魔法少女リリカルなのは ~その拳で護る者~   作:不知火 丙

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本編 第七話

― 斎藤一樹 ―

 

 卒業を間近に控えたその日父さんからメールで連絡が入った。

 

「デバイスの試作機が出来た」

 

 簡潔、かつ明瞭に短くそれだけしか書かれておらず、とりあえず「魔導端末整備開発課」Device Maintenance Develop Division別名「DMD」に行く事にした。

 地上本部に行き、いつか通ったロビーを通り受付のお姉さんに挨拶して、エレベータに向かい地下に行き、扉の前に立つと物々しい空気が流れていた。

 何だ? と不思議に思いながらも扉の前に立つと横にスライドし開く。

 部屋に入るとそこは薄暗く、人の気配はあるものの動いている様子は無い。

 電気のスイッチを手さぐりで探し、スイッチを付けると、そこには死屍累々と横たわる人達の姿があり、ある者は机に突っ伏して、ある者は床に、ある者は椅子を並べ、ベットにして等々。

 いったいどうなってんだ? とその人たちを見ていくと、ある共通点に気付いた。皆一様に「やりとげたぜ!」とでも言う様な清々しい顔をして寝ているのだ。

とりあえず話を聞くため、一番奥の机に突っ伏して寝ていた父さんを起こすことにした。

 

「お~い、父さ~ん起きろ~。」

 

 と、言いながら身体をゆすっても起きない、呼び出しておいて良い笑顔で寝ているので少し「イラッ☆」とした。なので

 

「父さ~ん、何時までも起きないから母さんが良い笑顔で枕元にいるぞ~?」

 

 と言ったら、

 

「御免なさい! すぐ起きます!!」

 

 と飛び起きた。

 母さん、普段父さんをどうやって起こしてんだ? と不安になる。

 そんな事を考えていると、だんだん覚醒してきた父さんがキョロキョロと周りを見渡している。

 

「あ、あれ? お母さん? あれ? 僕の机? ……ああ、そっか。昨日はここで寝ちゃったのか」

 

「今はもう昼だけど、おはよう父さん」

 

「ん? ああ、一樹か。おはよう。早かったねもう少しかかると思ってたんだけど」

 

「やっとデバイスが出来たんだ。楽しみにしてたんだからそりゃ飛んでくるよ」

 

「そうか、じゃあこっちに来てデバイス渡すから」

 

 そう言うと椅子から立ち上がり円筒形台座の装置の前までにきた。

 それはその台座の上20cmぐらいの所に浮いていて、銀の数珠の様な紐に二枚の銀のプレート、プレートの周りは黒いゴムの様な物で覆われていた。

 その形状はドックタグ、軍隊などで兵士が付けているアレだ。

 

「おお、注文通り!」

 

「まあ、形状ぐらいなら問題ないよ。後は性能と耐久性も現存するデバイスではたぶん最高の物だと思うよ」

 

それを聞いてマジで驚いた。

 

「父さん? それ、公私混同じゃね? よく作れたね」

 

「まあ、公私混同は無いとは言えないが、お前には普通のデバイスでは耐えられないからな。自然とそれだけの物が出来ちゃったんだ。みんなで何度お前のデータを見直したと思ってるんだ?」

 

「そ、そうなの?」

 

「当たり前だ。しかも何度見ても結果は同じ、魔力は普通よりちょっと高いくらいなのに、何度やってもお前に使わせると壊れて帰ってくる、みんなかなり悩んでたぞ?」

 

 そうなのだ、月一位で学校にデバイスが届いていて、それをことごとく訓練でぶっ壊し、送り返していたので流石に「やっぱ無理なのかな?」と思っていた矢先、先の事件密輸の関係だ、その時のデータを渡したとき「気功」の存在に気付いたのだった。

 そこから、送られてくるデバイスは今までとは違っていて、損傷はするものの「大破」しなくなった。

 少しずつだが魔法も使える様になった、そしてあれから半年ついにデバイスが完成したと(試作機だけど)連絡がきたのだ。

 今度こそはと意気込んできた。

 

「でも、完成したんでしょ?」

 

「ああ、やっとだよ。プロトタイプが完成した。みんな最高の仕事をしたって言ってたよ」

 

「じゃ、後でお礼しなきゃだな」

 

「それなら、まずデバイスを使いこなしてみる事だ。結構なじゃじゃ馬みたいだから」

 

「じゃあさっそく使わせてもらいますか」

 

 そう言って俺はデバイスに手を伸ばし掴んだ。そして掌に載せ話しかける。

 

「お~い、起きてるか?」

 

 すると、男の合成音声で答えが返ってきた。

 

『起きています。あなたは誰ですか?』

 

「あ~、お前のマスターで、斎藤一樹だ」

 

『マスター? あなたがですか?』

 

「そうだ、これからテストルームで使うから声を掛けたんだ」

 

『そうですか。よろしくお願いします。』

 

「おう、よろしく。そう言えばお前名前あるのか?」

 

『いいえ、まだつけられていません』

 

 そう聞いたので父さんの方を見ると、父さんも頷く。

 

「じゃあ「スサノオ」で行こう、それがお前の名前だ。日本に伝わる三貴神の一柱、防災除疫の神様の名前だ」

 

『了解、私はどのように呼べば宜しいでしょうか?』

 

「う~ん、好きに呼んでもらって良いよ」

 

『そうですか、ではファッキンシット(クソ野郎)と呼びましょう』

 

 ビシッ! とそう音が聞こえた気がした。俺はそのまま体勢で固まり、父さんは苦笑いしている。

 

「あ~、耳の調子が悪かったのかな? ちょっともう一回言ってくれるか?」

 

『了解、何度でも。≪クソ野郎≫』

 

「よ~し、テストルーム行くぞ! 全力で使うぞ!! 父さん良いよね!!!」

 

「まあ、構わないけど壊すなよ?」

 

「無理!!!」

 

 そう言うと、俺はテストルームに入って行くのだった。

 テストルームは白い空間で、野球場がすっぽり入るぐらいの広さで、長方形の様な部屋だ、壁には一辺が1メートル位の正方形のタイルが貼られている。

 俺は部屋の中央付近に立つと、スサノオを首にかけ起動する。

 

「スサノオ起動」

 

『了解』

 

 スサノオが短く答え、バリアジャケットが構築される。

 メインカラーは白、周りは黒く縁取りされており、肩から腕、腰から足に向かって赤いラインが入っている。頭部は黒いヘッドギアが装備されて、上着はミリタリー風になっており下はカーゴパンツだ。靴も黒の軍用ブーツになっていて、腕には黒い小手がついていて内側には何かを入れるスリットがある。手は赤いグローブを付けていて、握る感触は素手に近い。

 俺は軽く体を動かし感触を確かめる。

 

「父さん、何かターゲットみたいなの出せる?」

 

「ああ、待ってろ」

 

 そう言われ待っていると目の前に円柱の様なターゲットが出てきた。

 軽く触る、感触的にはサンドバックが近い、これなら問題ないだろう、まずウォームアップを兼ねボクシングスタイルでサンドバックをたたく、ジャブ、ストレート、フック、始めは軽くたたく。

 

バシ、バシ、バシ

 

 と小気味良い音が鳴る。

 そこから蹴りも加えていく、ロー、ミドル、ハイ。と順に行い、ハイからミドル、ミドルからローに変化する蹴りも付け加えていく。

 

バシ、バシ、バシ、ドン

 

 そこから少しずつ威力を高めていく。

 

ドン、ドン!、ドン!!

 

 サンドバックが撃つたびにくの字に変形する。

 

ドン、ドン、ズバン!!

 

 更に踏み込みを加え、威力を高めていく。

 

ズバン! ズバン! ズバン!

 

 構えを変え、ボクシングの様に動きのある構えから空手などの静止した構えに、その際「気」を使い全身を強化し、更に魔力で補強する。

 

ダン!!

 

 床を踏み抜くような「震脚」を出し、踏み込みからのエネルギーが腰えと伝わり、腰を回転し肩に伝え、肘に送り、拳に流し、その勢いを殺さず一気に目標を打ち抜く。

 

ドガン!!!!

 

 ターゲットが吹き飛び壁に当たり転がる。

 ふう、とため息をつき腕のところに着いていたデバイスのコアを見る。そこには黄色く輝きなんら変わりないコアがあった。

 普段であればこの時点で煙を吹き始め、最終的に強制解除されるのだ。しかし今のところそのような兆候はみあたらない。

 凄い! 気と同時に魔力も流したけど壊れなかった。それどころか魔力の循環が今までよりずっと楽に出来る。これなら少ない魔力で今まで以上の強化が出来そうだ! そう思うとわくわくが止まらなかった。

 するとスサノオが、

 

『どうしたんですか? ≪クソ野郎≫もう終わりですか?』

 

と言ってきた。その言葉を聞きつつ

 

「冗談、ほんのウォームアップだ。本番はこれからだ。それと「クソ野郎」はやめろ」

 

『しかし呼び方は何でもいいと』

 

「限度があるだろ」

 

『その時点では限度は分かりませんでしたので、このままで良いと思います』

 

「くぁ~、信じらんねぇーデバイスだな。そんなデバイス聞いたことねーぞ!」

 

『当然です。≪クソ野郎≫の為につくられたワン・オフ機なのですから』

 

「むかつく! 絶対その呼び名返させてやるからな!!」

 

『分かりました≪クソ野郎≫楽しみにしています』

 

「ぬぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー! 絶対ぶっ壊す!!!」

 

 ガシガシと頭をかき叫び、俺はぶっ倒れるまでスサノオのテストを行うのだった。

 そんな様子をガラスの向こうから見る人影、親である一馬の他「DMD」のメンバーだった。

 

「まったく、壊すなと言ったのに」

 

 そう一馬が愚痴る。これでまた修理費がかさむ。

 

「しかし、やっと完成したな一馬」

 

 そう言ったのは作業着を着た男だった。

 

「ああ、やっとだよエド」

 

 一馬はそう答えた。エドワード・サックス、彼がいなければこれほどの耐久性は出なかっただろう。

 

「でも良い仕事したよ」

 

 スーツを着た男が言ってくる。

 

「まったくだヒューズ」

 

 ヒューズ・アレックス。各企業から新素材を調達してきた。

 

「プログラムも良い感じの様だ」

 

 白衣の男がかけていたメガネを上げて答えた。

 

「そうなのか?バニ」

 

 バニ・モラウタ。デバイスのプログラム構築を手がけている。

 

「課長、報告書まとめ終わりました。チェックをお願いします」

 

 制服の女性が報告してきた。

 

「すまない、仕事が早くて助かるよレミング」

 

 ノーラ・レミング。開発スケジュールや報告等を補佐してくれた。

 

「みんな、ありがとう。これでようやくひと段落ついた」

 

「なーに、久しぶりにいい仕事が出来たんだ、不満なんかねーよ。なあみんな」

 

 エドの問いに全員が頷く。そこに不満の色は無く皆嬉しそうな顔をしていた。

 

「ありがとう。よーし、今日は久しぶりに飲みに行くか! 勿論僕のおごりだ!!」

 

『お~(パチパチ)』

 

「その前に課長」

 

「ん?」

 

レミングが言ってくる。

 

「息子さん、倒れましたよ?」

 

「え!?」

 

 あわててテストルームを見ると、そこには前のめりに倒れている一樹がいた。

 

「あ~、医務室に運んで行くから。みんなは準備しててくれ」

 

『了~解』

 

 そう言うと各自ばらばらに散り片付けを始める。その姿を確認してから一馬は息子を医務室に運ぶのだった。

 

― 医務室 ―

 

 人の気配を感じ目が覚める。瞼を開けるとそこには見た事のある天井があった。

 

「知ってる天井だと!?」

 

 前回言いそびれただけに今回は言ってみたかったが、あいにく知らない天井ではなかった。

 

『何を言ってるんですか≪クソ野郎≫』

 

 そう言われ一瞬誰だ! と思ったが思い出したので自分の胸元を見る。そこには自分の新しい相棒の姿があった。

 

「何でもないこっちの事」

 

『そうですか、わかりました』

 

 そう言うと身体を起こし周りを見ると、そこは以前運び込まれた医務室の様だ。

 今回は虚脱感はあるものの身体が動かないという事は無く問題ないようだ、少しベットの上で身体の状態を確かめていると、父さんが顔を出した。

 

「お、目が覚めたか。大丈夫か?」

 

「うん、少し身体が重いけど動けない程じゃない」

 

「そうか、良かった。とりあえずスサノオに異常は見当たらなかった。一樹の方は一時的な体力と魔力の枯渇だそうだ。あと二~三時間も休めば大丈夫だそうだ」

 

「そっか、分かったありがとう。じゃあもう少し休んでから帰るよ」

 

「そうしておきなさい」

 

 そう言うと俺の頭をくしゃっと撫で医務室から出ていった。

 その姿をみてベットに倒れこむ、久しぶりに疲れた。魔法もやっと使えるようになったし、それに付け加え気も使える。これなら原作介入しても大丈夫だろう。後 はどう進めるかだ。そしてプレシアとアリシアを何とか助けたい。

 そのためにはプレシアに接触する事が必要になってくる。そのためにはどうするか……まったく良い案が思い浮かばん!! なるようにしかならんのか?とりあえず虚数空間に落ちるところを助けられる様に準備しておかないとな。

 そう考えながら救出プランを練るのだった。

 

― 海鳴市 ―

 

 海鳴よ! 私は帰ってきた!!

 

 久しぶりに帰ってきた地元はあまり変わっておらず、懐かしさが漂っている。

 そんなテンションからか、つい某少佐の名台詞を叫んでしまったのは仕方が無いだろう、士官学校に通った二年間色んなイベントがあり、馬鹿もしたし、無茶もした。

 そのおかげで想像以上に力がついたし、デバイスのスサノオともぼちぼちだ、そんな中自宅に向かって帰る途中に海鳴商店街のさしかかったとき気になるお店を見つけた。

 

「翠屋」

 

 看板にそう書かれており、ここが戦闘民族高町家の拠点になっていると思うとやっぱりどうも信じられない。

 とりあえずお店の中を覘くが、やっている様子は無い、開店前か? と思ったが現在はちょうどお昼時、この時間でやってなければ定休日なのだろうと思ったが、開店時間が書いてある看板を見るとどうやら定休日とも違うようだ。

 すると一つのイベント? が頭をよぎる。

 

(確か、なのはのお父さんが大怪我したんだっけ?)

 

 で、なのはは寂しく公園にいたんだっけか? そんな事を思い出す。

 まあ、家に帰る前に公園に行ってみるかと思い、公園に足を向けたのだが、公園に我らが未来のエースはいなかった。

 接触の機会は今日だけじゃないのでちょくちょく公園には行ってみるか、と思い自宅に帰る……が、その帰り道車椅子の少女が道の溝にタイヤをとられ身動きが取れないのを発見する。

 まさかと思いつつ近づいてみると案の定彼女だった。夜天の書の主にして機動六課創設の立役者。

 

「八神はやて」

 

 御都合主義ってすげーなと思いつつ声をかける。

 

「大丈夫?」

 

 するとはやてはこちらを見て、

 

「だ、大丈夫です。一人で何とかできます」

 

 そう言ってタイヤを唸りながら押しているがびくともしない。ひょいっと見てみると溝は思いのほか深くタイヤもがっちりハマってしまっている。

 断られてしまったのでしばらく後ろで見ていると、はやてがバツが悪そうな顔をしながら言ってきた。

 

「す、すんまへん、後ろから押してもろてええやろか?」

 

「お安いご用だ」

 

 と答え、車いすのハンドルを握り、てこの原理でハンドルを下げてタイヤを浮かす。ズル、という音と共にタイヤが溝から抜けたので、ちょっと押して溝の無いところに移動する。

 

「これで大丈夫?」

 

「おおきに、いやー始めは何とか出来ると思ったんやけどな、お兄さんが帰らんで良かったわ」

 

「まあ、誰だって始めは自分で何とかしようと思っちゃうもんだろ。仕方ないんじゃないのか?」

 

「そーやね、そう言ってもらえると助かるわー。私は八神はやて言います。お兄さんは?」

 

「ああ、俺は斎藤一樹だ」

 

「ありがとな、一樹さん」

 

「しかし車椅子を一人で扱うのは大変だろう?それとも親誰かいるのか?」

 

 まあ、理由は知っているが直接聞いておかないと不味いと考えあえて聞く。

 

「私は、親はいないんよ。今も独り暮らしやし」

 

「あ悪い、変なこt……は? 独り暮らし? 八神は何歳だよ?」

 

「六歳や」

 

「いやいや、あり得ないでしょ! 親戚は? 誰か一緒に住んでないの? 家事はどうしてるんだ?」

 

 知っていてもやはりその異常さに驚いて一気に質問してしまう。

 

「全部私一人でやってるで!」

 

 心なしか胸を張って答える。

 しかしどう考えても驚きだ、幼稚園の女の子が独り暮らしとか、普通施設なり、親戚なりが一緒に住んだりするもんだけどな。

 

「マジ?」

 

「せやから、さっきから言うてるやん。信じてないなら私の家に来るか?」

 

「いやいや、知り合ったばかりの人家に招待するか普通」

 

「ええやないか、助けてもらったお礼もしたいんよ」

 

「はあ~、分かりました。行きますよ。それで八神んちはどっち?」

 

「こっちや!それと、私の事ははやてでええよ!」

 

 そう言って嬉しそうに進む方向をに向けて指をさす。

 ちょうど帰り道だし、少しつきあうか。そう思いはやての車椅子を押して言われた通り進んでいく。

 車椅子を押して歩くこと15分、はやての家の前に着いた。その門扉の横にある「八神」の表札、まぎれもなく「八神家」なのだろう。

 しかし俺が驚いているのはそんなことではない。「八神家」を正面に、その右隣の家、そこの門扉の横の表札にはこう書かれていた。

 

「斎藤」

 

 御都合主義もここまできたらあっぱれである。そんな状況を確認したら脱力し四つん這い、いわゆるorz状態になっていた。

 それが気になったのかはやてが聞いてくる。

 

「ど、どないしたん? 急にしゃがみ込んで?」

 

「いや~、何と言うかアレだ。世間は狭いもんだな」

 

「どういう意味や?」

 

「右隣の家の表札見てみー」

 

 そう言うとはやてが俺のうちの表札を見る。

 すると驚いたような、嬉しい様な、あきれたような顔になった。なかなか面白い顔である。

 

「あ~、理由は分かったんやけどどないする?」

 

「あ~、じゃあ今回は俺んちにするか。ちょうどはやてと同い年の妹もいるし、紹介するよ」

 

「え! ほんまか!」

 

 よほど嬉しかったのか満面の笑みで聞いてくる。

 

「おお、たぶんもう帰ってきてると思うからいると思うんだけど」

 

 そう言って玄関を開けると、

 

パン! パン! パン!

 

 そう乾いた音が鳴り、紙の紐等が飛んでくる。

 ポカンとしている俺とはやて。すると家族と一人の女の子が一斉に言ってきた。

 

『卒業おめでとう一樹(お兄ちゃん)』

 

 と全員でパチパチと拍手までしている。

 ずるい、不意打ちすぎる。涙をこらえようとするが、家族以外の子がいるのだおいそれと泣く訳には…………あれ?亜夜の隣に居るのはだれ…………え? あれ? 何か見覚えのあるツインテールに茶色の髪おどおどしつつも拍手をしてくれている。

何でここにいんの? と首を傾げ母さんに聞く。

 

「か、母さん亜夜の隣にいるのはどちらさん?」

 

「あら、相手に名前を尋ねるときはまず自分からよ」

 

 母さんにそんな事を言われた。確かにその通りだと納得しつつ目線を合わせ自己紹介する。

 

「こんにちは、斎藤一樹です。君は?」

 

そう言うと、おずおず出てきて

 

「なのは、高町なのはです。同じクラスの亜夜ちゃんに誘われてお邪魔しました」

 

「そうなんだよ! なのちゃん今家に泊まってるんだ!」

 

『ね~♪』

 

 やっぱりそうでした。なぜか家にいるホワイトデビr……ゲフンゲフン、まさか亜夜と同じクラスとは思わんかった。しかもかなり仲が良いようだし。

 

「ありがとう。なのちゃん」

 

「一樹、そちらは?」

 

「ああ、え~と」

 

 そう言い淀んでいるとはやてが自分から言いだした。

 

「八神はやて言います。家に帰る途中車いすのタイヤが溝にハマってもうて、そこを助けてもろたんよ。私がお礼したくて家に招待したら、お隣さんだったんよ」

 

「あら、そうなの? これからよろしくね」

 

「ああ、あと亜夜とは同い年だからなのちゃんともそうなるのかな? 二人ともよろしくな」

 

『こちらこそ(なの)!』

 

 そう言うと、キャッキャ言いながら亜夜が車いすを押してリビングに向かう。俺はちょっと気になったので母さんに八神家の事を聞く。

 するとそんな事知らなかったと言い、何かあったらうちを頼るように言っておくと言ってくれた。

 なのちゃんの方は、家の方でお父さんが事故にあい入院中との事だそれでうちで面倒をみるらしい。

 はあ、帰ってきてそうそう怒涛の展開に若干ついて行けん。まあ色々手間が省けてラッキーではあるが。そこで母さんに確認をとる。

 

「母さん、俺ミッドで怪我を治す方法を勉強出来たんだけど、なのちゃんのお父さん怪我なんだよね? たぶん治せるけどどうしよう?」

 

「あら、そうなの? どうしようかしら? でもそれ魔法なのよね? 不味くないかしら?」

 

「いや、怪我を治すのは魔法じゃない別の方法だから大丈夫だと思うけど」

 

「う~ん、でも不思議な力に変わりないのよね?」

 

「う~ん、武術で言う「気功」とかそんな感じだから分かる人には分かるかも?」

 

「じゃあ、後で桃子さんに相談してみようかしら?」

 

「ん、了解」

 

 とそんな事を話していると、リビングにある電話が鳴った。何となく嫌なタイミングだと思いつつ母さんが電話を取る。

 断片的ではあるが会話が聞こえる、相手も相当焦っているようだ、母さんがしきりに「落ち着いて」とか「本当に?」とか確認している。

 嫌な予感がますます広がる。最後に母さんが「分かりました」と言うと電話を切った。そしてなのちゃんに向かい言ってきた。心なしか母さんの顔色も悪い。

 

「なのはちゃん、落ち着いて聞いて。今美由希さんから連絡があったわ」

 

「お姉ちゃんから?」

 

 なのちゃんは不思議そうに首をかしげる。

 

「そう、それで病院から電話があったらしく、お父さんの容体が悪いそうなの」

 

「お、お父さんが?」

 

 それを聞いたとたん急に顔色が悪くなる。

 

「そう、だから今から病院にいk「なのは」……え?」

 

 母さんの言葉をさえぎり、震える声でなのはちゃんが言ってくる。

 

「な、なのは、良い子にしてたよ? お母さん言ってたの、良い子にしてたらお父さんもすぐに帰ってくるって!」

 

 今にも泣きそうな声で、目には涙を浮かべ、そんなのウソだ! と言わんばかりに大きな声で言ってくる。

 

「なのは、良い子じゃなかった? 良い子じゃなかったからお父さん悪くなっちゃたの?」

 

 うつむき、震える声で言う、こらえていた涙が瞳からこぼれ床を濡らす。耐えきれず、嗚咽を上げ、それでも泣かないように、まるでそれが良い子であるために必要だという様に、耐える、ただただ良い子であろうとするために。

 見かねた亜夜が言葉をかける。

 

「そんなことない! なのちゃん、良い子にしてたもん! 掃除したもん! お料理手伝ってくれたもん! 他に「じゃあ!」」

 

「じゃあ! 何でお父さん悪くなっちゃたの!」

 

「そ、それは……」

 

 耐えきれなかったのだろう、その感情を亜夜にぶつけてしまい、亜夜も言葉に詰まる、なのちゃんは亜夜をまっすぐ見ていて、その頬は涙に濡れ、眼は既に赤くなり、瞳からは涙が零れ落ちている。

 それを見た亜夜は、同じように瞳に涙をため今にも泣きだしそうだ。友達のために何もできないのがよほど悔しいのだろう。

 俺も、もうこれ以上黙ってられなかった、今泣いている子は、父親のため、家族のために良い子でいたのだ。それが辛くても、悲しくても、良い子であろうとした。

 そんな子に御褒美がないのはいささかおかしいだろう! そう思うと俺は母さんに視線を送る。母さんもそれに気付いたのか頷く。俺はなのちゃんの前に行き目線を合わせ言った。

 

「なのちゃんは良い子にしてたんだよね?」

 

さっきは否定していたが、なのちゃんは頷く。

 

「お掃除したり、お料理も手伝ってくれたんだよね?」

 

同じように頷く。

 

「じゃあ、俺から御褒美をあげようと思うんだけど、なのちゃんはなにが良い?」

 

なのちゃんは驚いたように顔を上げ此方を見る。

 

「お、お父さんを……」

 

「ん? なに?」

 

刺激しなように出来るだけ優しく聞く。

 

「お父さんを助けて!!」

 

「引き受けた!」

 

俺は力強くうなずき母さんにいう。

 

「母さん車出して! 俺も一緒に行く!」

 

「任せなさい!」

 

 母さんも快く承諾してくれた。目指すは海鳴大学病院ここからは遠くないはずだ。

 そして俺はみんなと共に病院に向かうのだった。

 病院に着くとそこは慌ただしかった。医師と看護婦が出たり入ったりしており、士郎さんの周りで医師が指示を出しているベット横の心電図からはだんだん感覚が長くなっていく。はたから見てもかなり危険な状態だというのが分かる。

 そんな中になのちゃんと俺は入って行った。ベットの周りは、家族、高町家の面々がおり必死に叫んでいる。

 

「士郎さん! 士郎さん!」

 

 必死に夫の名前を呼ぶ桃子さん。

 

「父さん死ぬな! まだ教わってない事が沢山ある!」

 

 父のなを必死に呼ぶ恭也さん。

 

「お父さん! お父さん!」

 

 その横で必死に叫ぶ美由希さん。三人が必死に呼びとめる。しかし無情にも心臓の音は弱くなっている。そこに、

 

「お母さん! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 

 なのちゃんが声をかける。

 

『なのは!』

 

 三人が同時に振りかえり、桃子さんがなのちゃんを抱き締める。

 しかし事は一刻を争う。俺は紹介を待つ時間も無駄にできないと思いベットの周りにいる医師に向かって言い放つ。

 

「じゃま! どいて!」

 

 そう言いながら医師を押しのけベットの横に立つ。

 

「な、なんだ君は!」

 

 押しのけられた医師はそう答えるが構っている余裕はない! 俺は気を練り始め拳に集中させる!

 

「龍掌!!!」

 

バキャ!!!

 

 という音がして、顔を殴られた士郎さんはそのままベットから転げ落ちる。

 それを見た恭也さんが鬼の形相で迫ってくる。それを見て俺は「ああ、今度は俺がヤバいかも」と思いつつ恭也さんに殴られ意識を手放した。

 病室には心電図の無機質な音が鳴り響いていた。

 

― 高町なのは ―

 

 その日なのはは公園のブランコに座っていた。特に誰と遊ぶ訳でもなく、ブランコに座り俯いていた。

 どうしてそうしているか、その原因はちょっと前に、お父さんが事故で入院して、お母さんはお父さんに付きっきりなって、お兄ちゃんはどこか機嫌が悪いし、お姉ちゃんは落ち込んでいる。

 話しかけてもどこか上の空で、なのはを見ていない。お母さんは朝起きるとご飯をつくって直ぐ何処かに行ってしまう。お兄ちゃんとお姉ちゃんもそうだ。

 朝起きてリビングに行っても誰もいない。テーブルの上にラップに包まれた朝食と、そのそばに置いてある書き置き。

 

[お母さんは、びょういんにいってきます。いい子にしててね]

 

 そう短く書いてあった。それを読んで良い子でいなくちゃいけない。そうすれば良いんだ。そうすればお母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも前みたいに話してくれる。遊んでくれる。そう思った。

 その日も、その次の日も、その次の日も良い子でいたと思う。ひとりで寝ることも、食器の片付けも、お風呂のお掃除も全部一人でした。それでもみんな前みたいに話してくれない、遊んでくれない。だからなのははお母さんに聞いた。

 

「お父さんはいつ帰ってくるの?」

 

 そう、お父さんが帰ってくればみんな前みたいに優しくなってくれると思ったから。そしたらお母さんは、

 

「なのはが良い子にしてたら直ぐに帰ってくるわ」

 

 そう言ってくれた。だからもっといい子でいようと思って今まで以上に頑張った。

 でも、それでもお父さんは帰ってこなかった。その日も、その次の日も、その次の日も。

 そして、今はブランコに座ってどうすればもっと良い子でいられるか考えていた。そう思っていたら、声をかけられた。

 

「なのちゃん、どうしたの?元気ないよ?」

 

 声をかけてきたのは同じクラスの斎藤亜夜ちゃんだった。

 いつも一緒に遊んでたけど、お父さんが入院してから遊んだ覚えがない。なのははとっさに答えた。

 

「そんな事ないの。大丈夫なの」

 

 笑顔でこたえようとしたけど上手く出来たか分からなかった。

 誰かに心配かけたら良い子じゃなっくなっちゃう。そう思ったから。

 

「む~、そお?」

 

「そうなの」

 

 ホントに?と言いたげに亜夜ちゃんは見てきたから、そうと答えた。

 駄目だ。絶対に心配かけちゃだめだ。そう言い聞かせ心配させないように答える。

 

「む~、分かった。あ、それとなのちゃん今度の土曜日暇?」

 

「え? 暇だけど、何かあるの?」

 

「うん、今度お兄ちゃんが帰ってくるからお祝いしようって、お母さんが張り切ってて、準備とかなのちゃんと一緒にしたいなと思って」

 

「わかった。お母さんに聞いてみる」

 

「ホント! 約束だよ!」

 

 そう言うと亜夜ちゃんは走って公園を出て行ってしまった。その姿を見てなのはもお母さんに聞いてみなきゃと思って家に帰った。

 家に帰ってその事を話すとお母さんが「良いわよ」と言ってくれた、その事が嬉しくて直ぐに亜夜ちゃんに電話した。すると電話に出たのは亜夜ちゃんのお母さんで、「お母さんに代わってくれる?」と言われたのでお母さんと変わると、少し話して電話を切った。なのはが「なんだったの?」と聞くとお母さんが、

 

「亜夜ちゃんのお母さんがお泊りしないかって言ってくれたの。だから土曜日、日曜日でお願いしたのよ。でもあんまり迷惑かけちゃだめよ。良い子でね?」

 

 そうお母さんが言ってくれた。そうだ亜夜ちゃんの家でも良い子でいれば、きっとお父さんも帰ってくる。そう思って亜夜ちゃんの家でも頑張ってお手伝いしようと思った。

 そして、亜夜ちゃんの家でのお祝い。お部屋の掃除も手伝って、飾り付けも、お料理も手伝った。

 準備が出来たそこに亜夜ちゃんのお兄ちゃんが女の子と一緒に帰ってきた。話を聞くと途中で知り合ったみたいだった。

 私の事を見て驚いてたみたいだけどどこかで会った事あったかな?そう考えるけど会った事はないと思う。

 すると亜夜ちゃんがはやてちゃんの車椅子を押して来たので一緒について行く。今日は新しく友達も出来た。お父さんが入院してずっと一人だったから友達といる事が嬉しくて、楽しくて、きっと家族でこういう風にまたすごせる。

 そう思ったその時部屋に置いてあった電話が音を立てて鳴った。それを聞いた亜夜ちゃんがお母さんを呼びに行って亜夜ちゃんのお母さんが入ってきて受話器をとる。少しお話すると電話を切ってなのはに言ってきた。

 

「お父さんの容体が悪い」

 

 そう聞いた時頭の中が真っ白になった。何で? どうして? なのは良い子にしてたよ? お母さんに言われて良い子にしてたよ? いっぱいお手伝いもした、一人で出来る事も全部した、それなのにどうして? 

 そう思うともう駄目だった、こぼれた言葉は止まってくれない、心配してくれた亜夜ちゃんにも嫌な事言っちゃった。

 もう駄目だ。なのはは悪い子になっちゃった。みんなに心配かけて亜夜ちゃんを泣かしちゃった。これじゃあお父さんも帰ってこない。なのはが悪い子になっちゃったからお父さんの容体が悪くなっちゃったんだ。

 俯いて泣いているとなのはの前に亜夜ちゃんのお兄ちゃんが来て聞いてきた。

 

「なのちゃんは良い子にしてたんだよね?」

 

 それはとても優しい声だった。その声に頷く。

 

「じゃあ俺から御褒美をあげようと思うんだけど、なのちゃんは何が良い?」

 

 驚いて顔を上げる。そこにあった顔はとても優しく、とても暖かく、なのはの事をみていた。

 その顔を見て言った。言わずにはいられなかった。無理かもしれない、駄目と言われるかもしれない、それでも助けてと、お父さんを助けて、そう言わずにはいられなかった。

 その事をお願いすると亜夜ちゃんのお兄ちゃんは一言、

 

「引き受けた!」

 

 と力強く言ってくれた。

 

― 高町桃子 ―

 

「旦那さんの容体が急変しました」

 

 そう病院から連絡を受けた時はもう何も考えられなかった。

 そばにいた美由希に声をかけ、直ぐに病院に向かい病室に駆け込んだ。そこでは担当医がそばについていて周りの看護婦に指示を出していた。

 心電図から規則的に音が聞こえるが、その鼓動がだんだん弱くなっているのが分かる。あの人が、いつも優しいあの人が私達を置いて逝ってしまう。

 それが今現実になろうとしていた。私はよろよろとそばの近づき必死に声をかける。それでも反応は無く心臓の音は弱くなっていく。そこに遅れてきた恭也と美由希が一緒になって声をかける。

 

「お父さん」と

 

「父さん」と

 

 それでも反応は無かった。そこに思いがけない声が響く。

 

「お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

 私と士郎さんの愛娘、なのはだった。

 どうして? と思うがなのはが泣きながら私に向かってくる。私はなのはを抱きしめ、我慢していた涙が頬を伝うのを実感する。今までずっと士郎さんに付きっきりでなのはに構う余裕がなく、今日は知り合いの明子さんにお願いしてしまった。

 なのはは手がかからず良い子だった。でも今はっきりと理解した。それは私がそう言ったからだ。私がそうすれば士郎さんが早く帰ってくると言ったからだ。だからずっと一人で頑張ってたんだ。なのはの涙を見たときそう理解した。

 ああ、この子に辛い思いをさせてしまう。この年で父親を亡くすなんてそんなことさせない。そう思い再び声をかけようとしたときそれは起こった。

 

バキャ!!!

 

 というすごい音と共に流れる無機質な心電図の音、その音を聞いた時全身の力が抜けた。

 その音はつけていた人の心臓が止まった事を示す音だから、すなわち士郎さんの心臓が止まったという事だ。その事が信じられなくて信じたくなくて力の限り大きな声で叫んだ。

 

「士郎さん!!!」

 

「はい?」

 

 ……そうすると返事が返ってきた。私は何が起こったのか理解できなかった。

 

― 高町恭也 ―

 

 美由希から、父さんが危篤だと聞かされ、一緒に病院に向かって、病室で見たものは必死に父さんの名前を呼ぶ母さん、その状況をみて俺は一種の覚悟をきめる。

 しかしそれでも最後まであきらめず一緒になって声をかける。まだ父さんから教わる事が山の様にあるのだ、死なせてたまるか! その思いを言葉にのせ何度も何度も声をかける。

 そうしているとなのはと一人の男の子が入ってくる。なのはは母さんに向かって抱きついた、男の子は事もあろうか治療している医師を、

 

「じゃま! どいて!」

 

 そう短く言い押しのけ、次にとった動作は驚くべきものだった。

 深呼吸をしたかと思うと右手に凄まじい「氣」を溜めこんだのだ。何をするつもりだと思い止めようとするが、医師や看護婦が邪魔で近寄れない。

 すると男の子が短く「龍掌!!!」と言うのと同時に父さんの顔を殴り吹き飛ばした! ただでさえ危ない状況の中、あれほどの攻撃を受けたらその先に待っているのは完全な「死」だ。

 それを理解した瞬間俺の中で怒りが湧き上がり、子供だろうが関係なく、容赦なく、手加減抜きでその顔をぶん殴った。当然の様に男の子は吹き飛び壁に当たり動かなくなる。

 そんな中、母さんの叫びが聞こえた後、さっきまで危篤だった父さんの声が聞こえた。一瞬耳を疑ったが、ベットから落ちた父さんを見ると上半身を起こしていた。少し周りをみて俺に気付いた父さんは、

 

「どうしたんだ恭也?」

 

なんて言ってきたのだった。

 

― 高町美由希 ―

 

 私はその光景を信じられなかった。危篤だったはずのお父さんが、男に子に殴られてベットから落ちたと思ったら、お母さんの叫びに反応して、なおかつ恭也に対して「どうしたんだ?」なんて言ってきた。混乱してる中なのはが、

 

「お父さん!!」

 

 と言って抱きついた。その顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていたけどとても素敵な笑顔だった。

 恭也は訳が分からないという顔だが、お父さんに近づき話している。お母さんは未だに何が起こったか理解できないようだった。まあ、それは私も一緒だけど。

 とりあえず私は、さっき恭也に殴られた男の子を介抱することにした。殴られて、壁に叩きつけられピクリともしない。よくよく考えるとかなり危ないんじゃないだろうか? と思って、容体を確認する。脈はある、呼吸もしてる、首も折れた様子は無い、頬は結構腫れているけど、命に別条は無さそうなので安心した。とりあえず抱きかかえ、お父さんのそばに近寄る。

 

「お父さん、大丈夫なの?」

 

「ああ、身体は何ともない。」

 

 よくよく見てみると、あれだけの傷が綺麗さっぱり消えていた。流石に傷痕は残っているみたいだけど。そこでお父さんは立ち上がりなのはを抱っこしたままお母さんに近寄って行く。

 

「桃子さん、心配かけてしまったね」

 

「…………」

 

「これからはもう危ない仕事はしないと誓うよ」

 

「……はい」

 

「遅くなってしまったけど、ただいま」

 

「……お帰りなさい、士郎さん!」

 

 そう言うと三人で抱き合い恥も外聞もなく声をあげて泣いた。それを黙ってみている私と恭也。

 そして恭也は私に抱っこされている男の子を見ると、

 

「この子はいったい何者だ?」

 

 と聞いてくるがそんなのは私だって知りたい。

 でも一つだけはっきりしているのは、私達家族を救ってくれたかけがえのない恩人だという事だ。

 

― 斎藤一樹 ―

 

 う~ん、と唸り意識が覚醒していく。ベットに横になったまま周りを確認する。どうやら病院の病室の様だ。そして今度こそ、あのセリフが言える!

 

「知らないt「あ、起きたんだ」Nooooーーーーー!!」

 

 ガッデム! 邪魔が入った! 頭を抱え唸る。それを見た亜夜が、

 

「ちょ、お兄ちゃん大丈夫!?」

 

 と慌てて近づいてくる。いかん取り乱した。落ち着いて再度周りを把握する。

 病室それは間違いないようだ。病院特有の匂いが鼻につく。個室の様で急遽用意した感じだ。痛む左頬は恭也さんに殴られたところだろう。触ってみると結構腫れている様だ。とそこまで思いだし慌てて亜夜に聞く。

 

「あ、亜夜! なのちゃんのお父さんどうなった!?」

 

「落ち着けお兄ちゃん」

 

そう言うとズビシとチョップしてくる。以外に強力で何気に痛かった。

 

「了解、落ち着いた」

 

「よろしい。じゃあお母さん呼んでくるね」

 

 そう言うと母さんを呼びに病室から出ていった。仕方ないのでゆっくり待つ事にする。

 しかし士郎さんの事を考えるとそわそわしてしまう。なのちゃんと約束したためちゃんと最後まで確認したかったのだが、恭也さんにより断念させられてしまった。

 まあそれも無理もない。危篤の父親を目の前でぶん殴られたのだ。怒らない方がおかしい。しかしホントにどうなったんだ? 一人で「う~ん」とうなっていると個室のドアが開いた。

 そこに母さんに、亜夜、はやての他、高町家総出で訪ねてきた。あれ?何かや~な感じの汗がでて背中を伝う。そんな俺をみて、察したのか桃子さんが声をかけてくれた。

 

「はじめまして、一樹君。なのはの母親の桃子です。こっちに立ってるのが恭也で、こっちが美由希ね」

 

桃子さんがそういうと恭也さんは少し頭を下げ、美由希さんは手を振ってくる。

 

「あ、はじめまして斎藤一樹です」

 

自己紹介をされたので一応返す。更に桃子さんが言ってくる。

 

「明子さんとなのはに聞いたわ、ありがとう」

 

 そう言うと桃子さんが泣き出してしまった。ちょ、まだ肝心なところの説明がまだですよ! 美由希さんが後ろから背中をさすっているがその美由希さんも目に涙を浮かべている。

 マジでホントにどっちなんよ? ちょっと冷や汗が止まらずだらだらと流れる。そんな中、恭也さんが言ってくる。

 

「さっきはすまなかった。頬は大丈夫か?」

 

「ええ、腫れてるみたいですけど」

 

「う、すまない。我を忘れてしまって」

 

「いや、俺が言うのもアレですけど、あの状況じゃ仕方ないんじゃ……て! そんな事はどうでも良いんです! なのちゃんのお父さんはどうなったんですか!?」

 

 いい加減答えてくれても良いじゃないですかーーー! と抗議のつもりで聞いてみる。

 ホントに状況を聞かないと落ち着かないのだ。あの後どうなったのか。そんな俺を見て恭也さんと桃子さんが苦笑しつつ答えてくれた。

 

「ああ、父さんは大丈夫だ。君が殴った後慌てて駆け寄ったら、「ムク」と起き上がってな、「どしたんだ恭也」何て言ってきてな、あのときはそこにいた全員驚いていたよ」

 

「ええ、心電図の音がピーっていう風に変わったから、もうダメだと思ったらコードが抜けただけだったのよね」

 

 それを聞いて俺はため息をつきベットに倒れこむ。良かったーー! 失敗はしてなかった。なのちゃんとの約束も守れたようだ。良かった~、マジで良かった~。

そう思うと力が抜ける。そんな様子を心配してか恭也さんが聞いてきた。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。問題ないです。結果聞いたら力抜けちゃって。それで親父さん、え~と士郎さんでしたっけ? その後はどうですか?」

 

「今は、精密検査をしているよ。その結果次第では明日にでも退院だそうだ。まったく今でも信じられないぞ? さっきまで危篤だった人間が自分の足で歩いて検査に向かうんだぞ? 一体君は何をしたんだ?」

 

「え~と、それは士郎さんにも言っておきたいので、みんなそろったらで良いですか?」

 

「それなら大丈夫だよ」

 

 そう声が聞こえたのでそちらを見ると、士郎さんと、士郎さんに抱っこされたなのちゃんが部屋に入ってきた。

 

「やあ、君が一樹君かい? なのはの父の士郎だ。なのはから話しは聞いてるよ。ありがとう助けてくれて」

 

「一樹お兄ちゃん、お父さんを助けてくれてありがとうなの!」

 

 そう二人から感謝され、照れる。面と向かって感謝されんの初めてかも。何かすっごくむず痒い!

 

「い、いえ、俺に出来る事をしただけです」

 

「いや、話を聞けばかなり危険な状態だったそうじゃないか。それを助けてくれたんだ。君は命の恩人だ。」

 

 そう言うと士郎さんは手を差し出してくる。俺はその手をおずおずと握り返した。その手は暖かく、大きかった。

 

「父さん、検査終わったのか? 結果はどうだった?」

 

「いや、それがな、元々の古傷だった所も綺麗さっぱり治って医者が驚いてたぞ?」

 

『そうなのか(んですか)?』

 

 俺と恭也さんの声がかぶる。この報告は俺も驚いていた。てっきり古傷はそのままだと思っていたのだ。これなら恭也さんの傷も治せるかもしれないな。

 まあ、何はともあれ全員そろったことだし種明かしをしますか。そう思うと俺は説明し始めた。

 

「え~とじゃあ、みんなそろったようなので説明します。まず最初に聞きたい事があるんですけど士郎さんは何か武術等をした経験はありますか?」

 

 例によって分かっているが一応聞く。

 

「ああ、剣術をしている。御神流という流派で私と恭也、美由希もその剣術をしている」

 

「じゃあ、「氣」若しくは「氣功」というものを使える、見た事あるとかありますか?」

 

「ああ、それもある。似たような技もある。」

 

「俺が士郎さんにしたのも「氣」の一種です。技の名前は「龍掌」これは相手に「氣」を送り込み相手の自己治癒能力を極限まで高め治す技です。自己治癒を高めるので、無くなったもの、たとえば血液なんかは増えないと思うんですけど確認してないのでその辺は分かりません。古傷が直るのは士郎さんの件で初めて分かりました。」

 

 みんな真剣に聞き入っている。

 

「後、病気は治せるかどうか分かりません、試した事がないので。ですのでちゃんと回復するまで、この場合医者のお墨付きかな? それが出るまでなるべく安静にしていてください。俺が把握してるのはこのくらいですかね」

 

 そう言い終えると、みんなも「ふう」とため息をつく、まあ普通だったら信じられんよなこんな話、「氣」とか「氣功」なんて詐欺まがいのもんだし。

 しかもぶん殴って傷が治るのだ、俺だって自分の眼を疑うだろう、しかし現実にそれを見たら話は違ってくるだろう。

 しかも危篤だった人間が完全に治ったのだから。完全に否定するわけにもいかないだろう。と思っていると士郎さんが、

 

「そうか、しかし君はすごいな。その年でこんな技を修めているなんて。何かしているのかい?」

 

 ん? 気のせいか士郎さんの瞳があやしい輝きをしつつある。

 

「ええ、中国拳法の「心意六合」をかじっています。さっきの技の「龍掌」は稽古中に偶然出来た産物なんですけどね」

 

 まさか、漫画を読んで覚えましたとは口が裂けても言えない。

 

「そうか、それなら家の道場に来てみないかい? 一度手合わせをしてみたいな」

 

 はい? 今何と言いやがりましたか? さっき安静にしてくれと言ったばかりですよね?

 

「ああ、それなら俺も賛成だ。君とは手合わせをしてみたいな」

 

 ………………この人たちはホントに戦闘民族だな。

 あんたらは某格闘家みたいに「俺より強いやつに会いに行く!」みたいなノリですか! このままでは俺の身が危ない。何とか切り抜けなくては! そう思い高町家のヒエルキラーの頂点桃子さんに助けを求める。が、

 

「う~ん、手合わせは兎も角、家に招待してお礼をしたいのよね~」

 

 と言い出す始末。そこに家の母さんが便乗して、今日やる予定だった卒業祝いの事を話して、「それは良いわね」とか「是非!」とか言っている。

 おー、神は死んだ!! そんな状況だからもう止める事は無理だった。不可能だった。

 なので俺は日にちが決まったらお伺いしますと言う事しかできなかった。チクショーーーー!! そんな中はやてがぽつりと

 

「しかしあれやな。この中で一番の重傷者が一樹兄ちゃんとはなんか変な感じやな」

 

と苦笑いしつつ言ってきたので

 

「違いない」

 

俺はをそう答え笑うのだった。

 

 

 

 

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