朝倉 和美
麻帆良学園中等部2-Aに所属している、生徒である。報道部に入っており、カメラを片手にスクープを見逃さない、未来の報道記者である。トラブルに巻き込まれる体質ではなく、むしろトラブルを因果律で起こす。
性格は明るく、人当たりがとても良い。真名や刹那とはまったく違う。中学生ながら、スタイルは整っている。彼女に好意を抱く男子生徒は、少なくはない。しかし、本郷は『天敵』とみなしている。
まだ朝倉が小学生の時に、この二人は出会っていた。本郷の類まれない不幸体質に、それを力づくで解決してしまう能力に目をつけた朝倉は何かあっては本郷を付け回すストーカーといっても、無理はない。
3639
この数字は、本郷が朝倉関係で痛い目にあっている、要は不幸にあっている数である。ここまでやられているにも関わらず、本郷が手を出さないのは学園から提示されている『
朝倉は、思い悩む本郷を見て口元を歪める。まるで、その笑顔は玩具を見つけた、純真無垢な子供である。
「どったの、そんな深く考えちゃって~。あ、まさか私がマサさんの言えない趣味をみんなに暴露しちゃった件かな」
爆弾をぶち込んだように、朝倉はそう告げる。
「え、なにそれ? お前何言ったんだよ!? マサさんのナニを知っているんだ!?」
「え? こないだマサさんの部屋に置いていたカメ………カメラで盗撮したから、それをバラ撒いただけだから」
「ねぇ、今言い直そうとしなかったよな? 盗撮とか、もう犯罪じゃないか!?」
「マサさんなら、罪に問われないかな~って」
「マサさん、もう激おこぷんぷん丸なんだよ。罪以前に、お前に天罰下してやろうか? アァ”ン!?」
本郷は朝倉に詰め寄り、逃げられない様に朝倉の両肩を抑える。朝倉はまるでそれを待ってたかのように、また口元を歪める。
時刻は夕方であるが、下校中の生徒おろか教師もこの街道を使っていない。本郷の今の行いを止めるものは誰もいないのに、朝倉は余裕の笑みを浮かべる。いつも装備しているデジカメを構えだし、パシャリと音を出した。
「え……」
「『激写! 清掃員H氏が、下校中の中学生に対しての猥褻行為』という題名はどうかな? 明日はこれで話題性抜群♪」
「ちょ!? バカ野郎! シャレにならないギャグをかますんじゃねぇよ。どうみても、犯罪を取り押さえる俺にしか見えないだろ」
「どうかな~? 写真は写真で語る、文字や言葉はわからないからね。マサさんの言い分より、この写真に写っているほうが誰もが正しいと思うよ?」
デジカメで撮ったのを、本郷に見せる。そこには、どうみても本郷が朝倉に迫っているのしか見えない。言い返そうとも、この写真のせいで下手に言い返せないでいる本郷を、あざ笑う朝倉。
「マサさんはからかい安くて、面白いわ~」
「俺、お前よりかなり年上なのに………!! 可笑しい、可笑しいぞこの世界線! 俺は『最強』と呼ばれてたのに、今じゃ『馬鹿』とかのレッテルを張られるなんて……」
「他にも『クソ清掃員』、『プー太郎』、『働けニート』、『汚じさん』とか。あとは…「やめて!?」」
「なに、俺そんなに言われてたの? ウソでしょ? ウソだと言ってよ朝倉さん!」
「しょうがないじゃん、これはマサさんの日ごろの行いが悪いから皆にバカにされるんだよ? いい大人が、朝から女子生徒のスカートを見るとかさ」
「なんだと!? ちゃんと半径5メートルから離れてみているんだぞ!」
「そういう問題じゃないんだけど……」
「じゃあどういう問題なんだよ。こう見えても、常識は一般人以上にある自身はある!」
「中身はただの『ニート』だけどね、本当に残念」
「残念とかいうな! 心がキュとするんだよ!?」
本郷はそのままうつ伏せになり、頭を抱え込む。彼のいままでの行動は決して人から褒められるものではない、そのことは誰もは知っている。一般生徒から、学園長まで数は広く。本郷 雅功は、学園の中では一、二を争うほどの有名人である。清掃員という肩書ではあるが、このように生徒たちにたいしてはフレンドリーである。
「くそぅ!! 何か奢れよ朝倉!?」
「なんでよ」
年下に奢らせようとするほど、心身ともにクソ野郎となっているけど。
けれども彼の良いところは、やはりその親しみやすさにあるのだろう。彼の交友関係も広く深いというほど、多くいる。朝倉も報道部にいるが、人脈では本郷のほうが圧倒的に上である。彼を慕う人たちはいる。
『最強』である彼はその称号を捨てても、彼は見捨てられない。だから、本郷はこの学園にいる。たしかに引くほどの言動を繰り返しているが、芯が通っているという言い方もできる。これが、本郷の凄い所。
朝倉もそれに気づいているから、本郷を嫌いになれない。
「マサさん、とりあえず立とうよ。もう空も暗くなったしさ」
本郷の肩に手を置き、体を揺さぶっている。多少は心配している朝倉だが、あまり表に出さないようにあえて冷たい雰囲気でそう告げている。
10以上の歳の差、しかも年下である。本郷は今の現状を辛く痛感している。
暗い表情のまま地面を向きながらの姿は、まるでリストラされたサラリーマンのようだ。朝倉はそんな本郷がなさけなく思い、立ち上がる時に肩を貸していた。
二人は足先をそろえて、一人はどん底のように地面を見つけ、一人は何かを思うような苦笑いを夕焼けに向けている。この現状を、赤の他人が見ていたなら絶対通報されるであろう。おもに、本郷が。
「いいんだ……。どうせ、俺なんて実際プー太郎とたいして違わないし。例えで言えば、ジ○ニャンとピカチュウのようなもんかな……」
「マサさん、自分が人気者だと勘違いしてるでしょ」
年下に鋭い突っ込みされた本郷は、目に水が溜まるのを感じ必死に堪えようとしている。
歩いている二人の姿は哀愁漂う雰囲気を出しているが、朝倉は心の中で『ボランティアしているみたい』と呟いていた。
もし、これを言葉に出せば確実に本郷は泣いていたであろう。
◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆
「もうやってやんねぇよ大将!! んだよ、この学園!! マサさんに対してのブラック対応ってか!! 残業ないかわりに、サンドバッグになれってのかよ!! なめんなよ、ハラスメント共!! こう見えても、俺は天下に名高い本郷 雅功だぞ。昔はブイブイ言わせて、メスというメスに人気のマサさんだったんだぞ!」
すでに深夜となっている時刻。
あれから本郷は無事帰宅したが、近ごろのストレスがデッドヒートだったためいつも通う小さな屋台に足を踏み入れた。
のれんには『おでん』と書かれているから、おでん屋なのだろう。客は本郷ただ一人だけ。片手に焼酎が入っている瓶を持ち、そのまま飲み干している。
若干寄っているのか、呂律が回ってあらず体をふらふら動かしている。
小皿に置いてある大根を一口入れ、おでんの汁がしみ込んでいるのを感じ気分よく食べている。そしてそのままもう一本の焼酎をぐいっと飲む。
「んはぁ~。いつもよりいい味だしてるな、流石は大将」
と、そう呼びかける。
「はい、ありがとうございます。マサさん」
言葉とともに体を動かす大将。体からは機械の駆動音を発しており、声もどことなく心がこもっていないと聞き取れる。失礼にいえば、少々棒読みっぽい。
頭には電波を受信しそうな尖がりを両方の横につけており、体も少々関節部分などが人間のものとは違う。綺麗なロングヘアで、感情が読み取れにくい顔つき。
一般的なんおでん屋の大将とは、似つかわしくない言葉遣い。
「しかし、ホントあいつの従者として勿体ないぜ茶々丸」
絡繰茶々丸
アンドロイドであり、おでん屋の大将であり、中等部の生徒でもある。超人工知能の最先端。ある科学者が作りあげた、ロボットである。
そんな彼女は本郷と仲が良く、たまに料理を食わせてもらっている。ようは、年下にたかっている中年の構想図。
本郷は気分よく焼酎を一口含み、味を楽しみようにゆっくり喉を通し、飲んでいる。
「恐縮です、マサさん」
「そうか? 社交的だし、料理できるし、ロボットだし、優しいし完璧じゃねぇか。ぜひわが社へ、とか言いてぇもん」
「ありがとうございます。でも、これもマスターの下でいてこそです」
茶々丸は褒められて、それをマナー本に載ってそうな言葉で完璧に返した。けれど、どことなく恥ずかしそうで嬉しそうに笑っている。
本郷はそんな彼女を見て、深く感心する。頭の中では茶々丸のマスターを思い浮かべては、見比べている。
「あのロリババァと自分を、一緒にしちゃだめだってば。あいつ、プロのボッチハンターだから社交的ではないし、人を絶望に導く料理だし、吸血鬼だし、悪魔超人レベルのドSだからさ。悪いことは言わない、今すぐあいつの縁を切りな」
「いえ、マスターは私がいないと一人でやっていけません」
「まぁ、そこは納得するな。あいつと一緒だったときとか、あいつの雑用ばっかやらされてたし、今更一人でできるとは思わないしな。気持ちはわかるよ」
「はい、申し訳ありません」
「いいのいいの。ようは、あのババァが不甲斐ないだけだから。でも茶々丸、もしあのババァに捨てられたら、俺ん所に来て平気だから」
「その時は、お世話になります。はい、マサさんこれはその時の前払いのお礼です」
「おっ! こんにゃくか、大好物なんだよね! あんがとな、茶々丸」
美味しそうに食べる本郷を見て、茶々丸はどこか愛おしそうに見つめる。
茶々丸と本郷が出会って一年ぐらい。どことなく互いに気兼ねなく話せる存在なので、本郷は茶々丸を気に入っており、逆に茶々丸は本郷を気になっている。
最後となった焼酎を飲み干すと、さらに酔ったのか声がだんだん大きくなっている。
「しかし、あんのババァここ最近大人しいと思いきや、何やら準備とかで茶々丸をこき使っているらしいじゃないか?」
「え、えぇ。『備え』と言っていましたね。マスターが久しぶりに笑っておられました」
「だからといって、ただヒキコオモリのくせに茶々丸に過度にお使い頼んでいると聞いたよ。ジャンプ買ってきてよりか、かなり高難易度らしいじゃん」
「素材集めですから、それぐらいは私がやらなければと……」
「駄目だよ茶々丸! あの重度患者を社会的に更正させないと、さらに調子のるんだから。いいでしょう、ここは『最強』に任せなさい」
胸に手をあて、調子にのっている本郷。茶々丸は先ほどから慌ただしくなり、本郷の口を止めようと横やりを入れようとしているが、言葉をさらに続ける。
本郷が発現するたびに、このおでん屋を照らしている街灯が激しく点滅し、おでんも温度がだんだん下がり始めている。
酔い覚ましとして出していた水は、凍っている。
「よし!! じゃあ今度あいつにあったら俺が説教してやるよ! 安心しな、茶々丸」
そう告げた瞬間、街灯は耐えられなくなったのか電球が破裂してしまい真っ暗な状況になってしまった。
一瞬身構える本郷であったが、後ろにいる気配に気づき猛烈な汗を流し始める。
「だれが、だれを説教するって? なぁ………家畜風情が!」
その日、本郷は一年ぶりにガン泣きした。
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