんなって」
「全く、ヴィータにあまり馬鹿をうつすな」
「ヴィータはワシが育てた」
「あんななりだが、お前より年上だ」
「確かにな。ま、シグナムこれからはこんな日々が続くよ。穏やかな毎日がな。忙しくなる時もある。辛くなる時もある。苦しい時もある。でも基本こんな感じの毎日だ。きっとはやてが闇の書を正しく使いこなすはずだ」
「……まだ信じた訳ではない。闇の書は壊れなどていない。が主はやてはお前の事を信じている、信頼している。私はお前を信じれないが主はやては信じれる。だから絶対に裏切るな」
「……肝に銘じておきますかね。そんな事には絶対にならないだろうけどな」
「だと良いがな」
少しの間沈黙が流れる。
「……連絡があった。プロジェクトが始まるのは六月の頭になりそうだ。敵は内にも外にもいるかもしれない。管理局内にも修復に疑問を持つ声がある。そいつらがどんな妨害を仕掛けてくるか分からない。最悪はやての命が危ない。だからヴォルケンリッターはそれを最優先にしてくれ」
「……わかった」
「六月からは早速忙しくなる。よろしくなシグナム」
「ああ。……さて、訓練をするか」
「ですよね~」
私がそう言った瞬間ガクっと項垂れる一樹だった。