突然巨大な蜂のゼクスに攫われた青年は
蜂のゼクスとして生まれ変わった
蜂兵執事として
主魔蜂姫ヴェスパローゼ様と百目鬼きさら様
との日常の一コマ

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蜂兵執事アシナガ

大木に擬態された家屋に朝の陽ざしが差し込む

美しい木目を生かした窓枠から優しい光が注ぎ込んだ

コツコツコツッ

黒いスーツを纏い私は滑らかに加工された床の

廊下を歩いていく

後ろからの見た目はただの人間といった感じだが

その頭部は昆虫の蜂そのものである

いうなれば私は昔、日曜朝に放映していた

ヒーロー番組の敵の怪人の様な出で立ちである

私は少し豪華に飾られた部屋の扉をノックした

「おはようございますヴェスパローゼ様」

「開いてるわよ」

部屋からは気の強そうな女性の声が聞こえる

「失礼いたします、朝食の支度が整いました」

「ええ」

私の方を向きもせず大きな帽子をがぶった女性は答える

「きさらは?」

「この後すぐに伺う次第ですが何か?」

「何もないならいいわ、早く起こしてきて頂戴」

「かしこまりました」

そのまま私は扉を閉めると

もう一つ子供らしく丸い意匠を施した

部屋へと向かった

「はしなが?」

「!」

戸をノックする前に部屋の中から声が聞こえた

「はい、きさらお嬢様アシナガでございます」

「はしなが!」

私の姿を見ると嬉しそうに駆け寄ってくる少女

彼女の名は百目鬼きさら

先ほどあった私の主、魔蜂姫ヴェスパローゼ様のパートナーである

こんな異形の姿をした私を恐れる事もないのは

プラセクトと育ったことと、ヴェスパローゼ様の教育の影響だろう

ずっとお嬢様のお世話をさせていただいているのもありますが

「おはようございます。きさらお嬢様、お加減はいかかですか?」

「ぃい」

「はい結構です朝食が出来ております」

「うぃ」

「お召し物でございますヴェスパローゼ様がいらっしゃる前に

 お越しくださいませ」

「っ」

パートナーの名を出すときさらは急に私の腰に引っ付く

「きさらお嬢様?」

「はしながもいっしょ?」

少し不安そうな目で私を見上げた

「はいお傍におりますよ、きさらお嬢様」

「!」

優しく声を掛けるときさらは私のズボンをぎゅぅっと握り

「すぅいく」

私が運んできた服をひったくるように掴んだ

「ではまた後程」

戸を閉めると私はヴェスパローゼ様が

いらっしゃる前にと朝食の支度の為キッチンに向かう

 

私の名前は蜂兵アシナガ

大樹ユグドラジルの端末として

生み出された蜂兵たちの女王ヴェスパローゼ様に

戦闘用ではなく身の回りの世話をする役目を持って

生み出されたプラセクトであります

事はヴェスパローゼ様の苦悩から始まりました

大樹に刃向う存在である一人の人間を抹殺するべく

きさら御嬢様とこの地に来られたヴェスパローゼ様は

まだ幼いきさら様の教育、身の回りの世話

消耗する戦闘下でのリソースの供給などなど

悩みの種は尽きませんでした

今まではブラックポイントの中では

プラセクトとさえ暮らしていけばよかったものの

外へと出たらそうはいきません

人語の教育、人間の少女としての世話に加え戦闘

リソース供給の訓練なども必要となってきます

それら全てを重要な使命を持ったヴェスパローゼ様一人で

こなすにはパートナーと言っても無理がございます

そこで世話役となる私が創られたとのことです

私は人間の都市から青年を攫ってきて

蜂兵のプラセクトと融合し私は作られました

もっとも私は人間だったころの記憶はございませんので

ヴェスパローゼ様に従うことに何の疑念もございません

むしろそれが私の生きる意味とさえ感じています

首から下は蜂の色をした甲殻を持っているものの

形としては人と変わりなく

頭部は融合された蜂の様になってしまいましたが

無事私は新たに蜂兵として第2の人生(?)

を始めるに至った次第でございます

 

「もうすぐご用意できますお待ちくださいませ」

キッチンの戸を開ける音に私は声を掛けた

「きさらは起きたの」

「はいお元気なご様子でしたよ、ヴェスパローゼ様」

「そう」

美しい木目の木のボウルにサラダを盛り付けながら

私は答える

ギィ

「!」

少し中の様子を窺うようにドアが開く音がする

「ローゼ?」

「きさら遅かったじゃない何してたの」

彼女の声にヴェスパローゼが答えた

「うぃ・・・」

少し困ったようにきさらは小さな声を出した

「ヴェスパローゼ様、今日はお嬢様とお出掛けとお伺いしていましたので

 お嬢様のお召し物を動きやすいものをとご用意していましたので

 少しお嬢様をお待たせしました。申し訳ありません、ヴェスパローゼ様」

私はすかさず、きさらお嬢様にフォローを出す

出かけるための服はすでに昨日のうちに用意済みであり

お嬢様はそれをお召しになるのに少しばかり時間が掛かったご様子である

「そう、アシナガあなたにしては珍しいわね」

「急にとのことでしたので」

「・・・!」

私はヴェスパローゼ様の言葉に疑いの色がないことを

悟ると、きさらお嬢様に椅子に座るようにと目くばせする

彼女も私の言葉の真意を理解したようだが

何も言わずに彼女は少し大きめの木の椅子に座った

「はい、ご用意できましたよ」

私は二人の前にサラダやパンを次々と運んでいく

「アシナガ」

「はいヴェスパローゼ様、紅茶でございますね」

「うぃ」

「お嬢様、ジュースは朝食の後ご用意いたします」

私はティーカップに紅茶を注ぐと

もう一つのコップにミルクを注いだ

「気が利くわね、今日はこの葉の気分だったの」

優雅にカップから上る香りを楽しむ彼女に答えた

「恐縮ですヴェスパローゼ様」

「う・・・」

サラダに手を付けていないきさらはパンを食べてしまうと

少し困ったような声を出した

「お嬢様」

私は彼女の横に立ち耳元で囁いた

「頑張って残さず召し上がりになられたらお出かけからお帰りの前に

ホットケーキ、焼いて差し上げますよ」

「けぃき?」

私の言葉にきさらは目を見開くと

「たべゅ」

彼女は箸を握り少し顔をしかめながらもサラダを口へと運ぶ

「はい良くできましたね、お嬢様」

それとなくきさらのサラダの取り分を減らしながら答える

「けぃき」

空になったサラダの皿をこれ見よがしに私に差し出した

「はい、かしこまりました。お戻りの際には焼いておきますね」

「うゆゆ~♪」

私の言葉に機嫌をよくしたのか、きさらは流しへと

空の皿を運んでくれる

「どうしたのきさら、やけに機嫌がいいわね」

テーブルの向こうからヴェスパローゼの声がする

「ヴェスパローゼ様とお出かけになるのが嬉しいのですよ」

「ふぅんそんな子だったかしら」

私の言葉に少し首をかしげると彼女はティーカップを傾ける

 

「ではいってらっしゃいませ。お嬢様、ヴェスパローゼ様」

大樹に擬態された戸の前で私は二人に頭を下げる

「じゃあ此処の事頼むわよ、アシナガ」

「いってくゆ」

「はい、かしこまりました」

二人に答えると私はきさらお嬢様にウインクした

「・・・!」

それに気づいたきさらは私に手を振ると

「ローゼはくいこ」

ヴェスパローゼ様の手を握る

私は二人の後姿を目を細めながら見送った

 

「さてこれでひと段落ですかね」

洗い物、洗濯、掃除などを済ませると私はキッチンで

お嬢様が楽しみにしているホットケーキの材料を確認する

「本当にお嬢様はこれがお好きですね」

始めて焼いて差し上げた時の記憶が蘇る

 

「なんこれ?」

キッチンでフライパンを持つ私の横で興味深そうに

きさらは美味しそうな匂いを上げる黄色い物体を見ている

「ホットケーキという人間のスイーツ、というかお菓子のようなものですよ」

「おかし?」

少し首をかしげるきさら

「お嬢様のお口に合うといいのですが」

人間だった頃の私もホットケーキぐらいは作ったことがあるようで

きさらお嬢様に何かおいしいものをと作ってみた次第である

「さてこの位でいいですかね」

ポンと白い皿の上に黄色い生地に程よく焼き目のついた

まあるいホットケーキを器用に乗せる

「おお」

「これにはちみつを掛けて・・・」

朝、定期報告に来るスカウトシークらが持ってくる

新鮮な蜂蜜をケーキの上に掛けていく

何とも言えない甘い香りがキッチンに広がる

「ふぁ・・・べたい!」

その匂いに少し興奮気味のきさらは手づかみでケーキを掴もうとする

「お嬢様、こちらを」

彼女を椅子に座らせテーブルにナイフとフォークを置いた

「?」

食器に首をかしげるきさら

「これはこうやって召し上がるのですよ」

彼女に手本を見せるようにナイフで一口大にケーキを切り分け

フォークで刺して見せる

「うゆ・・・」

それでも良く解らないといった声をあげるきさら

「では私が手を持っていますからナイフとフォークを握って下さい」

彼女の小さな手を握ると器用にケーキを切り分ける

「・・・!」

何かを掴んだように今度はきさら一人でナイフをケーキにはしらせる

「はいそうです。お嬢様、それをフォークでお召し上がりください」

ぱくっと大きく口を開けたっぷりと蜂蜜のかかったケーキを頬張る

「うぃし」

もごもごと口いっぱいにケーキを入れたきさらは

その甘さに思わず目を見開いた

そのまま次々に口へとケーキを運んでいく

「お嬢様、そんなに慌てなくても」

「はしながこれ、しぃき」

食べ終わるときさらお嬢様は嬉しそうに私に笑いかけてくださる

「また、べたい」

「はい、かしこまりました」

その笑顔に思わず私も顔がほころんだ

 

「・・・!」

仕事が一段落つきキッチンで寛いでいると

急に周囲の警戒を行っている蜂兵が窓から現れた

「どうしました」

「ビビビ」

私も蜂兵の端くれ彼らの声が直接脳内に伝わり状況を理解した

「そんな、いったいどうして」

私は隠れ家の外へ出ると遠くで動いているような山を見やる

深い森の中にある大樹に偽装したこの隠れ家は普通のゼクスでは

見つけることはほぼ不可能に近いだが

「この大量のゼクス赤の世界の・・・ギガンティックですか一体なぜ」

私がブラックポイントの入れ替わりなど知る由もない

はるか向こうで森を荒らしまわる強大な岩山のようなゼクスに戦慄した

「このままでは・・・」

この隠れ家をきゃつらが見つけることはできないであろう

しかしこのままではこの大樹ごと森が更地になってしまう

「ヴェスパローゼ様ときさらお嬢様が留守の時に限って・・・」

彼女らならばあの程度のゼクス蹴散らすのは容易であろう

二人は一流のゼクス使いとパートナーなのである

一方私は戦闘能力をろくに与えられていない一蜂兵の身

・・・ですが

「申し訳ありません、お嬢様にこのことを早急に伝えてください」

「ビビ・・・」

私の言葉にスカウトシークは不安そうな鳴き声を上げた

「私が1秒でも時間を稼ぎます、頼みましたよ」

私はうつむくスカウトシークの頭をポンと叩くと

山のようなゼクスに向かって走り出した

辺りには木々がなぎ倒され折れた枝が散乱していた

「お待ちなさい」

「・・・?」

森を我が物顔で歩く巨大なギガンティックの前に私は立ちはだかる

「私の名は蜂兵アシナガ、ここより先は私が通しません

大人しく引き下がるなら・・・っと」

私の言葉を最後まで聞くことなくギガンティックは巨大な前足を振りおろした

「まあ話が通じる相手などと端から思っておりませんが」

こちらを一瞥したぎらつく瞳を睨み返し私は腹を括る

「そうゆうことならば、しかたありませんね」

シュインッ

右手に巨大な槍を召喚した

(お嬢様、ヴェスパローゼ様どうかご無事で)

「ここは貴方が居るべき場所ではありません」

私は槍を構えギガンティックの目を睨んだ

「今すぐここからお引き取り下さいっ!」

ギャアオオォォォン!

轟く咆哮のもとへと私は駆けた

 

「戻ったわよ、アシナガ」

ヴェスパローゼは疲弊したきさらを連れ、隠れ家の戸を開いた

「はしなが?」

何時もならばすぐに迎えてくれる世話役の蜂兵の姿がない

疲労の色を浮かべるきさらは目を見開いた

「アシナガ?一体、どうしたのかしら」

疲労と僅かな苛立ちを含んだ声でヴェスパローゼは辺りを見回す

「ビビビ!」

「しーく?」

何やら慌てたように窓から索敵用の蜂兵が現れた

「これは・・・」

スカウトシークが差し出したは白い布きれを見ると

ヴェスパローゼは状況を察する

「ローゼ!はしながは?」

「・・・きさらあなたはここに居なさい」

少し強めにきさらに言いつける

「あたしもく」

すでに疲労困憊のはずであるだが彼女は真っ直ぐに私の目を見た

「きさら・・・」

恐らく私の仮定が正しければあれはアシナガがいつも

身に着けている手袋の切れ端だ

つまり彼が誰かに襲われたということになる

間もなく日が暮れるそんな時に襲われるかもしれない

状況下にきさらを出歩かせる訳にはいかない

「ローゼ、あしなが探しぃく?」

「・・・」

私の手を掴み見上げるきさら

ヴェスパローゼは思考を巡らせていると

ドサッ

「!」

戸の向こうで何かが倒れる音がする

「はしなが!」

「待ちなさい、きさらっ!」

もしきさらが襲われたら危険だ

ヴェスパローゼは声を上げた

「お嬢・・・様、お帰りになっていたのですね」

「はしなが・・・らいじょぶ?」

隠れ家の前にはボロボロになったアシナガが倒れていた

「ヴェスパローゼ様、申し訳・・・ありません」

息も絶え絶えでせっかく与えてもらったスーツもズタズタにされてしまった

「一体何があったの」

地に這う私を見下ろすヴェスパローゼ様

「赤の世界のゼクスが・・・ゴフッ」

言葉に詰まる私を彼女は冷たい目で見下ろす

「まったくホントに使えないわね、あなたは」

「ろーぜ!」

彼女の言葉にきさらは思わず声を上げる

きさらお嬢様がヴェスパローゼ様に言い返すなど初めての事だ

「すぐに・・・ゴフッ」

私は立ち上がろうとすると口から体液が噴き出した

「この有様、ギガンティックかしら?」

辺りの木々がなぎ倒されているのを見てヴェスパローゼは言った

「はい、どうやらブラックポイントが・・・」

「そんなことは解っているわ」

隠れ家である大樹の傍に巨大な足跡があるだが

大樹には傷一つ、ついていない

「申し訳ございま・・・」

「なぜ謝るの」

ヴェスパローゼ様の言葉に口をつぐんだ

「それは,一体どうゆう・・・?」

「あなたは戦闘用の蜂兵ではないわ」

片膝をつく私を見おろすヴェスパローゼ様

「上出来じゃない」

「ろーぜ!」

きさらは声を上げた

「・・・!もったいないお言葉です」

頭を下げる私に彼女は

「でも今日の夕食を用意できない罰を与えるわ」

私は一瞬背筋が寒くなる

「今日は疲れたわ、私は休むから

今夜はアシナガ、あなたがきさらの護衛をなさい」

意外な提案に私は一瞬ポカンとしたが

「は、はいかしこまりましたヴェスパローゼ様」

真意を悟るといつものように答える

 

「できましたよきさらお嬢様」

私はフライパンに白い皿をかぶせ、きさらの前に差し出した

「けぃきはく!」

鼻息も荒く興奮した様子で皿を見つめるきさらお嬢様

「あらアシナガあなたそんなものも作れるのね」

「!」

きさらの背後からヴェスパローゼ様が覗き込むように声を掛ける

「私もいただこうかしら、アシナガ?」

「~っ!」

きさらの頭を撫でながらヴェスパローゼ様は首をかしげる

「もちろんでございますヴェスパローゼ様」

 

ああ、これでいいこの幸せな時間がいつまでも続けばいい

永遠にこの身朽ち魂消えるまであなた方にお仕えいたします

この蜂兵アシナガはそれが生きる意味

存在理由なのですから

笑いあう二人の声を聴きながら私は目を細めた

 

私はアシナガ、ヴェスパローゼ様に忠誠を誓いし蜂兵の一人

蜂兵執事アシナガでございます

以後お見知りおきを

 

Fin

 


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