次回は9月19日あたりに特別編を投稿したいです。
ただし、投稿するとは(ry
ピロン。
家——というか旅館——に帰り、部屋でゴロゴロしているとメールが着た。
『ライブ、すごかったです! 感動しました!』
ルビィちゃんからだ。うん、他にやることもないし、メールの返信でもするか。
『いえいえ。こちらこそ、来てくれてありがとう。おかげで退学にならずにすんだよ』
送信してから、少し硬すぎたかと反省する。でもいいかな、生徒会長がお硬い人だし。多分姉妹でしょ、この人たち。こんな名前、滅多にないだろう。
ピロン。
と、またもやメール。早いな。もう返信をしてきたのか……と思ったら。
「曜から?」
今度は曜から。打ち上げをやることが決まったから、今からお菓子屋に来いとのこと。指定してきたのは、この辺にあるお店で洋菓子やら和菓子やらを取り扱っている店だ。えっと、打ち上げってそういう店でやるものだったかな……?
というかそもそも、打ち上げをやることが決まったって。誰と話し合っていたんだよ。俺はその話し合い、参加してませんよ。ハブられてる?
「まあ、いいや」
暇だったし、ちょうどいい。どうせ梨子も来るんだろうし、行くか。
*
「あ、来た来た!」
指定されたそのお店に初めて入店したのだが、店内には十席ちょいのイートインスペースがある。そのうちの一つに、曜が座っていた。一応千歌に一緒に行くか聞いてみたが、断られた。まだ早いって。
「あれ、一人なのか?」
「ううん。二人も呼んだよ」
「だよな」
まあ、あれだろ。女の子には色々とあるんだ、きっと。おめかしとか。なるほど、美少女梨子がさらにもう一段階綺麗になって現れるんですね?
俺は店の入り口を凝視。まだかな……?
「そんなすぐには来ないよ」
曜に苦笑される。でも曜はいるじゃん。
「涼君は何食べる?」
「何でもいいよ」
「じゃあ、高いのにしとくね」
「何でだよ」
「きっと美味しいよ」
曜はカウンターへ。うーん、まあいっか。たまには。俺も立ち上がると、カウンターへ。
「フルーツタルト二つください」
「えっ、曜、おごってくれるの?」
「あとで払ってもらうよ」
だよな……。期待した俺がバカだった。
「あと、ウーロン茶とコーラ」
「そのチョイスはどこから……」
どうせならドリンクも同じものを頼めばいいものを。
店員さんはニコニコしながら注文したものをくれる。
「はい、どうぞ。お二人さん、仲がいいのね。恋人?」
「そう見えます?」
曜が嬉しそうに俺と腕を組んでみせる。や、近い。柔らかい。
「でも違いますけど」
俺はそれを解く。
「んもー、面白くないなー。ちょっとくらい、いいじゃん」
「良くない」
フルーツタルト二つを受け取るとイートインスペースに戻る。曜もウーロン茶とコーラを持って、急いでついてくる。
席に座ると、曜がドリンクを二種類、差し出してきた。
「どっちがいい?」
「どっちでもいいよ」
「選んでよ」
「いいよ、別に。曜が好きな方を選べ」
「じゃあお茶で」
俺の眼の前にコーラが置かれる。
「ありがと」
「……何か思い浮かばない?」
「え?」
俺はコーラを見る。……うーん、特には。強いて言うなら海未先輩だろうか。あの人、炭酸が苦手だったはず。でもお酒は飲める。イミワカンナイ。曰く、炭酸飲料と酒は違うらしい。
「ごめん、何も」
「そっか。だろうとは思ってたんだけどね」
じゃあ聞くなよ。
心の中でツッコミを入れておいてから、俺はタルトを食べようとして、気付く。そういえばまだ、梨子たちが来ていない。
フォークでタルトをつつきながら、店の外を見る。来る気配はない。いつ来るのだろうか。
「ねえ涼君」
「なんだ?」
俺は外を見ながら曜に返事をする。
「今、梨子ちゃんが来ないかなー、って思ってるよね?」
「……なぜわかった?」
「わかりやすいもんね」
わかりやすい、そうですか。だったら千歌の件でからかうのは今後一切やめてほしいのですが。
にしても、梨子が来ない。
「なあ、曜。本当に呼んだのか?」
「呼んだよ」
「そのわりには遅いな」
「だって、集合時刻を一時間ずらして連絡したもん」
「……はい?」
なんか今、とんでもないことを聞いたような気がする。聞き間違いだよな? そうであってくれよ?
「今、なんて?」
「だから、一時間後に来てって」
違った。聞き間違いじゃなかった。やっぱり俺の耳って有能だな。……って、おい。
「えっ、それはどうして?」
「少し涼君と話があるんだ」
曜はテーブルの上に身を乗り出し、俺の方へと顔を寄せると小声で囁いた。
「涼君の好きな人に関する話」
「……わかった」
そうだな。曜には今まで、色々とわけのわからない言動をされている。ここらでちゃんと話をし、これ以上の迷惑行為はやめてもらおう。
「じゃあまず、最初の質問。涼君の好きな人は梨子ちゃん、合ってるよね?」
「ああ」
その通りだ。でも改めて人の前で認めると恥ずかしいものもある。
「……何赤くなってるの」
「いや、照れ?」
「……」
い、痛い。曜さんの視線が痛い。
「次の質問ね。涼君は梨子ちゃんのどこが好きなの」
「どこって……全部?」
「それじゃわかんない」
曜が腕でバツを作る。えー。そんなこと言われてもなぁ。
「えっと……可愛い、とか?」
「それなら可愛かったら誰でもいいってこと?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ、それが一番の理由じゃないんだよね?」
となると。梨子だけにあって、他の人にはないもの?
「幼馴染だから?」
「へえ」
曜は少し考えた込んだあと、顔を上げて口を開き——何も言わずに閉じた。
「どうした? 何か言いたいことでも?」
「……うん」
曜はゆっくりと、慎重に言葉を選んでいるかのようにしゃべりだした。
「あの、さ。幼馴染だから好きって……それ、本当に恋なの?」
「どういうこと?」
言ってすぐに、俺は窓の外に視線を移す。思わず反射的に聞き返してしまったが、言わんとしていることはわからなくもない。
それは、どうなのだろう。今まで考えたこともなかったが、俺は本当に一人の女性として梨子のことが好きなのか。ただの親友感覚ではないのか。
たしかに結婚した時の妄想をしたりとか、梨子の……どことは言わないが、膨らみに目がいったりとかはある。でも、もしかしたらただ思春期なだけなのかもしれない。
考えてみれば、俺と親しかった女の人というのは、梨子と俺みたいな普通とは住む世界が違う女神さんたちくらいしかいなかったわけで。
「えっと。涼君って梨子ちゃん以外の人に恋したことないよね? だから、異性としての好きと親友としての好きがごっちゃになったり、して、ない、かな……なんて」
「……いや。なってないと思うけど」
「そうなんだ。なら、いいんだ」
「そうか。なら次は俺が言いたいことだけど」
その時、店の中に二名ほど女子高生が入ってきた。梨子と千歌。時計を見てみると、まだ一時間経っていない。来るのが早いな。
「早いな」
「早目の行動だよ。って、りょー君達の方がずっと早いじゃん!」
「それはまあ、時間を間違えたというかなんというか」
注文したあと、千歌は向かい合って座る俺と曜を確認したあと、曜の隣に座った。さすが千歌、わかってる。
「先に行ってたんだ」
「まあ。……まだ怒ってる?」
「別に」
自然に梨子が俺の隣に座る。でも、なんか冷たい。
曜と千歌が菓子を食べながらおしゃべりをする一方、梨子がむすっとした顔で話しかけてきた。
「曜ちゃんと二人っきりだったんだ」
「いや、別にそういうのを意図してたわけでは」
ピロン。
と、ここでメールが。ルビィちゃんから。
『またやったりしますか? できればして欲しいです!』
ライブか。どうなんだろう。千歌に聞いてみないとわからな、
「涼君……それ、誰から」
「え」
なぜか梨子が人のスマホを覗いている。いや、覗くなよ。そして勝手に覗いて勝手に顔を真っ赤にしている。いや、覗くなよ。
「そ、その『やる』とか『して欲しい』とかって、も、もしかして涼君……!」
真っ赤っかの梨子。なんかいらない誤解をされているようで。
改めて文面を読んでみる。……確かにこれはヤバいかもしれない。
「ち、違うんだ梨子! これは別にそういうやましいことでは」
「や、……やっぱりそういう、そそソッチの」
煙が出そうなくらい真っ赤になった梨子。今にも湯気が吹き出しそうで、全身から熱を発している。熱い。こっちまで火照ってくる。
とにかく一刻も早く誤解を解くため、俺は今までの受信一覧を見せる。
「ほ、ほら! 全部スクールアイドルの内容なんだよ。それで、これは今日のライブの話で、それをこの子が見てたわけでだな⁉︎」
「そ、そうなんだ」
梨子が次第に落ち着いてくる。ほっ。よかった、なんとか誤解を与えずにすんだみたいだ。
「あれ、でも待って。そんなにメールのやりとりをする相手って誰なの」
「あ」
「や、やっぱり彼女なんじゃ……」
「え、彼女!」
「涼君に彼女⁉︎」
なぜか斜向かいの千歌が食いついてくる。ついでに曜も。これだから恋バナ大好き女子は困るんだ。ややこしくなるからやめてくれ。君たちは菓子だけ食ってろ。
「だれ? でも梨子ちゃんじゃないんだ、意外だな〜」
「なっ、なんで私なの!」
「だからそもそも彼女じゃなくて、って曜! スマホを取るな! 返せ!」
「うわぁ、すごい量。でも全部スクールアイドルの話なんだ……あれ?」
なんとか曜からスマホを取り返す。しかし少し遅かったようで、曜はあることに気付いたらしい。驚いた顔で俺を見てくる。
「ねえ、なんで」
「プライバシーの侵害だぞ!」
少し大声を出し、曜を牽制。ただし、店員に睨まれた。すみません。
声には出さず、口の動きだけで『あとで』と告げる。曜は了解したらしく、小さく敬礼で返す。
「ねえ、りょー君、それ誰なの?」
「別に誰だって」
「言えないってことはやっぱり彼女?」
「……わかったよ、教える」
一度全員が静かになる。俺はコーラを一飲みしてから、発表する。
「黒澤ルビィ、浦の星女学院の一年生」
「えっ、ルビィちゃんって、あのルビィちゃん?」
「そう、その」
「誰?」
梨子が首を傾ける。そっか、梨子は会ったことないんだっけ。
「あのね、すっごく可愛い一年生の子なんだよ! それにスクールアイドルに興味があるらしくて、勧誘してるんだ」
千歌の説明に、梨子が眉をひそめる。
「可愛い……ふぅん」
「梨子? 違うからね? 別に付き合ってないからね?」
「そう。別にいいんじゃない? 涼君が誰と付き合うかなんて、私には関係ないし」
「へえ、そうなんだ」
梨子の発言に、曜が反応した。
「じゃあ例えば、もし私と涼君が付き合っても気にしないの?」
そんな日、未来永劫来ないけどな。
でも梨子の答えは気になる。気にしないと言うのなら、それは俺に気がないってことだよな? 千歌もこの話の行く末が不安なのか、曜と梨子を交互に見ている。
一瞬の間をおき、梨子が答える。
「私には……関係ないから」
*
「関係ないってさ」
「うん」
「梨子って、俺のことはどうでもいいのかなぁ」
「うーん」
「仮に告白したら、ふられるのかな、やっぱり」
「む……」
「ピアノもスクールアイドルもやるんだからな。やっぱり恋愛とか興味なかったり?」
「……んにゃ」
「本当に脈はないのか……」
「……」
「……千歌?」
帰りのバスの中、隣に座る千歌はいつのまにか眠っていた。なんだ、話を聞いてくれるんじゃなかったのか。
あの後、少しして梨子は帰った。同じタイミングで曜も帰った。俺も梨子と帰ろうとしたが、千歌がもう少し食べたいというので残ることになった。貧乏くじを引いた気分。
でもまあ、今日くらいはいいか。アクアのリーダーとして、頑張ってきたんだからな。疲れているんだろう。
俺はスマホを取り出し、受信メールの一覧を開く。ずらっとあるメールはほとんどすべてがルビィちゃんから。他には千歌と曜から。ごくまれに母さんやμ'sの方々、東京にいた頃のクラスメイト。
と、バスが止まった。旅館のすぐそばのバス停だ。
「千歌、下りるぞ」
寝ている千歌を揺する。が、起きない。
「あの、下りるんですよね?」
バスの前方から運転手のトゲのあるお言葉。あ、この間の人じゃん。根に持ってるのか……。
「ちょっと待ってください、彼女が起きなくて」
「早くしてくださいよ」
「すみません……千歌、おい千歌」
軽く頬を叩いてみてもだめだ。起きない。
「……仕方ないか。よっこらせ」
千歌をおんぶする。寝ていても、無意識のうちに背負われてるのがわかっているのか、首に腕が回される。他に客がいなくて良かったよ、本当。
運賃を支払って下りようとすると、運転手に呼び止められた。
「彼女さんの分も、払ってください」
「……彼女じゃないんですけどね」
結局ただでさえ高い運賃を二人分支払い、俺は下車。本当に貧乏くじを引いてるみたいだ。
旅館に向かって歩き出すと、背中で千歌がもぞもぞと動き出した。
「千歌? 起きたのなら下りてくれると助かるんだが」
「……みかん」
「……寝言?」
首筋にかかる息が、無性にくすぐったかった。
sweet sweet the day