俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第12話

「ええ! 嘘⁉︎」

「本当に⁉︎」

 

 驚く千歌と曜。いや、俺も驚いている。

 

「ええ」

 

 そして俺ら三人と向かい合うようにして立っている女の子、梨子。

 紹介してやろう。桜内梨子。この内浦、いや静岡、いや日本、世界で一番可愛いと言っても過言ではない美少女(凪沙研究所の報告より)。作曲できるほどピアノが上手で、趣味は絵画・手芸・料理など。嫁にぴったり。

 スリーサイズは……ナイショ。これは俺だけが知っていればいいよな、うん。梨子は俺の嫁だ!(といつか言いたいけどそんな日は来ないんじゃないんだろうか)

 んで、その完璧美少女(凪沙基準)の女の子がなんと俺たちスクールアイドル部(仮)に協力してくれるという。

 

「ありがとう……ありがとう!」

 

 感極まった千歌が、いつか俺にノリでした時みたいに梨子に飛びついた。あ、梨子に抱きつくなんて羨ま——

 くるっ。

 が、梨子は華麗にターンをすると千歌を躱した。さすが梨子、素晴らしい身のこなし。バレエもできちゃいそうだな。クォーターの方に指導を頼んでみようか?

 

「でも梨子、本当にいいのか?」

「うん」

 

 梨子が力強く頷いた。迷いはない、のか? でも急にどうしたんだろう。つい先週までは作曲なんてしないと言っていたのに。

 

「でも良かったね! これでウチのスクールアイドル部は四人。創部に必要な部員はあと一人だよ!」

「え? 待って。勘違いしてない?」

「勘違い?」

「私は曲作りを手伝うと言ったのよ? スクールアイドルにはならないの」

「……え? ならないの?」

 

 千歌がぽかんとする。まあ、そうだよな。確かに梨子がスクールアイドルをやらないなんてもったいない。せっかくこんなに可愛いのに……。梨子がアイドルをやったらみんなメロメロ、間違いない。既に一人の男子がズッキューンされているからな!

 あ、もしかして誰かと付き合いたいからやらないとか⁉︎ スクールアイドルは恋愛禁止といった、そういう決まりはないけど、真面目な梨子ならそういうことを考えている可能性も……あ、相手は誰だ⁉︎ 俺が一発殴ってやる! ま、まさか女……?

 まあ真面目に考えるとアレが原因なのだろう。あの出来事が。

 

「どうしてもダメ?」

 

 千歌が梨子に聞くと、梨子は頷く。

 

「ピアノも頑張らなくちゃだし、そこまでやる時間はない……かな?」

 

 梨子が俺を見た。一瞬で、すぐ目を逸らしてしまったけど。え? 何? 何だろう。ああ、幼馴染の涼君なら昔からピアノをやっていたことを知ってるんだから、わかるよね? みたいな意味か。

 

「まあ、()()()()無理は言えないよ」

 

 曜の言う通りだ。さすがに強制でアイドルをやらせるわけにはいかない。

 と、曜が俺を見てきた。な、何? 曜まで。最近は一言喋った後に男子を見るのが流行なの? んなわけあるか。

 

「そうだよねー。()()()には、できないよね」

 

 曜の意見に同意する千歌。うん、俺もそう思う。俺たちにはできないよな、強制なんて。

 ……って、どうして千歌まで俺を見てくるんだ。しかも梨子の時とは違って、何かの期待が込められた目で。なぜ千歌と曜に俺はこんな見られなきゃならない。どうせなら梨子の熱い視線が欲しい。

 あ、そうか。これはあれだな、お前も空気読んで同じことを言えってことだ。そうだ、そうに違いない。というかそれくらいしか思いつかない。

 

「そうだな、まあ梨子は自分のやりたいことを頑張ればいいんじゃないか?」

 

 ——⁉︎ な、なんだ? 今、左右から冷たい視線を向けられたような。き、気のせい……?

 

「あ、そうだ。千歌、梨子に詞を渡してやれよ」

 

 ついに作曲担当を掴まえたんだ。早いとこ作ってもらわないとね。そのためには歌詞を渡さないと。そっちの方が梨子も作曲しやすいだろうし。

 しかし俺の予想とは裏腹に、千歌は首を傾けた。

 

「……"し"?」

 

 

 *

 

 

「まさか歌詞も作っていなかったなんて……」

「いや〜、それほどでも〜」

「褒めてないからね⁉︎」

 

 放課後。場所は変わって千歌の家、十千万前。千歌が歌詞をまだ書いていないということで、みんなで千歌の家に行くことになったのだ。

 まあ、歌詞を作るってのは大変な仕事だからな。助けないと駄目だろう。

 

「ここなら時間を気にせず歌詞を考えられるね」

「あれ? ここって旅館じゃ……?」

 

 俺の左隣にいる梨子が不思議そうに首を傾げる。あ、知らないのか。

 

「実はこの旅館、千歌の家なんだよ」

「へえ。そうだったんだ」

「志満ねぇ、ただいまー!」

「いらっしゃい。あら、曜ちゃん。相変わらず可愛いわね!」

「えへへ」

 

 志満さんが曜の頭を撫でる。おお、この自然なスキンシップ。是非とも見習わなければ。早速脳内で練習をしよう。相手? もちろん梨子に決まってるだろ。

 何回もシミュレーションをしていると、梨子がこっちの方を向いているのに気付いた。

 

「梨子? どうかした?」

「えっと……な、なんでもないわ」

 

 若干嫌そうな目をした梨子は俺の方から目を背ける。……あれ? やっぱり俺って嫌われてるの?

 

「あら? そちらはもしかして、涼くんの幼馴染の」

「そうだよ。梨子ちゃん、志満ねぇちゃんだよ」

「あ、はい。桜内梨子です」

 

 梨子が丁寧にお辞儀をする。なんかこれ、あれだね。立ち位置的に俺が家に彼女を連れてきましたみたいなシチュじゃない? ほら、母親役の志満さんに俺が彼女の梨子を紹介しに来た、みたいな? 違うか? 違うな、うん。紹介してるの、千歌だし。

 

「よろしく〜。梨子ちゃん、美人さんね〜」

「でしょ! いかにも東京から来たって感じだよね!」

 

 いやいや。確かに梨子は世界三大美少女の一人だけど、東京に住む人はみんな美人とは限らないんだぞ。海未先輩……は美人か。ことり先輩……も美人だな。穂乃果先輩……も美人だ。あ、あれ? 美人しかいない?

 

「本当に。涼くんもこんな幼馴染がいるなんて、良いわね〜」

「それは、まあ」

 

 しかしこんな幼馴染がいるから恋の病にかかったりしてるんだけども。いや、嬉しいけどね? こんな可愛い子の幼馴染になるようにこの世に生を与えてくれた神には感謝してる。うん、本当に改宗しようかな。今こそしなくちゃ。ちな、現在俺はカードが告げる会の信者です。

 

「よかったな、梨子。褒められてるぞ……梨子?」

 

 梨子がはっきりと嫌悪を示した顔で俺の方を見てくる。え、え、え? ちょ、涼君怖い。梨子さんが怖いです。

 でもその目で見られてると、なんだか背筋がゾクゾクしてくる。なんだろう、この感覚は。アブナイ香り。

 

「り、梨子? どうしたんだ?」

「涼君……あれ、何?」

 

 恐る恐る梨子が指差したもの。振り向いて確認してみると、犬小屋があった。その前にはブサカワ犬。

 ああ、そういえば。梨子は犬が苦手だったっけ? 理由は知らないけど、長らく犬と遭遇することがなかったからすっかり忘れていた。

 

「あれはしいたけ。千歌ん家が飼ってる犬だよ」

「そ、そう」

 

 梨子が俺に近づくと、しいたけから身を隠す。俺の腕にしがみついてくるのだが、その、当たってます。な、なんて魅力的な身体になったんでしょー。劇的。小さい頃は梨子にしがみつかれてもこんな感触はしなかった。

 でも犬に怯える梨子を見ていると、守ってあげなきゃって感じるんだ。そう、当時小学生の俺は好奇心で犬に近づいた梨子(まだ嫌いじゃなかったらしい)を襲おうとした大型犬(周りにいた人は皆、じゃれようとしてただけと言うが俺は今でも自信を持って襲っていたと言えるね)に落ちていた木の棒で立ち向かったことがある。結果? 噛まれて怪我を負いましたが何か? 医者の愛娘、お嬢に数週間看病してもらったのを覚えている。

 しかしあの看病(笑)は酷かった。怪我したところを躊躇なく触るわ、見舞い品を勝手に食べだすわ。……まあ、俺がお嬢じゃなくて梨子の看病がいいとか口走ったからなんだけどね。自業自得、乙。

 まあそれはおいといて。しいたけよ。ブサカワと言っても梨子から見ればアウトだってさ。ザマァ。

 でも……さっきからしいたけがハァハァ言いながらこっちを見てる。なんだ、梨子に恋でもしてんのか? しいたけのくせに、生意気な。……端から見たら俺ってこんな感じなのか? 違うと願いたい。

 けど、犬まで虜にしてしまうとは。やはり梨子は世界で一番可愛い、間違いない。

 

「ワンッ!」

 

 しいたけが吠えた。同時に俺の腕が震える。いや、震えたのは俺の腕にしがみついている梨子だけど。

 

「ひいっ!」

 

 梨子は小さく悲鳴をあげると、既に先に中に入っていった千歌たちを追いかけて全力ダッシュ。俺の腕を抱いたまま。俺は地を引き摺られる。

 

「ちょ、梨子! は、離してくれえ!」

 

 

 *

 

 

「もう、酷すぎるよ! せっかく志満ねぇが東京で買ってきてくれた限定プリンだったのに!」

 

 千歌の部屋に移って。キャスター付きの椅子に座った千歌が大きいエビの人形を抱きながら文句を垂れる。

 

「ははは……」

 

 苦笑いをする曜。青い新品らしきスマホを片手に、ベッドの上に座っている。

 しかし千歌も曜も、警戒心が足りない。この部屋には男子がいるのだ。その中が見えそうでギリ見えないスカートをどうにかしてくれ。梨子を見習ったらどうだ、正座だぞ正座。見ようとしても見れない。

 その梨子の隣に座る俺。ただいま、背中を梨子にさすってもらっている。いや、梨子が勝手にさすってる。俺得だけど。

 

「さっきはごめんね……?」

 

 しいたけから梨子が逃げる際、巻き添いを食らった俺。引き摺られたために背中を痛めました。でも梨子に撫でてもらったからもう痛くないよ。梨子はヒーリング魔法が使えるらしい。ただし、対俺限定。

 

「や、大丈夫。気にしないで。それよりもさ、早いとこ作詞を……あ、ごめん。電話だ」

 

 ポケットに手を突っ込んで震えるスマホを取り出す。かけてきた相手は編集さん。ああ、嫌な予感がする。

 襖を開けて部屋の外に出て、廊下に向かう。途中、美渡さんとすれ違った。浮き輪を持ってたけど、どうしたんだろう。

 

「まあ、気にする必要もないか」

 

 通話ボタンを押して、電話に出る。

 

「もしもし」

『あ、涼君? 今、話しても大丈夫かな?』

「はい、大丈夫ですよ」

『そう。実はね、今度先生の新作が発売されるんです』

 

 ああ、やっぱり。めんどくさいなぁ、本当。

 

「いつも通りですか」

『はい。お願いします』

「わかりました。タイトルと価格だけメールで送っておいてください」

『ありがとね、涼君』

 

 通話終了。はぁ、めんどくせー。どうせまた、最近流行りのやれやれ系主人公だろ? やれやれだぜ。()

 我が母には変な習慣がある。それは新作小説を出すたびにその感想を俺に求める、というもの。そんなの、誰か他の知人に頼めよと思うのだが、無視すると編集さんが八つ当たりを受けるというのが過去の経験上知られている。母さん、そのうち何かのハラスメントで訴えられるんじゃないだろうか。

 

「さて、もど——」

「やばいやばいやばい!」

 

 部屋に戻ろうとした瞬間、美渡さんが駆け抜けていった。やばいを連呼していた。なんだかやばそう(小並感)。

 急いで部屋に戻ってみる。襖を開けようとしたところで、手を止める。もし着替え中だったらどうしよう。

 

「よし、脳内シャッター準備完了。開けるぞ」

 

 違うだろ、と心の中でツッコミを入れながら襖を開けた。俺の目に入ったのは——

 

「……梨子?」

 

 なぜか頭から浮き輪を被った梨子。あれ、梨子ってこんな変なことをする不思議ちゃんだったかな? 俺の記憶の中のパーフェクト美少女、梨子ちゃんと違う。てかあの浮き輪、さっき美渡さんが持ってたやつじゃん。……美渡さん。やらかしましたね?

 梨子は千歌と曜をベッドの隅に追い込み、なぜかは知らないが威圧している。確かにこれはやばい。梨子が怒ってる。怒った梨子は怖い。これは一般教養ですわ。

 と、ベッドの上で怯えている曜と目が合った。すると曜は、スマホの画面の明かりを点滅させた。あっ、もしかしてモールス信号? そういえば以前、千歌が曜の父親がフェリーの船長をしてると言ってたな。さすが、船長の娘さんだ。……俺はモールス信号なんて知らんけど。

 でも言いたいことはわかる。ヘルプを求めているのだろう。仕方ない、ここは秘技を使おう。

 この秘技は梨子の怒りを鎮めるのに有効。これは俺の長年の経験から会得した技。自己保身のための大切な技だったのだ。

 

「梨子」

「……何」

 

 振り向いた梨子。ああ、怒りの形相ですね。目をギラつかせているんだ。あと声が低くなる。でもそんな梨子も可愛らしいと思ってしまう俺は、もう重度の病にかかっているのかもしれない。

 まあ、可愛くても実害ゼロってわけではない。さて、怒りを鎮めましょ。

 

「そんな顔するなよ、梨子。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」

 

 ボン。たぶんそんな音がしたな、梨子の頭で。

 真っ赤になった梨子は壁際まで後ずさりしてそのままペタンと女の子座り。

 

「かかか、可愛い⁉︎ 私が⁉︎ か、かかか⁉︎」

 

 そのうち頭がショートしたらしく、上の空に。

 可愛い。梨子はこの言葉に弱い。たぶん、自分が地味だと思っているからだろう。ただしこの言葉、連呼は注意が必要。あまり言いすぎると『涼君のバカッ!』っといった具合に手が飛んでくることもあるからな。

 さて、これにて一件落着だな。

 俺は千歌と曜のいるベッドの方へ振り向く。

 

「どうだ? これが幼馴染の俺が得た、梨子を落ち着かせる技。二人も今後使ってみたら?」

「「……はぁ……」」

 

 盛大な溜息を吐かれた。なぜだし。






改宗しますね? 神様!
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