俺の周りには普通じゃない人しかいないっぽい   作:からっぽ

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第3話

「音ノ木坂学院かー。いいなー」

「そうか?」

 

 個人的にはあの学校、好きじゃないんだけど。だって変な人ばかりだし。いや、俺の知人がってことだけど。

 着替えを持っていなくて、水着のまま過ごしていた梨子は先に家に帰った。俺と高海さんは、ドラム缶の後片付けをした。梨子が風邪をひいたら困るからね。あれ、でも看病できるのか。じゃあ風邪を引いてもらってもいいのか?

 砂浜から道路へと上がる。まず最初に目に入ったのは、開いた状態で放置されているメッセージブック。あ、やばい。

 後ろを振り返ると、高海さんはまだ海を眺めていた。よし、今のうちに!

 ささっと移動し、メッセージブックを回収。トランクの中に適当に入れておく。よし、俺は何も見ていない。梨子とのツーショットコラ写真なんて見てない。

 ふと、紙が一枚落ちていることに気付いた。拾ってみると、カラフルな手作りチラシだ。

 

『輝け! スクールアイドル部(仮)大募集!』

 

「スクールアイドル部?」

「そう! どうどう? 凪沙君もやってみない?」

「いや、俺男だし。そもそもこの学校、女子校でしょ?」

「そうだけどさ〜。じゃあ女装しようよ!」

「なんでだよ」

 

 どうして俺が女子校なんかに行かなくちゃならないのだ。イミワカンナイ!

 あれ、そういえば俺ってどこの学校に通うんだ? 親から何も聞いてない。後でメールして聞いておこう。

 

「じゃあ私帰るから」

「ん。またいつか、会えたら」

「ばいばーい」

 

 俺に手を振った高海さんは十千万の方へと歩く。一方の俺も、トランクケースを転がしながら十千万へ。……ん?

 

「え、もしかして高海さんの家って……」

「志満姉が言ってた、居候さんって……」

 

 

 *

 

 

「じゃあこの部屋ね」

「お邪魔します」

「かたいな〜。今日から一年間、ここはもう凪沙君の部屋なんだから」

「そ、そっか」

 

 荷物を部屋の端の方に置く。まさか十千万が高海さんの実家だったとは。いいんだか悪いんだか。いや、よくない気がする。どうせ梨子がこの町に引っ越してきているのだったら、昔みたいに梨子の家に居候したかった。

 まあこればかりは仕方ない。諦めて部屋を見回してみる。小さいちゃぶ台、テレビ、冷蔵庫。棚の中にはハンガーが数本かけてある。

 押し入れの中を確認してみる。入っているのは寝具ぐらいだ。

 

「ねえ、知ってる? うちには露天風呂があるんだよ!」

「露天風呂?」

「入ってみなよ〜、私のおすすめ!」

 

 そこまで勧めるのなら、入ってみようか。

 

「あー……でも、荷物の整理をしないといけないし」

「上がってからやればいいんじゃない?」

「まあ、そうか」

「あ、じゃあ私がやっておくよ!」

「え」

 

 いやいや、それはない。だって下着とか入ってるよ? 例の人に見せられないメッセージブックだってあるんだよ? とてもじゃないが他人は任せられない。というよりこの世話焼き度、まるで幼馴染じゃないか。俺に幼馴染は梨子以外にいらないんだ、やめてくれ。

 

「高海さん、気持ちはありがたいけど自分のことは自分でやるよ。だから荷物には一切触れないで」

「うんうん、わかったわかった」

 

 高海さんがにこにこしながら頷く。……なんだろう、やな感じがする。

 

「いいかい、高海さん。絶対に、絶対に触れないでよ?」

「わかってるって。凪沙君って意外と心配性?」

「……わかったよ、行くよ。行きますよ」

「ふふっ、いってらっしゃ〜い。あ、浴衣が男湯に置いてあるから、それ使ってね」

 

 なんだ、この胸騒ぎは。泣きたくなるんですけど。まさか恋だろうか、いや違う。(反語)

 

 

 *

 

 

 なかなかいいお湯だった。是非とも、梨子に紹介してみよう。ああ、混浴がないのが非常に悔やまれる。

 風呂から上がった俺は、高海家の居間に来ていた。そこには高海さんの二人の姉である志満さんと美渡さん、そして飼い犬のしいたけがいた。このしいたけ、いわゆるぶさかわ犬である。犬っていいよな、ブサイクでもかわいいって女子に人気になれるんだろ。人間社会じゃまず無理だ。

 

「お湯加減、どうだった?」

 

 黒髪ロングのお淑やかな志満さん。ふつくしい。だが、俺の心は梨子一筋。悪いけど、惚れない。少し出会うのが遅かったね。

 

「ちょうど良かったです。露天風呂、最高でした」

「だろ? これからは家族みたいなもんだ、そんな丁寧語なんて使わなくていいよ」

 

 このフランクな感じのする人は美渡さん。茶髪の若者。しいたけと仲が良い。

 

「あ、でも」

「別にそれでもいいのよ、まだ慣れてないんだから」

「それもそうだなー。まあ、千歌をよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 なんか過ごしやすい雰囲気で良かった。旅館だというから、みんな和服を着こなしてビシッとしているのかと思ったが、そうでもないみたい。これなら海未先輩との師弟ごっこ(座禅)の方がずっと厳しかった。

 志満さんからみかんをたくさんもらい、部屋に戻る。この辺ではみかんがたくさん取れるらしい。そういえばあの総合病院の跡取りはみかんが嫌いだったような。これから毎日送ってやろうかな。

 

「お! 帰ってきたな!」

 

 みかんを詰め合わせた段ボール箱を抱えながら部屋に入る。まず目に入ったのは座布団に座る高海さん。そして空のトランク、机の上に開いて置かれたメッセージブック。……はあ、やっぱり露天風呂なんていくんじゃなかった。

 

「はい、凪沙君。正座」

 

 ご丁寧に、自分の眼の前に座布団を敷く高海さん。いや、説教したいのはこっちだっつーの。

 

「触るなって言ったのに……」

「やっぱり私ももう高2でしょ? 気遣いができるようになりたいなー、なんて」

「だったら言われた通り触らなければ良かったのに」

「えー⁉︎ あれは触ってっていう合図じゃないの⁉︎」

 

 なんのフラグだ。俺は芸人じゃないんだぞ。

 

「って凪沙君! さっきから現実逃避しすぎ! もう、私怒っちゃうよ〜?」

「怒ってないの?」

「んいや、怒ってるね」

 

 高海さんが腕を組んで頬を膨らませる。いや、怒りたいのはこっちだと(ry

 とりあえず彼女と会話するため、俺は座布団の上に正座する。

 

「これ、どういうことなの」

 

 バーン、と自己効果音を出しながら高海さんがメッセージブックを俺に見せつける。そう、あの梨子とのツーショットコラ付きの。というかなんだか、浮気を発見されたみたいな雰囲気。高海さんとは今日知り合ったばかりなのに。俺はお前の夫じゃない、梨子の夫(予定)だぞ。

 

「もしかして、凪沙君ってストーカー?」

「いや違うから」

「本当に〜?」

 

 高海さんから疑いの眼差しを向けられる。そりゃ当然なんだろうけど。でも、これを作ったのは俺じゃないんだよね、うん。

 

「落ち着いて考えて、高海さん。これ、どう考えても寄せ書きだよね? 明らかに俺が製作したものじゃないよね?」

 

 俺がメッセージブックを掲示すると、むーっ、と唸りながら高海さんが顔を近づける。

 

「おお!」

 

 そして何かひらめいたらしく、手をポンと打った。

 

「そこまで用意しているとは……さてはおぬし、計画犯であるな!」

「どうしてそうなる⁉︎」

「んー、なんとなく?」

 

 なんとなくって。それで一人の男の人生がひっくり返るかもしれないんだぞ。例えばの話だが、電車の中。触ってもいないのに、『痴漢です!』なんて言われた時にはもう。それを逆手に取り(?)、人をからかって弄ぶ某先輩は本当にひどいよね。何が『りょうくん〜?』だ、まったく。

 こほん。話が逸れた。とにかく何が言いたいか要約すると、ことり先輩の二の腕はプルプルで柔らかい。……あれ?

 

「でも梨子ちゃんのことが好きなのは図星なんでしょ〜?」

「うっ……それはまあ、その……」

「恋愛してるー! 凪沙君、青春だね!」

 

 高海さんが障子を開け、縁側へと出た。

 

「凪沙君の好きな人はー!」

「ちょっ、何を言って、痛っ!」

 

 慌てて立ち上がると、彼女の告発を止めるために俺も縁側に飛び出す。が、正座をしていたために足が痺れ、すっ転んだ。

 

「大丈夫?」

 

 心配そうに覗き込む高海さん。ふっ、だがこれで告発はストップだ。ミッションコンプリート、帰投する。……まずい。足が痺れて動けない(餡感)。

 

「足しびれちゃった? つんつーん」

「やめ、つうっ⁉︎」

 

 さ、作戦通りだぜ(涙目)。

 

 

 *

 

 

「それで? どうして梨子ちゃんのことが好きなの?」

「ちょっと待て。なぜ俺が梨子のことが好き前提で話が進んでいる」

「やっぱり幼馴染だから? 男女の幼馴染と言ったら、これはもう恋に発展するしかないよね。いいな、ロマンチック〜」

 

 何をおっしゃいますかな。てか人の話聞いてないね、君。まあ間違ってはいないのだが。俺は梨子が好き。これは不変の真理である。

 

「幼馴染だからって恋に落ちちゃうわけではないだろ」

「そうかなぁ。だってさ、考えてみてよ。もし梨子ちゃんが誰か彼氏と歩いているのを見たら、どう思う?」

「梨子に彼氏なんていないぞ」

 

 梨子にはある嫌疑がかけられている。だから彼氏なんてありえない。いや、別に悪いことではないんだけど。まあ正確にいうなれば俺の都合的には悪いことなんだけど。なんだ、悪いことだね。悪いことはしちゃいけないよ、梨子。

 

「そうじゃなくて〜。仮の話だよ、仮の。もしって言ってるじゃん」

「もし、か」

 

 想像してみる。もし梨子が背が高くて足も長く、ナイススマイルを浮かべる茶髪のオシャレ兄さんと歩いていたら。梨子のくせに男子連れ? ……死のうかな。

 

「何だろう、胸がすんすんする」

「ほら! やっぱり好きなんだよ、梨子ちゃんのことが!」

 

 知ってた。別に高海さんに改めて言われるほどのことではない。

 俺は桜内梨子が好きだ。いつから好きだとか、そういう具体的なことは覚えていない。気付けば好きだった。友達という認識だったはずなんだけどね。やはり幼馴染の魅惑は格別ということか。

 

「ねえねえ、凪沙君は梨子ちゃんのどういうところが好きなの?」

 

 某知り合いのアルパカテイマーのように叫びたい。誰か助けて。この子、この手の話題にすごい食いついてくるんですけど。あ、女子全員に当てはまることのような気がする。

 そう、あれは俺が梨子を好きだと自覚して数日後のこと。俺は頼れる(と思っていた)年上の人に相談を持ちかけたんだ。

 まず一人目。

 

『す、好きな人⁉︎ 誰ですか⁉︎ 誰なんですか⁉︎ 破廉恥です破廉恥です涼はフラれるべきですっ!』

 

 あの人は危険だった。その後弓矢を持って梨子と決闘するとかなんとか言って聞かなかった。最終的には近所の和菓子屋の饅頭で落ち着いたけど。

 二人目。

 

『りょうくんに好きな子……? へえ、もちろん可愛いんだよね? 私よりもずっとずうっと、可愛いんだよね? どれくらい可愛いのかなぁ?』

 

 その後、根掘り葉掘り色々なことを聞かれた。

 これらの事象からわかる通り、女子というものはこういう話にがっつり食いつく。所謂恋バナ。どうでもいいけど、恋バナって屋台で売ってそう。恋バナナ。バナナにがっつくとか、それってR-18……?

 

「でも可愛いもんね、梨子ちゃん。都会の子ってみんなあんなに可愛いもんなのかな」

「そうかな」

「そうだよ。内浦みたいな田舎にはなかなかいないよ、あんな可愛い子」

 

 うんうん、そうだよね。梨子くらい可愛い子なんてそうそういない。それは確かにそうだ。幼馴染だから恋に落ちるとは限らないけど、あれは恋に落ちる。

 

「いいなぁ、恋。……そうだ!」

 

 唐突に立ち上がる高海さん。拳を突き上げると高らかに宣言をした。

 

「私、凪沙君の応援をする!」

「結構です」

「どーして⁉︎」

「どうしてって……そこはかとなく上手くいかなそうな気がする」

「なんで⁉︎」

 

 この高海千歌からはあの和菓子屋の長女と同じ雰囲気を感じ取れる。何かやらかしてくれそうだ。アブナイ香りがする。頼るの危険。

 

「まあ、自分のことは自分でやるってことだ。俺が梨子のことが好きなんだ。だから俺がやる。ほら、これで納得しただろ」

「むー。全然納得できません!」

「お、もうこんな時間。ほらほら良い子は寝ろ」

「待ってよ! まだ話し終わってなぁい!」

 

 俺は無理やり高海さんを部屋から追い出す。襖の向こうからは高海さんが何か言っているが無視無視。風呂上がりに親から届いたメールに、明日の早朝に淡島ホテルに来いと書かれていた。早起きしないといけないのだ。

 

「目覚まし時計は……あれ、見当たらないな」

 

 おかしいな。トランクに入れておいたはずなんだけれど。向こうを出るときに最終確認しなかったから、忘れてきてしまったのかも。

 

「まあ、なくてもなんとかなるか」

 

 いろいろあって今日は疲れた。早いとこ寝よう。






梨子のくせに!
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