悠久雨模様 〜 What a lovely day   作:くれなゐ

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芥川龍之介の河童

 

 二人がテラス席に座ってからかれこれ2時間ほど。他愛もない会話をしているのは宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン(メリー)

 

「ねぇメリー、河童って知ってる?」

 

 蓮子は手に持った本から目を離さずそう言った。

 

「知ってるけど、河童がどうかしたの?」

「言い直すわ。河童に興味はある?」

 

 メリーは唐突にそんな話題を振ってきた蓮子に対して疑問を抱くが、いつもの事なのであまり気にしない。

 

「急にどうしたの? 河童に対して別に興味はないのだけれど」

 

 蓮子が読んでいる本の表紙には大きな文字で『妖怪の正体とは!?』と書かれており、オカルト雑誌なみに胡散臭いオーラが漂っていた。

 

「なら興味を持って貰えるよう河童について話すわ」

 

 目を輝かせながらそう言ってきた蓮子に対しメリーは拒否する事ができなかった。

 

 

 河童。

 鬼や天狗に並んでかなりメジャーな妖怪。

 川や沼に住んでいると云われ、頭に皿があり背中には甲羅がある事で有名である。

 

「メリー、ちょっとこのページを見て」

 

そう言って蓮子がメリーに見せたページの見出しには『河童の正体は水死体!?』と大胆に書かれていた。

 

「それを見せられて興味なんて湧かないわよ。まだ河童のミイラとかの方が興味をそそるわ」

「河童のミイラ……ねぇ。でも、そう呼ばれてる物の大抵は江戸時代に他の動物の骨とかを合わせて作った物らしいよ」

「蓮子は河童の存在を否定したいの?」

「別にそういう訳ではないわ。メリーは河童を信じてるの?」

「いたら面白いわね、この地球の何処かに」

「なら探しに行ってみない? メリーの夢でね」

 

 

 

 ーーーーーー

 ーーーーー

 

 

 

「――自然の空気が美味しいってのは本当だったのね」

「管理された自然とは全く違う、こんな景色初めて見たわ」

 

 夢の中で二人は上高地にある河童橋を歩いていた。

 最初はカッパ淵に行く予定だったが時間も費用も多く無いという事で河童橋になったのだ。

 

「水は綺麗だし緑も多い、もしかすると本当に会えるかも知れないわ!」

「私は会いたくないのだけどね……」

「何を今更、せっかく来たのに会えなかったら損でしょ?」

 

 河童に会えたとしてその後どうするのか。

 河童に会うことがどれほど危険な事なのか蓮子は考えていない。

 蓮子にとっては夢であってもメリーには現実と変わらないのだ。夢での怪我は現実にも影響する。

 もし夢の中で死んでしまったらどうなるのか。

 目が覚める、と言うけれどメリーの場合でも本当にそれだけで済んでくれるのか………

 もしかしたら一緒の夢を見ている蓮子にまで影響が及ぶかもしれない。

 

「霧で遠くまで見えないわね。メリー、少し奥まで行ってみない?」

「危ないから辞めておいた方が……」

「気をつければ大丈夫よ、私だけでも行ってみるわ」

「ちょっと蓮子!? 待って、私も行くから!」

 

 

 ーーーーーー

 ーーーーー

 

 

 30分は探しただろうか、当然のように河童は見つけられなかった。二人は水際の岩に腰掛け、霧が晴れるのを待っている。

 

「見事に何もいなかったわね」

「もう諦めて帰らない?」

「きっと隠れてるだけよ。もう少し探せば……え?」

 

 蓮子の言葉が途中で途切れる。

 メリーは不安げに「どうしたの?」と尋ねるが返事はない。

 固まっている蓮子の目線を辿った先は水面だった。

 

 

 

 二人が河童と云うものを見たのは実にこの時が初めてだ。

 

 

 

 片手にレンチを持ち、片手は目の上にかざし、珍しそうに二人を岩の上から見下ろしている。

 河童は蓮子と目が合うと忽ち逃げていった。

 

「メ、メリー!! 追うわよ!」

「嘘でしょ……?」

 

 メリーは呆気にとられたまましばらく身動きが取れなかった。

 蓮子が後を追うかメリーを待つか悩んでいる間に河童は霧の中に消えていってしまった。

 

「……逃げられたわね」

「ご、ごめん蓮子」

「さっきのは仕方がないわ。それに……時間はまだある事だし!」

「え、まだ探す気なの……?」

「何言ってるのよ、当たり前じゃない。今からでも追いかけるわよ!」

 

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