俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第19話

 みんな沼津駅からバスに乗るということで、揃って沼津駅前まで来た俺ら。しかしそこで、思わぬ人と遭遇してしまった。

 

「りょー君?」

「あ、いや……」

 

 大量のチラシを持った千歌。沼津駅前にて配っていた最中なようで。まずいですね、ええ。そういえばメール来てたな。

 千歌が近付くのと同時にルビィちゃんはマルちゃんの影に隠れる。……何か悪いことでもしてるの、あなた?

 

「用事は?」

「ちょっと買い物を」

「……ハーレムデート?」

「違うよ!」

「だよね」

 

 うんうん、と千歌が頷く。いや、わかってるなら最初からそう聞くな。俺は梨子のことが好きなんだよ。

 

「でも……チラシ配りをサボっておいて、何してたの?」

「それは……言えない、かな?」

 

 なんか本を買いに行ってました、なんて言ったら怒られそうな気がする。そんなの今日じゃなくてもいいでしょ、みたいな。なのでここは黙秘権を行使する!

 

「えっと、梨子ちゃん今どの辺りかなー」

「わ、わかった! 言うから! 言いますから!」

 

 やはり高海千歌は危険である。今絶対に俺が後輩二人とデートをしていたとかなんとか言おうとしてたよな? してたはず。

 

「それよりほら。この二人にもチラシを配ってあげたら?」

「……はぐらかすの?」

 

 千歌にジトッとした目で見られる。うっ。なんかここだけ異常に湿度が高そうだね。

 

「まあいいや。はい、今度ライブやるんだ。よろしく」

 

 千歌がマルちゃんに手作りのチラシを渡す。

 

「ライブやるんですか!」

 

 と、そのチラシに反応してルビィちゃんが飛び出した。よほど好きなようで、スクールアイドル。

 

「ルビィちゃん?」

「うぃ……」

 

 恥ずかしくなったのか、ルビィちゃんは再びマルちゃんの後ろに隠れてしまう。そんなルビィちゃんのそばに千歌がしゃがみ込み、ライブの勧誘をする。

 

「良かったら来てね。絶対満員にしたいんだ。じゃないと、りょー君が退学になっちゃうの」

 

 千歌の話を聞いて、マルちゃんが目を丸くして俺に聞いてきた。

 

「えっ、そうなんですか?」

「そうなんだよね、実は。理事長がさ」

「大変そうずら、あ、ですね」

 

 本当に。梨子と同じ学校に通えるか否かがかかっているのだ。失敗は許されない。

 

「じゃあ、りょー君。りょー君もチラシ配り手伝ってね?」

「わかってるよ」

 

 千歌からチラシを半数受け取ると、その辺を通りかかる人に配りに行こうとする……が。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 千歌と一緒に振り向く。ルビィちゃんがチラシと俺らを交互に見比べながら、

 

「グループ名は……グループ名は、何て言うんですか?」

「え……グループ名?」

 

 千歌と顔を見合わせる。そういえば、そんなものもあったよね……。

 

「き、決めてないな」

「そ、そうだね」

 

 手元のチラシを一枚、見てみる。ライブの日程、学校名、三人の可愛いイラスト。特に梨子なんて紙面から魅力が溢(ry。しかしどこをどう見ても、グループ名は書かれていない。当然か、決めてないもんな。

「千歌」

「うん」

「ご指摘どうも!」

 

 千歌と頷き合うと、ルビィちゃんにお礼を述べてからダッシュ。早いうちに梨子や曜と合流して、話し合わなくちゃならない。このままグループ名の書かれてないチラシを配りまくるのもどうかと思うしな。

 

「あ、曜ちゃん!」

「梨子!」

 

 二人と合流する。と、すぐさまにやけた曜から一言。

 

「どうして涼君は千歌ちゃんと一緒にいるのかな」

「なっ……そ、それは別に何でだっていいだろ! 曜には関係ない」

「あるよ」

 

 急に真面目な顔をして、曜がそう言った。ある? いや、ないだろ。

 

「もう、二人とも! それどころじゃないんだよ! ないんだよ!」

 

 ないないない。なんだかゲシュタルト崩壊しそうである。ないか? ないな。あ、またないだ。ないがある。……ちょっと頭が痛くなってきた。

 

「千歌ちゃん、えっと落ち着いて? 何がないの?」

「グループ名!」

 

 

 *

 

 

 夕焼けの浜辺。俺と名無しのスクールアイドルはストレッチをしながら現在会議中。

 

「今日中に何か決めないと」

「だな」

「でも、どうするの?」

「やっぱり学校名は入れたいからー、浦の星スクールアイドルとか?」

「微妙だね」

「うーん……りょー君、東京出身でしょ? 何かいいネーミングない?」

「え?」

 

 千歌にそんなふうに話をふられる。いや、梨子も東京出身でしょ。なぜ俺なのだ。まあ構わないけど。

 

「じゃあ……千歌の千、梨子の苗字の桜内から桜、あと曜は本で千本——」

「いや、ないでしょ⁉︎ というか、私の本ってどこから来たのさ⁉︎」

「じゃあ梨子ちゃん、何かない? 東京のファッショナブルな言葉とか!」

「えっと……三人海で出会ったから、スリーマーメイド、とか?」

「うーん、なかなか良い案が思い浮かばないね、曜ちゃん」

「そうだね」

「む、無視……」

 

 俺はショックを受けている梨子のそばに移動すると、ポンと肩に手を置く。

 

「東京生まれは妬まれてるんだ」

「二人のセンスがないだけでしょ……」

 

 向かいの曜に呆れ顔をされる。なんだ、その顔は。文句あるのか。

 

「そういう曜はどうなんだよ。いい案あるのか?」

「ふっふっふっ、あるんだなぁ〜、それが!」

「そうなの!」

 

 得意げな曜に注目が集まる。ストレッチを終えた曜は立ち上がり、意気揚々と宣言。

 

「制服少女隊!」

「……ないかな」

「そうね」

「あ、そこ! 東京ズ! 何その反応!」

 

 曜が恨めしそうな顔でこっちを見てくる。だってねえ? 制服少女隊ってねえ?

 

「じゃあこうしようよ! 私と曜ちゃんのチームと、りょー君と梨子ちゃんのチーム。どっちが良い案を出せるか!」

「面白そうだな」

 

 千歌の意見に同意すると、パチリとウィンクをされた。……ああ、梨子と組ませるための。いつもいつもどうもですね。

 と、隣から視線を感じた。梨子だ。

 

「どうかした?」

「……何にも」

 

 梨子はツンとそっぽを向くと、木の枝を拾いに行ってしまう。何だったんだ?

 

「負けないよ」

 

 後ろから曜が声をかけてきた。

 

「俺だって負けないからな。絶対良い名前を考えてやる」

 

 言い返してやると、曜はキョトンとする。

 

「その勝負に対して言ったわけじゃないよ」

「え?」

「さあ勝負勝負〜」

 

 曜は伸びをしながら、千歌の所へと向かった。何の勝負だよ……は⁉︎ まさか例の三角関係⁉︎

 

「って、それは勝負になってない気が……」

 

 俺が好きなのは梨子。梨子は可愛いからな。それに品があるし。千歌ではないのだ。

 

「涼君、木の棒拾ってきたよ」

「あ、梨子。危な……」

「きゃあっ⁉︎」

 

 長めの木の棒を拾ってきた梨子。しかしその棒が服に引っかかってすっ転んだ。……品がある、よね?

 

 

 *

 

 

「ねえ、涼君」

 

 梨子が砂浜にスリーマーメイドとまた書き込んで。何回目だ、それ。

 梨子は木の棒をそっと砂浜に置くと、その場に体育座りする。俺もその隣に腰を下ろす。俺らの目の前には十数個くらいのアイディア。そのうちのおよそ四分の一がスリーマーメイド。

 なんとなく千歌・曜ペアを見てみると、砂浜にすごく長い文字列が。へえ、そんなに思い付いたのか。……でもよく見ると大したことが書かれていない。みかんとか、海鮮とか。

 

「涼君って、曜ちゃんと仲良いの?」

「曜と? 何で?」

 

 梨子は木の棒を拾うと、砂浜にひらがなで"よう"と書いた。

 

「詩を作る時、すごく楽しそうだったの。それに、この間の罰ゲームのストレッチも一緒にやってたし……。何だか羨ましいって言うのかな。涼君は私の幼馴染なのにって」

 

 幼馴染、か。そうだよな。俺は梨子にとって幼馴染。昔馴染み。古くからの友達。

 

「それほど曜とは仲良くない気もするけどね。だって、なんか曜は変に俺に突っかかってくるし」

「変に?」

「ああ。なんか俺の好きな人はあーだこーだとか、ちょっかい出したりとか」

「……それって……」

「なあ、梨子。なんでだかわかる?」

「……」

 

 砂浜の"よう"という文字をじっと見つめる梨子。何を考えているんだろう。というより、無視しないで……。

 

「梨子?」

「……えっ? あ、ごめん。わからない、かな」

「そっかぁ。梨子でもわからないのか。なら、俺もわからないかな」

 

 俺は指で"よう"の文字の隣に"りこ"と書き加える。

 

「結局のところ、たぶん一番仲のいい相手は梨子だろ。幼馴染だからな」

「幼馴染……うん」

 

 頷く梨子。今度は梨子が、木の棒で"ちか"と書いた。

 

「じゃあ聞くね。仲が良い悪いじゃなくて、涼君は……涼君は」

 

 震える木の棒で、梨子がその今さっき書いた文字を指し示した。

 

「好き……なの?」

「いや」

「え、嫌いなの?」

「あ、いや。そうじゃないけどさ」

 

 何だ、その小学生がよく使うような二択は。たしかに好きの裏は嫌いだけどさ。

 

「でもよく千歌ちゃんのこと見てるよね」

「なんでそんなこと言い切れるんだよ。もしかして梨子、俺のことずっと見てたり」

「み、見てなんかない!」

 

 顔を真っ赤にして梨子が怒った。ですよね……。知ってたんですよ、ええ。冗談なのに、そんなムキにならなくても。

 

「も、もう!」

「ごめん、梨子」

「……許さないもん」

「ええっ⁉︎ 何で⁉︎」

 

 梨子はそっぽを向いたまま。お、怒らせた? まずいな、怒った梨子は怖いのだ。

 

「はーじーめーるーわーよー?」

「ふ、ふざけないで!」

 

 顔を真っ赤にした梨子がぽこぽこと木の棒で叩いてくる。でもそこまで強くない。怒ってはないみたいだ。

 

「……教えて」

「え?」

「りょ、涼君の好きな人を教えて!」

「……へ?」

 

 梨子は木の棒で、"ようりこちか"の文字の下に線を引き、その線の下に人名を次々に書いていく。"こうさか"、"みなみ"、"そのだ"などなど。これは……μ'sのメンバー?

 さらに梨子は生徒会長と理事長、ダイバーも書き加える。ダイバーって果南さんのこと?

 

「涼君が親しい女の子ってこれくらいだよね?」

「えっと……まあ」

 

 実を言うと今通っている学校のとある一年生のリトルデーモンにされていて、別の子とはメアドも交換したんだけど。まあ別に言う必要もないと思うけれど。

 梨子が木の棒を渡してきた。

 ドクン。心臓が脈を打つ。真剣な目で梨子が俺を見ている。これは……はぐらかせる雰囲気ではない、よな?

 ドクン。そっと後ろを見てみる。千歌と曜は名前を考えるのに夢中。気付いてない、よな?

 ドクン。木の棒を持ち上げた腕が、今にも震えそうだ。

 これはチャンスか。これでなら自然な流れで梨子に告白できる。でも……大丈夫なのか? ふられたりしないのか?

 梨子を見てみる。彼女は目を閉じて待っていた。色白の綺麗な肌にささる鮮やかな夕陽。わからないな。いけるのか、否か。

 俺はゆっくりと木の棒を動かし、一番上の列に——

 

「おーい! りーこちゃーん! りょーくーん! そろそろ勝負だよ!」

 

 千歌からの呼びかけ。俺はすぐさま棒を放棄し、立ち上がる。助かったのか、それともチャンスを失ったのか。

 梨子も諦めたのか、立ち上がって砂を払う。

 

「じゃあ梨子。候補はスリーマーメイドで」

「そ、それはなし!」

「なんで? あんなに書いてたじゃん。推しなんだろ」

「違うってば! それより私は、涼君の書いたウミガメがいいと思う」

「いっ、いや! あれはダメだ! 絶対馬鹿にされる、東京っぽくないって!」

 

 梨子とどれを候補にするか言い合っていると、曜が近づいてきた。

 

「そこのお二人さん? イチャイチャしてないで早く来てくれない?」

「「いい、イチャイチャなんてしてないっ!」」

 

 変なことを言ってくれた曜に向かって噛み付く。本人はまったく意に介していないみたいだが。少しは反省しろよ、曜。

 

「あれ? 曜、今……」

 

 梨子とのことでからかった? 千歌じゃなくて?

 不思議に思って曜を見ると、彼女ははにかみながら目を逸らし、帽子をかぶりなおした。

 梨子が千歌の元へと行き、曜と二人きりになったのを見計らって話しかける。

 

「気付いてたのか? いつから」

「えへへ……実は最初から。でも、負けないよ」

 

 曜はもう一度帽子をかぶりなおすと千歌、そして梨子のいる場所へと走っていった。気付いてたって、じゃあなぜ千歌の件で?

 待てよ。もしかして俺は最初から誤解してたのか? 曜は千歌のことが好きなのではという疑い。実はそれが違ってて、梨子に一目惚れしていたのだとしたら? やっぱり梨子はすごいな、女の子すら落としちゃうなんて。さすりこ。……って、違うだろ! そうじゃなくて、つまり俺が千歌のことが好きだと強引に決めつけてたのは、俺を梨子から遠ざけるためで……。

 

「さ、三角ってそっち……?」

 

 本気で? というより、やばいよね? だって梨子にはあの噂があるんだよ? ただでさえ曜の方が俺よりスペック高いのに、どうしろと?

 

「りょー君! 早く!」

 

 ま、まあこの事はあとで考え直そう。今はグループ名だ、うん。

 

「それで、候補は決まった?」

「ううん」

 

 梨子が首を振る。それを見て、千歌はガッツポーズ。

 

「やった! それじゃあ私たちの案で決まりだね!」

 

 千歌がタンッ、と木の棒で砂浜をさした。そこに書かれていたグループ名はAqours。

 

「これ、なんて読むの? アキュア?」

「アクア、だと思うよ」

「思う……? 千歌たちが考えたんじゃないのか?」

「ふっふっふっ、実はたまたまここに書いてあったのを見つけたんだ」

 

 千歌が得意げに言う。いや、それ別に君たちのセンスじゃないよね? 自慢できることなの?

 

「そんな誰が書いたかわからないので良いの?」

「だからこそだよ! 名前を決めようとしている時に、これに出会った。これって大切なことなんじゃないかな」

「そうそう。偶然の出会いってやつだよね」

 

 なぜか曜は俺と目を合わせると、笑いかけてきた。その不意打ちに、少しドキッとさせられる。……って、やばい。可愛いと思ってしまった。この曜が恋のライバル?

 俺に勝ち目、あるのかな……。







……スキしてる?
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