― 斎藤一樹 ―
入校から三カ月、授業に魔法の訓練が入りはじめ全員デバイスを使用し射撃魔法や防御魔法を使いながら訓練をしていた。
二名一組いわゆるツーマンセルという形になり、相手の撃った射撃魔法を自分の防御魔法で防ぎ、攻守交代をして同じ事をする。その繰り返しだ。
いかに安定した魔力で、安定した攻撃、防御を行う。約束動作に近いが慣れてきたものはより早く、より正確に魔法を行使している。
今はまだ魔法に慣れさせるといった訓練だ。そんな中グラウンド隅で一人が別メニューをしていた。
「斎藤、もう一度やってみろ。」
五味教官にそう言われ、射撃魔法を行うためデバイスに魔力を流し込みプログラムを起動するが、
「ストップだ。……ストップ。おい止めろ!」
そう言われ慌てて魔法をキャンセルする。
「はぁ~、斎藤これで何度目だ?」
教官にそう言われ、つい答えてしまった。
「今ので256回目です。おお、ちょうど8bitですね!」
「そういう事を言っているんじゃない! この馬鹿たれが!」
バシン! と軽快で良い音が響く。何人か気にしてこちらを見たが、すぐさま訓練に戻る。
その顔は「またやってる」とあきれ顔だ。
「何で出来んのだ? 射撃魔法なんだぞ? そこまで魔力を籠めんでも発動するぞ?」
「ええ、それは分かっているんですが、なぜか止められないのですよ」
「なぜだ? コントロール自体は出来るのだろう?」
「魔力を体に循環させるのは出来るんですが、外に放出させるとなるとなぜか止まらないんですよ」
二人で首をひねる。
何故こんな事になったかと言うと、初めての魔法の訓練で全員にデバイスが支給され簡単な射撃魔法を教官が実演し、それをまず順番に行う事になった。
大抵の人は威力の差はあるものの、しっかりと用意された的まで届いていた。
そして俺の番になった時それは起きた。他の人たちと同じように魔力をデバイスに籠めプログラムを発動、射撃魔法を的に向かって放った。
すると砲撃魔法になった。
何を言っているんだ? と思うだろうが事実その通りなのだ。
砲撃魔法は的に向かい一直線に進み、的を破壊し爆発した。あまりの事に声を失っていると急に虚脱感が襲ってきた。その場に膝をつき倒れそうになる体を必死に支える。
すると教官がすっ飛んできた。理由を聞かれたのでそのまま話すと「そんな馬鹿な」と鼻で笑われた。
それはそうだろう射撃魔法が砲撃魔法になったのだ。本来ならあり得ない事だ。
しかし事実としてそれが起こってしまった。原因を調べるためにもう一度やろうと思ったがさっきの砲撃で魔力がすっからかんになってしまったようでしようにもできない。それなので後日改めてとなったのだ。
そして現在グラウンドの隅で特訓中だ。
「よし、まずは今まで分かった事を纏めるぞ。まずこの間の砲撃魔法は射撃魔法だったてことだ。異常に魔力が籠められたと補足はつくがな」
そうなのだ。その時は分からなかったがあれは射撃魔法だったのだ。見た目から射撃魔法じゃなく砲撃魔法と思っていただけらしい。
「次に、その射撃魔法には貴様の魔力の大半が籠められていた」
これもその通り。だから撃ち終わった後虚脱感に襲われ膝をついてしまった。
これがほかのオリ主ならお決まりの「手加減しても大出力」なのだろうが、俺の場合魔力量は最大でAA程度、平均でA~Bのあたりをさまよっている。
残念ながらそんなお決まりの展開ではないようだ。
「そして、貴様は魔力のコントロールが体に循環させる以外ほとんど出来ない」
残念だがその通りなのだ。どうやら俺はコントロールがほとんど出来ないらしい。
魔力を放出させればなぜか大量に放出させすぐ魔力がすっからかんになってしまう。しかもそれをカットするには魔法自体をキャンセルしなければならない。
つまり魔法を撃ったらそれまで、一回だけの魔法になってしまった。
これは笑えない。が自分では止められないのでどうしようもない。八方ふさがりであった。
「どうしたら良いんですかね?」
はっきり言って魔法の知識なんぞある訳もなく、学校で習った事以外対処法も分からない。
すると五味教官が言ってくる。
「もしこのまま対処法がなければ、最悪管理局員にはなれないな」
はぁ~、そうなっちゃうよな~。魔法が一回しか使えない魔導師。足手まといとかそういうもんじゃなく、そんなのが現場にいたら「邪魔」の一言である。戦闘など出来るはずがない。
肉の壁何ぞにもなりたくない。悶々と考えていると五味教官が、
「そんな顔するな、なんとか対処法を考えてやる。」
そう言って、頭をポンとなでていく。
その時の教官の顔は優しく笑っていた。この感じ何かどっかで……ああ、父さんに頭なでられた時と一緒なんだ。
なんだか懐かしく思い父さんの事を思い出す。いつも優しく、家では母さんに頭が上がらず、妹の亜夜を超溺愛していて、俺と兄ちゃんの事もちゃんと構ってくれる。いい父親の見本のような感じだ。
まあ若干子供に甘すぎる気もするけどな。俺のお願いで職場まで見せてくれt……。あ、そう言えばデバイスの方で何とかならないのかな?
そんな事を思いついたので五味教官に聞いてみる。
「教官、ちょっと思いつきなんですけど、その放出させる際のコントロール、デバイスでなんとか何ないっすかね?」
俺の隣で考えていた教官に聞いてみた。
「ん? デバイスでか? う~ん、少なくとも支給されているデバイスだと無理だな。それはあくまでも支給品でそんなにハイスペックではないからな。現行の出ている物でも難しいかもしれないぞ?」
「え~と、何と言いますか、特化型とでも言うんでしょうか? 魔力コントロールに重点を置いたタイプ。」
「う~ん、出来なくはないと思うが、ブーストデバイスが近いか? しかしあれは召喚師が使っているタイプだぞ?」
「デバイスで出来るなら当てがあるので今日までのデータもらえますか?」
「それは構わんが、当てってどこだ?」
「魔導端末整備開発課、父さんの勤めてるところです。流石に理論すらないようなものを開発するのは無理でしょうが、似たようなデバイスがあるならそれの改造ぐらいなら大丈夫でしょう」
「そうか、分かったデータは用意しておこう。訓練終了後、教官室まで来い。あと結果はしっかり報告しに来い」
「了解です」
それを聞いた教官はうなずきグラウンドに向け大声で言った。
「よし! 訓練やめ! 本日の訓練はこれまでとする! 各自片付けをし寮に戻れ! 以上だ!」
そういうと教官は去って行った。
とりあえず後でデータを受け取って、次の休暇にでも連絡して頼んでみるか。それまでは他の方法を探さないとな。デバイスの方が上手くいくとは限らないし。
そう思っていると、こちらを見てニヤニヤしている集団がいた何だろうと思ったが理由はすぐに分かった。
「斎藤! これから俺達と訓練しないか? お前まだ射撃しかしてなかったよな? 防御魔法教えてやるよ」
集団のリーダーらしき人物が言ってきた。
はぁ~、どこにでもいるものだなこの手の馬鹿は。大方俺がでかい顔をしているのが気に入らないのだろう。そんなつもりはさらさらないのだが。
今まで体力訓練しかしておらず、そこでは俺とクロノの独壇場だった。
そこで魔法訓練に入って俺に魔法の才能? がまったくないと知ったのを良い事にこれまでの鬱憤を晴らそうという魂胆なのだろう。
何とも器の小さいやつらである。クロノが止めようとしたが手で制してこう言い放った。
「だが断る!!」
俺の好きな事の一つに、自分が強いと思っている奴にn……ゲフン、ゲフン。
ともかくそんなことしても時間の無駄なのでしっかり断る。スタスタと横を通り過ぎクロノと合流したときそれは来た。
ヒュン!
そう音が聞こえたのでクロノを突き飛ばしつつ俺も横に避ける。
飛んできた方向をみると、さっきのリーダーらしき奴がデバイスを起動し、魔力弾を撃ってきた。
俺はため息を吐きつつクロノを見る。こちらも問題ないようだ。
「何の真似だ!」
クロノが叫び構える。
「うるせえ! いつもいつもでかい顔しやがって! 気にいらねぇーんだよ!」
おふぅ、何と言う小物発言! 初めて聞きました。そんなもんだからつい言ってしまった。
「お~い、そんな小物発言していいのか? 程度が知れるぞ? 負けフラグだぞ?」
笑いをこらえながら言うと、クロノと言い争っていたリーダーっぽいのがピタッと止まる。体は震えていて、顔が赤くなっていく。
「うるせえ! だいたい防御魔法も使えない落ちこぼれのくせにでかい面してんじゃねぇ!」
「あ~、やだやだ。たかだか防御魔法と射撃魔法が俺より使えるってだけで強者気取りですよ。お前だって基本の魔法が使えるだけじゃんか。やだね~ちょっと魔法が使えるだけででかい顔する奴は。そう思わねクロノ?」
ここで幾分冷静なクロノに振る。
「確かにそうだが、一樹もいらん挑発はするな! この馬鹿が余計怒るだろ!」
……訂正、そんなに冷静じゃなかったようだ。
俺の言った事肯定した上に、あいつらの事馬鹿呼ばわりですよ。あ~あ、あいつら湯気でそうだよ。
「なあクロノ。お前も挑発してどうすんの?」
そういうとクロノはハッとして馬鹿共に向き直る。そこにはプルプルと震える馬鹿共がいた。
「いや~、流石クロノなだめるかと思いきや、更に挑発するとは、その発想は無かったわ」
ニヤニヤしながら言う俺。するとクロノは、
「そもそも、一樹が挑発するのが悪いんだろ!」
「何を言う! そんなこと言ったらあいつらが先に攻撃してきたぞ!」
「その前を言っているんだ!」
「だって、あんな小物発言聞いたら突っ込みたくなっちまうだろ!」
「無視してさっさと帰ればよかったじゃないか! 馬鹿なんだから明日になったら忘れてるだろ!」
「そんな事はない! ああいう馬鹿は覚えられたら最後、自分が痛い目にあわないと引き下がらないと相場が決まっているのだよ!」
「どこの相場だ!」
「俺の故郷に決まってんだろ!」
絡んで来た馬鹿共そっちのけでギャーギャーと言い合いをする俺とクロノ。ついに黙っていた馬鹿が切れた。
「俺を無視すんじゃねぇー!!!!!」
『うるさい!』
ボゴッ! という音が聞こえたかと思うと馬鹿が崩れ落ちる。
「やかましいんだよ! 俺は今からクロノに故郷の文化(オタク文化)を説明せんといかんのだ! 邪魔をするな!」
「今一樹に説教してる途中なんだそれが終わってからにしろ!!」
俺とクロノが同時に言う。俺達は言い合いながら寮の方向に歩いて行った。グラウンドに残されたのは無残に崩れ落ちた馬鹿とその取り巻き達であった。
絡んできたやつをのした後、クロノと寮室でくだらない言い争いをしたが結局結論は出ず次回に持ち越しとなった。
そして、今俺は父さんにデバイスの件を相談していた。
「うん、データも一緒に送るから、……うん、今のスタイルが格闘だからグローブタイプで、ごつい感じじゃなくて素手に近い感覚が良いな、後肘あたりまで装甲で覆ってもらえるとありがたい。待機状態はドックタグでお願い。うん、出来たらで良いから。必要だったらテストなんかもするから。……うん、じゃあ後よろしく急いでないから大丈夫だよ。うん何かあったらまた連絡して。じゃあまた」
そう言うと電話を切る。あの後教官からデータを受け取り、その足で父さんに連絡する。データは後で送るので今日は連絡だけとなった。
父さんの話だと過去に似た例があるので、そのデータとも比べてみて調整してみるとの事だった。
今日ほど父さんが頼もしく思えたのは内緒だ。すると部屋にいたクロノが聞いてきた。
「デバイスの方は大丈夫そうかい?」
「ああ、過去に似たような例があるらしい。それとも比べてから取り掛かってみるってさ」
「そうなのか? 過去にデータがあるならデバイスも作られてそうだけど?」
「いやいや、その人物がよほどじゃない限りそれ専用のデバイスなんて開発されないだろ。一から開発なんてしてたら金がかかって仕方ないだろ? 一人の管理局員のために莫大な予算をかけるよりほかの手段を取った方が全然良いだろ」
それもそうかと納得しつつクロノと他愛もない話をしていた。そこで部屋のドアがノックされた。
「ん? クロノ来客予定ある?」
「いや僕にはないが?」
「じゃあ誰だ?」
そう言いつつドアに向かう。「どちら様ですか~」と言いながらドアを開ける。
そこには茶色の瞳に、茶色のショートヘアーで旋毛からアホ毛が伸びており、活発そうな女性、クロノの未来の嫁がいた。エイミィ・リミエッタ確かそんな名前だったはず。
しかし何でまたこんなとこにいるんだ?
「え~と、クロノ彼女が来たみたいだぞ?」
ぶぅぅぅーーーーーーー! 飲んでいたお茶を吹き出し苦しそうにむせるクロノ。何をそんなに慌てているんだ?
「どしたんだクロノ? 邪魔なら席をはずすが?」
「どうしてそういう発想になる!」
「いや、だって俺の知り合いじゃなく女性ときたもんだからてっきりクロノの彼女かと」
「飛躍しすぎだ! 僕にはまだ彼女はいない!」
だそうですがという感じで改めてエイミィに視線(乗ってこい! と意味を含め)を戻すと、
「そんな! あんなに激しく告白されたのに! あの時の言葉はウソだったの!」
と乗ってきてくれた。クロノはドアに向かってくる最中だったらしく途中でずっこけた。
「クロノ嘘はいけないぞ。彼女なら彼女で俺にも紹介してくれればいいじゃないか! 隠す必要なんてないぞ(キリッ!」
「違う! ホントに彼女はいない! そもそも彼女とは初対面だ!」
「ホントかぁ~?」
とニヤニヤしつつもエイミィに向き直り尋ねる。
「え~と、はじめましてだよね。俺は斎藤一樹。9歳。こっち風に言うとカズキ・サイトウかな?」
そう自己紹介するとニコッとしながら言ってくる
「え~、もうおしまい? もうちょっと続けてもよかったのに」
と言ってくる。ホントにノリのいい子です。
「私はエイミィ、エイミィ・リミエッタ。11よ。みんなエイミィって呼ぶからそう呼んでもらって構わないよ」
「クロノ・ハラオウンだ」
若干ふくれっ面で答える。からかわれたのが気に入らないらしい。
「お~い、クロノむくれんなよ。いつもの事だろ?」
「いつもの事だから性が悪いんだ! そもそも君たちは本当に初対面なのか!? 何でああまで連携出来る!」
「いや~、それについては俺も予想外だったよ。まさかあそこまで見事に乗ってくれるとは思わなかった」
「ああなってたら乗らないと失礼だと思ったよ」
はぁ~、とため息を吐きつつ諦めたような、厄介事が増えたような感じの顔になる。
「で、君は何で僕たちのところに?」
そうクロノが本題を切り出した。確かに俺も気になっていたので大人しくする。
「う~ん、ここじゃちょっと。部屋の中に入れてくれない?」
「別にかまわないけど、ヤバそうな話し?」
「ヤバくないけど聞かれるとちょっと不味い話かな?」
どうする? とクロノに顔を向けるとしぶしぶながらも頷いたので部屋に案内する。
「ありがとう! じゃあ、お邪魔しま~す」
「お邪魔されま~す」
「へぇ~、意外に綺麗にしてるんだね。男の子の部屋ってもっと汚いものだと思ってたよ」
寮室は十畳くらいの部屋で、入口から入って正面に窓がありベランダがついている。
その窓の横には二段ベットがあり、ベットの向かいに机が置かれている。後は私物が少し置かれているだけで小奇麗になっている。
元来俺もクロノも綺麗好きなのでしっかりと片付けはしているのだ。
其れは兎も角、俺はエイミィにお茶を入れつつ聞いてみた。
「で、そちらの要件はなんなんだ?」
「え~とね、まずはお礼かな。君たちのおかげでお小遣いにずいぶん余裕が出来たので」
ん? 何の話だ? とクロノと顔を見合わせる。
「入校二日目のランニング覚えてるでしょ? それの賭けにたまたま参加できて、君たち二人が残るのに賭けて独り勝ちしたんだよ。それでしばらくはお金に困らなくなったので遅くなったけどそのお礼かな?」
「あ~、思い出した確かティーダが言ってたな。一人大勝した一年がいるって。エイミィだったのか」
「な! そんな事をしてるのか! 賭博は禁止されているだろ!」
「あ~、堅い! 堅いよクロノ! 確かにルールを守るのは大事だけど、二年間もこんなところに寮生活なんだ。娯楽の一つや二つ有ったって良いだろ」
「む、確かに一理あるが……大丈夫か?」
「大丈夫だよ。別に資金が悪の組織に流れるでも、マネーロンダリングされてる訳でもないんだから。娯楽と割り切れ」
「君はどのレベルで考えているんだ? たまに不思議になるよ」
「で、エイミィそれだけじゃないんでしょ?他に何があるの?」
「そうそう、こっちが本題。今日さ魔法の訓練あったでしょ? その時どっかの男子のグループが一樹君を指して何か物騒な事言ってたからちょっと注意した方が良いかもって思ってそれを伝えに来たの」
それを聞きクロノと顔を見合わせ苦笑してしまった。
「む、何で笑うかな?せっかく親切に教えに来たのに!」
するとクロノが反応し、
「ああ、すまない。そういう意味ではないんだ。ただその情報は少しだけもらうのが遅かった。ただそれだけだよ」
「もう、絡んで来た後だったからな。とりあえず返り討ち? にしたよ」
「でも、まだあるかも知れないから気おつけるに越したことはない。情報ありがとうエイミィ」
「な~んだ。そうだったんだ。でもまあいっか。二人と話せて楽しかったし。クロノ君の反応も面白かったし」
そう言ってくすくす笑うエイミィ。
あ~クロノにいじられフラグが経った気がするな。将来的には夫婦になるんだから問題ないんだろうけど。
「じゃあ、私の要件はそれだけだから。今日はこれで戻るね。明日からまた頑張ろうね」
「ああ、これからよろしく。」
「おう、こちらこそよろしく。クロノを弄る人間が増えて嬉しい限りだ。」
「うん私も弄りがいのある人が増えて良かったよ」
「なんでだよ!!」
律儀にクロノが反応する。その反応がいじられる原因だというのに。何故気付かないんだろう? と思わずにはいられなかった。
― 斎藤一馬 ―
「……そうだ。装甲の部分は現存する物質の中で最高の硬度の物を使用する予定になっている。とりあえず説明は以上だ」
その部屋は、中央に長い机が置かれそれを囲む様に数人の人間が座ってる。
ある者は白衣姿、ある者は作業着、ある者はスーツ等々、服装はばらばらだ。その全員が現在正面にあるスクリーンを注視している。
そこに映っているのはデバイスのデザインと設計概要、使用者のデータと過去の類似例その対策案それらが映し出されている。それを見ていた内の一人が手を挙げて発言してくる。
「課長、いくら息子さんのデバイスだからってそんなもん使ってたら予算がいくらあっても足りないですよ? それに管理局員にもなってないのにそんなデバイスの開発許可おりませんよ?」
スーツを着た男が一馬に聞いてくる。
男の言い分はもっともだ。一から作るのはどうしたって金がかかる。失敗に失敗を重ね新型は完成するのだ。
それをまだ管理局員にもなっていない息子に与えるというのだ。明らかに公私混同の上、正気の沙汰ではない。すると一馬は、
「大丈夫だ。開発ではなく改造になる。それと予算は多少ではあるが確保してある。」
「しかし斎藤、いくら息子のためとはいえこれは些かやりすぎじゃないか? スペックを見てもデバイスに振り回されるのがおちだぞ?」
そう言ってきたのは作業着を着た無愛想な男だ。一目見て職人気質の人間だと分かる。
「ああ、それは私も承知している。公私混同していないとは言えないが、それだけの物を作らないともたない理由があるんだ。みんな、ちょっと前にテストルームが一部破損したのは知っているだろ?」
「おお、あれか確かタイル四枚分が駄目になったやつだろ? あのタイルにクレーターをつくった奴がいたんだったな。あのテストルームをぶっ壊す奴どんな奴か見てみたかったんだがなぁ~」
タイルの大きさは一辺が一メートルの正方形だ。
丁度、四枚の繋ぎ目の部分から銃で撃たれた窓ガラスみたいに放射状にヒビが入ってしまったのだ。
「それと、これがその時の映像だ」
「なんだ、斎藤。それがあるなら始めから見せろや」
すると一馬は少し冷たい表情になり
「見ても後悔するなよ」
そう短く告げて手元のパソコンを操作する。するとモニターが切り替わり映像が流れだす。
そこに映ったのは一人の女性と一人の男の子だった。少し会話をしたと思ったら、女性が弾幕で男の子を攻撃し始め、それを慌てながらも回避する男の子。
そしてまた会話すると男の子が構えた。数秒後、男の子が消え女性の前に現れたと思った瞬間、映像が何かの衝撃でぶれる。
その後女性と男の子がほぼ同時に倒れ、映像が終わる。
全員言葉がない。どんな奴かと思っていたがまさか子供とは思わなかったのだ。
しかも魔法で壊れたのでなく、人の力で壊れたのだ。
魔法での攻撃と、人が拳、又は足での攻撃の威力どちらが強い? と聞かれれば魔法を知る人物ならば十人中十人が「魔法」と答えるだろう。
それもそのはず、人が何かしらの手段で攻撃しても衝撃はどう頑張っても1~2tが限界だろう。
それが魔法になればビルの一つや二つがけし飛ぶ威力が出せるのだ。それが今目の前で覆された。10歳にも満たない子供によって。
それを見ていた白衣の男がハッとした。
「課長、まさか今の子供が……」
「そう、息子の一樹だよ。そして倒れた息子が持っていたデバイスがこれだ」
そう言うと机の上にそっと置いた。
そこにはところどころ破損し、融けたような跡があるデバイスだった。
一目見て修理が不可能で廃棄処分と判断できる状態だった。
「これは管理局員に支給される一般的なデバイスだ。それが廃棄処分になる程に魔力が流れた。一樹は全身を魔力で覆っていたが、魔力総量は最大でAAクラス。とてもじゃないけどデバイスが廃棄処分になるほどの魔力じゃない。しかし結果としてデバイスは廃棄処分、テストルームは破損、そして原因はいまだ不明」
ミーティングルームの人間誰もが黙り込んでしまった。
それもそうだろう、今目の前にある物は自分たちの常識をぶち壊した数々の証拠である。
そしてその現象を起こした「対象」がいて、原因を探るため「研究」出来るというのだ。
これに飛びつかないようでは研究者は名乗れない。
するとそれまで黙っていた者が次々に動き出す。
「課長、この事はどこまで報告してありますか?」
管理局の制服を着ていた女性が聞いてきた。
「当時ここにいた当事者、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、クロノの師匠であるグレアム提督の使い魔リーゼ姉妹のみだ。取り合えず関係者には口止めはしてある。グレアム提督は現時点では分からない」
「外に漏らすのは極力避けた方が良いですね」
「ああ、そうしてくれるとありがたい。あと予算の名目は「デバイスの耐久テスト及び新素材のテスト」となっている」
「じゃあ、こっちは各企業に新素材もしくは高硬度の素材を当たってみます」
とスーツ姿の男が、
「こっちは、使用者のデータから必要な耐久値を割り出ししてみますわ」
と白衣姿の男が、
「じゃ俺は、各素材の加工方法、鍛造方法でも探ってみるか」
と作業着の男が順次答える。
「よろしく頼む。各自に出来る最高の行動をしてほしい。なお機密レベルは「5」ここ以外に情報を漏らさないように心得てくれ」
「「「「了解!」」」」
各自が行動し始め出口に向かうが作業着の男が立ち止り、一馬に聞いてくる。
「あ、そう言えば斎藤、パッとデータを見る限りじゃ今あるコアじゃどれも耐えられそうにないぞ? どうするんだ?」
「ああ、コアは「アレ」を使おうと思う。」
「何だと? お前正気か?」
「現時点で「アレ」以外耐えられるものがない」
「しかし、危険すぎるぞ! 安全が保証できない! 俺はもう、二度とあんな事は御免だぞ!」
掴みかかる勢いで一馬に詰め寄る。
「俺だって御免だ! もう二度とあんな思いはしたくない!」
普段冷静な一馬が叫ぶ。
「じゃあなんだって「アレ」の封印を解く! あれは危険なものだ! ましてやそれを息子に持たせるのか!」
「安全装置は万全にかける! あのシステムはプロテクトかけ使用できないようにしてある!」
「……本気なんだな?」
「ああ」
しばらくにらみ合っていると作業着の男が頭をガシガシと掻きため息をつく。
「まったく、あの頃から変わってないなお前は。この頑固野郎が」
「すまない。迷惑掛ける」
そういうと一馬は頭を下げる。
「そう言うなら最高の物を仕上げやがれ! 俺も最高の物を仕上げてやる」
「……ありがとう」
作業着の男は「ケッ!」と言いながら部屋を出ていく。一馬は部屋に残り一息つく。
(今度は大丈夫だ。前と同じにはならない!)
そう拳を握る一馬の顔は決意に満ちていた。
そして一馬は開発室の奥にある部屋に入っていく。
そこは、様々なものが置かれていた。様々な形のデバイスが置いてあると思えば、使い道のわからない変なものまで。
しかし倉庫の一番奥に一際厳重に置かれているトランクがあった。
銀色をしたそのトランクにはカードを通すリーダーがあり、更に暗証番号を押すための数字のキーが付いている。
それだけでなく幾重にも魔法でプロテクトがかけられている。
それは、誰にも触れさせまいとそれをかけた人の執念すらうかがえる。
しかしそれは今一つずつ解かれ、新たな命が産声を上げようとしていた。