俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第20話

『いい? 始めるよ?』

「千歌、もうマイク入ってる」

『ええっ⁉︎』

 

 キーーーンッ!

 

 ハウリング。いきなりハプニング。とりあえずマイクを切っておく。

 さて、俺ら……というか、俺とAqoursの三人は町内会の放送所にいる。フェリーの船長をやっている曜の父親が町内会の会長と知り合いらしく、それで放送の許可をもらったんだとか。……父親までハイスペック……。

 いや、別に俺の母親もそこそこスペックは高いんだけどさ、財力的に。でも何て言うか、うちのはずっとホテルに缶詰だからなぁ。

 つまり何が言いたいかというと、曜の方が外堀を埋めやすいんじゃ? 今気にすることじゃないけど。

 

「まあ、気を取り直して。頑張れ」

 

 放送をするのはAqoursの三人。俺は特に喋ったりはしない予定。

 千歌は頷くと、マイクのスイッチを入れた。

 

『みなさんこんにちは! 私たち、浦の星女学院スクールアイドルAqoursです!』

『ちょっと待って! まだ正式には認められてないんじゃ……?』

『あ、そっか。じゃあ……浦の星女学院非公認スクールアイドルAqoursです! 今度の土曜午後二時から浦の星女学院体育館でライブを』

『非公認っていうのはちょっと……』

『じゃあなんて言えばいいのー!』

『あはは……』

 

 ……はぁ。これ、全部流れてるんだよね? 大丈夫なの?

 

『と、とにかく! ライブやります! 絶対に満員にしたいので、来てください!』

「いいのか、これで……」

 

 ピロン。

 と、不安に思っていたらメールが来た。差出人はルビィちゃん。

 

『放送聞きました! 頑張ってください! ライブ行きます!』

 

 おお。効果ありか。いや、元からスクールアイドル好きだったか。でもこうやって応援してくれる人もいるんだよな。とりあえずお礼のメールでも送っておこう。

 実はルビィちゃんとメールアドレスを交換してからしょっちゅうメールが届いている。内容はすべてスクールアイドル関連。なんでも、スクールアイドルの話をしてくれる人ができたのが嬉しいらしい。因みにルビィちゃんの推しはかよ姉。

 

「涼君? 誰とメール?」

「いや、迷惑メール」

 

 放送を終えたらしい曜が接近してくる。一応ルビィちゃんとメル友になったことは隠している。だって、バレたらバレたでまた面倒なことになりそうだし。

 

「ふうん。ま、いっか。それより、次はチラシを配りに行くよ!」

「わかってる」

 

 俺はグループ名を記入して新たに作ったチラシの山を四等分してみんなに配布。再び沼津駅前で配る予定なのだ。

 

 

 *

 

 

「あ、ライブやります! 土曜日の十四時からです!」

「ライブ? 君が?」

「いえ、彼女たちです」

「ふーん」

 

 通りかかった高校生にチラシを手渡す。今日は祝日だからか、人が多いな。おかげでチラシ配りもはかどり、もう既に半分を切ったところ。

 

「涼君!」

 

 曜がスマホを片手に走ってきた。ただ、曜の手にチラシは一枚もない。というか、そのスマホ。この間持ってた青いやつと違う気が。

 

「あれ? チラシは?」

「全部配り終えちゃった。ねえ、それよりもさ、写真撮ってくれたりする?」

「いいけど……誰と?」

「こっちこっち!」

 

 曜に手を引かれて連れて行かれたのは、十数人もの女子高生たちの集団。すごい人数だ。

 

「じゃあ、さっき言った通りにお願いします!」

「「「はーい!」」」

「ヨーソロー、って言ったらシャッター押してね!」

「あ、ああ」

 

 曜は集団の真ん中へと行くと立て膝をついて、

 

「全速前進!」

「「「ヨーソロー!」」」

 

 みんなで敬礼ポーズ。すごいな、曜は。もう人気者なのか。なんかみんなと仲良く話しているし。チラシも配り終えたみたいだし。コミュ力高すぎないか?

 

「それに比べて俺は……」

 

 うん、まずい。まずいぞ。このままでは本当に三角関係で負けてしまう。

 

「ねえ、どう? 写真、うまく撮れた?」

「たぶん」

 

 駆け寄ってきた曜に撮った写真を見せる。

 

「少し斜めかな……。でもそうだね、いい感じだと思う。涼君、ありがと!」

 

 曜はスマホを持って女子高生たちの元へ。斜め? それは……あ、あれだ! わざとだ! わざと写真を斜めにすることで、趣向を凝らした……はぁ、俺って写真もちゃんと撮れないのか……。

 

 

 *

 

 

「こんな感じでどう?」

 

 いよいよライブは明日に迫った。今は曲とか衣装とか、後はフォーメーションなどの最終確認作業中。

 梨子が作った曲を、まずは千歌と曜の二人がイヤホンで聞いている。いいなー。俺も聞きたい。

 暇なので、梨子の隣に座り、彼女の作業を見てみる。パソコンを操作して音をつけているみたいだ。……よくわからん。

 仕方ないので、梨子の横顔でも眺めてみる。うなじが見えたりしないかな、と思っていると、しばらくして梨子の額に汗が浮かんできた。今日ってそんなに暑かったっけ?

 

「ええっと、涼君。スマホ貸してくれる?」

「なんで?」

「作った曲を入れようと思ったんだけど……」

「あ、なるほど。いいよ」

 

 スマホのロックを外してから梨子に手渡す。ちなみにパスワードは変更した。今度は6桁の数字にしてみた。さすがにこれは当てられないと思う。

 梨子は慣れた手つきで操作したあと、俺にスマホを返してくれる。千歌と違ってファイルを見ようとはしないみたい。

 

「はい、落としたよ……あれ? メールが」

「ああ、そっかそっか」

 

 パパッとスマホを回収。危ない危ない。どうせルビィちゃんからだろうけど、いやルビィちゃんからだからこそ、危ないのだ。だって、女の子からのメールだよ? 梨子に変な誤解をされたらどうする。

 

「……」

 

 ジーッ、と人のスマホをみる梨子。

 

「……何?」

「なんでもない」

 

 梨子は作業に戻る。ヒヤヒヤしたぜ。あれは浮気を疑う妻の目みたいな感じだった。えっ、もしかして梨子って俺に気が……ないよな、うん。

 

「……二人も、何?」

 

 そしてまだ何か感じると思ったら、視線は梨子からだけではなかった。千歌と曜。二人も俺の方を見ている。

 

「いや、最近りょー君にメールが多いよね〜、って思って」

「誰からなんだろうなー」

「別に誰からだっていいだろ」

 

 少し熱くなったので、お茶を飲む。飲みながら俺はメールを開いた。

 

『そういえば、先輩は誰が好きなんですか?』

 

「ぶっ⁉︎」

「うわっ⁉︎ りょー君、危ないよ!」

 

 咄嗟にパソコンを持ち上げた千歌から非難される。すみませんね。でも驚いちゃったんだからしょうがない。それに一応手で口を押さえて出してないんだ、セーフだセーフ。

 それにしても、なんて内容のメールだよ。一瞬誤解したじゃないか。『μ'sの中で』って話なんだけど。

 かよ姉推しのルビィちゃんはμ'sのファンである。もちろん、μ'sと仲の良い(?)俺もファンである。だからもっぱらその話しかしないのだ。まるで生徒会長みたいだな……あれ?

 そういえば俺ってまだ、ルビィちゃんの苗字を知らないな。くろなんとか。……くろ。ルビィ。ダイヤ。もしかして……?

 

「お腹空いた……りょー君、何か持ってきてー」

「え?」

 

 突然千歌がそんなことを言い出した。

 

「この前の東京のお土産! まだ開けてないよ!」

 

 ああ、あれか。この間、少しわけありで東京に行った際に買ってきたお土産。饅頭。あそこの店のだけど。

 

「東京土産?」

「絶対に美味しいよ! ねえ、食べよ?」

「わかったわかった。今持ってくるよ」

 

 本当は梨子にあげたかったんだけど……まあ、いいや。

 

 

 *

 

 

 その後も作業は続き、今は曜が作ってきた衣装を合わせた後。着替えている最中は部屋の外に追い出されていた俺だが、中に入る許可をようやくいただいた。

 部屋に入ると、千歌はベッドの上で何かを書いて……いや、寝てる。疲れてるんだろうな。一方、梨子と曜は衣装について話していた。俺は迷うことなく、衣装の方へ。二人きりにはさせてやらんのだ。

 

「やっぱり、丈が短いような……」

 

 完成した衣装を見て梨子が言った。そうか? 俺は別にそうは思わないんだけど。

 

「そうかな?」

 

 曜が梨子用の衣装を梨子の上から重ねてみる。梨子の衣装はマゼンタを基本にした明るい色の衣装だ。ちなみに曜はシアン、千歌はイエロー。

 胸元、腰に大きめのリボンをあしらったノースリーブ・ミニスカートの衣装。アイドルらしくて可愛い衣装だと思う。

 

「制服とそんなに変わらないんじゃない?」

 

 曜が衣装を外しては重ね、重ねては外すを繰り返す。その都度、制服姿の梨子と衣装姿の梨子が交互に現れる。なんだか着せ替え人形みたいだ。あっ、そうだ。リコちゃん人形なる商品を売り出したらどうだろう。たぶん売れる、間違いない。もちろん服を全部脱がせることだってできる。……ごくり。

 

「涼君も何か言ってよ。こんな短いの、だめだよね?」

「そうかな? そんなことないよね?」

 

 梨子と曜が迫ってくる。ち、近くないか? 嬉しいけど。

 とまあ、衣装のことだっけ?

 

「いいんじゃないか? アイドルっぽい」

「ほら!」

 

 勝ち誇ったように曜がドヤ顔、梨子は俺を睨む。や、やめて。そんな目で見ないで。冷たくされると心が折れちゃうの。

 

「私、そんなに自信ないのに……」

「大丈夫だよ、梨子。梨子には絶対似合うって」

「そうかな」

「ああ」

 

 俺には見える。リコちゃん人形がロングセラー商品となって多くの人の手に渡るのが見える。でも俺は買わないよ。本物がいれば十分だもんね!

 結局スカート丈が短いという梨子の主張は通らず。曜は衣装を片付け始める。手袋、カチューシャ、靴下にブーツまでお揃い。どれも細かいところまで作り込んである。本当、曜ってなんでもできるのな。

 

「よくここまで手の込んだ物を作れるよな。すごいよ」

「えへへ、褒めてくれるんだ」

 

 曜が嬉しそうに目を細めて笑う。が、すぐ何かを思い出したようで、カバンの中から何かを取り出した。

 白い。それは白い軍手だった。その辺のホームセンターで売っていそうな。でも、ただの軍手ではなかった。手の甲の部分に、緑色のクラブのアップリケ。それを曜は俺に向けて差し出した。

 

「なんだか手抜きみたいな感じで悪いんだけど……はい、プレゼントだよ」

「俺に?」

「ふふっ、変なこと言うね? 他に誰がいるの」

 

 曜は衣装を入れていた袋から手袋を三セット取り出し、それらを並べる。

 

「千歌ちゃんがハート、梨子ちゃんがスペード、私がダイヤで」

「俺が……クラブ」

「正解」

 

 曜が俺に軍手を渡す。

 

「えっと、ありがと」

「いえいえ。涼君にはお世話になったからね。あっ、これからもだけど」

「はは……そうですか」

 

 それ、これからもいじりますよって宣言ですかね? あっ、それともこれは塩なのか。敵に送るやつ。

 

「そういえばさ、このクラブ。千歌ちゃんの髪飾りと同じだね」

「……それが狙いか」

 

 てへっ、と舌を出す曜。可愛くないぞ。可愛くなんてないんだからな。

 

「えっ? えっ? 涼君ってやっぱり千歌ちゃんのことが……?」

 

 ああ、もう。誤解してる方が一人。曜のせいだ。

 

「そうなんだよ、梨子ちゃん。知らなかったの?」

「だから違うって! 別に好きじゃない!」

「しーっ。千歌ちゃん、起きちゃうよ」

 

 こ、こんにゃろう。軍手の件でちょっと良い子だなとか思ったけど、撤回だ。ちょっと並外れたスキル持ってるからって調子に乗ってると、いつかやり返してやるからな。

 曜のさっきの一言で、みんなの視線が自然と千歌に集まる。

 

「ぐっすり寝てるね」

「そうだね。もうだいぶ遅いし……」

「あれ? 曜、バスの時間は?」

「え? ……あっ、やば! 終バス逃した!」

 

 ふっ、早速バチが当たったんだな。

 

 

 *

 

 

 曜は志満さんに軽トラで送ってもらうことになり、梨子も帰った。俺は千歌が寝ているので一人で部屋の片付けをしている。饅頭のケースは空。なかなかに美味しかったようで、すぐになくなってしまったな。さすが、海未先輩の好物だ。

 

「もう他の人は帰ったの?」

「うおっ、千歌。起きてたのか」

 

 いつのまにか千歌がベッドの上に座っていた。いや、起きたのなら手伝ってほしいんだけど。

 

「いつから起きてたんだ?」

「うーん……軍手を渡すあたり?」

「随分前から起きてたんだな……。なんで寝たふりを?」

「だって良い雰囲気だったんだもん」

「良い雰囲気?」

「うん。りょー君と曜ちゃん」

「……え?」

 

 曜と? いやいやいや。俺と曜は犬猿の仲みたいな感じになりつつあるんだぞ? もしかしたら恋敵かもしれないのだ。そんな人といい雰囲気?

 

「寝ぼけてるんじゃないのか?」

「ううん、恋人みたいだったよ」

「恋人……?」

 

 あー。言われてみれば、あの時はそんな感じで見えるかも。あれだよな、手作り手袋を手渡すみたいな。……なんか考え直せば直すほどそう思えてきたぞ?

 

「ま、俺の好きな人は」

「梨子ちゃん。知ってるよ。可愛もんね」

 

 千歌はゴロンと寝転がる。

 

「私ってやっぱり普通なのかな……」

「どうしたんだ、急に」

「いやぁ、なんていうか。さすがの私でもちょっと傷ついたっていうか。あそこまでストレートに好きじゃないって言われると、ね」

「あ……ごめん」

「ん、いいんだけどね。私って、梨子ちゃんや曜ちゃんみたいに可愛くないし」

「そんなことない。千歌だって可愛いだろ? ほら、そのクローバーの髪飾りとか」

「……お世辞にしか聞こえないよ」

「……すみません」

 

 そんなこと言われてもな……。そりゃ、あそこまで直情的に否定したのは悪かったと思うけどさ。それでも俺の好きな人は梨子だし……。

 

「はぁ。大変だなぁ、幼馴染の恋って」

「すみませんね、本当」

「んー、本当だよ、まったく」

 

 どうやら俺が悪いらしい。でも、千歌から応援すると言ったような。

 千歌は伸びを一つすると、ベッドから起き上がった。

 

「とりあえず明日、頑張るね。やっぱり好きな人と同じ学校に通いたいもんね」

「ああ、ありがとう。頑張れ。……あ、そうだ」

 

 部屋を出ようとして、立ち止まる。

 

「なあ、千歌。この辺に神社ってない?」






UNUSUAL LOVE
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