俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第13話

「うーん……書けないよぉ〜」

 

 復活した梨子も合わせて四人でテーブルを囲み、現在作詞の真っ最中。ところが、千歌がある一点に関して妥協をしない。

 

『恋の歌を作りたい!』

 

 だそうだ。スノハレみたいな曲が作りたいんだと。難易度高いな。詳しい過程は知らないけど、μ'sが四苦八苦していたような。

 現に千歌は今、全く筆が進んでいない。

 俺らもとにかく思いついたアイディアを紙に書きつけてみるけれども、なかなか良いものは思いつかない。というか俺が書こうとすると、だいたいμ'sの歌詞と似たようなものばっかりになってしまう。使えないな、俺。

 床一面に広がった、没案たち。作業開始からだいぶ時間が経ったが、まだ全然進んでいない。

 やがて、梨子が痺れを切らす。

 

「やっぱり、恋の歌は無理なんじゃない?」

「いーやーだ。μ'sのスノハレみたいな曲を作るの」

「そんなこと言っても……恋愛したこと、ないんでしょ?」

「どうして決めつけるの?」

 

 千歌の問いに対し、梨子は少し得意げに聞き返す。

 

「あるの?」

「ないけど……じゃあ、そういう梨子ちゃんはあるの?」

 

 千歌から飛び出した質問。それに俺の耳が耳聡く反応する。浦の星に転入してきた際に、梨子にはぐらかされた質問だ。

 

「私? 私は……って、なんで言わないといけないの!」

 

 梨子が顔を真っ赤に染め上げる。トマトみたい。梨子ピンが多く含まれてそうだな。……はっ! だから梨子の肌は白くて綺麗なのか! 納得。

 それはさておき、そんな梨子の態度に食いついたのは曜。やっぱり彼女か。バスの中でも色々と人の色恋沙汰に興味を示してたし。

 面白いオモチャを見つけたかのような、そんなウキウキ顔で曜が梨子に詰め寄る。

 

「おやおや〜? その反応は誰か好きな人がいる人の反応じゃない?」

「えっ、そうなの⁉︎ 梨子ちゃん、好きな子がいるの⁉︎」

「い、いませんっ!」

「またまた〜。もしかして涼君とか?」

 

 ちょっと、曜さん? 質問がアレすぎませんかね? 梨子の答えによっては俺、飛び降りますよ?

 って、曜は俺が千歌のことが好きだと思ってるんだっけ。はぁ、厄介なことになってしまったもんだ。

 

「涼君⁉︎ ち、違います!」

 

 ぐさり。

 

「え〜? そうなの?」

「そうです! りょりょ、涼君とはただの幼馴染なんですっ!」

 

 ぐさっ。ぐさり。

 梨子が一言発するごとに、俺の心が抉られていく。やめて! 涼のライフはもうゼロよ!

 

「ふぅん。まあ、いいや。……あ、そうだ!」

 

 何かをひらめいた曜。今度は机の向かいに座る俺を見てくる。あ、嫌な予感。

 

「ねえねえ、涼君は恋してるよね?」

「あ、そうだよ! ねえ、どんな気持ち?」

「えっ、そうなの?」

 

 三人の視線が俺に集まってくる。好奇心に満ちた視線が二つ、戸惑っている視線が一つ。そういえば以前、梨子に好きな人はいないと言った気がする。

 

「気持ちって……べ、別に好きな人なんか」

「本当に〜?」

 

 ニヤニヤしながら曜が立ち上がり、俺と梨子の間に割り込んでくる。おかげで俺は千歌の方へと押し寄せられる。……だからさぁ……。

 しかも。もともと俺らは小さい円形のテーブルに均等に座っていたわけだが、そこに曜が無理やり入ってきたのだ。非常に窮屈。

 

「りょー君の好きな人は〜」

「ち、千歌! 面倒なことになるから何も喋るな!」

「喋るな⁉︎ ひどっ⁉︎」

 

 いや、仕方ないんだ。だって千歌と曜とで考えている俺の好きな人が違うのだ。ややこしいことこの上ない。

 

「涼君って……す、好きな人、いるの?」

 

 曜の奥から梨子が問いかけてくる。ああ、そうだった。梨子の中では俺には好きな人はいないんだった。頭が痛くなってくる。

 

「えっとだな、梨子。それはこの二人が勝手に言ってるだけで……」

「うっそだー。涼君、いつも見てるじゃん!」

「そうだよ!」

「見てない! というかなんで俺らはこんな話してるのさ! 作詞だろ、作詞!」

 

 だってー、と言いながら千歌がシャーペンで紙をつつく。よし、まず千歌はドロップアウトだな。たぶん。

 

「ねえ、涼君。本当に好きな人はいないの?」

「いないって。信じてくれよ、梨子」

「騙されちゃダメだよ、梨子ちゃん」

「曜、君は少し口を閉じていてくれ。千歌を見習え、千歌を」

 

 曜を注意する。この子がいるせいで梨子にいらぬ誤解を与えてしまうではないか。それは本当に困る。

 しかし曜さん、黙らない。

 俺の耳に口を近づけると、梨子や千歌には聞こえない程度の小声で囁いてくる。

 

「ほら、今も千歌ちゃんの名前だしたでしょ」

「そ、それはたまたまだって!」

「本当かなぁ? それに聞いたよ。この間、外で寝ちゃった千歌ちゃんにタオルをかけてあげたんでしょ? 優しいな、涼君は」

「ふ、普通だろ!」

 

 それくらい、誰だってやることだろうに。

 というか、物理的にも精神的にもくすぐったい。曜が囁くので耳がこそばゆいし、こういうふうに優しいとか言われちゃうと単純な涼君、心がくすぐったいんですよ。しかも、美少女だし。まあ、梨子には劣るけど(私観)。

 でもこのまま放置しておくわけにもいかないだろう。誤解は早いうちに解いておかないと。

 

「あのな、曜。お前には話がある。今日、帰る前に少し時間をくれ」

「おやおや? もしかして告白ですか〜?」

「違うよ!」

「だよね。だって千歌ちゃんのことが」

「だから違うって!」

 

 もう、この子やだ。誰か止めてくれ。

 とりあえず曜を梨子の方へと押しやると、俺は千歌の肩を叩く。

 

「千歌、さっき曜がいた位置まで移動してくれ。狭い。……千歌?」

「うう……もう書けないよー」

 

 千歌は机にべったりと寝そべり、動かない。いや、ちょっと。

 

「動いてくれよ、千歌。しかももうって。まだ何も書いてないじゃん」

「心の綺麗な人にしか読めないのー」

「……いいから動いてくれ」

 

 無理やり千歌の体を押し、俺は曜と千歌の中間ポイント、すなわち梨子の対面に座る。あ、なかなかいい席じゃないか? 梨子の可愛い顔がよく見える。

 が。当の梨子の顔は暗い。

 

「梨子? どうかしたのか?」

「えっ? ううん、何でもないよ。ただ……」

「ただ?」

「何だか三人とも、仲が良いんだなって。幼馴染みたい」

 

 何をいきなり。そりゃ千歌と曜は幼馴染だけれども、俺の幼馴染は梨子なのだ。

 

「まあ、一緒にスクールアイドル部として活動してるからね。だから仲良くなったんじゃないかな、自然と」

 

 ぐったりしている千歌をさすりながら、曜が言った。そうだな、俺もそう思う。まあ、一方的に俺がからかわれてるだけなんだけど。それに日々耐える俺。……大丈夫かな、変な属性がついたりしないといいんだけど。

 

「それじゃあ……もし私がスクールアイドル部に入ったら、同じように仲良くなれるのかな?」

 

 梨子がそう言った瞬間、千歌が飛び起きた。

 

「え! もしかして入ってくれるの!」

「い、いえ! そうじゃないけど……」

「なぁんだ、残念」

 

 千歌は今度はパソコンを取り出した。忙しい奴だな。

 と、隣からチョンチョンとつつかれる。またしても曜。そしてニヤニヤ。

 

「また見てるよ」

「い、いや! これくらい見るだろ!」

「どうかな……あ、梨子ちゃん。さっきの質問だけど、大丈夫だと思う。余程のことがない限り」

「余程のこと? 例えば?」

「なんだろうね」

 

 いや、曜。言った張本人じゃないか。具体例くらい考えておけよ。

 そして梨子と曜は、余程のことについて考え始めてしまう。いやいや。作詞しましょうよ、作詞。

 仕方ないので千歌に話しかける。また曜に何か言われそうだけど。

 

「千歌、何調べてるの? 言葉?」

「ほぇ? ううん、違うよ。μ'sの誰かが、スノハレを作った時に恋してたのかなー、って思って調べてたんだ」

 

 ほら、と言って見せてくれたのは掲示板。いや、そんなμ'sのプライベートに関わるようなことがネットに書いてあるかなぁ……。

 

「というか、そんなこと調べてる暇があったら早く歌詞を考えてた方がいいんじゃないのか?」

「だって気になるんだもん! 気になることは調べるものでしょ!」

 

 それはそうだけどさ。好きなものは気になる。当然だ。俺だって梨子のスリーサイズが知りたかったから、ちょっとそういった目測が得意な先輩に頼んだりしたもん。……そこ、変態とか言うな。

 

「どんだけスクールアイドルが好きなんだよ……」

「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからね〜」

 

 俺のぼやきに反応したのは曜。やっぱり人が千歌と話していると絡んでくるのな。何? 俺のことが好きなわけ? ……違うか。

 

「ちょっと待って」

 

 さらに梨子まで会話に入ってくる。

 

「今、スクールアイドルに恋してるって言った?」

「そうだけど……あっ! それだ!」

「曜ちゃん?」

「千歌ちゃん! スクールアイドルは好きなんだよね? その気持ちなら、書けるんじゃないかな?」

「書ける……うん、それなら書けるよ!」

 

 千歌が勢い良くペンを走らせる。すごいな。好きという気持ちがここまで原動力となるなんて。あれ、誰かに似てる?

 

「はい、これ!」

 

 数十秒後、千歌が一枚の紙をテーブルの中央に提出した。それは歌詞。ただ、以前聴いたことがある歌の歌詞だった。

 

「ユメノトビラ? μ'sの?」

「そう! 私、この歌を聞いてμ'sみたいになりたいって思ったんだ!」

 

 ユメノトビラ。μ'sが第二回ラブライブ!地区予選で歌った曲。UTX学院屋上で歌った彼女たちの映像を、ライブで見た記憶がある。

 そうだ、思い出した。あの歌を聞いて、明日は梨子に告白しようと思ったんだっけ。結局しなかったけど。おかげで俺は一部の人からヘタレ扱いされるようになったんだが。

 

「あー! もうこんな時間だ!」

 

 曜が立ち上がった。時計を見ると、なるほど。曜が乗るバスの最終便の時間だな。

 曜が荷物を持ち、障子を開けて部屋の外へ出る。って、そうだ! 誤解を解くんだよ!

 

「じゃね、また明日!」

「あ、待ってよ!」

 

 俺は曜を追いかける。

 曜はよほど急いでいたらしく、追いついたのはバス停だった。バスはまだ来ていない。時刻表と現在時刻を照らし合わせてみると、あと三分といったところか。

 俺が来たことに気付いた曜は、ペロリと舌を出した。少しイラっときた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ。曜、後で話があるって言ったじゃん」

「ああ、ごめん。忘れてた」

「……はぁ、まあいいよ。それで、話なんだけど」

「千歌ちゃんに告白したいから手伝ってほしいとか?」

「いや、違う」

「じゃあ、あれだ。ダイビングのコツを教えてほしい、とか」

「違う。少しは人の話をだな」

「あ、バス来た!」

「おいっ!」

 

 曜が俺に背を向け、バスに向かって手を振り始める。あのな。てかバス。予定より少し早いぞ。なんでだよ。

 バスが到着し、ドアが開く。曜は俺から逃げるかのように、一目散に乗り込んだ。俺もバスの中に顔だけ突っ込む。車内を見渡し、ガラガラなのを確認すると迷惑承知でバスの扉を手で押さえる。どうせ少し早めの到着をしたんだ。少しくらい構わないはず。

 

「曜! どうして聞いてくれないんだよ!」

 

 バス車内の一番奥の席に腰を下ろした曜。ついに観念したのか、俺と目を合わせる。と、歌を口ずさんだ。

 

「——」

「……ユメノトビラ」

「ピンポーン!」

 

 それはμ'sのあの曲の冒頭部分。でも、なぜそれを?

 

「いい歌だよね、これ」

「ああ、そうだな」

「特にね、最初とサビのところが好きなんだ。出会いの意味を〜って、ね」

 

 俺もユメノトビラは好きだ。というか、μ'sの曲はなんでも好きなんだが。

 しかしそれが一体なんだというのだ。今、俺のしようとしている話に関係があるとでも? そんなわけ。そもそも、曜が俺の話したいことがわかってるわけがない。

 

「……あ、涼君!」

 

 曜がバス車内の前の方を指差した。運転席だ。そこに座る女性運転手が、こめかみに血管を浮かべた顔で俺を見ている。あ、えっと……。

 

「す、すみませんでしたー!」

 

 バスから飛び降りる。瞬間、背後でバスの扉がしまった。

 

「涼君!」

 

 動き始めるバス、その後方。俺の目の前を通り過ぎる瞬間、窓を開けた曜が俺に向けて敬礼した。

 

「その話はまた今度ね!」

「忘れるなよ!」

 

 結局、歌ったのは時間つぶしってわけか。そこまでして俺の話が聞きたくないとか。本当、何がしたいんだろうな、曜は。俺にはいまいちわからない。

 

「よくわからない奴」

 

 やっぱりあいつは、つかみどころのない奴だ。







バスノトビラ
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