俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第15話

 ——ピピピピピピピピピピ!

 

「……うーん……うるさいなぁ……」

 

 俺は目覚まし時計を無視して寝返りを打つ。昨日は少し訳ありで寝るのが遅くなってしまったため、もう絶賛寝不足中。頼むからもう少し寝かせてくれよ……。時計さん、どうか少しだけ動きを止めてくれ。

 やがて時計が鳴り止む。もう何回めになるのかわからない目覚ましのスムーズを無視し終えた俺は、再び眠りに……。

 

「涼君、起きて?」

 

 はて。今誰かの声が聞こえたような。それも耳元で。

 

「もう、涼君ったら。今日は朝から砂浜でダンスレッスンする予定でしょ? 千歌ちゃんたちもみんな待ってるよ?」

 

 甲子園のウグイス嬢もこなせるのではないかという美声が囁かれる。ああ、これは俺の好きな人の声だ。

 

「って梨子⁉︎ なんでここに⁉︎」

 

 慌てて布団から跳ね起きると、隣に座布団を敷いて正座をしている梨子がいた。薄い桃色の半袖パーカーに、水色のパンツ。練習着だ。朝から梨子に起こしてもらえるとか、俺は幸せものだな。幸福度が限界突破している。ただ、誰かが言ってたな。幸せと不幸は振り子だとかなんとか。うろ覚えだけど。なんだか部屋を出た瞬間に超不幸なことが起こるんじゃないかと心配になってきた。

 よし、今日はサボろう。

 

「ちゃんと一昨日に知らせたよね? 振り付けが完成したから、休み明けは朝早くその練習をするって」

「そうだけど……俺がいないと何か問題でも?」

「ないけど……」

「じゃあいいじゃん。今日は眠いんだ、寝かせてくれ」

「……むぅ」

 

 膨れっ面の梨子を無視して俺は布団に潜り込む。

 しばらく目を閉じていたが、さっきから視線を感じる。……ああ、もう。

 

「わかったわかった。行くよ」

「本当! ありがとう!」

「じゃあ支度するから部屋から出てくれ」

「うん!」

 

 梨子が出たのを確認したあと、パパッとその辺にあった服に着替えて、部屋を出る。

 

「お待たせ」

 

 外で待っていた梨子に軽く手を振ると、彼女は怪訝な表情を浮かべた。

 

「リストバンドは?」

「えっ? ああ」

 

 そうそう、なぜか俺ら四人でお揃いのリストバンドをつけることになったのだ。まあ、梨子とお揃いっていうのは悪くない。千歌と曜もつけているのはよぶ……いや、彼女たちのおかげでお揃いのリストバンドをつけることになったのだ、我慢我慢。

 曜といえば。俺は未だに曜の誤解を解くことができていない。仕方ないんだよな、これが。なぜか曜は俺と二人きりになるのを避けるのだ。そんな襲ったりなんかしないのにね。

 

「あったあった。これだ」

 

 水色と青と白の三色のリストバンド。海っぽい感じがしてなかなかいい感じだ。

 

「お待たせ」

「じゃあ行こっか」

「ところで梨子。どうして梨子が起こしに来たんだ?」

「えっ……私じゃダメだった、かな?」

「あ、いや。そういうわけじゃないんだけどさ。ほら、十千万って千歌の家だろ? だから千歌が来るもんだと思ってたけど」

 

 曜もそれを推しそうだし。まあ、梨子は俺の幼馴染だからな。梨子が起こしにくるのも普通か。

 

「千歌ちゃん……確かにそうかもね。別に特に理由はないけど……」

「そうなのか」

 

 まあ、気にすることでもないか。棚からぼたもち的な感じに思っとけばいいよな。空から梨子がふってきた、みたいな?

 なんとなく梨子の胸元に目をやる。石は見当たらない。当たり前か。

 それにしてもパーカーの下の膨らみに目がいってしまう。うーん、梨子もそこまで小さい方じゃないはずなんだけどな。

 

「な、何……?」

「あ、いや。何でもない」

 

 梨子が少し身を引く。これは、うん。すみませんでした。女子がそういう視線に敏感というのは事実らしい。

 千歌の家の旅館、十千万を出て少し歩いた先の浜辺。その砂浜では二人の女子が体をストレッチでほぐしていた。

 俺と梨子がそばまで歩いて行くと、千歌が振り向いた。片仮名のチがプリントされたTシャツ。ださ……よく性格が表れてると思う、うん。穂乃果先輩と同じセンスを持っているようだ。これは将来、人気スクールアイドルになれるのかも。

 

「りょー君寝坊だよ!」

「ごめん。ちょっと昨日は遅くて」

「遅刻かぁ」

 

 すると曜も振り向いた。曜は上下ともに青系の色の服。あと、YOUのロゴ入りキャップ。あれはもともと付いていたのか、自分で付けたのか。どちらにせよ、センスのかけらも……いや、かっこいいんじゃない?

 その曜が悪戯っ子のような笑みを浮かべて。

 

「罰ゲームが必要だね」

「ば……はい?」

「おお! いいね、お寝坊さんには罰ゲームだ!」

「いやいやいや。ちょっと待って、それはさすがに」

「梨子ちゃんもいいよね?」

「ええ。涼君にはちょっとお灸を据えた方が良いと思うの」

「梨子まで⁉︎」

 

 なんだ、俺の周りには敵しかいないのか。四面楚歌、絶体絶命。てか梨子。もしかしてさっきのをまだ根に持ってるの?

 

「それで、どんな罰ゲームにするつもりなの?」

 

 梨子が興味津々に尋ねる。梨子……。そんなに俺に罰を課せるのが嬉しいのか……。

 

「うんとね、私たちって今四人でしょ? だからストレッチを二人組でやろうかなって思ってるんだけど、そのペアを涼君が選んで!」

「……はい?」

 

 それ、ただ普通に梨子を選択するだけ……あ。

 俺は今砂浜にいるメンツを見渡す。まず梨子。俺が梨子の方を見た瞬間、目を逸らした。うん、梨子を選ぶのはまずいかもしれない。ストレッチは体の接触が多い。さっきのあれがあった後に梨子を選んだりしたら、それこそ誤解されかねない。

 次に千歌。俺は梨子を選ぶと彼女の中で決定しているのか、それとも単に興味が一切ないのか。砂浜に木の棒でお絵描きなんかして遊んでらっしゃる。小学生か。

 最後に曜。ニヤニヤしながら俺を見ている。……そうだな、そうだった。曜はまだ誤解をしているんだった。

 ここで俺が梨子を選んだとしよう。きっと曜が何か余計なことを言い出すに違いない。『えっ、涼君って千歌ちゃんのことが好きなんでしょ? なんで千歌ちゃん選ばないの?』みたいな。

 困るな、そういうのは。

 ということで今回は、非常に残念だが、今回だけは梨子は選ばない。色々と選びづらい要因が重なってしまった結果だ。

 残るは曜と千歌。まあ、どちらを選ぶのかは決まってる。

 

「じゃあ、曜とやるよ」

 

 曜だ。この機会に誤解を解いておこうという作戦。ふっ、さすが俺。冴えてるぜ!

 

「了解、じゃあ涼君は私と……ええええええ⁉︎」

 

 曜が驚き、数歩後ろに下がる。曜だけじゃない。千歌まで砂の上ですっ転んでいる。ただ、梨子だけはそっぽを向いたまま。……どうでもいいんだな……。

 

「なんで⁉︎」

「そうだよ、りょー君! どうして梨子ちゃんじゃないの⁉︎」

 

 しくった……。そうか、梨子を選んだら曜がなぜ千歌を選ばないのかと疑問に思うのと同様に、梨子を選ばなかったら千歌が不思議に思うじゃないか! なぜ気付かなかった、俺……。

 

「いいんじゃないかな、それで」

「梨子……?」

「私も千歌ちゃんたちと仲良くなりたいし、幼馴染だからって理由で組むよりはいいんじゃない?」

 

 なるほど……それは良い言い訳だ。でも、梨子の口からそれが出たことに少し胸が痛む。それってつまり、梨子は俺を幼馴染としか見てないってことだよな……。

 発言をした梨子を見てみる。梨子はまっすぐ千歌を見つめていた。……これは、まさか。あの噂は本当だったのか?

 

「ま、まあ。それもそうだね。よし、言い出した私が嫌だなんて言えないよ! じゃあ、それでやろう、ヨーソロー!」

 

 

 *

 

 

「んで、どーして私なのー?」

 

 二人で背中をくっつけて、背中伸ばし。その最中に曜が質問をしてきた。

 

「どうしてって……少し話があるからな」

「話?」

「曜、知らないふりするな、よ!」

 

 曜の背中から下りると、今度は横並びになって手をつなぎ、脇を伸ばす。

 

「ああー、そういえばそんな約束したっけ?」

「そうだよ。まったく、忘れるなんてひどくないか?」

「涼君には、言われたくないけどね」

「どういう意味だよ、それ」

 

 俺はそこそこ記憶力はある、と思う。こう見えても俺は学力は高い方なのだ。猫っぽい人が得意げに教えてくれてたからな。きっと年下くらいしか勉強で得意になれる相手がいな……いや、何でもない。感謝してる、本当。

 

「それで、話ってなんなの?」

 

 今度は仰向けになり、足裏で相手の足裏を押し合う。うっ、曜って結構足の力が強いな。さすが水泳部。関係あるか知らんけど。

 

「前々から言おうと思ってたんだがな、俺は千歌のことは好きじゃない」

「……」

「曜?」

 

 向こうから何の反応も返ってこないので少し上体を起こして様子を確認する。曜はただボーッと空を見上げていた。

 

「曜、聞いてる?」

「え? あ、ごめん。なんだっけ?」

「だからだな、俺は別に千歌のことが好きなわけではないって話」

「ふーん」

 

 曜は興味なさげに返事をする。あれ、思ってた反応と違う。もっと驚くか、またまた〜、みたいなことを言うかと思ってたんだが。

 

「それで? わざわざそれを話すために私を選んだの?」

「え? ああ、まあ」

「……そっか」

 

 ストレッチを終え、曜が立ち上がる。

 

「残念だなぁ。ついに私にも春が来たのか、って思ったんだけど」

「それは残念だったな。まあ、曜ならいい人がすぐ見つかるでしょ」

「そうかな」

「そうだろ。だって可愛いし」

 

 まあ、梨子には劣るけどね。こう、ボーイッシュ? で親しみやすい感じだよね、曜は。梨子とはタイプが違うから一概には言えないけど、俺の超個人的な意見としては梨子の方が可愛い。

 

「何それ、ナンパかな?」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「冗談だよ」

「あ、うん」

 

 俺も曜も黙り込む。うん、確かに今の発言は少しチャラかったかも。今日は全体的に失態が目立つ。たぶん寝不足のせいだ。

 

「千歌ちゃんたちも終わったみたいだし、ダンス練習やろっか」

「そうだな」

 

 千歌と梨子は砂浜に座って、何かを話していた。

 そこに曜が駆けていく。

 

「千歌ちゃん、梨子ちゃん。そろそろ練習しよう!」

 

 そういえば、曜は俺が誰のことが好きなのか聞かなかったな。やっぱりただからかっていただけで、どうでも良かったんだろうな。

 

「さあ、練習をしよう!」

 

 空高くあがった右手首。お揃いのリストバンドが重なり合う。

 

 

 *

 

 

 スマートフォンのメトロノームに合わせてダンスの練習をする三人。俺はそれを砂浜に座りながら撮影。

 えっ、俺だけ楽してるって? そんなわけあるか。この作業、地味に、いやかなり大変なんだぞ。だって俺の手が勝手に梨子をズームしようとするのだ。それを抑えるには相当の集中力をもってしてだな……。

 

「はい、終了!」

 

 ダンスを終えた三人。俺は撮影を終了すると、さっそく画面をズームして梨子を眺める。適度な汗で湿った髪が、朝日を受けて艶かしく光っている。今日はまだ朝ごはんを食べてないからな、これでグ梨子ーゲンを摂取しよう。

 千歌と話している梨子が微笑んだ。ああ、天使みたいだな。そんな愛くるしい笑顔を見せられたら、惚れちゃうじゃん。あ、もう惚れ——

 

「何見てるの?」

 

 カチッ。脊椎反射でロックボタンを押す。いつの間にか俺の顔は、スマホを覗き込むように見ようとした曜の頭で日陰になっていた。いつのまに。梨子に夢中になりすぎてて、全然気付かなかった。

 

「いや。ちょっと動画の確認を」

「ふうん。あ、フォームの確認したいからそれ、貸してくれない?」

「いいけど」

 

 ロックを外して曜に貸し出す。走って梨子と千歌の元に向かう曜を歩いて追いかける。

 

「みんなだいぶよくなったね!」

「そうね」

「うーん、でもまだまだだよ。ほら、ここの蹴り上げがみんな弱い。ここの動きも」

「あ、本当だ」

 

 曜は高飛び込みをやっていたらしい。そのため、フォームには厳しいんだとか。

 

「ねえねえ、この画像ファイルって何かな? マル秘だって」

「さあ? 涼くーん。これ、開いてもいい?」

「勝手にしろー」

 

 それは秘蔵の梨子画像集。中学の頃から許可あり・なし含め、撮りまくった梨子の写真が収められている。中でもお気に入りは梨子の寝顔。あの少しにへら、と笑った普段の梨子からは想像できない顔がまう、たまらんのだ。どんな夢見てたんだろうな。

 しかしもちろん、ロックをかけている。四桁の数字のパスコードを入力しなければ開くことはないのだ。

 

「あー。ロックだ。四桁の数字だってー」

 

 ほらな。

 

「さ、開けられないんだからさっさと返——」

「たぶんそれ『9190』だと思う」

「ありがと、梨子ちゃん! 9、1、」

「ちょっと待ったあああ⁉︎」

 

 慌ててスマホを取り上げる。危ない。危なすぎる。

 

「なんで知ってるの⁉︎」

「だって……涼君、昔から四桁の数字といったらこればっかりだし……」

 

 ば、ばれてーら。ただ、梨子はこの数字の意味が理解できていないっぽいけど。

 

 ……バラバラバラバラバラバラ。

 

 その時、遠くの方からだんだんと大きくなる音が。これ、聞き覚えがあるな……。

 

「あ、ヘリ」

 

 空を見上げた曜が呟いた。同じように空を見上げると、あの趣味の悪いピンクのヘリコプター。やっぱり。

 

「何、あれ?」

「小原家のヘリじゃない?」

「そうだな。理事長だ」

 

 俺らのすぐそばまでやってきたヘリ。ハッチが開いて、中からあのシャイニーな人が顔を出した。

 

「チャオ!」

 

 何やら面倒なことになりそうだ。





らずべりぃこぷた〜
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