俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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梨子ちゃんが可愛くて衝動で書きました。←


俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい(本編)
第1話


「りょうくんも大きくなったね。昔はあんなに小さくて可愛かったのに……あ、今も可愛いよ?」

 

 いい子いい子〜と頭を撫でてくるこの人は、南ことり。近所に住むお姉さん。俺が小さい頃はよく遊んでもらったっけ。いや、遊ばれていたような気もする。

 まあどっちでもいいや。それよりもこの状況。一応高校二年生になる俺なわけであるが、ご近所のお姉さんに頭を撫でてもらっている。子供扱い。今も可愛いって。それを褒め言葉として受け取っていいのか。

 

「こ、ことり先輩! 俺はもう子供じゃないんだから!」

「ん〜、私から見たらりょうくんはいつまでもりょうくんだからなぁ〜」

 

 なんだか恥ずかしくなってきたので少し距離をとる。ことり先輩は残念そうにこっちを見てくる。

 

「何ですか、その目は。俺はことり先輩の遊び道具じゃないんですからね?」

「昔は『お姉ちゃんっ!』って慕ってくれてたのに……」

「いつの話なのさ。俺はもう高校生。背だってほら、こんなに伸びたんだから」

 

 ことり先輩と並んで立つ。昔は見上げるばかりだったことり先輩を、今では俺が少し見下ろしている。こうしてみると、自分の成長が感じられて少し嬉しい。

 

「じゃあせめて、その『ことり先輩』っていう呼び方はやめてほしいな。なんだか他人みたい。昔みたいに、『お姉ちゃん』って呼んで?」

「やですよ!」

「りょうくん……おねがぁい」

「うっ……」

 

 しかし背が伸びて困ったこともある。ことり先輩を見下ろすということは、ことり先輩が俺を見上げるということで、それはつまり常にことり先輩が俺に対して所謂上目遣いをできる立ち位置だということである。今、この状況のように。

 それにことり先輩は美人である。俺の主観だろうって? いや、違う。彼女は昔、スクールアイドルをやっていたのだ。しかもそのグループはスクールアイドルの全国大会で優勝までしている。客観的にも美人だと認められているのだ。まあ、当時は美少女という表現がぴったりだったんだろうけど。

 

「ね? いいでしょ?」

 

 とにかくずるい。この人、それを知ったうえで武器にしてくるのだ。そして俺はそれに勝てない。戦闘力皆無だもん。仕方ないんだ。

 

「お、お姉ちゃん」

 

 は、恥ずかしい。この歳にもなって近所の知人をお姉ちゃんって。今夜は布団の中で悶えそうである。これならまだ、単身女子高に入学の方がマシだ。たぶん。いやそんなことないか。ないね。数年前、先輩たちに憧れて『俺も音ノ木坂学院に行く!』と言っていたのは誰だ。俺だ。超恥ずかしい。音ノ木坂学院は女子校である。

 

「ねえねえ! 次は『ことり(ねえ)』って呼んで! ちょっと大人っぽく! ね? ね?」

「ことり姉」

「きゃあ! りょうくん可愛い! かっこいい! 可愛い!」

「どっちだよ! というより、抱きつかないで!」

 

 ことり先輩の柔らかく、起伏に富んだ身体に包み込まれる。な、なんでこんなに柔らかくて大きいんだ! って離れて、じゃないと理性ががが!

 

「何しているのですか、ことり!」

「あぐっ⁉︎」

 

 ばっ。突然現れた何者かに首根っこを掴まれ、後ろへと引っ張られる。痛い。首締まる。助かったけど、このままでは別の理由で助かりそうにない。

 

「まったく! ふざけが過ぎますよ! 節操を——」

「う、海未ちゃん! りょうくん、顔真っ青だよ⁉︎」

「涼……? あ」

 

 ぱっ。俺の首が解放された。

 

「ゲホッゲホッ。おえっ、し、死ぬかと思った……」

「すみません、涼、大丈夫ですか?」

 

 四つん這いでむせていた俺に視線を合わせるようにしゃがみ込む美人。園田海未。この音ノ木坂の名家の娘である。品行方正、文武両道。ただし、色恋沙汰に絡むことになるとちょっとアレ。ちなみに彼女もことり先輩と同じスクールアイドルグループに入っていた。つまりめっちゃべっぴん。

 

「海未ちゃん、もう少し落ち着かないと」

「ことり。元はと言えば、あなたが涼に抱きついていたのが原因でしょう。涼だってもはや純粋無垢な小さい子ではないのですから」

 

 海未さん、それってどーゆー意味でしょうか。俺が性欲にまみれたという意味ですか? 俺は今でも純粋だよ? だってまだ一度もしたことないもんね。

 

「大丈夫だよ、海未ちゃん。りょうくんは一途な子だから、私に欲情したりなんかしないよ。ねっ、涼くん」

「いや、しますよ! 健全な男子ですからっ!」

「えっ、するの……?」

「涼、あなた……」

 

 いきなり俺から離れる二人の姉さん方。ええ……。なんでそんな急に引くのさ。

 

「別にそこまで引かなくても……」

 

 俺だって男子だよ、男の子だよ。そりゃ、女の人に抱かれたりしたらグフフとかウヒョヒョとか言わなくてもそれなりに興奮するでしょ。……俺は何を言っているのだろう。もうあれだ、さっさと引っ越そう。

 

「そういえば海未ちゃん。穂乃果ちゃんは?」

「穂乃果は少し用事があって来れないそうです」

「用事?」

「……あれだけ遊びすぎるなと注意したのに……」

 

 あ、察し。何やら勉強の方がうまくいっていないみたいですね。まあ、簡単に目に浮かぶ。

 高坂穂乃果。この二人の幼馴染。俺も昔からよく可愛がってもらっていた。二人と同じスクールアイドルユニットのメンバーで、彼女がリーダー。みんなを引っ張っていける頼もしい存在である。ただし、学業の方はちょっとアレ。

 しかしまだ4月の初め。新学期は始まっていない。それなのに勉強? ま、まさか留年……?

 

「すみません、涼。お別れだというのに、全員揃わなくて」

「あ、いえ。気にしなくていいですよ。二人も、わざわざ来てくれてありがとうございます」

 

 実は今日、何のために俺がこの二人と会っているのかというと、引っ越すことになったからである。親の仕事の都合で静岡の方へ引っ越すことになった。その別れの挨拶のようなもの。

 

「でも寂しくなっちゃうな。ことりが遊ぶ人が……ことりと遊ぶ人がいなくなっちゃうね」

「ことり先輩⁉︎ 今"が"って言いませんでした⁉︎ 俺をオモチャにしてましたよね⁉︎」

「まあまあ、涼。細かいことは気にしない方が良いですよ」

 

 全然細かいことじゃない。絶対違う。

 

「そういえばことり。ことりも今度、引っ越すのでしょう?」

「えっ、そうなんですか?」

「そうなの。実はね、来月に海外に行くことになってて」

「ああ、ことり。どうしても行くのですか……」

「海未ちゃん……ごめんね。私は行かなくちゃいけないの。だから……私の帰りを待ってて」

「ことり……」

「海未ちゃん……」

 

 何だこれ。今日って俺のお別れ会だったんじゃないの? そりゃ海外に行くって離れ離れだけどさ。来月じゃん。俺は明日にはもうこの音ノ木坂にはいないのだけれど……。

 

「所詮、俺との仲はその程度ってことですか……」

 

 俺の前で見つめ合うことり先輩と海未先輩。この二人もそっち系なのか。そういえば、昔からずっと一緒だよな。俺と遊ぶ時も、いつもセットだった。……何だろう、この疎外感は。ただでさえ年齢が違うというのに、さらに仲間はずれになってしまってます、俺。

 

「あっ、そういえば。涼、あの子とは別れの挨拶は済ませましたか?」

「あの子?」

「ほら、あの子だよ、あの子。りょうくんがずっと片想いしてる」

「ああ。彼女なら、少し前に引っ越しましたよ」

 

 あらー、と大げさに驚くことり先輩。心なしか、目元が笑ってる気がする。何ですか、その『かわいそうに〜』という表情は。

 海未先輩が俺の肩にポンと手を置いた。

 

「フラれたから自分も引っ越すと」

「違いますよ! 親の都合です! ってか、フラれてません!」

「それはりょうくんがヘタレだから告白してないだけでしょー?」

「うっ……それは……」

 

 まあ、そうなのだが。彼女に関してはある噂が俺とこの先輩たちの間で囁かれている。もしその噂が本当なら、俺の恋が叶うことは永遠にないのだろう。告白してもフラれていた自信がある。あれ、目から汗が。

 彼女は引っ越してしまった。理由も、行き先も、何一つ教えてくれなかった。唐突に引っ越すことだけを伝え、翌日にはこの町からいなくなっていた。

 

「涼ー! もうそろそろ行くわよー!」

 

 車のクラクションの音とともに、俺らがいる部屋の中まで聞こえてきた母の声。そうか、もうそんな時間か。

 

「それじゃあ、行かないと。あ、夏とかには遊びに来るかもしれないです」

「そうですか。いつまでも待ってます」

「あ、でもことり先輩は海外……」

「ううん、夢の中でも会えるから大丈夫」

「ゆ、夢……?」

「それよりも涼。進むのです! 私たちには止められない生き方で!」

「はい?」

 

 よくわからないけど、園田流の奥義を会得している海未先輩の言うことだ。従わないと何をされるかわからない。

 とりあえず玄関を開けて外に出た、その瞬間。

 

 ギュッ

 

「えっ、誰」

「離れていても心は——ずっと一緒だよ」

 

 耳元で囁かれた。この声。紛れもなく、穂乃果先輩である。あれ、今日は用事があるんじゃ……?

 

「涼くん、私たちはずっと一緒。涼くんがどこに行っても、忘れないよ」

「あ、ありがとうございます」

「だから……」

 

 穂乃果先輩はくるりと俺の体の向きを変えさせ、自分の方へと向かせる。そして満面の笑みで——

 

「五千円くらい貸して?」

「え」

「大丈夫! 借りたことは絶対忘れないよ!」

「あ、いや。そういう問題ではなくて……」

「実は今月ピンチでさ〜、ね! お願い! お願いだよ〜」

 

 ぐいぐい迫ってくる穂乃果先輩。ち、近い。昔からその辺の距離感がおかしいのもこの先輩の特徴だ。てか年下の子にお金せがむな。

 

「穂乃果! 何をしているのですか!」

 

 そこに現れた救世主。手に持っていた出席簿のような四角い冊子で高坂先輩の頭を叩く。さっすが、海未先輩だね!

 

「いったーい! もう海未ちゃん! 何するの!」

「みっともないですよ、穂乃果! 涼にお金を借りるなんて、何を考えているのです!」

「だってー。今月ピンチなんだもん。明日は花陽ちゃんとバイキングでしょ。絵里ちゃんとボーリング、凛ちゃんとはバーベキューに行く予定だし、真姫ちゃんからは高級レストランに誘われてるし、にこちゃんの自主制作CD買わなきゃいけないし、希ちゃんは今度パワーストーンを売ってくれるんだって!」

 

 お金使いすぎでしょ。というか全部予定なのかい。普通借りるのって足りなくなってからじゃないの?

 ちなみに今、穂乃果先輩の口から出た人物は皆、同じスクールアイドルのメンバーである。9人合わせてμ's。伝説と謳われたスクールアイドルである。

 

「海未ちゃん、お金が足りないよ〜」

 

 穂乃果先輩が瞳をウルウルさせながら海未先輩に抱きつく。泣き落とし? いやいや、あの真面目な海未先輩がそんなんで落ちるわけ——

 

「し、仕方ありませんね。では私が貸します。ですから涼には求めないように」

「わーい、ありがとう海未ちゃん! 大好き!」

 

 あれ……思ってたのと違う。というより海未先輩、顔が赤いのは気のせいですか気のせいじゃないですよね。やっぱりそっち系の人じゃないですか。

 

「もう行こうかな……」

「あっ、待ってりょうくん!」

 

 フェードアウトしようとしたところ、ことり先輩に腕を掴まれる。

 

「海未ちゃん」

「わかってますよ」

 

 ことり先輩に促された海未先輩が、出席簿のようなものを俺に手渡してきた。えっ、これって……。

 

「μ'sのみんなから、あなたに。メッセージブックです」

「俺に……?」

「そう、涼くんに!」

 

 黒い表紙のメッセージブック。よく見れば英語の筆記体で"Ryo Nagisa"と書かれている。

 ポタッ。そこに一滴の雫が落ちた。

 

「りょうくん?」

「ありがとう……ありがとう、ありがとう! 一生の宝物にするよ!」

 

 嬉しい。今日は色々と酷い目にあったけど、そんなこと忘れてしまおう。嬉しい。これで人の頭を叩いていたような気がするけど、そんなことは忘れよう。

 俺は、いい友達を持ったんだな。

 

 

 *

 

 

 静岡の沼津へと向かう車の中。俺はそこで初めてメッセージブックを開いてみた。

 

「……」

 

 真ん中にドンと写真が一枚。左半分には新品の制服を着た俺の姿。上空には満開の桜。一目で入学式の写真だとわかった。

 しかし、本来右側にあるはずの入学式と書かれた看板はない。代わりに雑なコラージュ。

 赤紫色の髪。音ノ木坂学院の制服。物静かな雰囲気の女の子の写真が隣に貼り付けられていた。しかもご丁寧に、俺と彼女をハートマークで囲んでいる。

 パタン。

 ——向こうではもっとマトモな友達を作ろう。俺は心に固く誓った。




転校なんて噫無情
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