俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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最近、ヨハネの左手がフレミングにしか見えない。






第25話

 生徒会室のドアを軽くノック。すぐに中から返事がきた。

 

「シャイニー!」

 

 ……あれ? 聞き間違いかな?

 俺は一歩下がり、ドアの上の方の部屋名の書かれたプレートを確認。間違いなく生徒会室。うん、間違えて理事長室に来てしまったわけではないらしい。ということは俺の聞き間違いということだな?

 恐る恐るドアを開け、部屋を覗いてみる。

 

「ハァイ、リョウ。ライブ以来ね!」

「気にしなくていいですわよ」

 

 中には生徒会長だけではなく、理事長もいた。やっぱり聞き間違いではなかった。やだなぁ、面倒なことになりそう。

 

「失礼します」

「今日はどういった用件ですの?」

「えっと、生徒会長に聞きたいことがあって」

「私に?」

 

 何やら書類の整理をしていた生徒会長が手を止める。一方で、窓の外を眺めていた理事長が振り向いた。楽しそうに笑いながら。

 

「これはもしかしてこく——」

「違いますから。というより俺の好きな人って、うちの母親から聞いて知ってますよね?」

「てへっ」

 

 舌を出した理事長に呆れたのか、生徒会長は溜息を吐く。そして、机に肘をつくと顔の前で手を組んだ。偉い人みたいだ。司令官、みたいな?

 

「なるほど。つまり恋愛相談というわけですわね」

「いや、ちが——」

「ワァオ! それって私たちがrelyされてるってことね!」

「そうですわね、鞠莉さん」

「いや、そうではなくてですね」

「まぁまぁ、そんなにキンチョウしなくていいのよ? このマリーたちに任せれば、Aqours所属の東京からの転校生一人くらい簡単に落とせるわ!」

 

 それ、思いっきり特定の人物じゃないですか。一人くらいというか一人しかいない。

 

「してはまず、どの程度まで進展しているのかお聞かせ願えます?」

 

 ……ダメだ、この人たち。人の話を聞かないというか、自分がこうだと思ったことを信じて疑わないというか。つまりは頑固だ。というより、俺はどこからつっこめばいい。誰か教えて。

 

「えっとですね、さっきから言ってますけど」

「遠慮なんていらないのよ?」

 

 こちらへと近づいてくる理事長。適切な距離感もなんのその、ぐいぐいと迫ってくる。思わず後ろに下がった俺は、放送器具に背中をぶつける。いやしかし、遠慮したい。だってそのニヤニヤした顔、明らかに楽しんでません?

 

「鞠莉さんのおっしゃる通りですわ。私たち、あなたを応援してますのよ」

「ほらほら」

 

 理事長が制服のポケットから、何かの券を二枚取り出した。

 

「これは?」

「飛行機のチケットよ。行き先はイタリア」

「え、本当にくれるんですか⁉︎」

 

 イタリアといったら、新婚旅行の行き先人気ランキング欧州一位の国じゃないか。もしかしてこれも、母さんが淡島ホテルを利用しているおかげの……。

 

「イッツジョーク!」

「……でしょうね」

 

 そりゃそうか。理事長が俺にそこまでする義理なんてないもんな。それにこの人、デビューライブはアキバドームとかいう冗談をいう人だし。

 

「って、だから俺はそういう話をしに来たわけではなくてですね」

「待ちなさいな」

 

 生徒会長がキッと俺を睨む。

 

「まだ先程の質問に答えていないでしょう?」

 

 ビシッと指差し、ポーズを決めてそう宣言した生徒会長。いや、何というか。

 

「それって答えないといけないんですか」

「それがわからないと、私たちも協力しかねますわ」

 

 頼んだ覚えはないんですが。

 

「はーやーくー、教えてプリーズ!」

 

 本当、面倒な人たち。年上に恋愛相談なんて、嫌な思い出しかないのだが。特に酷かったのは、体育会系のあの人ですね。なぜかまだ教えてなかったのに、どこからか(おそらく、いや間違いなく和菓子屋の娘から)情報を入手してきたあの人は俺の家を訪ねてきて、

 

『さあ、直球勝負! 告白はストレートが一番だよ! 行っくにゃー!』

 

 とか何とか言いながら、無理やり俺を引っ張っていったな。しかも、結局梨子の家がわからずに迷子になるオチつき。おかげで振られなかったけど。

 つまり、言いたいことはこれだ。

 

「お断りします」

「えー? 涼のいけずぅ」

 

 理事長が肘で小突いてくる。少しイライラしてくる。さすがにそろそろ本題に入らせてもらわないと。いつまでもここで遊んでるわけにはいかないのだ。

 

「それでは鞠莉さん、自分で調べてみては?」

「oh! さすがダイヤね! ナイスアイディア! 小原家の力でパパパーッ、としらべちゃいまショウ!」

 

 理事長は言うが早いか、すぐさま部屋を飛び出した。調べるって、いったいどうやって? まさか梨子に直接聞いたりしないよね?

 呆然と理事長の消えた生徒会室のドアを見ていると、後ろからコンコンと机を軽く叩く音がした。振り向くと、生徒会長がパイプ椅子を指している。

 

「とりあえず、お座りなさいな」

「あ、はい」

 

 言われたとおり座る。生徒会長にはさっきまでのふざけた様子はなく、至極真剣な顔つきをしていた。自然とこちらも背筋が伸びる。

 

「あなたがここに来たのは、恋愛相談などではないのでしょう?」

「……わかってたんですか」

「あまり理事長には聞かれたくない類の話だと思ったので」

 

 それは確かに。曜と同じで、絡むと面倒なことが起きそうなのが理事長。

 

「ですがまず、私からあなたに言いたいことがありますわ。あなた、最近ルビィとメールのやりとりをしているとか」

「えっと、まあ」

「しかも、スクールアイドルの内容と聞いておりますわ」

 

 生徒会長が俺を見据える。あ、もしかして怒られる? 生徒会長、μ'sをはじめとしたスクールアイドルには詳しいくせに、頑なにスクールアイドル部を認めなかったからな。これは大目玉かも。

 身構えたところ、優しい声色が聞こえてきた。

 

「ありがとうございます」

「へっ?」

 

 なんだか予想外すぎる言葉に、思わず間の抜けた声が出てしまった。それが気に食わなかったのか、生徒会長は目尻を上げる。

 

「なんですの、その態度は。私が誠意を込めてお礼を申し上げたというのに、そのように馬鹿にされると不愉快ですわ」

「いや、バカにしたわけではなくて」

 

 ただ単に、意外すぎただけ。どれくらい意外かというと、とある病院の跡取り娘に『あなた、賢いのね』と言われるくらい意外。言われたことないけど。

 要約すると、生徒会長ってもっとツンツンしてるのかと思ってたということだ。

 

「とにかく、私はあなたに感謝してますの」

「それは……どうも、ありがとうございます?」

 

 何だか自慢げに語る生徒会長に、思わず頭を下げてしまう。いや、何で俺が感謝してるの。違うでしょ。

 でも、どうして生徒会長は怒らないのだろう。なぜ千歌たちがスクールアイドル部を作るのは認めようとしなかったのに、妹がスクールアイドルの話をするのはオッケーなのか。

 

「不思議ですのね?」

 

 俺の表情から考えていることを察したらしい。生徒会長は椅子から立ち上がると、窓の外を眺めた。

 

「ルビィは昔から、私の好きなもの、私のやっていたことを好み、同じようにしてきました。でも、もう高校生でしょう? そろそろルビィはルビィのやりたいことを考えるべきですわ。私の嫌いなことを、ルビィも嫌いになる必要はないのです」

「つまり、自分がスクールアイドルを嫌いだという理由でルビィちゃんがスクールアイドルへの想いを断つようなことをさせたくないということですか?」

 

 生徒会長は頷く。

 

「最近、ルビィは私のいる前ではスクールアイドルの雑誌すら読みません。まあ、それは私が以前『見たくない』と言ってしまったからなのですが……」

「違いますよね?」

「はい?」

 

 生徒会長の話に口を挟む。一つ。一つだけ今の話に違う点がある。おかしい点がある。

 

「何が違うと?」

「生徒会長がスクールアイドルが嫌いということです」

 

 指摘をすると、生徒会長は眉をひそめた。

 

「嫌いですわ。あんなちゃらんぽらんしたものなど」

「嘘ですよ。この間、あんなに楽しそうにμ'sのクイズをしてたじゃないですか。どこからどう見ても、スクールアイドルが好きな人ですよ、それ」

 

 俺の言葉に生徒会長は口をつぐむ。しばらく顔をゆがめたり、口をもごもごさせたあと、

 

「私はμ'sが好きなだけですわ。スクールアイドルはそれとは別なのです」

 

 苦しい言い訳だと思う。そもそもスクールアイドルに興味がなかったら、μ'sなんて知りえないだろうに。石鹸の方ならともかく。

 

「そんなことあるわけないじゃないですか。生徒会長、自分で言いましたよね? ルビィちゃんが昔から、自分のしていたことを同じようにしていたって。だったら! ルビィちゃんがスクールアイドルを好きなのも、生徒会長が好きだったからじゃないんですか!」

「それは……あ、後から嫌いになることだって、あるでしょう。そういうことなのですわ。私が何を好きに、何を嫌いになろうとあなたには関係ないはずですわ」

「それは、そうですけど」

 

 本当に嫌いになったのだろうか。もしスクールアイドルが嫌いなら、μ'sだけを好きという理由は何だ。やっぱり本当は、スクールアイドルを嫌いになどはなっていないのでは?

 

「どうして——」

 

 その時、生徒会室にバイブレーションが響き渡った。発信源は俺のスマホ。どうやら着信。発信者は……千歌。そういえば、ルビィちゃんを部室に連れて行くという約束をしていたような。

 生徒会長に軽く一礼したあと、通話に出てみる。

 

「もしも——」

『りょー君! 今どこで油を売ってるの!』

 

 耳をつんざくような大声に、思わずスマホを遠ざける。けれど腕をめいっぱい伸ばしたにも関わらず、千歌の声ははっきりと聞こえてくる。

 

『ねえ、どこ! どーこーなーのー⁉︎』

「どこだっていいだろ、別に。ルビィちゃんは見つけるから」

『必要ないよ、だってもう千歌たちが見つけちゃったもん』

「え?」

『りょー君全然役に立たないー』

「なんか、すみません」

『まあ、いいんだけどね。それより早く図書室に来ぉーいる! あ、今のは最初の油とオイルをかけた——』

 

 プツッ。

 

 通話終了、と。最後のは聞かなかったことにする。ルビィちゃんの居場所は図書室か。そういえば、マルちゃんが図書委員だったような。

 

「行かないんですの?」

 

 スマホをしまうと、生徒会長が聞いた。

 

「……聞こえてたんですか」

「スピーカー機能をオンにしていたかのような声量でしたわ」

 

 ですよねー。

 

「まあ、まだ行きませんよ。まだ生徒会長に聞きたいことを聞いてませんし」

「なぜ私がスクールアイドルを嫌いになったのか、でしょう?」

 

 俺は頷く。ルビィちゃんがあれだけスクールアイドルに熱中しているのだ。その遠因となったであろう生徒会長が同程度熱中していなかったはずはない。

 その熱が冷めてしまうほどの出来事。そんなものがあるものなのか。今まで大好きだったものが嫌いになる、そんなことが。もしあるのなら、それはいったい——

 

「あなたに教えるとでも?」

「……ダメですか?」

「私とあなたはそこまで深い関係ではありませんわ」

 

 そうだよな。もし仮にそんな体験があるのだとしたら、それはきっと信頼できる人物にしか話さないような内容なのだろう。まだ数回程度しか言葉を交わしたことのない相手に教えるようなことではない。

 でも、どうしても知りたい。どうすれば知ることができるのだろう。生徒会に入って生徒会長と仲良くなるとか? もしくは裏技的に、理事長あたりに聞いてもいいかもしれない。二人は昔からの知り合いらしいし。

 

「一つ聞いても?」

「いいですけど」

「あなたと桜内梨子さんは幼馴染でしたわね? 今まで仲違いしたことはありますの?」

 

 どうやって聞き出そうか考えを巡らしていると、生徒会長にそう訊ねられた。

 

「仲違い? ……そんなの、多少は誰にだってあるものですよ」

「そうですわね」

 

 生徒会長は神妙な顔つきで頷くと、俺に背を向けて椅子に座った。もう話すことはない、ということか。俺もそろそろ行かないと、いい加減怒られそうだな。

 それに、話したい人もまた新たにできた。

 

「失礼しました」

 

 一礼して部屋を出る。さっき色々と攻略法を考えていたが、一番簡単なのはおそらくこれだろう。

 

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ってね」

 

 若干違うような気もするけど、たぶんこういうことだろう。

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